第 6 章 介在性の他動詞文と再帰性
6.6. 介在性の他動詞文と再帰性の関連
太 郎は 虫歯 を抜 いた 山
田が 家を 建て た 花
子が 髪を 切っ た 浩が
顔写 真を とっ た 洋
子が ドレ スを 作っ た
将軍 は村 人を 皆殺 しに した
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6.5.1では、プロトタイプの介在性の他動詞文として(15)「太郎は虫歯を抜
いた」の特徴を見た。「虫歯」は「太郎」の口にあるため、主体と客体の関係 は譲渡不可能の関係である。主体と客体の譲渡不可能である関係に注目すると、
(23)「太郎はお腹を壊した」の再帰性をもつ他動詞構文が思い浮かぶ。
(15)太郎は虫歯を抜いた。
(23)太郎はお腹を壊した。
この二つの例文を見ると、主体と客体の譲渡不可能関係であることが共通点 である。形式として、主体、主体の身体の一部分である客体、ヲ格などが並行 的である。意味上は、(15)の例文は介在性の他動詞文であり、(23)の例文は 再帰性をもつ他動詞構文である。形式上の共通点から、介在性の他動詞文と再 帰性を持つ他動詞構文の両者には何らかの繋がりを見つけ出すことができる であろうか。
実は、介在性の他動詞文を再帰性をもつ他動詞構文の枠にいれる発想を持つ 先行研究(稲村2008)がある。
日本語の他動詞は基本的に「ヲ格補語=対象語(目的語)」をとる。ヲ格補 語の名詞は「モノ名詞」がほとんどで、「ヒト名詞」は少ない。日本語の他動 詞文では、事象の推移を主宰するのもとしての「主体」が存在する。「太郎は、
床屋で髪を切った」という他動詞文で、太郎は「行為主体=agent」ではなく、
「事態の変化推移を所有する者・主宰する者」となっている。太郎は「太郎の 髪が切られて、短くなったこと」という事象の推移を主体として負っている。
主語と目的語が所属関係にある多数の再帰構文の意味分析から、「主語+主 語と所属関係をもつ目的語+述語」という構造の再帰構文は「主語をめぐる出 来事」を表し、その表現内容には「主宰者主語による使役出来事」や「他の行 為や外部の原因を受けた受身的出来事」などがあることを指摘、「家を建てる」
「注射をする」なども広く再帰構文に含めて提示している。
稲村(2008:442)
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稲村(2008)は「太郎は、床屋で髪を切った」や「家を建てる」や「注射を する」の介在性の他動詞文における、事象の推移を主宰する者が主体であると 指摘した。再帰性をもつ構文も「主語をめぐる出来事」を表している。両者の 共通の特徴は「主体が事象の推移を負っている」であるから、介在性の他動詞 文を「再帰性」をもつ他動詞構文のカテゴリーに含めることが可能である。
本稿はすべての介在性の他動詞文が再帰構文のカテゴリーに含めるという わけではない、(15)「太郎は虫歯を抜いた」のプロトタイプの介在性の他動詞 文を「再帰性」をもつ他動詞構文として捉えることが出来ると主張する。
6.6.1 プロトタイプの介在性の他動詞文の位置づけ
上記では「太郎は虫歯を抜いた」のプロトタイプの介在性の他動詞文を再帰 構文として捉えることが出来ると述べた。その理由づけは何であろうか。
第1章では、「再帰性」を以下のように規定した。
再帰性:動作主から発する働きかけが自分自身あるいはその一部分に回帰し、
動作対象の変化によって、動作主に状態変化を引き起こす概念である。
「再帰性」を構成する重要なポイントは動作主(主語)からの働きかけが、
動作主自身(主語自身)に到達し、動作主自身(主語自身)に変化が起こるこ とである。この特徴は(15)「太郎は虫歯を抜いた」にも見られる。6.5には「太 郎は虫歯を抜いた」の意味特徴を分析したように、主語の「太郎」は実際の「虫 歯を抜く」という動作主ではなく、文中に出ていない介在者の歯医者が「虫歯 を抜く」動作を行う。「太郎は虫歯を抜いた」の主語が動作主ではないことで、
再帰性の意味特徴に当てはまらないことになりそうであるが、実際に、主語が 全体の事態を把握することによる、再帰性の意味を表す。主語が実の動作を行 う動作主ではないが、主語の指示や依頼がなければ、「虫歯を抜く」という事 象が発生できないわけである。すべての事態の発生は主語の「太郎」によって 把握される。
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「太郎」は「虫歯を抜く」の目的を達成する意図性を持ち、介在者の歯医者に 依頼や指示し、自分の譲渡不可能の「虫歯」に動作を行わせる、結局自分自身 の一部分の「虫歯がぬけた」のという結果を通して、自分自身に「虫歯がなく なった」という状態変化が生じた。簡単に言えば、主語が意図性を持ち、他者 によって、自分自身に変化を引きこすことである。結果として、主語の意図の 働きで、主語自身に状態変化が生じる。
各種類の再帰性をもつ他動詞構文の特徴は形式上でヲ格をもち、意味上が主 語自身に状態変化が起こることである。この特徴はまさに(15)「太郎は虫歯 を抜いた」にも存在している。このことで、プロトタイプの介在性の他動詞文 の「太郎は虫歯を抜いた」は再帰性をもつ他動詞構文の一種類であると言える であろう。「太郎は虫歯を抜いた」のほかに、「太郎は胃を切った」も「再帰性」
をもつ他動詞構文のカテゴリーに含まれることが認められる。