• 検索結果がありません。

6.1  本研究の結論

インターネットの普及は,通信システムを大きく変貌させ,従来のアナログ電話や ISDN のネットワークからIPのネットワークに移り変わりつつある.特に光ファイバ網の整備によ り,大容量,高速通信が実現することによって,これまでの通信センタビルだけでなく,一 般の家庭においても,様々なサービスの提供と共に,多種多様な通信機器が設置されるよう になる.それに伴って,通信ネットワークは単なる通信手段としてだけではなく,災害時の 事前通知システムや安否確認システム等の防災や,遠隔医療や福祉,見守りサービス等の医 療福祉,一般家庭における防犯システム等,安心・安全を支える重要な技術となってきてい る.そのため,1回の故障の影響はますます大きなものとなってきており,いかに故障に強 い設備とするか,ということが通信ネットワークを構築する上で重要な課題となっている.

また,高速通信や無線通信の発展は,通信機器周辺の電磁環境を変化させている.そのため,

電磁環境は複雑なものとなり通信装置の設置される環境は年々厳しくなってくるものと考え られる.

これらの電磁環境の変化を正確にきちんと捉えるための計測技術については,これまで 様々な検討が行われているが,周波数利用状況の変化等を考慮すると,さらなる研究,開発 が必要であると考える.本研究は,電磁環境を正確に,かつ装置の動作に影響を与えないよ うな方法の確立を目的として電磁環境の計測技術の検討を行った.

電磁環境の計測には,空間を伝搬する電磁波とケーブル等を伝わる伝導妨害波の2つが必 要である.本研究では,まず電磁波の計測技術として,光変調器を用いた電界センサの感度 特性解析及び感度特性改善方法について検討を行い,設計につながる感度特性のシミュレー ション手法の確立,及び測定精度の向上を目指した.また伝導妨害波については,従来動作 中の装置に対して実施が困難であったコモンモード電圧の非接触測定の実現のため,静電結 合を利用した容量性電圧プローブを開発し,その有効性を確認した.さらに,現状では通信 装置の EMC 故障の原因の多くは,電源ケーブルや通信ケーブルから伝導妨害波が侵入する ことによって発生しており,その発生源を特定することが,問題の早期解決につながる.し かし,ネットワークの高度化とともに接続されるケーブル数も増大し,複雑な形態となって きており,その特定は非常に困難であった.そこで,本研究では,伝導妨害波のもつエネル ギーの流れに着目し,伝搬方向を特定する技術について検討を行って,その有効性について 評価を行った.

以下に,上記課題についての検討の結果を取りまとめた.

(1)光変調器を用いた電界センサは,センサロッド以外を非金属物で構成できるため,正

確な電界の測定に対して有望な計測装置である.これまで様々なセンサの検討が行わ れてきたが,その特性について理論的に解析し,設計につながる検討はなされていな かった.本研究では,光変調器を用いた電界センサの設計方法を確立するために,感 度特性の理論的解析方法について検討を行った.電界センサをその構造から等価回路 に置き換え,センサロッド部,光変調器部,電気−光/光−電気変換部のそれぞれを パラメータ化することによって,センサの感度特性の理論的計算を試みた.その結果,

電界センサの感度特性計算における主な計算誤差要因は,光変調器の入力キャパシタ ンスの計算及び光学系の挿入損失であることがわかった.また,センサ長が波長の1

/2程度となる周波数範囲までは,本研究で提案する等価回路をもちいた手法で精度 良く計算可能であることが確認できた.誤差要因のうち入力キャパシタンスについて は,異方性を考慮したさらに厳密な計算手法を行う必要がある.解析方法としては,

本研究で提示した等角写像法に結晶の異方性を取り込む手法の考案や,光変調器をモ デル化して電界に関する方程式を導き,モーメント法のような数値解析手法を適用す る方法が考えられる.また挿入損失については,開発時には平均値等を用いることに よってある程度の改善が可能である.従って,本研究の提案手法により,あらかじめ 電界センサの感度特性が計算可能になり,目的に応じた感度の電界センサを設計する ことが可能であることを明確にした.

(2)光変調器を用いた電界センサの感度特性においては,

①最も感度よくかつ正確に測定するためには,その動作点を決めるパラメータである オプティカルバイアス角の調整方法の確立が必要である,

②光変調器に用いる光学結晶の圧電性によって,電気信号の印加により機械的振動が 発生し,それが電界センサの特性を乱すため,その改善方法の確立が必要である,

といった課題を挙げている.特にMach-Zehnder 型の場合,変調効率が結晶型に比べ ると高いが,上記2つの課題により,その適用範囲が限られていた.これらの課題は,

電界センサの感度特性だけでなく,周波数特性や線形性にも影響を与えるため,電磁波 の正確な測定のためには,解決すべき課題であった.本研究では,まずMach-Zehnder 型光変調器のオプティカルバイアス角の調整方法として,機械的な応力を光変調器基板 に印加する方法を考案し,理論的,実験的にその有効性を検討した.また,圧電性の改 善のための手法として,光変調器基板の構造を変更する手法を考案し,その有効性を検 討した.

検討の結果,光変調器に機械的応力を印加することにより,オプティカルバイアス角 を容易に変更でき,提案手法の有効性が明確になった.また,温度変化による影響も少 ないことが確認されている.さらに,応力による導波路の伸び縮みと光弾性効果を考慮 することによって,この応力印加による電界センサのオプティカルバイアス角調整法を 理論的に解析することが可能であることがわかった.これらの結果は,簡易な方法で電 界センサの動作点を最適な位置に調整でき,その設計も可能であることを明らかにした.

さらに,光学結晶基板の圧電性の機械共振については,光学結晶中の音波の解析と周 波数特性の測定結果から,電気信号の周波数と結晶の寸法できまる機械的振動が一致し た場合に発生することが明らかになった.特に導波路に対して垂直方向の軸の振動が特 性に大きな影響を与えていることが理論モデルの検討から明確になった.さらにこの機 械的共振の改善方法として,光変調器の光学結晶基板を長方形から進行方向に向かって 幅が狭くなる台形形状に変更することにより,寸法で定まる機械的振動のエネルギーを 分散することができ,電界センサの周波数特性を改善することが可能となった.

(3)従来,EMC適合試験の測定における伝導性妨害波の測定においては,AAN,AMN等 の装置による電圧測定が行われていた.また実際のフィールドでの測定においては,ト ロイダルコアやホール素子を用いた電流プローブが主に使用されていた.電流プローブ は被測定対象の電流を非接触で測定できるため,動作中の装置に対して適用できること が大きなメリットである.しかし,電流のみの測定では,コモンモードインピーダンス の条件によっては正確な電磁環境を表しているとはいえず,かつEMCの適合試験で決 められた電圧規定値との比較は難しい.一方で,従来の電圧測定用の装置としては,通 常の電圧プローブやAAN, AMNなどのものが挙げられるが,電圧測定のために被測定 対象のケーブル導体に接触する必要があることや,ケーブルに割り入れる必要があるこ となど,動作中の装置に適用することは困難であった.そこで,本研究では,非接触測 定が可能な新たな電圧プローブとして,静電結合を利用した容量性電圧プローブ (Capacitive Voltage Probe:CVP)を開発し,その特定の評価と有効性の検証を行った.

検討の結果,CVPは10 kHzから30 MHz付近の周波数範囲で平坦な特性をもち,

その範囲で100 dB以上の線形性を有していることが明らかになった.またCVPの感 度変化要因として,ケーブルの径や CVP内部での位置等が考えられるが,これらは数 値解析を用いた補正手法や2つのCVPと参照電源を組み合わせた補正法で校正するこ とが可能であり,ケーブルの状況によらない測定が可能であることを見いだすことがで きた.さらに,従来のEMC適合試験で用いられているAANとの相関性の評価では,

ほぼ同等の性能を有していることが明らかになり,フィールドでの測定だけでなく,

EMCの適合試験においても適用可能であることが明らかになった.

これらの成果をうけ,このCVPの技術はCISPR(Comite International Special des Perturbations Radioelectriques:国際無線障害特別委員会)のなかの標準測定器を定め る規格であるCISPR Publication 16-1-2 のAmendment 1として規定され,日本提案 のEMC測定器として初めて標準電圧測定器に採用されている.

(4)複雑化するネットワーク環境での電磁妨害波に起因する故障の早期解決のためには,

電磁妨害波がどこから来て,どのように装置に影響を与えているのかを明らかにし,故 障のメカニズムを立証することが,有効な対策に繋がっていく.従来,電磁波の到来方 向の予測技術については,様々な検討がなされているが,ケーブルを伝わる伝導性妨害

関連したドキュメント