光電界センサの感度特性解析と
伝導妨害波測定用容量性電圧プローブ に関する研究
小林 隆一
電気通信大学大学院電気通信学研究科 博士(工学)の学位申請論文
2008年3月
光電界センサの感度特性解析と
伝導妨害波測定用容量性電圧プローブ に関する研究
博士論文審査委員会
上 芳夫 教授(主査)
武田 光夫 教授
三橋 渉 教授
福田 喬 教授
岩崎 俊 教授
著作権所有者
小林 隆一
2008年3月
Study on Sensitivity Analysis of Optical Electric-Field Sensor and Capacitive Voltage Probe for Measuring Conducted
Disturbance
Ryuichi Kobayashi
Abstract
Along with the advent of Internet technologies, a configuration of telecommunication networks are changing and services provided by them are shifting from Plain Old Telephony System to Digital or Internet-Protocol (IP) Systems.
This paper describes a sensitivity analysis of the electric field sensor using optical modulator and methodologies for measuring conducted electromagnetic disturbances.
The purpose of this paper is to provide precise measurement technologies for evaluating electromagnetic environment in vicinity of telecommunication equipment. For this purpose, sensitivity analyses of the electric field sensor, development of capacitive voltage probe for non-contact measurement and method for determining a transmission direction were carried out.
In sensitivity analysis of the electric field sensor, first, the sensitivity calculation method by using equivalent circuit was evaluated. The parameters of the circuit were obtained theoretically and experimentally. The electric field sensor with designed parameter was made and its experimental characteristics were compared with theoretical one, in order to clarify main factor of sensitivity deviation. The results show that the difference between measured and calculated results depended on the value of capacitance and insertion loss of the sensor. However, the calculated result using measured parameters agreed with measured one. This means that the sensitivity of the sensor can be calculated by using its equivalent circuit.
Secondly, method for controlling the optical bias angle was carried out. An optical bias angle is an important parameter that determines a driving point of the electric field sensor. The adjustment method by applying a stress to the end of the optical modulator’s substrate was examined theoretically and experimentally. As a result, it is shown that the optical bias angle can be adjusted with the refractive index change by a photo-elastic effect and the elongation of a waveguide by a stress.
Moreover, narrow band resonance of the electric field sensor in frequency range from 1 to 100 MHz was examined by taking the piezoelectric effect into consideration, theoretically.
The result clarified that the narrow-band resonance depends on the width of the substrate. Therefore, it is shown that the resonance disappeared by changing the width of the substrate along the longitudinal direction.
For conducted disturbance measurements, voltage probe by measuring common-mode disturbances without touching conductor and determination method for transmission direction of conducted disturbances were developed and evaluated theoretically and experimentally.
A capacitive voltage probe was developed for measuring common-mode voltage on a cable without contacting its conductor. The characteristics of the probe and measurement error of the probe were evaluated. The results show that the probe has flat sensitivity in a frequency range from 10 kHz to 30 MHz. Also, dependence of the cable configuration (e.g.
radius, position in an electrode) was evaluated by using equivalent circuit. The results show that this probe can measure the conducted common-mode disturbances, and its characteristics can be calibrated by theoretical analysis or experimental calibration data.
Therefore, characteristics of this probe are enough to measure the conducted disturbances.
Finally, determination method for transmission direction of the conducted disturbances on the cable was developed and evaluated its validity in the field. A transmission direction of the conducted disturbance can be obtained by focusing on an active power calculated by measuring voltage and current, simultaneously. Measurement system was developed and evaluated validity of this method. The experimental results show that transmission directions of both sinusoidal and non-sinusoidal waves can be obtained by measuring its active power. Moreover, this method was applied to EMC trouble in the field. The result shows that the source of the trouble can be determined by detecting transmission direction of the disturbance. This means that effective countermeasures against the trouble in the field can be carried out. Therefore, it is confirmed that proposed method is useful for searching disturbance sources in the field.
光電界センサの感度特性解析と伝導妨害波測定用 容量性電圧プローブに関する研究
小林 隆一
概要
インターネットの普及により,通信ネットワークは従来のアナログ電話やISDNのネット ワークからIPのネットワークに移り変わりつつある.特に光ファイバ網が整備され大容量,
高速通信が実現することによって,これまでのような通信センタビルからだけでなく,一般 の家庭においてもネットワークが構築され,様々なサービスの提供とともに,多種多様な通 信機器が設置されるようになっている.それに伴い通信ネットワークは単なる通信手段とし てだけではなく,災害,防災,福祉といった,安心・安全を支える重要な技術となっている.
その一方で,1回の故障が与える社会的影響はますます大きくかつ深刻なものとなっており,
故障に強い設備を構築することが通信ネットワークの重要な課題である.これらネットワー クの発展とともに高速通信や無線通信技術も進化し,通信機器周辺の電磁環境を著しく変化 させている.さらに通信装置の設置される電磁環境は年々複雑化し厳しくなってきており,
EMCの問題は,ネットワークの正常性を確保する上で重要な課題となってきている.
EMCの問題を未然に予防するためには,電磁環境の変化を正確に捉えるための計測技術 が必要である.EMC関連の計測技術については,これまで様々な検討が行われているが,
周波数利用状況や技術の変化等を考慮すると,さらなる研究,開発が必要であると考える.
本論文の目的は,電磁環境を正確に,かつ装置の動作に影響を与えないような電磁環境の 計測技術の確立である.電磁環境の計測には,空間を伝搬する電磁波とケーブル等を伝わる 伝導妨害波の2つが必要である.そこで,電磁波の測定に関する項目として,光変調器を用 いた電界センサの感度特性解析及び感度特性改善方法について検討を行い,設計につながる 感度特性のシミュレーション手法の確立,及び測定精度の向上を目指した.次に伝導妨害波 の計測技術では,妨害波電圧を非接触測定で方法できる容量性電圧プローブの研究開発を行 い,その実現に向けた検討を行っている.さらに伝導妨害波の伝搬方向を特定する技術につ いて,妨害波のエネルギーに着目した方式を提案し,その有効性と実フィールドでの応用に ついて研究を行っている.
まず光変調器を用いた電界センサの設計を行うためには,あらかじめ理論解析によりどの ような特性を有するかを求めておく必要があり,感度特性の解析技術の確立が必要である.
しかし,光変調器を用いた電界センサは,負荷が容量性である,光素子を用いている等,従 来使用されているダイポールアンテナ等とは異なった構造をしているため,周波数特性や感 度特性の測定及び周波数特性解析は行われてきているが,あらかじめ電界センサがどのよう
な感度を持つかを設計する方法やその結果に対する誤差要因については明らかにされていな い.そこで論文では,LiNbO3光変調器を用いた電界センサ部を等価回路で表し,この等価回 路と光源部,光検出部のパラメータの値をモーメント法や等角写像法等の理論解析と実際の 測定により定め,それらの値から感度特性を求める方法について検証を行う.次に,電界セ ンサを作製し,感度特性の測定結果と理論検討の結果との比較を行い,誤差要因を明確にし て理論計算方法の確立を目指している.
次に光変調器を用いた電界センサには,実用上の課題として動作点を決定するオプティカ ルバイアス角の調整方法と,光学結晶の圧電作用による狭帯域な共振現象の低減が挙げられ る.本論文では,オプティカルバイアス角を調整する方法として,Mach-Zehnder 型光干渉 計が形成された光変調器基板の一点に力を加え,応力によってオプティカルバイアス角を変 える方法を考案し検討を行っている.まず,Mach-Zehnder 型光干渉計が形成された基板の 一端を固定し,もう一端に力を加えることにより,導波路の物理的な長さの変化及び応力に よる導波路の屈折率変化でオプティカルバイアス角を調整することが可能であることを理論 解析により示す.さらに,オプティカルバイアス角の調整可能な電界センサを作製し,解析 結果との比較を行った.圧電現象に起因すると考えられる狭帯域の感度変化の特性解析につ いては,電界センサの感度特性を測定し,1MHz 以上の帯域で感度変化が生じていることを 示す.さらに,この現象が光学結晶基板の持つ圧電効果による機械的振動と電気的振動が一 致したことによって発生する共振であると仮定し,理論解析から共振周波数を求め,測定結 果と比較した.周波数特性の劣化の原因となっている共振モードをその結果から求め,改善 方法を提案し,その改善を施した電界センサの作製と改善効果の確認を行っている
さらに伝導妨害波の測定技術として電圧の非接触測定方法について検討を行っている.従 来の電圧プローブでは,測定対象のケーブルの導体に接触する必要があり,そのためにはケ ーブルの切断や被覆の剥離等が必要であった.従って,動作中の装置に接続されているケー ブルを測定するためには,装置を停止させる必要があり,実際の現場の測定では実施するこ とが困難であった.そこで動作中の装置に対するコモンモード電圧測定のために,静電結合 を利用した容量性電圧プローブを開発し,その有効性の検証を行っている.まず,容量性電 圧プローブを作成し,その感度特性や周波数特性について等価回路を用いた理論,及び実験 によって検証を行っている.さらに,ケーブル導体の大きさや位置等による容量性結合の変 化による感度変化の検証,及び標準測定器である擬似通信線回路網(AAN)との精度の検証を 行い,従来技術との差分を明らかにするとともに有効性の確認を行っている.
さらに,通信装置の EMC 故障の原因の多くは,電源ケーブルや通信ケーブルから伝導妨 害波が侵入することによって発生しており,その発生源を特定することが問題の早期解決に つながる.しかし,ネットワークの高度化とともに接続されるケーブル数も増大し,複雑な 形態となってきており,その特定は非常に困難である.そこで,本論文では,伝導妨害波の もつエネルギーの流れに着目し,伝搬方向を特定する技術について検討を行っている.基礎 実験において,模擬的な通信環境を構築し,正弦波,非正弦波信号に対し,本論文で提案す る手法の有効性を確認した.さらに,実環境における電磁雑音故障において評価を行った.
目 次
第1章 序論... 1
1.1 研究の背景... 1
1.2 通信と電磁両立性(ELECTROMAGNETIC COMPATIBILITY :EMC) ... 3
1.3 通信のEMCにおける課題... 5
1.4 本研究の背景と目的... 5
1.4.1 電磁波計測の背景と研究課題... 6
1.4.2 伝導妨害波測定の課題と目的... 9
1.4.3 通信装置のEMC問題の解決方法... 10
1.5 本研究の抄録...11
参考文献... 13
第2章 光変調器を用いた電界センサの感度解析... 19
2.1 はじめに... 19
2.2 光変調器を用いた電界センサの構成... 19
2.2.1 結晶型光変調器の動作原理... 20
2.2.2 Mach-Zehnder型光変調器の動作原理... 24
2.3 電界センサの等価回路... 26
2.3.1 センサロッド部分の等価回路パラメータの決定... 27
2.3.2 光変調器部分の等価回路パラメータの決定... 30
2.3.3 その他のパラメータの決定... 34
2.3.4 電界センサの特性の理論式... 36
2.4 電界センサの感度特性... 37
2.4.1 電界センサの感度特性の解析... 37
2.4.2 測定結果... 37
2.4.3 誤差要因の検討... 38
2.5 まとめ... 40
参考文献... 42
第3章 光変調器を用いた電界センサの感度特性改善... 45
3.1 はじめに... 45
3.2 オプティカルバイアス角調整による感度改善法... 46
3.2.1 オプティカルバイアス角の調整方法... 48
3.2.2 解析結果... 51
3.2.3 測定結果... 53
3.3 周波数特性の改善方法... 57
3.3.1 電界センサの感度特性の周波数依存性... 57
3.3.2 電界センサの共振周波数解析... 59
3.3.3 解析結果と測定結果の比較... 63
3.3.4 改善方法... 64
3.4 まとめ... 66
参考文献... 68
第4章 容量性電圧プローブの開発とその特性... 71
4.1 はじめに... 71
4.2 容量性電圧プローブの構成と等価回路... 72
4.2.1 容量性電圧プローブの構成... 72
4.2.2 CVPの等価回路... 72
4.3 CVPの開発... 75
4.4 CVPの感度特性... 76
4.4.1 測定系... 76
4.4.2 線形性... 76
4.4.3 周波数特性... 77
4.5 感度変化要因の評価... 78
4.5.1 計算モデル... 78
4.5.2 ケーブル位置依存性... 79
4.5.3 ケーブル半径依存性... 80
4.6 感度特性の補正... 81
4.6.1 従来の感度補正方法... 81
4.6.2 結合キャパシタンスの数値解析... 82
4.6.3 デュアルCVP校正法... 85
4.7 AANとCVPの相関性... 89
4.7.1 測定系... 89
4.7.2 測定結果... 89
4.8 まとめ... 90
参考文献... 92
第5章 伝導妨害波の波源特定方法... 93
5.1 はじめに... 93
5.2 伝搬方向測定の原理... 93
5.2.1 有効電力の計算方法... 93
5.2.2 伝搬方向の特定... 95
5.3 測定システム... 98
5.3.1 構成と実行手順... 98
5.3.2 プローブ... 101
5.4.伝搬方向特定方法の検証... 101
5.4.1 実験系... 102
5.4.2 正弦波信号に対する評価... 103
5.4.3 非正弦波信号に対する評価... 105
5.5 実環境への適用... 107
5.5.1 故障の概要... 107
5.5.2 現地調査の結果... 107
5.6 まとめ...110
参考文献...111
第6章 結論...113
6.1 本研究の結論...113
6.2 今後の課題...116
謝辞...119
関係論文の印刷公表の方法と時期... 121
参考文献の印刷公表の方法及び時期... 122
【発表業績リスト】... 125
1.査読付き論文... 125
1.1 主著... 125
1.2 共著... 125
1.3 レター... 126
1.4 その他... 126
2.著書... 126
3.その他 解説記事等... 127
4.学会予稿... 127
4.1 研究会・国際会議... 127
4.2 学会講演... 129
4.3 その他... 130
図表目次
図1.1 日本におけるインターネットアクセスの普及状況... 2
図2.1 電界センサの構成... 21
図2.2 結晶型光変調器の構成... 21
図2.3 偏波状態と光変調器出力... 23
図2.4 MACH-ZEHNDER型光変調器の構成... 25
図2.5 光変調器を用いた電界センサの等価回路... 26
図2.6 センサロッド部分の計算モデル... 28
図2.7 駆動点インピーダンスの計算結果... 29
図2.8 実効長の計算結果... 29
図2.9 L NI BO3結晶部分の構造... 31
図2.10 結晶型光変調器の横断面... 31
図2.11 入力キャパシタンスの解析モデル... 32
図2.12 W’平面と等角写像後の入力キャパシタンス計算モデル... 33
図2.13 光検出器の変換効率測定系... 35
図2.14 光検出器の変換効率測定結果... 35
図2.15 測定系... 37
図2.16 感度特性の測定結果と計算結果の比較... 38
図2.17 周波数特性の測定結果と計算結果の比較... 40
図3.1 MACH-ZEHNDER型光変調器を用いた電界センサの構成... 46
図3.2 オプティカルバイアス角と出力光の関係... 47
図3.3 オプティカルバイアス角の調整方法... 48
図3.4 印加した力に対する位相変化量... 52
図3.5 基板の幅と最大ひずみの関係... 52
図3.6 オプティカルバイアス制御型電界センサの構造... 54
図3.7 応力印加の測定系... 54
図3.8 オプティカルバイアス角の測定結果... 55
図3.9 印加した力に対するオプティカルバイアス角の変化... 55
図3.10 オプティカルバイアス角制御型電界センサの温度特性測定結果... 56
図3.11 MACH-ZEHNDER型光変調器の構造... 57
図3.12 周波数特性の測定系... 58
図3.13 周波数特性測定結果... 58
図3.14 解析モデル... 60
図3.15 音速の計算結果... 62
図3.16 各軸に対する振動と導波路の関係... 64
図3.17 共振改善のための評価モデル... 65
図3.18 形状を変えたMACH-ZEHNDER型光変調器の構造... 65
図3.19 改善された周波数特性... 66
図4.1 容量性電圧プローブの構造... 73
図4.2 内部電極と電圧検出部の接続... 73
図4.3 CVPの等価回路... 73
図4.4 開発したCVPの外観... 75
図4.5 感度測定の実験系... 76
図4.6 線形性の測定結果... 77
図4.7 周波数特性の測定結果... 77
図4.8 入力電圧に対する周波数特性... 78
図4.9 感度変化要因の計算モデル... 79
図4.10 内部電極内のケーブル位置による感度変化... 79
図4.11 ケーブル半径に対する依存性... 80
図4.12 従来の感度補正方法... 81
図4.13 モーメント法適用のための計算モデル... 84
図4.14 モーメント法の収束性... 84
図4.15 近似計算とモーメント法による計算結果の測定値との比較... 85
図4.16 デュアルCVP校正法の校正図... 87
図4.17 デュアルCVP校正法の等価回路... 87
図4.18 デュアルプローブ校正法の実験結果... 88
図4.18 AANとの相関性評価の測定系... 90
図4.19 AANとCVPの測定結果の比較... 90
図5.1 エネルギーの伝搬方向の基本概念... 94
図5.2 電流プローブの極性の定義... 96
図5.3 開発した伝搬方向特定システムのブロック図エラー! ブックマークが定義されていません。 図5.4 伝搬方向特定方法の実行手順... 99
図5.5 電流プローブの変換インピーダンス特性... 100
図5.6 電圧プローブの周波数特性...エラー! ブックマークが定義されていません。 図5.7 実験系... 102
図5.8 測定例... 103
図5.9 正弦波に対する有効電力の計算結果... 104
図5.10 非正弦波の印加波形... 106
図5.11 非正弦波波形の有効電力の測定値と計算値の比較... 106
図5.12 測定結果の比較(リニアスケール)... 106
図5.13 2F IDFでの測定系と伝搬方向測定結果... 107
図5.14 2階での通信線の測定結果... 108
図5.15 妨害波の伝搬方向の特定結果... 109
表1.1 有線メタリック通信の技術状況... 2
表1.2 無線通信の技術状況... 3
表1.3 通信システムに影響を与える妨害波例... 4
表1.4 電界センサの分類... 7
表2.1 測定に用いた電界センサのパラメータ... 36
表2.2 等価回路のパラメータ... 39
表3.1 計算パラメータ... 53
表3.2 L NI BO3基板の定数... 62
表3.3 共振周波数の計算値と測定値... 63
表4.1 CVPの仕様諸元... 75
第1章 序論
1.1 研究の背景
電気通信の歴史は,モールスによる電信の発明から始まり,現在ではインターネットに代 表されるように,世界中の人々がリアルタイムに自由にコミュニケーションがはかれるまで に発展してきている.通信の技術は日進月歩に発展しており,現在では,「いつでも,どこで も」をキーワードとして,さらなる進展が図られている.その結果,「ユビキタス社会の実現」
にむけ,誰もが「安心・安全」な社会生活を送るために電気通信の技術は必要不可欠なもの となってきている.我が国においても,「e-Japan計画」,「u-Japan計画」等に代表されるよ うに[1],政府によるユビキタス社会実現に向けた計画が実行されている.また,国際競争力 の強化にむけた政府の検討会や科学技術庁が主体となって,2025 年の未来予測を予測する
「イノベーション25」等[2],近未来に向けた技術革新についての議論が政府レベルで活発 に行われている.
このような「ユビキタス社会」の実現のための一つの重要な構成要素である電気通信技術 については,日々様々な技術革新や技術予測が行われている.
2000年頃からのインターネットの爆発的な普及は,電気通信の分野において大きなインパ クトを持っている.図1.1にインターネットの普及状況の推移を示す[3].図のように2002 年頃のADSL(Asynchronous Digital Subscriber Line)の登場により,インターネット利用者 が急激に増加し,現在では,ADSLから光ファイバ回線を用いたFTTH (Fiber To The Home) にシフトし,利用者が急激に増加している.これにより,企業だけでなく,一般家庭にもブ ロードバンド環境が容易に提供されるようになり,これまでの電話やモデムといった通信機 器だけでなく,TV等のオーディオ機器やいわゆる白物家電といわれる冷蔵庫,電子レンジ 等の家電機器までもがネットワークに接続される環境になってきている.
このような状況のもと,オフィスだけでなく,一般家庭にも様々な電気通信技術が導入さ れ,これまでのアナログ電話サービスだけでなく,DSLやPLC(Power Line Communication) に代表されるような有線の高速通信や,無線LANに代表されるパーソナルな無線通信が利 用されている.表1.1は,メタリックケーブルを利用した通信方式の信号周波数や伝送速 度等についてまとめたものである.DSL や PLC等に代表される有線の高速通信方式では,
最大 30MHz の信号がメタリックケーブルを媒体として伝送されている.またこれらの方式
は,既存の通信線や電源線を利用している点に大きな特徴がある.さらに,有線LANでは,
1000Base-Tの通信を平衡ケーブルで行う方式が実現されている.一方,無線通信では,表1.
2に示すように信号周波数帯域がGHz以上になってきており,占有帯域幅の拡大と同時に 伝送速度も年々高速化している.
0 2 4 6 8 10 12 14 16
6 912 3 6 9 12 3 6 912 3 6 9 12 3 6 912 3 6 FTTH
ADSL CATV
A n u mber of us er s conn ecte d to In te rn et in Jap a n [ × m illi o n user s ]
Month Year
2002 2003 2004 2005 2006 2007
図1.1 日本におけるインターネットアクセスの普及状況 表1.1 有線メタリック通信の技術状況
up to 30 MHz
up to 100 up to 160 Mbps
Telecom.
cable VDSL
2 – 30 MHz 4 - 28
625 MHz MHz 125 MHz
or 250 MHz Frequency
4.5 up to 100 100
100 100
Maximum 100 length [m]
up to 3.2 Gbps up to
200 Mbps up to
240 Mbps 10 Gbps
1 Gbps Bit rate
UTP/
STP Power
cable Telecom.
cable CAT-6/7
UTP-5 Cable
IEEE 1394b PLC 2.0
HomePNA -3.0 10G
Base-T 1000
Base- T/TX Trans-
mission techno-
logies
up to 30 MHz
up to 100 up to 160 Mbps
Telecom.
cable VDSL
2 – 30 MHz 4 - 28
625 MHz MHz 125 MHz
or 250 MHz Frequency
4.5 up to 100 100
100 100
Maximum 100 length [m]
up to 3.2 Gbps up to
200 Mbps up to
240 Mbps 10 Gbps
1 Gbps Bit rate
UTP/
STP Power
cable Telecom.
cable CAT-6/7
UTP-5 Cable
IEEE 1394b PLC 2.0
HomePNA -3.0 10G
Base-T 1000
Base- T/TX Trans-
mission techno-
logies
その一方で,通信環境を取り巻く電磁環境も急速に変化してきている.たとえば急速なイ ンターネットの普及は,一般家庭にブロードバンド環境を提供しているが,多くの電気/電 子機器がネットワークを中心に近接して使用される環境を生み出している.また,ケーブル のリユースと信号の高速化によって,たとえばPLCのような,ケーブルからの漏洩電磁界も 大きな問題となっている.さらに,地球温暖化防止の観点から,あらゆる電気/電子機器の 消費電力削減が行われており,その解決策の一つとしてインバータ技術が応用されている.
インバータ技術は,消費電力を効率よくコントロールでき,省エネルギーに貢献しているが,
その一方で動作のためのスイッチングによるノイズの問題が発生している.
表1.2 無線通信の技術状況
FHSS Up to 1 Mbps 2.4 GHz
Blue- tooth
OFDM (UWB) Up to
480 Mbps 3~10 GHz Wireless
USB
OFDM Up to 70
MHz 5.2 GHz Wireless
1394
Depend on freq.
PSK, FHSS OFDM
DSSS/CCK / OFDM Modulation
Depend on freq.
up to 384kbps 54 Mbps
11 Mbps, up to 54 Mbps Bit rate
125 k, 13.56 M,
433 M, 900 M,2.4 G 5.2 GHz
2.4 GHz Frequency
band
RF-ID (ISO/IEC 18000-x) IEEE
802.11a IEEE
802.11b/
11g Trans-
mission techno-
logies
FHSS Up to 1 Mbps 2.4 GHz
Blue- tooth
OFDM (UWB) Up to
480 Mbps 3~10 GHz Wireless
USB
OFDM Up to 70
MHz 5.2 GHz Wireless
1394
Depend on freq.
PSK, FHSS OFDM
DSSS/CCK / OFDM Modulation
Depend on freq.
up to 384kbps 54 Mbps
11 Mbps, up to 54 Mbps Bit rate
125 k, 13.56 M,
433 M, 900 M,2.4 G 5.2 GHz
2.4 GHz Frequency
band
RF-ID (ISO/IEC 18000-x) IEEE
802.11a IEEE
802.11b/
11g Trans-
mission techno-
logies
このような電磁環境の変化に伴って,これまで以上に電磁両立性(EMC)の問題は大き な課題となっており,「安心・安全で高品質なネットワーク」を構築する上で重要な技術とな ってきている.
1.2 通信と電磁両立性(Electromagnetic Compatibility : EMC)
通信分野におけるEMCの問題として,古くは送電線からの誘導問題があげられる.通信 線と送電線の間の誘導問題については,大正2年の澁沢氏による調査研究報告[4]や昭和2年 の深尾氏による簡易予測計算方法の報告[5]等があげられる.この誘導問題については,昭和 3年から昭和13年には誘導障害防止研究委員会,昭和26年から昭和36年には誘導調整 委員会,そして昭和36年以降は誘導調査特別委員会として検討が行われている[6]-[8].
その後,中波放送波やCB無線等の無線システムからの誘導問題や,ディジタル通信の発 展や広範囲な無線利用等によって,通信システムは,複雑な電磁環境下にさらされることに なり,多くのEMCの課題を生み出している.
通信システムに電磁気的な妨害を与えるものの代表例を表1.3に示す.表は,妨害源,
発生場所,通信システムへの影響及び影響を受ける部分を示している.この表から,通信シ ステムに影響を与える妨害源は,雷のような自然の妨害源[9]-[14],電気製品のスイッチング
[15]-[17],送電線,電気鉄道[18]-[20]等の意図しない電磁エネルギーの放出による妨害源,
中波放送波,CB無線[21]-[23],工業用電磁機器[24]-[26]等,電磁エネルギーを意図して放 射しているものに分けられ,その種類は多岐にわたっている.これらの電磁妨害によって,
通信システムにおいては,そのレベルや周波数によって下記のような事象が発生する.
①アナログ音声に対する雑音や画像信号の乱れ
②装置の制御信号を乱すことによる誤作動
③装置内部の破壊,たとえばメモリの消去,ICの破損
④感電等,作業者の安全に関わる問題
表1.3 通信システムに影響を与える妨害波例 妨害源 発生場所 通 信 シ ス テ ム へ の
結合
通信システムで妨害 を受ける部分 ロラン,中波,短波放送,
FM,TV,CB無線,
アマチュア無線,移動体
アンテナ 電磁波
通信線 電源線 装置内回路 ISM機器
(Industrial Science and Manufacturing)
機器筐体
電源線 電磁波
通信線 電源線 装置内回路
送電線,配電線,電気鉄道 送電線,配電線,架線 パンタグラフ
電磁結合,
静電結合 電磁波
通信線
スイッチング電源
インバータ 電源線
電磁結合,
静電結合 伝導
通信線 電源線
雷 雷撃電流 電磁波,伝導,
接地線へ回り込み
通信線 電源線 接地線
静電気放電 静電気放電
電磁誘導,
静電誘導,
電磁波,伝導 接地線へ回り込み
通信線 装置内回路
電気製品のOn / Off スイッチ部分のシャ ワリングアーク
電磁誘導 静電誘導
伝導
電源線 通信線
他回線の伝送信号 通信線
電磁誘導 静電誘導
漏話
通信線
交換機リレー等の動作 リレー部分のシャワ リングアーク
電磁結合
静電結合 通信線
さらに通信のディジタル化が進むことによって,これら妨害波の影響による事象も異なっ てきている.例えば,従来のアナログ電話に対する妨害の場合には,妨害波の包絡線が検波 されることによって,妨害波が電源に起因する場合には,電源のハム音が聞こえ,中波放送 等のAM変調波の場合には,その音声が聞こえる,携帯電話の電波であれば,無線のタイム スロット間隔に起因した,ブツブツといった音が聞こえてくる[27].しかし,最近のブロー ドバンドの普及によって,たとえばIP電話のような場合には,同じ中波放送波が影響した
としても,ユーザーが感じられる現象は,ディジタルデータのエラーによる波形復元ができ なくなって発生するブツブツ音や,エラーが多い場合には,通信の切断といった事象になっ てくる.さらに映像であれば,従来のアナログTVの場合には,縞模様として現れていた事 象が,ディジタルTVの場合には,画像の一部が乱れるブロックノイズや画面のフリーズと いった事象になってくる[28].
1.3 通信のEMCにおける課題
上記のような背景から,通信分野におけるEMCでは,多種多様な妨害源からのノイズを 正確に把握し,かつ適切な対策を実施することがサービス品質を維持する上での重要な課題 となっている.前節で述べたように,通信システムを取り巻く電磁環境は,技術の発展とも に年々複雑になってきており,また様々な装置が近接して利用されることや,多機能化によ って多種多様なケーブルが接続されるようになってきている.さらに,ユビキタス社会では,
無線の高度利用の推進や,いわゆる白物家電等のネットワーク接続による制御等,通信シス テム自体の構成も複雑化してきている.
そのため,EMCの問題を起因とする故障が発生した場合には,いかにその周囲の電磁環 境を正確に測定できるか,ということが課題としてあげられる.原因となる電磁妨害波を早 期にかつ正確に捉え,適切な対策方法によって故障を解決することが,通信品質の確保のた めには重要になってきている.また電磁環境の測定結果から妨害波の発生源を特定すること によって,最も効果的な対策が実施でき,そのコストも安くなる.従って,
①通信システムを取巻く電磁環境を正確かつシステムへの影響を最低限に測定する技術
②妨害波の発生源を容易に特定するための技術
について研究・開発を行うことは,通信品質を確保する上での重要な課題であると考える.
1.4 本研究の背景と目的
前節でのべた通信の高度化,大容量化等による通信環境の変化や,様々な無線利用や技術 革新による電磁環境の変化にともなって,通信分野における EMC においても,様々な課題 が生じている[27].特に電磁環境の測定技術は,基礎となるものであり,その向上は通信分 野のEMC問題を解決し,通信品質を確保するために必要不可欠なものである[28].
そこで本研究では,電磁環境測定における電磁波の計測技術及びケーブル等を伝搬する伝 導妨害波の計測技術の確立を目的とする.電磁波の検出については,様々なアンテナの中で も正確な電磁界の測定が可能であると期待される光技術を用いた電界センサについて,その 感度特性の解析と改善方法について検討を行った.また伝導妨害波の計測においては,これ までのプローブでは困難であった,運用中の装置に接続されるケーブルの妨害波電圧の測定 技術として非接触型のプローブの開発について検討を行っている.さらに,通信ネットワー クの信頼性向上のために,故障の早期解決手段として,伝導妨害波の伝搬方向特定技術を考
案し,その有効性の検討を行っている.
1.4.1 電磁波計測の背景と研究課題
まず電磁波の測定においては,従来,半波長ダイポール,バイコニカルアンテナ,ログペ リオディックアンテナ,ホーンアンテナ等,様々な種類のアンテナが用いられている[29]. しかし,このようなアンテナは,同軸ケーブルによって測定器と接続されるため,
1)ケーブル付近の電磁界を乱してしまう.
2)ケーブル自身が測定電磁界を検出してしまう.
といった問題があり,アンテナ自身にも,
3)アンテナサイズが大きく,空間分解能が悪い 4)使用可能な周波数帯域が限られている
等の問題があり,正確な電磁界の測定が困難であった.
これらの問題を解決するためには,
1)接続ケーブルが周囲の電磁界を乱さないこと
2)様々な周波数成分を測定するために広帯域であること
3)位置による電磁界の変化を正確に把握するために小型であること
が要求される.従来,このような条件を満たすアンテナとして,様々なタイプのアンテナが 提案されている.例えば電界測定用としては,アンテナのエレメントに抵抗を装荷すること によって広帯域化したアンテナ[30]や,抵抗装荷アンテナと高抵抗線を組み合わせた小型の 電界測定用プローブ[31],FET とダイポールアンテナを組み合わせたもの[32]等がある.ま た磁界測定用としては,抵抗を装荷したループアンテナ[33]やOPアンプと組み合わせたもの [34]等が開発されている.
さらに,前述の要求条件を満たすアンテナとして,光技術を用いた電磁界測定用センサが 研究・開発,実用化されている.これらの電磁界用センサは表1.4のように分類される.
ダイオード検波型[35][36]は,アンテナで検出した信号をダイオードで検波し,直流レベルに 変換した後にE/O変換器によって光信号に替えて伝送するものである.このタイプのものは,
安定性に優れ,周波数帯域が広いため実用化が進んでいる.しかし,感度が悪いことや,本 質的にエネルギー検出型であるため周波数情報が得られないといった欠点がある.放電型電 磁界センサ[37]は,放電管に光ファイバを接続したもので,マイクロ波加熱器のような強電 界測定用として開発されたものである.これは放電管の放電開始電圧でその感度が決定され る.熱型電磁界センサ[38]は,抵抗対に電磁波を吸収させ,その温度変化を光ファイバ温度 センサで測定して電界強度を測定するもので,ダイオード検波型と同じエネルギー検出型で ある.このタイプのセンサは,小型化が可能であり,直径5 mm程度の電界センサが実現さ れている.しかし,このタイプのセンサもダイオード型と同様に,周波数情報を得られない という欠点がある.
表1.4 電界センサの分類 特 性
方 式
周波数範囲 感 度
特 徴
ダイオード検波型 10 MHz 〜 18 GHz
1 V/m 電波をダイオードによって直流
レベルに変換し伝送.安定度は 良いが周波数情報が得られない 放電効果を利用 2.75 GHz 5 kV/cm ネオン管の放電光を利用 温度センサを利用 1GHz 〜
110 GHz
5.4 W/cm2 電磁波を抵抗体によって熱に変
換し,その熱を光温度センサで 検出.ピンポイントでの電界検 出可能
発光素子 1 kHz 〜 1 GHz
1 mV/m アンテナで検出した RF 信号を
LD,LED 等の発光素子で光信号
に変換.動作時間に制限がある.
直接変調型
電気光学効果 100 Hz 〜 5 GHz
1 mV/m アンテナで検出した RF 信号で
無変調の光信号を変調.構造が 簡単で,広帯域.安定度の改善 が必要
直接光変調型電界センサは,センサエレメントで検出した信号を直接光信号に換えて伝送 するものであり,変換素子として発光素子(半導体レーザー,発光ダイオード等)を用いた もの[39]と,光変調器を用いたもの[40][41]とに分けられる.このタイプのものはどちらも広 帯域であり,周波数情報が得られることで,電磁パルスの測定や EMC 測定への適用を目指 して研究・開発が行われている.
この中でも,光学結晶で構成される光変調器や光学結晶基板上に形成された光変調器を内 蔵した電界センサは,
①アンテナ以外は非金属物で構成されるため,周囲の電磁界を乱すことが少なく正確な測 定が可能
②光変調器はDC〜数十GHzの範囲で動作するため,非常に広帯域な特性をもつ.
③センサを駆動するためのバッテリを必要としないため,長期にわたる測定ができ,かつ 小型化も容易である
といった特徴を持っている.そのため,通信システムの周囲の電磁環境測定や EMC 規定の 運用における電界の正確な測定に対して,光変調器を用いた電界センサの適用を考え,本研 究の検討を行うこととした.
これまでに光変調器を用いた電界センサについては,様々な研究が行われてきている.当 初,電気光学効果(特にポッケルス効果)を用いた電気的なセンサは電圧センサの開発から 始まっている.1980年,東京大学の日高らは,ポッケルス素子としてZnSを用いて雷サージ
電圧印加時の空間電界の変化を測定した.このときはまだ電界センサとしてではなく,放電 時の隔壁効果を解明するために使用されていたため,光学結晶は平板電極の裏側に取付けら れていた[42].1982年になると,富士電機の柴田らは,光変調器としてLiNbO3結晶を用い,
偏光板とl/4λ板とを組み合わせた現在使用されているものと同じ構造の電界センサを作製し,
最高感度 200 V/mを実現した[43].このような強電界における光技術の応用は,電気学会を
中心に行われており,1989 年,1990 年には,日高らにより光学結晶基板上に形成された光 導波路型の電界センサの検討が行われている[44][45].さらに,上記で述べた電界に比例する ポッケルス効果だけでなく,電界の二乗に比例するカー効果[46]や磁界に比例するファラデ ー効果[47]を用いた電磁界センサの検討が行われている.しかし,これらのセンサは,高圧 線,雷サージ等低周波強電磁界,強磁界の測定のためのものである.
一方,高周波電磁界に対する電界センサは,アメリカで多くの検討が行われている.1980
年にBulmerらによりMach-Zehnder型干渉計を用いた電界センサの基礎的な検討が報告さ
れ[48],1984年には,Mach-Zehnder型干渉計と方向性結合器を用いた電界センサについて の検討が報告されている[49].
1982年,NBS(現NIST)のWyssらにより,ポッケルス結晶を用いた電界センサが開発 され,最高感度1 V/m を達成している[41][50].以後,このタイプのセンサについて検討が なされ,1987年には,電界センサを3つ組み合わせることによって等方向性の3軸直交電界 センサが開発されている[51][52].1992年には,IEEEのアンテナ伝搬の国際会議において,
“アンテナ応用の光システム”というセッションが設けられ,センサ本体に関するもの [53][54]や,センサ設計に関するもの[55][56]等が報告されている.
日本においては,NTTの桑原らが最高感度1 V/mを実現した[57].これは,ポッケルス素 子の結晶を用いた光変調器を使用している.そして,光集積回路型の光変調器の安定化によ って[58],Mach-Zehnder型干渉計を用いた電界センサの検討が行われ,1990年には,田島 らによって最高感度1 mV/mを実現している[59]-[61].その後,豊田中央研究所の伊藤らに よる低周波用電界センサの開発[62]や,トーキンの戸叶,環境電磁研究所の宮田らによる特 性改善[62]-[64]等が行われている.またNTT の田島らにより,電界センサの小型化[65][66]
や抵抗装荷による周波数特性の改善[67],インダクタンス装荷による共振を利用した高感度 化[68],3軸直交型による等方向性アンテナ等の研究がなされている[69][70].現在では,
NICT の仙台リサーチセンタにおいて,プリント基板上の電磁界の計測[71]や磁界計測[72]
への応用が検討されている.
以上の検討は主に実験的な検討が中心であり,センサの特性に関する理論的な検討や理論 に基づく設計方法や感度誤差要因等については,十分な検討が行われていない.特に光変調 器を用いた電界センサの特性については,感度が十分でないことや様々な要因によって特性 が安定しない等,解決すべき課題が残されている.
そこで本研究では,感度特性に関する理論解析及び光変調器に起因する感度変化要因につ いての検討を行い,光変調器を用いた電界センサの感度解析方法の確立と特性の安定化を目 的として研究を行った.
1.4.2 伝導妨害波測定の課題と目的
次に通信の大容量化,高機能化等にともなって,一台の通信装置に接続されるケーブルの 数は増加し,それに伴い,ネットワークの構成も複雑になってきている.そのような通信環 境の中で発生する EMC に関連した故障の多くは,ケーブルを伝わる伝導妨害波によるもの である.ケーブル等を伝わる伝導妨害波の測定においては,その対象として,電圧または電 流の測定が行われている[27].
EMC計測で用いられる電流プローブには,ケーブルに流れる電流の作る磁界と測定用コイ ル(変流器)の結合を利用した電磁結合型のものや,磁界によるホール効果を利用したもの が古くから研究.開発されている[73]-[76].このような電流プローブには,
1)電磁結合を利用するため,ケーブルに接触する必要がなく,非接触の測定が可能 2)目的の周波数帯域に応じたフェライト,鉄心等を利用することによって,磁界を効率
的に集めることができ,感度の調整が容易 等の特長がある.その一方で,デメリットとして,
3)測定周波数帯域が,プローブのコア材の周波数特性や巻線間の寄生キャパシタンスな どの影響によって制限される.また静電シールドが必要となる
4)測定対象に直流電流や商用周波数が流れている場合には,鉄心やフェライトの飽和を 考慮する必要がある.
等があげられる.
一方,電圧の測定においては,一般的にオシロスコープ等に付属している電圧プローブや,
FET等の入力を持つアクティブ型の電圧プローブ等が用いられている.またEMC規定の適 合性確認のための測定器として,CISPR publication 16においてコモンモードのインピーダ ンスを安定化させた電源線用の擬似電源回路網(AMN : Artificial Mains Network)や擬似通 信線回路網(AAN :Asymmetric Artificial Network)等が規定され,用いられている.しかし ながら,これらの電圧測定用のプローブや装置では,
1)従来の電圧プローブは,測定対象の導体に接触する必要があり,ケーブルの切断や被 覆の除去が必要となる.
2)AMNやAANは,ケーブルの構造によって個々に準備する必要があり,汎用性が低い といった問題があげられる.そのため,高速化,大規模化した通信装置の運用中においては,
通信の正常性を確保しつつ測定することが困難である.
伝導妨害波の影響を評価するためには,動作中の装置での測定が必要である.電流につい ては,現状のプローブで測定が可能であるが,電圧については上記課題から測定が困難であ る.また電流による測定だけでは,コモンモードのインピーダンスによって電流値が変わる ため,インピーダンスが高い場合には,妨害波の影響を過小評価してしまう可能性が考えら れる.従って,通信装置周辺のケーブルの電磁環境を測定するためには,電流と電圧の測定 が必要であり,かつどちらの測定においても装置の動作に影響を与えないことが必要である.
しかし,上述のように電流の測定は非接触での測定が可能であるが,電圧についてはそのよ
うな測定はできない.そのため,装置の動作に影響を与えない非接触の電圧測定方法の確立 が重要な課題であるといえる.
これまで高電圧の測定用の電圧プローブとして,非接触型の電圧プローブが開発されてい
る [77][78].しかし,これらのプローブは,高電圧かつ特定の周波数(電源周波数)に対し
て開発されたものであった.そのため,数十MHz程度の高周波帯域と,数µV程度の微小電 圧に対する感度を必要とするEMC計測に,直接応用することは困難である.
そこで本研究では,高周波,微小電圧に対応可能な EMC 計測のための非接触型の電圧プ ローブを考案し,その特性について検討を行った.具体的には,静電結合を利用した非接触 型の容量性電圧プローブを考案・作製し,その基本特性について,測定と等価回路化による 理論的検討を行った.次に,その特性の誤差要因や校正法について実験的,理論的に検討し,
その両者を比較することによって,その有効性を評価するとともに課題を明らかにしている.
1.4.3 通信装置のEMC問題の解決方法
ネットワークが大規模,大容量化することによって,EMCの問題が原因の故障が1回発生 すると,その社会的影響は大きなものとなってきている.そのため,実際の現場でのトラブ ル対応においては,すばやく妨害波を特定し,かつその発生源を発見し対処することが重要 な課題となってきている.
妨害波の発生源を特定する方法として,到来方向の推定が考えられる.これまで,ホイッ スラ,ヒスと言ったような空電の到来方向の特定については,様々な検討が行われている
[79]-[80].また EMC の領域においても,東北大の菊池や長澤らによる合成開口法による妨
害波源の特定方法[81][82]や,京都大学の鷹尾らによる回転ダイポールによる電波の到来方向 予測[83][84],NTTの富永らによる移動式の電磁界測定装置による領域内の波源推定[85]等,
様々な検討が報告されている.また到来方向の予測の数学的なアプローチの手段として,R.C.
Schmidtによる提案のMUSIC法[86]やR. RoyによるESPRIT法[87]等が提案され,それら が到来方向予測に応用されている[88][89].
一方,伝導妨害波の妨害源の特定技術については,ほとんど検討がなされていない.例え ば,NTTの馬杉らによって,障害に連動した電磁環境のモニタリング装置等の開発が行われ ており[90],伝導妨害波の到来を検知する技術が提案されている.しかし,これらは電磁環 境の評価が中心であり,伝導妨害波の到来方向について検出するものではない.また電流プ ローブによる電流測定のみであるため,その大きさだけでは妨害波の伝搬方向を特定するこ とが難しかった.また電圧の測定に対しては,前節で述べたように従来の電圧測定器では,
運用中の装置に対して適用することが難しい.これらの問題点から,伝導妨害波の伝搬方向 の特定技術については,大きな進展がなかった.
これらの背景から,伝導妨害波の伝搬方向特定技術については未検討であり,その技術の 確立が必要であった.さらにその技術に対しては,故障の状況を正しく把握するために,装 置が動作状態のままで伝導妨害波の測定を行えることが要求される.
本研究では,伝導妨害波の妨害波源特定技術の確立を目的として,妨害波のエネルギーの
流れに着目した伝導妨害波の伝搬方向特定方法を考案し,その原理に基づくシステムを構築 して,有効性の実証を行った.まずケーブルに発生する伝導妨害波の電圧,電流を非接触で 同時に測定し,その結果から妨害波の有効電力を求めることによって伝搬方向を特定する技 術について理論的な検討を行った.さらに測定システムを開発し,提案手法の有効性につい ての実験的な検討を行っている.その際,測定システムには実際の現場でのトラブルを想定 し,運用中の装置に対する適用が可能となるように,本研究で検討している非接触型の容量 性電圧プローブの技術を活用している.さらに,実際の現場での EMC 故障においてそのシ ステムを使用し,妨害波源の特定が可能であることを確認し,その有効性を示している.
1.5 本研究の抄録
本研究は以下のような構成になっている.
・第1章
本章であり,研究に至る背景,現在までの研究状況,問題点等を述べ,研究の目的を述べ ている.
・第2章
電磁界計測手段として,光変調器を用いた電界センサの構成について説明し,その動作原 理について述べている.また光変調器を用いた電界センサの理論解析手法として,等価回 路を用いた計算手法について述べている.各種電界センサのパラメータを理論的,実験的 に求めることにより,理論計算における誤差要因を明らかにし,解析手法の有効性につい て検討をしている.
・第3章
光変調器の特性に起因する感度変化要因について述べている.まず電界センサの感度を決 定するパラメータであるオプティカルバイアス角の調整方法として,外力を印加する手法 について述べている.次に,光学結晶の持つ圧電共振現象について考察し,電界センサの 感度特性安定化と機械的共振現象の抑制方法について述べている.
・第4章
伝導妨害波電圧の新たな測定ツールとして,静電結合を利用した容量性電圧プローブにつ いて,その原理と校正について述べている.さらに感度特性及び誤差要因について検討し,
有効性について評価している.併せて,感度改善手法及びEMC規格適合試験の際の測定用 プローブとしての特性についても,従来技術であるAANと比較し,その有効性について述 べている.
・第5章
伝導妨害波の伝搬方向を特定する技術として,妨害波の電圧,電流から有効電力を求めて その伝搬方向を特定する技術について提案し,その原理的な確認と有効性について述べて いる.測定システムを構築し,実験的に利用するだけでなく,実際の現場においてその有 効性の確認を行っている.
・第6章
本研究の全体のまとめであり,研究により明らかになった結果と今後の検討課題について 述べている.
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