4.1 はじめに
装置の EMC の問題を考えた場合,その故障の原因となる電磁妨害波は,主に装置に接続 されるケーブルとグランド(電位基準面)等の間に発生するコモンモードの伝導妨害波とし て伝搬する.従来,このような妨害波の測定においては,電流プローブを用いるのが一般的 であった.これは一般的に使用されている電圧プローブで伝導妨害波の電圧を測定するため には,ケーブルの導体に接触する必要がありケーブルの外被の剥離や切断等を伴う.そのた め,動作中の装置に対して適用した場合,その動作に影響を与える可能性があることから,
実際に測定を行うことが困難であった.しかし電流だけの測定では,コモンモードインピー ダンスの違い等によって,本来の影響を正確に評価することが難しい.従って,より正確に 妨害波の特性を捉えるためには,電圧と電流を同時に測定する必要がある.
装置から発生する伝導妨害波を,IECやCISPR,ITU-T等の国際規格で定められた試験方 法で評価することは,装置の EMC 特性を改善するための基本的な手段である.従来,これ らの測定に対しては,擬似電源回路網(Artificial Mains Network : AMN)や擬似通信回路網
(Asymmetric Artificial Network : AAN)が用いられ,CISPR publication 16[1][2]等の国 際規格でその性能が規定されている.しかし,通信線には,ツイストペアケーブル,フラッ トケーブル,同軸ケーブル,シールドケーブル,多対ケーブル等,その構造が単一ではなく 多種多様なものが利用されている.そのため,AANを用いて妨害波電圧を測定する場合には,
ケーブルの対数,シールド等の構造の違いに合わせて多くの種類の AAN を作製しなければ ならない.さらに,ケーブルに割り入れる構造のため,一般的なプローブと同様に,動作中 の装置に対して適用することは困難である.
このようなAANの問題点から,1993年頃から通信線妨害波の測定方法についての議論が
CISPR 等の国際標準機関で活発に行われるようになり,1997 年に発行された装置からのエ
ミッション規制であるCISPR Publication 22[1] 第3版の中にAANに変わる妨害波電圧の 代替測定方法として,非接触で測定する方法が取り入れられた.しかし,測定方法について は記載されているが,実際にどのようなものを使用するのか,といった非接触測定器の具体 的な規定については,なんら指定がなされていなかった.
そこで,本研究では,ケーブルに発生している伝導妨害波の電圧を非接触で測定するため の手段として,ケーブルとの静電結合を利用した容量性電圧プローブ(Capacitive Voltage
Probe:CVP)について検討し,その有効性の確認を行った.
これまでに,高電圧の分野においては,静電結合を利用したコンデンサ分圧器やプローブ の提案がなされている[3].しかしながら,EMCの測定においては,
1)微弱な信号をとらえなければならない
2)数十MHzまでの高周波を測定する必要がある.
3)被測定系に影響を与えない
等の特徴を持つことが必要である.そのため,従来のものをそのまま EMC 計測に応用する ことは困難である.そこで本研究では,EMC計測における伝導妨害波の非接触測定用プロー ブとして,ケーブルとの静電結合を利用した容量性電圧プローブ(CVP)を開発し,検討を おこなった.まず,CVPを作製し,その感度特性及び周波数特性について検討を行った.同 時に,その構造から等価回路を作成し,測定値と理論値の比較を行っている.次に,CVPは 静電結合を利用しているため,ケーブルの構造やCVP内での位置により感度特性が変化する.
そこで,これらの感度変化要因について検討を行っている.さらに,その補正方法として,
数値解析手法による方法と CVP2つと参照信号を用いた構成方法について基礎的な検討を 行い,有効性と課題を明確にしている.最後に,EMC 規格の測定の標準電圧測定器である AANとの相関性について評価を行い,本研究で開発したCVPの実用性について明らかにし た.
4.2 容量性電圧プローブの構成と等価回路
4.2.1 容量性電圧プローブの構成
図4.1に容量性電圧プローブ(Capacitive Voltage Probe : CVP)の構成を示す.CVP は,2つの円筒形電極,ケーブル固定用ジグ,スペーサ,電圧検出回路等からなっている.
円筒形電極は,ケーブルと結合させるための内部円筒形電極と外部との静電シールドするた めの外部円筒形電極からなり,それぞれが2つの半円筒状に分かれるようになって,ケーブ ルを挟み込むことができる構造となっている.2つの円筒形電極間の距離はスペーサによっ て一定に保たれており,ケーブル固定用ジグはケーブルを電極の中心部付近に固定するため に取付けられている.内外円筒形電極間の電圧を検出するための回路は,金属筐体に収めら れ外部電極の外側に図4.2に示すように取り付けられている.外部円筒形電極は,電位基 準となる接地に接続できるようになっている.
被測定対象のケーブルに電圧が発生した場合,内部円筒形電極とケーブルの間の静電結合 によって,内部電極に誘導電圧が発生する.この誘導電圧は,ケーブルの電圧に比例してい るため,内部電極と外部電極との間の電位差を測定することによって,ケーブルに発生した 電圧に比例した電圧を検出することができる.
4.2.2 CVPの等価回路
CVPの等価回路を図4.3に示す.Vはケーブルに発生した被測定対象の電圧,Cはケー ブルと内部円筒形電極との間の静電結合によるキャパシタンス,Csは内部円筒形電極と外部 円筒形電極との間の静電結合によるキャパシタンス,Rp及びCpは,電圧検出回路の入力イン ピーダンスである.この等価回路より,出力電圧Vpは,以下の式で与えられる.
Voltage
detecting circuit Grounding
terminal
BNC Connector Inner electrode
Cable fixture
Grounding line Ground plane
V
Outer electrode (Electrostatic shield)
図4.1 容量性電圧プローブの構造
Voltage detecting circuit
Metal Rod
Metal box BNC connector
図4.2 内部電極と電圧検出部の接続
C
Cp Rp
V
Capacitance between Cable and inner electrode
Voltage detecting circuit
Disturbance Source
Cs
Capacitance between inner and outer electrode
Vp
図4.3 CVPの等価回路
(
C C C)
VR j
CR V j
p s p
p
p = + + +
ω ω
1 (4.1)
ここで,ωは角周波数である.
ωRp(C+Cs+Cp)>>1が成立する周波数範囲では,(4.1)式は以下のようになる.
C V C C V C
p s
p = + + (4.2)
この(4.2)式は周波数に無関係であり,従ってωRp(C+Cs+Cp)>>1 が成立する周波数範囲では,
CVPは平坦な特性を有することがわかる.
この等価回路を解くためには,内部円筒形電極とケーブル,内部円筒形電極と外部円筒形 電極間の結合キャパシタンスである,C及びCsを求める必要がある.本研究では,まず計算 の簡略化のため,円筒形電極の半径に比べ電極長は十分に長いものと仮定し,CVPを無限 長同軸円筒導体と仮定して,結合キャパシタンスを求めることにする.これにより,単位長 あたりのキャパシタンスの値は,CVPの断面の形状を考慮するだけで求めることができる ため,それに電極長をかけることによって,結合キャパシタンスを求めることができる.
ケーブルが内部円筒形電極の中心に存在する場合,その結合キャパシタンスは以下の式で 与えられる.
l
⎟⎠
⎜ ⎞
⎝
= ⎛
a C b
loge
2πε
(4.3)
ここで,a, bはケーブル導体の半径及び内部円筒形電極の半径であり,lは電極長である.
一方,ケーブルが内部円筒形電極の中心にない場合,結合キャパシタンスは以下の式で与 えられる
l
⎟⎟⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛ + −
=
−
ab d b C a
cosh 2 2
2 2 2 1
πε (4.4)
ここで,dは内部円筒形電極の中心とケーブルの中心との距離である.
さらに,内部円筒形電極と外部円筒形電極間の結合キャパシタンスの場合,その中心が一 致し,距離が一定となるようにスペーサが設けられているため,以下の式で与えられる.
l
⎟⎠
⎜ ⎞
⎝
= ⎛
b C c
e s
log 2πε
(4.5)
ここで, は外部円筒形電極の半径である.c
Voltage detecting circuit Grounding
terminal
BNC Connector Outer electrode
(Electrostatic shield)
Inner electrode Cable
fixture Spacer
図4.4 開発したCVPの外観 表4.1 CVPの仕様諸元
Electrode Aluminum Fixture Sponge rubber Spacer PTFE
Length 100 mm
Inner 25 mm
Radius
Outer 55 mm
4.3 CVPの開発
CVPの特性を評価するために,実際にCVPを作製した.その外観を図4.4に示す.
また仕様諸元を表4.1に示す.作成したCVPの電極長は100 mm,内部円筒形電極の内
径は25 mm,外部円筒形電極の内径は55 mmであり,それぞれ5 mmの厚さのアルミニウ
ムで作られている.またそれぞれの電極間のスペーサは,低誘電率のプラスチックを用いて スペーサの挿入による結合キャパシタンスの増加を抑制している.ケーブル固定用ジグは,
ケーブルを中心に固定するため,スポンジまたは発泡ゴム等の弾力性のある材質を用いてい る.電圧検出回路は,金属筐体の中に収められている.内部円筒形電極と電圧検出回路との 間は,金属ロッドで接続されている.これは,接続部分の浮遊容量やインダクタンスによっ て高周波領域での特性が変化するのを最小に抑えるためである.
電圧検出回路は,高い入力インピーダンスを持つものを使用している.従って,その等価 回路は通常,高抵抗RpとキャパシタンスCpの並列回路で与えられる.今回作成したCVPで は,Rp=1 MΩ, Cp=5 pFである.また出力インピーダンスは測定器との接続性を考慮して50 Ω としている.検出回路のゲインは0.2, 0.1, 0.01のいずれかを設定できるようになっている.
さらに回路動作のために外部直流電源より,電源を供給している.