3.1 はじめに
光変調器を用いた電界センサには,LiNbO3等の光学結晶を用いたタイプ[1][2]とLiNbO3等 の基板上にMach-Zehnder型光干渉計を形成し,これを光変調器として用いたタイプ[3]-[5]
の2種類が主に検討されている.このうちMach-Zehnder型光干渉計を用いた電界センサは,
最低検出可能な電界強度が 1 mV/m以下と感度が高いため,広い応用範囲をもつ電界センサ として開発が進められている.しかしながら,このタイプの電界センサにおいては,最もダ イナミックレンジを大きく取れる位置にその動作点(オプティカルバイアス角)を設定する のが理想であるが,Mach-Zehnder型光干渉計を用いた光変調器の場合,サブミクロン単位 で導波路の長さを調整する必要があり,光変調器を製造する段階で調整を行うのは困難であ った.そのため,使用時に光変調器に直流電圧を印加して調整する方法や,製造後の光変調 器から目的にあったオプティカルバイアス角に近いものを選んで使用する必要があった.し かし,電界センサの特長を生かし,使いやすいものとするためには,直流電源や製造の工程 に関係なくオプティカルバイアス角を調整する方法の実現が望まれていた.さらに,光学結 晶を用いた光変調器では,原理的に周波数依存性がないのにもかかわらず,1MHz以上の周 波数帯域で狭帯域な感度変化が確認され,それが電界測定の精度に影響をあたえている.こ れは光学結晶に交流電圧を印加した場合,圧電効果による共振現象があり,それによって変 調器の特性に影響を与えることが報告されている[6][7].
そこで本研究では,オプティカルバイアス角を調整する方法として, Mach-Zehnder型光 干渉計が形成された光変調器基板の一点に力を加え,基板を変形させ導波路の長さを変える 方法を考案し,電界センサの感度特性について検討を行っている.まず,オプティカルバイ アス角とダイナミックレンジの関係について述べ,次に,Mach-Zehnder 型光干渉計が形成 された基板の一端を固定し,もう一端に力を加えることにより,導波路の長さや導波路の屈 折率が変化しオプティカルバイアス角を調整することが可能であることを理論解析により示 す.最後に,オプティカルバイアス角の調整可能な電界センサを作製し解析結果との比較を 行った.
さらに,圧電現象に起因すると考えられる狭帯域の感度変化の原因を明らかにすると共に,
その改善方法について述べる.そのため,まず電界センサの感度特性を測定し,1MHz 以上 の帯域で感度変化が生じていることを示す.次に,この現象が光学結晶基板の持つ圧電効果 に起因する共振であると仮定し,理論解析から共振周波数を求め,測定結果と比較する.さ らにこの結果から,周波数特性の劣化の原因となっている共振モードを求め,改善方法を提 案し,その改善を施した電界センサの作製と改善効果の確認を行っている.
Optical Source
Photo-detector
Level meter Polarization
maintaining
fiber Optical
modulator
Plastic case Sensor rod
h
Single mode fiber
図3.1 Mach-Zehnder型光変調器を用いた電界センサの構成 3.2 オプティカルバイアス角調整による感度改善法
図3.1に光変調器としてMach-Zehnder型光干渉系を用いた電界センサの構造を示す.
図 の よ う に , 電 界 セ ン サ は 光 源 部(Optical source), セ ン サ 部(Sensor), 光 検 出 部 (Photo-detector)の3つに分かれる.センサ部は,電界を検出するセンサロッド部(Sensor rod) と,光変調器及びそれを収めるきょう体からなっている.光源部−センサ部間は偏波面保持 ファイバ(Polarization maintaining fiber)により接続され,センサ部−光検出部間はシングル モードファイバ(Single-mode fiber)により接続されている.光源から出た光は,偏波面保持 ファイバを通り光変調器に入射される.このとき,センサ部周囲に電界が印加されると,電 磁結合によりセンサロッド間に起電力Vmが誘起される.この電圧は光変調器に印加され,こ の電圧により,各導波路内に電界が生じる.電気光学効果によって各導波路の屈折率が変化 し,各導波路内を通る光に位相差が生じる.この位相差により,2つの光の合成後,変調器 内部を通る光が強度変調される.この強度変調は印加された電気信号の変化に比例するため,
印加された電気信号が光信号に変換される.Mach-Zehnder型干渉計を用いた光変調器の場 合,入射光をIinとすると,出力される光の強度は以下の式で表される[8][9].
⎪⎭
⎪⎬
⎫
⎪⎩
⎪⎨
⎧
⎟⎟⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛ +
+
= π ϕ
Vπ
V Iout Iin 1 cos m
2 (3.1)
ここで,Ioutは出射光強度,Vπは半波長電圧であり,ϕはオプティカルバイアス角である.電 界強度をE,電界センサのロッドの実効長をheとすると,電界方向とセンサが平行な場合,
O/E変換器からの出力電圧は以下の式で与えられる[4].
Iout Optical bias angle
not tuned Optical bias angle tuned
Output signal
Input signal
-Vπ Vπ Vm
Electrode Voltage Optical output power
図3.2 オプティカルバイアス角と出力光の関係
( )
( )
⎪⎭⎪⎬⎫
⎪⎩
⎪⎨
⎧
⎪⎩
⎪⎨
⎧
⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜
⎝
⎛ ⋅ +
+ +
× + +
=
ϕ
ω ω π
ηη
π in m e
m in
m
out E h
R C j Z
R C j V
V I & &
1 1 1 cos 1
2 1 (3.2)
ここで,Zinはセンサロッドの駆動点インピーダンス,Cmは光変調器の入力キャパシタンス,
Rは温度特性改善のため基板上に形成された導電性のバッファ層による光変調器の入力抵抗 [14],ηmはO/E変換器の変換効率,ηは光源からO/E変換器までの伝搬損失を表している.
Mach-Zehnder 型光干渉計は入射した光を2つの導波路に分け,それぞれの導波路で位相
差を与え,再び合成することで光に強度変調を加えている.この場合,オプティカルバイア ス角は導波路の長さの違いや屈折率の違いにより決定される.
図3.2にオプティカルバイアス角と入―出射光の関係を示す.図の横軸は光変調器の電 極への印加電圧Vm,縦軸が出射光強度Ioutである.図の実線はオプティカルバイアス角90度 の場合,点線は0度の場合である.オプティカルバイアス角が0度の場合,変調器電極への 印加電圧に対してその出射光は図に示すように元の波形を復元せず,また変換効率,強度も 小さなものとなる.一方,オプティカルバイアス角90度の場合,出射光のダイナミックレン ジ,変換効率は最大となる.以上のことより,光変調器を用いた電界センサの感度及びダイ ナミックレンジを向上するためには,オプティカルバイアス角を90度に調整する手法を確立 する必要がある.
オプティカルバイアス角を調整する方法としては光変調器の電極に直流電圧をバイアスと して印加する方法やMach-Zehnder型光干渉計の製造時に2つの導波路の位相差を調整する 方法が,これまで採用されている.
R
Fixture
Neutral axis
LiNbO 3
substrate
P
y
z
w
x
Compressive stress
Tensile stress Optical
waveguide 2a
b
図3.3 オプティカルバイアス角の調整方法
しかし,電界センサにこれらの方法を採用する場合,前者については,電界センサ内部に 金属性の電源を内蔵する必要があるので,周囲電界分布に与える影響が問題となる.また,
後者については,導波路の長さを光源の波長以下であるサブミクロンオーダで調整する必要 があり,技術的に困難である.
そこで,本研究では Mach-Zehnder 型光干渉計が形成された基板に力を加えて変形させ,
それにより生じる導波路の長さの変化や屈折率変化によってオプティカルバイアス角を調整 する方法を提案する.
3.2.1 オプティカルバイアス角の調整方法
図3.3に本研究で提案する光変調器のオプティカルバイアス角の調整方法を示す.図に 示すようにMach-Zehnder型光干渉計が形成された基板(Substrate)の一端を固定しもう一端 に力を加えて変形させる.このとき,導波路が基板の中心軸に対して対称に配置されていれ ば,一方の導波路には引っ張り応力が働き,もう一方の導波路には圧縮応力が働くので,導 波路の長さや屈折率が変化して,位相差が生じる.この位相変化を用いてオプティカルバイ アス角を調整できる.
基板に力を印加した時に生じる位相変化の要因として,
(1)導波路に加えられた応力の差により2つの導波路の伸びに差が生じて起こる位相差
(2)導波路に加えられた応力の差により2つの導波路の屈折率に差が生じて起こる位相差 が考えられる.
この時,(3.1)式に示すオプティカルバイアス角ϕは以下のように表される.
ϕ0
ϕ ϕ
ϕ = d + e+ (3.3)
ここで,ϕdは導波路の伸びの差による位相差,ϕeは導波路の屈折率の差による位相差,ϕ0は 製造時に生じた2つの導波路長の差や屈折率の差による位相差である.
以下で,印加した力と位相差の関係ついて述べる.
3.2.1.1 導波路の伸びによる位相差
図3.3に示すようなモデルを用いた場合,力が加わることにより,基板の長手方向に曲 げ応力が現れる.計算のための座標系は図3.3に示すように定めるとする.光変調器に使
用されるLiNbO3等の光学結晶は異方性結晶のため,応力Tはテンソルで考える必要がある
[10].すなわち,
⎥⎥
⎥
⎦
⎤
⎢⎢
⎢
⎣
⎡
=
33 32 31
23 22 21
13 12 11
T T T
T T T
T T T
T (3.4)
である.ここで,Tijは結晶に働く応力を表し,i番目の軸に垂直な面に働くj番目の応力である.
図3.3と(3.4)式の対応は,i, j=1がx軸,i, j=2がy軸,i, j=3がz軸となっている.応力Tは 対称2階テンソルであるから,その対称性からTij = Tjiが成立するので,簡略化のため添字i, j を以下のように置き換える.
⎭⎬
⎫
→
→
→
→
→
→
6 21 , 12 , 5 13 , 31 , 4 32 , 23
3 33 , 2 22 , 1
11 (3.5)
応力とひずみの関係は以下の式で与えられる.
[ ] [ ][ ]
Sk = slk Tl (3.6)ここで,[slk]は弾性コンプライアンス係数である.基板に印加する力は小さく,長手方向以外 の曲げ応力の成分は小さいものと仮定して考え,(3.4)式の各成分を以下のようにおく.
0 0
6 5 4 3 2 1
=
=
=
=
=
≠
T T T T T
T (3.7)
ここで,添字i (i=1,2,3,4,5,6)は,(3.5)式で与えられる応力の印加方向とその作用面を表して いる.このとき導波路にかかる曲げ応力は以下の式で与えられる[11].
x bw y Py
x
T1( , )=−12 3 (3.8)
ここで,T1はxとyの関数であり,基板上で大きさが変化する.また,Pは印加された力,w, b はそれぞれ,基板の幅及び厚さである.
導波路上では,y=±aであり,(3.6)〜(3.8)式及びLiNbO3の弾性コンプライアンス定数から,
曲げ応力による導波路の伸びは,導波路上のひずみを積分することにより,以下の式で与え られる.
2 11 3
0 11 1( , ) 6 R
bw s Pa dx
a x T s
Ld = R =−
∆ +
∫
(3.9)ここで,s11は弾性コンプライアンス定数,Rは基板の固定点から外力印加点までの距離,2a は 2 本の導波路の間隔,添字+はy軸方向の+側方向にある導波路の伸びを意味している.こ
の(3.9)式から,各導波路の長さの差は以下の式で与えられる.