結論
7.1 はじめに
第6章では,本研究の成果と中期的な展望および今後の課題について考察した.第7章では第6章の 考察を踏まえて本研究の結論を述べ,結びとして交通情報の構造化と情報提供に関する長期的展望につ いて論じる.
7.2 結論
本研究では,高速道路で表示される情報板シンボルを事例に,交通事象が発生した際にドライバの適 切な対応に寄与する交通情報の提供方法について検討した.その方法は,情報板シンボルの伝達性にお ける情報の伝達過程を紐解くことによりデザインプロセスを導き,その妥当性を新たにデザインした情報板 シンボルの評価により検証した.
これまで,情報板シンボルを始めとする交通情報の提供方法と提供に用いるコンテンツ・デザインの多 くは,高速道路の管理者とデザイナの主観や経験に依存して来たため,情報発信者と受容者であるドライ バとで認知や想定する内容にギャップが生じ,ドライバが提供された情報から適切な回避行動を想定し選 択することが困難なケースが多かった.
デザインの領域では,ユーザ目線という用語が慣用的に用いられるが,その具体的なプロセスや手法 が提示されることは少ない.
以上の経緯に対し,本研究では情報板シンボルのデザインを事例に,客観的かつ具体的なデザインの
拡張し,次のように結論づける.
交通情報に関するデザインでは,外部刺激となる交通事象とこれに起因する交通情報に対するドライバ の認知過程を紐解き,ドライバが回避行動を実行あるいは選択するまでの伝達過程を勘案したプロセスが 必要である.
提供内容や提供方法のデザインには,高速道路の管理者のような情報発信者と情報受容者であるドライ バとに共通する「Code」を導くことが重要であり,「Code」を導くには両者の「Reference」の構造を明 らかにする必要がある.これに関連し,情報提供者がドライバに求める「対応」,情報提供の目的,メッセー ジの内容も明確にしておく必要がある.
交通情報の構造は,時間軸を伴う複雑な因果関係によって文脈的に成り立っており,ドライバの
「Reference」もこれと同様に複雑な構造にある.この文脈的な構造は,「原因」,「状況」,「結果(リスク)」,「ド ライバの対応」のように時系列に分類し,その因果関係を紐解くことで明らかにできる.導かれた構造は,
造形に関する指針や情報内容の選択指標としても有用な知識となる.
以上を踏まえ,不特定多数のユーザの安全が目的となる交通情報には,構造化されたユーザの
「Reference」に基づくデザインプロセスが必要である.
7.3 おわりに
2018 年現在,内閣府は,2025 年度を目処に限定領域内における自動走行システムの市場化を目標 に掲げている[ 注 1 ].自動走行にあたっては,様々なセンサーが車両に搭載され,人による運転を模した「自 立型システム」が「対応」の「認知→想定→選択→実行」の全過程を司る予定である.
一方,自律型システムには,通信技術を利用して車両間または車両と車両外部から走路環境を認識する
「協調型システム」による補完も想定されている.ISO TC204 WG3 では,協調型システムとしてダイナミッ クマップの標準化に向けた議論が進められているが,マップとして提供される情報にどのような意味がある のか,それを受信した自動走行システムがどのように「選択」や「実行」をすべきかは,これから議論が 始められる段階にある [ 注 2 ].
本研究で得た知見から,第 1 章でまとめた情報伝達モデルや第 3 章で構造化した因果関係を含む情報 体系は,ドライバだけでなく,自動走行システムに対しても有用であると考える.
交通事象に関連する「原因」,「状況」,「結果」,「対応」とその因果関係を基本とした情報体系は,自 動走行システムがメタ的な構造の手がかりをもたない状況に比べ,より効率的な学習やリスク回避の選択に 寄与するはずである.さらに,この構造に基づき教師データとして多量の交通事象の発生事例を A.I. に学習 させることで,長期的には,自動走行システムが秒単位から時間単位でリスクを想定し,回避行動を実行で きるようになることも期待できる.
加えて,万全な自動走行システムが実現した場合においても,現実の道路空間では気象や環境に起因
が想像できる.情報提供は,新幹線等の鉄道や航空機で行われているように,直接運転にかかわらない ドライバや乗車している人に対しても不可欠なものになるはずである.
さらに,本研究の延長線上に描いている将来像は,メタ的な構造に基づいて整理された情報を「自動 走行システムに対してはソフトウェアが受け取りやすいかたちで提供」し,「人に対してはドライバや乗客 が理解しやすいかたち(グラフィカル・シンボル,文字,音声など)で個人端末などを介して提供」する という状況を想定している.
より安全な道路交通システムの実現に向け,「情報板シンボルおよび情報板の構成は,個人端末との統 一化や棲み分けを想定した意味内容と提示方法へと発展していくべきであり」,「ドライバに加えて自動走 行システムをも想定した情報の構造化が必要である」という見解を述べ,本研究の結びとする .
1 内閣府,戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 自動走行システム 研究開発計画,
http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/keikaku/6_jidousoukou.pdf,2018 年 5 月閲覧 2 内閣府 SIP 自動走行システム推進委員会,ダイナミックマップの概念 / 定義および、SIP-adus における取り組みに関する報告=地図構造化 TF における検討結果=,http://
www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/iinkai/jidousoukou_30/siryo30-2-1-1.pdf,2018 年 5 月閲覧
注および参考文献
本論文の作成にあたり,ご指導とご支援を賜りましたすべての方々に深謝申し上げます.
特に主査である芝浦工業大学 古屋 繁 教授には,研究の基本的な考え方からまとめ方までの細部に渡り ご指導をいただきました.先生のご指導と励ましのお言葉に何度も勇気付けられ,論文を完成させること ができました.
芝浦工業大学 大倉 典子 教授,吉武 良治 教授,山澤 浩司 教授には,拙論の副査をお受けいただき,
まとめ方について沢山の貴重なご指摘を頂きました.深く御礼を申し上げます.
中日本高速道路株式会社の亀岡 弘之 氏には,突然の申し入れにもかかわらず,副査を快諾頂き,研究 と実務の双方の視点から貴重なご指摘をいただきました.同社の山本 浩司 氏には,筆者が助手という立 場にもかかわらず,研究会に招き入れていただき,研究の遂行や論文執筆に関して多大なご指導とご支援 をいただきました.中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社 高橋 秀喜 氏には,中日本高速道 路株式会社の専門主幹をされていた頃からご指導とご支援をいただき,本論文をまとめる際にも常に温か い激励をいただきました.ここに謹んで御礼を申し上げます.
筆者の拓殖大学 工学部 工業デザイン学科 在学時からの恩師である木嶋 彰 教授には,研究を進めるに あたり常に温かいご鞭撻と激励を賜りました.同学科の永見 豊 准教授にはこのテーマにとりかかるきっか けを頂き,その後も常に暖かいご指導とご支援をいただきました.
名古屋電機工業株式会社 田子 和利 氏には,情報板に関する研究の開始から本論文のまとめに至るま で常に快くご支援をいただきました.同社の大島 創 氏とは公私にわたりお付き合いをさせていただき,研 究方法やその根底となる考え方について多くの議論をさせていただきました.本論文の執筆は,大島氏と 二人三脚で行ってきた数多くの投稿論文無くしてはできませんでした.また,同社の多くの方々に,再三に わたる実験において快くご協力を頂きました.この場をお借りして深謝いたします.
帝塚山大学の蓮花 一巳 教授,大阪大学の飯田 克己 准教授,東洋大学の北 真吾 准教授,黎デザイン 総合計画研究所の赤瀬 達三 先生,近畿大学 多田 昌裕 准教授をはじめ,中日本高速道路株式会社主催 の交通心理学作業部会にてご指導とご支援を頂きました全ての皆様に深謝したします.
拓殖大学 工学部 デザイン学科の阿部 雄毅くんには,在学中に研究の一部を担って頂きました.同大学 大学院の野島 瞳さんには,在学中にテキストマイニングの分析やサンプルの作製で多大なご協力をいただ きました.同大学 大学院の三輪 明日希さんには,データ分析や図表の作成に多大なご協力をいただきま した.ここに謹んで感謝の意を表します.
拓殖大学 工学部の諸先生方のご親切な激励に深謝いたします.
本論文は,このように多くの方々のご指導とご支援によって完成できたことを銘記し,深く感謝を申し上 げます.