第 3 章 の参考文献
4.2 転がり接触応力場における実介在物のモード II 応力拡大係数
4.2.1 解析対象
Fig. 4.1
に,転がり疲労試験で用いる転がり軸受(JIS-SUJ2製深溝玉軸受)を示す.この転がり軸受は,第
2
章の解析で扱った転がり軸受と同様に,内輪と外輪の間に等間隔で 配置された転動体(直径9.525 mm, JIS-SUJ2
製鋼球)が,荷重を受けながら内輪軌道面お よび外輪軌道面上を転走する.微小ドリル穴が軌道輪に付与された場合,転がり接触応力が繰返し作用することによ って発生するき裂は,はく離寿命の極初期に生じていることが確認されている.また,
未はく離の場合においても,微小ドリル穴エッジ部には停留したき裂が観察されている.
非金属介在物を起点としたはく離の場合も,その調査を行った過去の研究により,その き裂の発生は極初期段階であることが報告されている.従って,非金属介在物を対象と した
FEM
解析においても,微小ドリル穴の場合と同様に,環状の微小き裂を導入して 解析を行うことが適当である.Fig. 4.2
に,JIS-SUJ2鋼中に確認された非金属介在物の例を示す.また,Fig. 4.3に,佐藤らによって報告された(29),超音波探傷によって確認された非金属介在物を示す.従 来,非金属介在物分布の評価は顕鏡法によって行われてきた.この手法は,限られた非 常に狭い領域を被検領域とするため,実際に転がり疲労はく離を起こす介在物の寸法に ついては統計的に推定するに留まっていた.しかし,転がり軸受で実際に問題となる大 きさに非金属介在物についても,近年の超音波探傷技術の向上にって実際に観察出来る ようになった.
Fig. 4.2
およびFig. 4.3
に示したような大きさの非金属介在物が実際に材 料中に存在する頻度は,それほど高くないと予想されるが,より大きい非金属介在物ほ ど転がり疲労はく離強度に対する影響度が大きく,問題となりやすい.そこで,本研究 の解析対象を,球状の非金属介在物については,その直径を0.100 mm
までとした.Fig. 4.2
およびFig. 4.3
に示したように,非金属介在物には,球状ではなく,鋼材の圧延方向に延伸した細長い形状のものも存在する.これらは,形状が異なるためにその周 囲の応力場も異なり,結果として応力拡大係数にも差が出ることが予想される.
Fig. 4.4
に示したように,一様せん断応力下に存在する楕円状き裂においては,そのき裂の縦横 比が5
まではき裂の長半径と短半径を areaに考慮するが,き裂の縦横比が5
を超える 場合, areaを短半径のみで決定すれば,一律の計算式でせん断型の応力拡大係数が求められることが示されている(21).第
2
章で示した微小ドリル穴の場合,本研究の対象と する寸法の範囲内において,一様せん断応力下の楕円き裂の厳密解とよい相関が確認さ れた.非金属介在物の場合は,微小ドリル穴と比較して,周囲を完全に弾性体に囲われ ている点で,KassirとSih
が仮定した一様せん断応力下の楕円き裂により近い形状をし ている.このことから,非金属介在物においても,得られる応力拡大係数範囲の値は一 様せん断応力場の楕円き裂の値とよい相関があることが推定される.そこで,FEM 解 析によって応力拡大係数範囲を求める非金属介在物の形状は,縦横比1
の場合から5
の 場合までとすることとした.この範囲で,一様せん断応力下の楕円き裂の厳密解と,転 がり接触応力下の非金属介在物のFEM
解析解を比較し,近似式を導く.Fig. 4.5
に解析モデルの全景を示す.本解析において,対象とする転がり軸受は第2
章と同じ深溝玉軸受
6206
であるので,き裂起点である欠陥以外の寸法は第2
章と同様で ある.その他,解析モデルがxz面を対称面とした1/2
モデルであることや,鋼球にz軸 方向の外力を負荷して軌道面と接触させるなどの点も同様である.解析対象である内輪 のヤング率は208 GPa,ポアソン比は 0.3
とした.本章では,
FEM
モデルにFig. 4.6
に示したような非金属介在物を軌道輪内部に導入す る.非金属介在物は,前節で述べたように,転がり疲労の極初期段階でき裂を有するこ とがわかっているので,FEM モデルもその周囲に微小な環状き裂を有するモデルとし た.このとき,環状き裂の幅は,第2
章と同様に0.010 mm
とした.Fig. 4.7に実際のFEM
解析モデルの例を示す.球状の非金属介在物の大きさは,0.050 mm,0.075 mm,0.100 mmの
3
水準とし,それぞれの非金属介在物は,その中心が深さ0.100 mm
の位 置となるようにモデル化した.本節で行うFEM
解析は,最大接触面圧qmax= 3.0 GPa
の 条件で行うが,この場合は第2
章で示したように最大せん断応力発生深さz0= 0.100 mm
となるので,非金属介在物の存在深さもこれに合わせた.非金属介在物は,これまでの 研究結果より,最も転がり疲労はく離に寄与していると判断されてるアルミナ系介在物 を想定することが望ましいが,本研究においてはFEM
解析の収束性の判断から剛体と した.また,非金属介在物と母材の間にすきまは設けていない.非金属介在物表面と母 材の接触状態は,「固着(GLUE)」でなく「接触(CONTACT)」とした.すなわち,非金属 介在物の表面に沿って生じる母材の変形が,本解析上では許容される.経験的に,はく 離が生じたときに,非金属介在物ははく離片とともに消失する.このことから,非金属 介在物は母材と固着はしていないと判断し,これをFEM
解析モデルにも反映させた.鋼球の移動に伴う
Fig. 4.6
中のD
点でのKIIの変化を調べるため,第2
章の場合と同様 に,鋼球を非金属介在物から十分離れた位置(非金属介在物の中心位置をx = 0として,x = −0.6 mmの位置)で圧縮接触させ,接触状態を維持しながらx = +0.6 mmまで移動さ せた.本解析においても,鋼球が
0.020 mm
移動する毎に,第2
章と同様に応力外挿法 を用いて(29),環状き裂のKIIを求めた.縦横比が
1
より大きい場合の非金属介在物は,Fig. 4.8に示したように,転動体の転走方向と直角な方向に細長い形状とした.通常,転がり軸受の軌道輪は,素材である棒 鋼を輪切りするように加工されるため,圧延方向に延伸された非金属介在物は,必ず転 動体の転走方向と直行する方向に細長い形状となる.このことを考慮し,縦横比が
1
よ り大きい場合は,転走方向と直行する方向に細長い形状のみを解析対象とした.縦横比 が異なる以外の解析条件は,すべて球状の場合と同様とした.
(a) Radial type rolling bearing. (b) Ellipse type contact area on rolling bearing.
Fig. 4.1 Target of FEM analysis. Contact ellipse is generated between ball and ring.
Outer ring
Inner ring
Rolling element (Ball)
Inner ring Rolling element (Ball) Contact ellipse
Major axis 2sa
Minor axis
2sb x y
z
(a) Aspect ratio: 1
(b) Aspect ratio: 2.5
(c) Aspect ratio: 7
Fig. 4.2 Non-metallic inclusions observed in a bearing steel.
( ai: major axis of inclusions, bi: minor axis of inclusions, aspect ratio: ai / bi ) The non-metallic inclusions have various shapes with different aspect ratios.
Direction of hot-rolling Direction of load movement
bi ai
bi ai
bi ai
Fig. 4.3 Examples of inclusions detected by 15MHz ultrasonic tests. Sato et al.(29)
Fig. 4.4 Simplified method for calculating shear mode stress intensity factor. Okazaki et al.(21)
Fig. 4.5 Overview of FEM model of contact between rigid rolling element and elastic body having a defect.
10 mm
z x y
Fig.4.6 Geometry of non-metallic inclusion present in subsurface.
The inclusion has a ring-shaped crack at equator.
z
Load movement direction
d' d' a'' a'
x y
o
h'
Ring-shaped crack
D
Fig.4.7 Examples of FEM model of non-metallic inclusion having a ring-shaped crack at equator.
h'= 0.100 mm
Ring-shaped crack around equter of inclusion d'= 0.100 mm
Point D
a'= 0.010 mm Point D
Fig.4.8 Geometry of narrow inclusion present in subsurface.
The inclusion has a small crack at equator.