• 検索結果がありません。

機械要素のひとつである転がり軸受に見られる転がり疲労はく離損傷は,構成部品で ある転動体と軌道輪が

Hertz

接触することによって生じるせん断応力が材料内部に繰返 し作用することによって引き起こされる.その起点は,材料中に不可避に存在する非金 属介在物であることが従来からわかっている.材料中の非金属介在物は応力集中源とし て働き,その結果として初期き裂が介在物から発生する.このことから,材料中の非金 属介在物を減らす,もしくは微細化することが長寿命化手法と考えられ,それを実現す る手法として鋼中酸素量を低減することが古くから行われてきた.事実として,製鋼メ ーカの製鋼技術向上による鋼中酸素量の低減とともに,非金属介在物の存在量も減少し ており(すなわち,材料清浄度が向上し),内部起点はく離寿命も延長している.

清浄度の向上は,転がり軸受の内部起点はく離寿命の延長に優れた効果がある一方で,

技術的な難易度が高く,また,実用上のコストも増大する.従って,全ての転がり軸受 に高清浄度鋼を適用するのではなく,要求される品質・信頼性に応じて材料を使い分け,

コストと信頼性のバランスを取った選択をすることも重要となりつつある.

転がり軸受の強度設計において,材料の清浄度に応じて異なる転がり軸受の寿命の推 定は極めて重要である.従来,内部起点型を含めて,はく離寿命の推定手法は確率・統 計的な観点から構築されてきた.そのため,寿命計算式には,理論構築当時の寿命試験 データによる係数が含められており,現代においてはもはや成り立たない事例が少なく ない.従って,統計的な手法に加えて,力学的な観点からはく離寿命を説明した寿命推 定手法の確立が求められている.

過去の研究により,内部起点はく離は,非金属介在物を起点として発生したき裂がせ ん断型で進展して起こることがわかっている.また,近年の評価法開発により,せん断 型疲労き裂の進展現象そのものについても,定量的な理解が進んでいる.しかしながら,

疲労き裂問題として転がり軸受のはく離疲労強度を説明するには至っていない.

そこで,本研究は,転がり軸受のはく離強度を破壊力学の観点から定量的に説明する ことを目的とした.まず,人工欠陥を付与した転がり軸受の疲労寿命試験と,

FEM

応力 解析に基づく応力拡大係数から,従来平板状試験片にのみ有効性が確認されていた破壊 力学的評価手法が,転がり軸受においても適用可能であることを示した.さらに,人工 欠陥を付与しない平滑な転がり軸受を用いて,非金属介在物が起点となる場合のはく離 強度の評価を行った.そして,介在物寸法と公称せん断応力から計算されるモード

II

応 力拡大係数を用いることによって,非金属介在物起因の転がり疲労はく離寿命を定量的 に評価できる可能性を示した.本研究によって,転がり軸受のはく離強度・寿命を従来 の方法に比べて合理的にかつ高精度に予測することが可能となる.さらに研究を発展さ せれば,転がり軸受の疲労強度設計や材料選定の新基準の構築に繋がると期待される.

以下に,本研究によって得られた結果を総括する.

1

章では,転がり軸受の内部起因はく離寿命の従来の評価法とともに,はく離現象 に対する近年の研究例をまとめ,せん断型の疲労き裂問題としてはく離寿命を理解する 必要性を述べた.加えて,現在も残る課題について説明し,本研究の目的と概要を述べ た.

2

章では,内輪に微小ドリル穴を付与した深溝玉軸受の転がり疲労試験の結果を破 壊力学的に定量化するために,FEM 応力解析により,ドリル穴エッジ部から発生した 環状き裂についてモード

II

応力拡大係数範囲KIIを計算した.得られた結果と,せん断 を受ける無限体中の円盤状き裂の解析解をもとに,ドリル穴エッジ部の環状き裂のKII

を種々の荷重条件・ドリル穴寸法に対して簡便に計算できる近似式を導いた.その過程 で,次の知見を得た.

(1)

直径

9.525 mm

JIS-SUJ2

鋼球と溝曲率半径(Rw1

= 18.49 mm,R

w2

= −4.82 mm)

の軌道輪の組み合わせについて,接触面圧qmax

= 2.0

~ 3.0 GPaの転がり接触応 力下に存在する円盤状き裂のKII

FEM

により解析した.その結果,き裂半径a

0.1 mm

程度までの範囲では,一様応力場中のき裂の解析解にき裂深さにおけ

る公称応力を代入することによりKIIを精度良く予測できることが明らかとな った.一方,a

0.1 mm

より大きくなると,KIIは解析解を下回り,両者の乖離 はき裂長さの増加とともに大きくなった.

(2)

転がり接触応力場に存在するドリル穴エッジ部の環状き裂のKIIは,同寸法の円 盤状き裂の解析解から計算されるKII0に,ドリル穴直径のみの関数として求めた

補正係数fdrillを乗ずることにより,±5%程度の誤差で推定できた.

3

章では,転がり軸受の内部起点型のはく離強度を定量的に評価するため,直径や 深さが異なる種々の微小ドリル穴を,JIS-6206および

JIS-51305

の軌道輪に付与して転 がり疲労試験を行った.得られた試験結果について,ドリル穴から発生した微小き裂の モードⅡ応力拡大係数範囲K,drillを用いて破壊力学な評価を試みた.得られた結論は以 下の通りである.

(3)

転がり軸受に微小ドリル穴を付与した場合でも,平板試験片の場合と同様,疲労 き裂はドリル穴エッジ部から発生し,せん断型で進展した.

(4)

縦軸にK,drillを用いることによって,疲労寿命データは試験片の種類やドリル穴 寸法によらず狭いバンドの中に収まった.

(5)

N = 1×108 で未破損となった軸受の断面を観察した結果,ドリル穴エッジ部で微 小なき裂が観察された.このことから,軸受が未破損となる限界は,ドリル穴か らのき裂の発生限界ではなく,発生したき裂の伝ぱ停留限界であることが明らか となった.

(6)

試験片が未破損となった試験の条件から,き裂進展下限界値KIIthを計算し,ドリ ル穴直径(≈き裂直径)に対してプロットした結果,KIIthはドリル穴直径d

1/3

乗に比例することが明らかとなった.また,その値は,静的圧縮応力下でのねじ

り疲労試験で得られたKIIthの値とよく一致した.

(7)

疲労寿命線図の縦軸をKII,drill

/

area1/3に無次元化して整理した結果,K,drillのみ で整理した場合よりもややばらつきが大きくなったものの,KII,drill

/

area1/3と疲 労寿命データはよい相関性を示した.また,疲労限度近傍の疲労寿命データがま とまり,本手法の有用性が示唆された.

4

章では,転がり軸受の内部起点型のはく離強度を定量的に評価するため,非金属 介在物を起点としたはく離試験を効率的に行う目的で意図的に選択した定清浄度鋼を

用いて

JIS -6206

を作製して転がり疲労試験を行った.試験の前に,予め超音波探傷に

よって非金属介在物が存在する軌道面の位置を把握し,非金属介在物起点のはく離デー タを選択的に取得した.得られた試験結果に対し,非金属介在物から発生した微小き裂 のモード

II

応力拡大係数範囲K,inclusionを用いて破壊力学な評価を試みた.得られた結 論は以下の通りである.

(8)

縦軸にK,inclusionを用いることによって,疲労寿命データは狭いバンドの中に収 まった.

(9)

K,inclusionを用いて整理した非金属介在物起点のはく離強度は,K,drillを用いて

整理した微小ドリル穴起点のはく離強度とほぼ一致した,このことから,起点と なった内部欠陥の種類によらず,Kを用いて一律に転がりはく離強度を定量的 に評価できる可能性が示唆された.

(10) 実介在物を起点とした微小き裂の場合も,その下限界応力拡大係数範囲K

IIが初

期欠陥寸法の

1/3

乗に比例すると予測し,KII

/

area1/3で疲労寿命を整理した.

その結果,Kのみ整理した場合よりもばらつきが大きくなった.これは,非金 属介在物を剛体と仮定して導出されたK,inclusion 推定式に起因すると考えられる.

より有用性の高い疲労寿命線図が得るためには,精度の高いK,inclusion推定式の 導出が望まれる.

以上,本論文では,破壊力学の観点から,転がり軸受の非金属介在物起点はく離をせ ん断型の疲労き裂進展の問題として扱い,モード

II

応力拡大係数範囲を用いることに よって,初期欠陥の種類や大きさによらず一律にはく離強度を定量的に推定できること の可能性を示した.モード

II

応力拡大係数範囲は,FEM解析によって得られた解と,

一様せん断応力下の楕円き裂のモード

II

応力拡大係数を与える厳密解を関連付けるこ とによって導いた,簡易的な推定式を用いて計算できることも示した.さらに,転がり 軸受の試験によって得られたモード

II

下限界応力拡大係数範囲KIIthが,静的圧縮応力 下のねじり試験によって得られたKIIthとよく一致したことから,要素試験によるせん 断型疲労き裂の評価が,はく離強度の定量評価の一助になることも確かめられた.