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結果と考察

ドキュメント内 守 蛤 (ページ 53-68)

X線構造解析によって錯体の結晶構造は決定されている(1.2)。TIF‐

DMDCNQI錯体の構造を図3-1に、TrF-DCNQIの構造を図3.2に 示す。結晶構造を見ると、TvlF-DMDCNQI錯体は1:1の混合スタック

構造をとっており、電気伝導度もO<10~7S・cm-1と低い。一方、

TIF-DCNQI錯体の方は、1:1の分子対に対し2つの水分子が介入し

ており、分離型スタック構造をとっている。そのため電気伝導度も約0.1 S・cm-lとかなり高い値をとっている(1)。

本研究では、これらの有機分子結晶に圧力を印加することによって起 こる相転移などの挙動を確認し、電子状態を調べた。また、置換基によ る影響も調べた。

3.3.1TrF-DMDCNQI錯体の高圧物性

錯体の高圧下での物性を調べるために、高圧下における振動スペクト

ル測定および電気伝導度測定を行った。

電荷移動量の見積もり

常温常圧におけるDMDCNQI中性分子、DMDCNQIリチウム塩、

およびTTF-DMDCNQIの赤外吸収スペクトル(図2-3,図3-3,4)を示す。

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一般に、TTF、CAなどの錯体の逆対称伸縮振動に対しては、電子-分子 振動(e-mU)相互作用の効果は無視できる。このことから波数シフトの 大きい逆対称C=O伸縮振動について、その波数シフトの大きさが電荷 移動量qに比例することが理論的に証明されている(4)。

最近、小林等によってDCNQIの逆対称Cゴv伸縮振動および逆対 称C=C伸縮振動の波数がDCNQIの電荷に直線的に依存することが 確かめられた⑤。

のi=の1-△i・q

蝿;j番目の振動モードの実測の振動数

の!;中性分子の振動数

△j;イオン化に伴う振動数差

q;電荷移動量

本研究においても、中性分子とリチウム塩のC=N伸縮振動数から文 献の関係式を確認した。

上式から、常温常圧下のTIF-DMDCNQI錯体の電荷移動量は、C=N

伸縮振動の波数(測定結果からq=0である中性分子:vc=N=1535cm~1,

9=0.5であるリチウム塩:vc=N=1505cm~')から求められる直線関係 にvc=N=1537cm~’を代入することによりq三0と見積もられる。得ら

れた直線関係を図3.5に示す

振動スペクトルの圧力依存性

DMDCNQI、TrFおよびTTF-DMDCNQIの常温常圧での赤外吸収

スペクトルは既にそれぞれ図2-3,7,図3-4に示している。錯体のス ペクトルはほぼ中性分子のスペクトルの重ねあわせであり、逆対称C=N 伸縮振動のピーク波数から電荷移動量の見積もりを行うとqはほとんど 0(中性分子)であった。このことは、図3-1で示される混合スタック

(、s)構造において、TTF分子とDMDCNQI分子の軌道の重なりが

ほとんどないことと一致している。

赤外吸収スペクトルの高圧下(0~3GPa)での圧力依存性についての 詳細を以下に述べる。

図3-6,図3-7,8に赤外吸収スペクトル(1650-1450cm-1)と各振動

数 の ピ ー ク 波 数 の 圧 力 依 存 性 を 示 す 。 圧 力 の 増 加 に し た が っ て

DMDCNQIのC=N伸縮振動(1537cm-1)のピーク波数は、圧力の印

加とともに連続的な低波数シフトを示し、約lGPa近傍まで続いてい

る。これは連続的な電荷移動屋qの増加を示している。圧力が約0.9

GPa近傍から低波数側の1480cmF1に新しいピークが成長しはじめ、

約1.3GPa近傍でピーク強度は逆転している。すなわちこの圧力(約1.0 GPa)で約50cm-1の不連続な低波数シフトを示した。これは以前に報 告されているTIF-CA(3)の挙動と極めて類似している。すなわち、転移

圧力Pb=1.0GPaで、TIF、DMDCNQIの電荷移動量を見積もるとq=

0.1(中性)からq=0.9(イオン性)に移っていることがわかる。この 挙動は明らかにこのPbにおいて中性相からイオン性相への転移(N-I

転移)が起こっていることを示している。TIF-CA系と異なる点として qのとび伽叩)の大きさの違いがあげられる。TIF-CA系において は、転移圧力でのqのとびは約0.2であるのに対して、TIF‐

DMDCNQIでのqのとびは約0.8とかなり大きい。表3-1に現在ま

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でに報告されているN-I転移を起こすTrF-tetrahalo弓p-benzoqUmone

系錯体の電荷移動墨qのとびの大きさを示している。このようにTIF‐

DMDCNQI錯体におけるqのとびの大きさはこれまでの報告例の中で

最も大きいものである。また、EC以上の圧力領域ではむしろqは圧力

の増加と共に減少している点もTTF-CA系と異なる点である。この原 因として、TvrF-DMDCNQIは分子同士の重なりが小さい系であること

から、分子間の移動積分が小さいことが考えられる。

また、C=C伸縮振動(1586cm-1)についても約1.3GPaでピーク

波数の低波数側へのとび(約50cm-1)が見られる。この圧力において C=C伸縮振動から見積もった電荷移動量は、q=0.8程度となりC=N 伸縮振動から見積もった電荷移動量とほぼ等しい値が見積もられる。ま た、転移点を過ぎてから1605cm~'付近に吸収帯が確認される。これは

e-muカップリングにより出現したDCNQIのαgモードのC=C伸

縮振動であろうと予想される。(6)

図3-9に1700-500cm~’の赤外吸収スペクトルの圧力依存性を示す。

Pbあたりから1000,1230,1300cm~'付近に幅の広い吸収帯が現れは

じめている。これらはe-mUカップリングにより出現した全対称(αgク

モードの吸収であり、それぞれDMDCNQI分子のC-C伸縮振動、

C-C-H変角振動、C=N伸縮振動と帰属される。また、1350cm-1付

近の幅の広いバンドはイオン性になって出現したTIF+のαg"(全対

称C=C伸縮振動)と帰属される。

中性相とイオン性相との共存領域の存在は本質的なものであり、試料

室内での圧力勾配によるものではない。なぜなら、圧力の較正に用いた

ルビーを試料室内に広範囲にわたって混入させていることから、圧力勾

配が生じていればルビーのR,蛍光線に不均一広がりが起こるはずであ るが、そのようなピークの広がりは観測されなかった。また、相転移の

影響をほとんど受けない赤外バンドに対しても、不均一広がりが観測さ

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れなかったことから圧力勾配の存在は否定できる。

電 子 ス ペ ク ト ル の 圧 力 依 存 性

次に、紫外・可視領域の電子スペクトルの圧力依存性を図3-10に示

す。常圧での25000cm-'あたりの吸収帯は,z貢,;'遷移の吸収帯である

と予想される.この吸収帯は圧力の印加によっては変化していないよう に思われる。5000cm~’あたりの吸収帯はCT吸収帯である。このピー

クは転移圧力(Pb)圧力約1.3GPaまではわずかな低波数シフトを示す。

しかしながら、Pb以上の圧力の印加ではCT吸収帯は高波数シフトを

示している。これは錯体の赤外吸収スペクトルの圧力変化で観測された N-I転移によって、錯体がイオン性になったためであろうと思われる.

つまり、CT遷移エネルギーの圧力依存性は、圧力とともに減少し、N証 転移点を越えると再び上昇している.この挙動もTIF-CA錯体で観測 されている挙動と極めて類似している(3)。

次にそれぞれの圧力でのスペクトルをカーブ分離したものを図3-11 に示す。22000cm~’あたりの吸収帯は中性TTFの吸収帯である(7)。

凡以上の圧力では19000cm-1あたりに新しいバンドが出現し、その吸

収強度は圧力の増加と共に強くなっている。このバンドはTTF+のも

のであり、イオン性へ相転移したためによるもので、赤外領域での

TIF+のαg蝿(全対称C=C伸縮振動)の吸収強度の増大と一致して

いる。また、15000cm~'付近の吸収帯はDMDCNQI分子のラジカル

アニオンのピークであり、TIF+の吸収帯と同様に吸収強度が増大して

いる。このことからも、この系ではN-I転移が起こっているというこ とが分かる。

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高圧下での電気伝導度測定

常温における電気伝導度の圧力依存性を調べた。常温常圧でのTIF、

DMDCNQI錯体の単結晶の電気伝導度はぴ=10~4S、cm-lである。高圧

下での電気伝導度測定は本研究室で開発された方法によって測定を行 った(第2章参照)。単結晶の結晶サイズは0.40×0.10×0.056nm8)で

あった。測定は二端子法で行った。測定結果を図3-12に示す。測定は 振動スペクトル測定同様、3GPaまで行った。振動スペクトルの圧力依 存性の結果により、Eeでの急激な電気伝導度の変化が期待されたが、測 定結果からそのような不連続な変化は見られなかった。厩c(約1GPa あたり)まで連続的な電気伝導度の増加を示している(ぴは5桁上昇)。

1.3GPaあたりでピークとなりそれ以上の圧力で電気伝導度は減少する 傾向にある。この挙動は図3-13の恩e以上の圧力で赤外活性化されて出 現するαgモードのIRピーク波数の相対強度の変化とよく一致している。

また、この結果はCT吸収帯の圧力依存性の結果とも一致している。CT 吸収帯はRまでは低工ネルギーシフトを示し、これはバンドギャップ の減少に相当するから、◎の増加をもたらす。ゑ9以上ではCT帯は高 工ネルギーシフトに転じ、oは減少する。この傾向はTIF-CAの圧力依 存性の結果と類似している。

赤外吸収スペクトルの温度依存性

TIF-DMDCNQI錯体において圧力誘起中性_イオン性相転移が振動

スペクトルの圧力変化によって確認された。この系ではzw分子と DMDCNQI分子の軌道の重なりが非常に小さい系であることから、温

度誘起中性-イオン性相転移も期待された。TIF-CAの系では常圧下で

暁.咽L 夕 、 =

の温度変化によるN-I転移が確認され研究されている(転移温度

、<84K)。相転移の確認はイオン性になって出現する1300cm~'付近の 幅の広い吸収帯の有無、DMDCNQI分子の逆対称C=N伸縮振動数 (VC=N)による電荷移動量の変化等により行った。また、測定は室温か ら12Kまで行った。

測定中、100Kにおいて時間依存性の測定(冷却直後、0.5h後、1.0h 後)を行ったが、変化はなかった。このことから、試料内の温度分布は 小さく、試料の冷却は迅速に進行しているものと考えられる。

赤外領域(500-5200cm~')のスペクトルの温度依存性(293K,200

K,100K,50K,12K)を図3-14に示す。100K以下の温度において 3200cm~'付近に吸収帯が出現しているが、この帰属についてはよく判

っていない。次に、1000-1700cm-1の領域のスペクトルの圧力依存性

を図3-15に示す。温度の低下にしたがってスペクトルの変化は見られ

ない。低温下において1480cm-1,1620cm~'に新たなピークが確認で

きるがこのピークに関しても帰属は判っていない。また、電荷移動量の 見積もりに用いているvc=Nのピークの吸収位置は、室温(29319と12

Kで変化していない(1537cm-1→1537cm~')。また、そのピーク強

度の変化も小さい。以上のことから、電荷移動量の増加は小さいものと 考えられる。したがって、この系において、温度誘起中性一イオン性相 転移は、少なくとも12Kまでは起こっていないことが判る。

高圧下における赤外吸収スペクトルの温度変化

より詳しい物性の研究を行うために高圧低温下での赤外吸収スペク トルの測定が必要となってくる。これまでに電気伝導度測定やラマンス

ペクトルではこのような状況での測定は可能であった。しかしながら、

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