• 検索結果がありません。

5 黄河沿岸地域における都市化及び問題点

5.2 都市化の位相

5.2.1 経済成長に伴う都市化の展開と特徴

①都市人口の拡大と都市化率の上昇

内モンゴルにおける最近 100 年ほどの都市化を振り返ってみると、中国全体と似てる 点もあれば、独特の点もある。

内モンゴル自治区が成立した 1947 年には、都市人口がわずか 68.4 万人、都市化率が 12.2%に過ぎなかった。1999 年西部大開発戦略の実行と 2001 年 WTO への加盟によって、

中国の少数民族地域の工業化と都市化が未曾有のスピードで推進されてきた。内モンゴル の一人当たり GDP が急成長し、2013 年には 67498 元に達し、1999 年の 5861 元の 11.5 倍 となっている。

図 5-2-1 同調する工業化と都市化 出所:筆者作成。

注:工業化率は GDP ベースで、都市化率は常住人口ベースで計算。

この 20 数年の間に、内モンゴルの都市化率は中国全体ずっと上回って推移している。

また、1947 年~1990 年の総人口の年間成長率は 3.2%であるのに対し、都市人口の年間 成長率は 5.8%に達した。1990 年代に入ってから、内モンゴルの都市化は急ピッチで進ん でおり、都市化率は、1991 年の 36.97%から年間約 1%のペースで 2013 年の 58.71%まで 成長してきた。その主な要因は、新興工業都市の建設と移民の流入である。近年、包頭、

オルドス、烏海、アラシャンを代表とする資源型都市の勃興は、黄河沿岸地域が豊富な資 源を保有し、都市化の発展に重要な物質的条件を提供する好条件が確保されている結果だ と言える。

25%

30%

35%

40%

45%

50%

55%

60%

65%

内モンゴル の工業化率 内モンゴル の都市化率 中国の 工業化率 中国の 都市化率

78

②各都市における都市人口の変化

各都市の都市人口の変化を考察する前に、まず総人口の変化を見てみよう。2000 年に 行われた第五回人口センサスと 2010 年の第六回人口センサスによれば(表 5-2-1)、西部 のフフホト、包頭、オルドス、烏海、アラシャン盟の常住人口はそれぞれ 17.58%、15.36%、

39.07%、22.53%、16.00%という大きな増加を示したが、内モンゴル東部の 5 盟市は 2.56%

減、計 28 万人も減少した。そして、西部においてもバヤンノールとウランチャブの人口 は 2.56%と 7.86%減少した。

地域 第五回人

口センサス

第六回人

口センサス 変動量 変動率

(%)

自治区全体 2375.54 2470.63 95.09 4 黄河沿岸 1080.51 1203.54 123 11.38 フフホト市 243.79 286.66 42.87 17.58 包頭市 229.74 265.04 35.29 15.36 オルドス市 139.54 194.07 54.52 39.07 烏海市 43.49 53.29 9.8 22.53 アラシャン盟 19.94 23.13 3.19 16 バヤンノール市 171.38 166.99 -4.39 -2.56 ウランチャブ市 232.63 214.36 -18.28 -7.86

表 5-2-1 経済格差による人口の流動(単位:万人)

出所:2000 年実施した『第 5 回全国人口センサス』と 2010 年の『第 6 回全国人口センサス』より整理。

都市 1990 年 2000 年 2010 年 都市化

率増分

都市人 口増分 都市人口 都市化率 都市人口 都市化率 都市人口 都市化率

フフホト 81 44% 112 54% 179.08 62% 18% 98.08 包頭 135.03 73% 154.81 76% 210.68 79% 6% 75.65 オルドス 21.51 18% 73.91 56% 134.93 69% 51% 113.42 烏海 26.41 92% 39.82 93% 50.27 94% 2% 23.86 アラシャン 9.44 59% 12.64 72% 17.22 74% 15% 7.78 バヤンノール 38.36 25% 63.24 37% 80.84 48% 23% 42.48 ウランチャブ 49.63 18% 88.21 33% 90.59 42% 24% 40.96

表 5-2-2 各都市の都市人口の変化 出所:『内モンゴル統計年鑑』、『中国城市統計年鑑』各年版より整理。

注:都市人口は城区と鎮区に住んでいる人口の数、単位は万人。1990 年、2000 年は戸籍人口ベースで計算。

2004 年から人口の統計基準は常住ベースに変更したから、2010 年は常住人口ベースで計算。

また、各都市における都市化にも激しい変化が起こっている。本来の重工業都市である 包頭、烏海、アラシャンを除き、フフホトやオルドスの都市化率がともに 60%台を上回 っているものの、バヤンノールやウランチャブはまだ 40%台にとどまり、中国全体や内 モンゴルの水準を下回っている。具体的に(表 5-2-2)、フフホト、バヤンノール、ウラン チャブ、オルドスなどの本来農業人口が多い都市では、都市人口の増分と都市化率の増分 両方が多い。一方、包頭、烏海、アラシャンのような旧来の工業都市では、都市人口の増 分は多いが、都市化率の増分は上述 4 都市ほど多くない。2004 年から統計基準が変わっ たことで、都市化率と都市人口の増分は過大評価または過小評価されることは避けられな いが、全体的に見れば、この間の都市化を牽引してきた主役はフフホト、包頭、オルドス という「金三角」都市であった。このような変化が発生する原因については、5.2.2 で考 察する。

79

③都市数量の増加と市街地面積40の拡張

人口面だけでなく、行政区画の変化や市街地面積の増大も急速な都市化の証明になって いる。

ここはまず内モンゴルの行政単位について説明しておく。そもそも盟(モンゴル語:ア イマク)は、清代にモンゴルを中心に施行された盟旗制に由来する行政単位の呼称で、盟 はアイマクに対する中国語の呼称である。内モンゴルにおいては民国期、人民政府期を通 じてこの呼称が使用され続け、現在に至っている。中国の現行制度では、盟は地区、旗(ホ ショー)は県に相当する。20 世紀末から 21 世紀初頭にかけ、経済発展のために、地方政 府に更なる権力を持たせ、盟の地級市への再編が進行している。このように(表 5-2-3 を 参照)、80 年代から黄河沿岸地域における地級の行政単位は 7 つと変わりがなかったが、

盟の数は大幅に減り、地級市の数が増えた。

級 行政区画 1980 1985 2000 2005

地級 盟 4 4 3 1

市 3 3 4 6

県級

区 13 13 14 16

市 1 3 3 1

県 15 13 12 12

旗 21 21 21 21

表 5-2-3 黄河沿岸地域における都市数の変化 出所:『内モンゴル統計年鑑』各年版より整理。

都市 2000 年 2005 年 2010 年 2013 年 倍数 年間増加率 フフホト 83.0 143.0 166.2 259.1 3.1 9.15%

包頭 149.4 177.6 183.5 186.0 1.2 1.70%

オルドス 16.0 66.8 112.6 112.6 7.0 16.19%

バヤンノール 18.7 31.0 38.0 52.0 2.8 8.18%

ウランチャブ 37.1 53.0 65.8 85.0 2.3 6.58%

烏海 55.8 55.8 62.9 62.9 1.1 0.93%

アラシャン 10 13 25.6 42.5 4.25 11.77%

合計 370.0 540.1 654.5 800.1 2.2 6.11%

表 5-2-4 黄河沿岸諸都市の市街地面積

出所:『内モンゴル統計年鑑』各年版より整理。2013 年バヤンノールのデータとアラシャン盟の全部のデータは 各年の「政府工作報告」による。

注:『中国城市統計年鑑』は、城鎮ではなく、地級市(及びその下の区)を統計対象としているため、公表した数 値は区の市街地面積である。上表では地級市が管轄する県・旗・県級市の市街地面積は含まれていない。単 位は km2

一方、県級行政単位は、区・市・県・旗に構成され、この 4 つの単位は行政的レベルが 同じであるが、区は地級市の直轄単位であるため、経済的には重要性が高いとみてよい。

下表を見ると、1980 年から、モンゴル族自治の象徴としての旗の数は行政的保護で変わ らなかったことを除き、県は県級市になり、また県級市は区に昇格する行政区画の変化が 分かる。都市間競争が激しい中国においては、城鎮の経済力や都市化水準がある程度に達 すれば、城鎮政府は都市イメージのアップや企業誘致のために、城鎮行政レベルの昇格を

40 中国語では「建成区面積」という。建成区とは、法律上の土地収用契約を締結する上、既に建設した 非農業生産用の区域。建成区は、都心部及び周囲に連なる部分と、都市の近郊に位置し、都市の機能に 密接する市政公用・公共用地からなる。

80

国務院に申請することができる制度または習慣がある。そこで、表 5-2-3 からみれば、区 の数は増えたため、当該地域の都市化が進んでいると言えよう。これは、経済学的に言え ば、もともと発展水準は高くなかった地区(いわば盟や旗)は、経済の規模でも質でも都 市レベル(いわば地級市や県級市と区)に達したことが認められたことを意味する。

一方、7 都市の市街地面積も急増している(表 5-2-4)。域内都市の合計面積は 370 ㎞² から 800 ㎞²と 2.2 倍に増えた。中に、オルドスは 7.0 倍、アラシャンは 4.25 倍、フフホ トは 3.1 倍と著しく拡大した。これは、2000 年以来の十数年間、石炭産業の勃興に伴う 不動産開発ブームによるものであり、農村人口の都市化の結果でもある。

④中国における黄河沿岸地域諸都市の存在

2014 年、中国政府は新しい都市規模区分基準41を公表した。この基準は、小・中・大・

特大都市の上に、超大都市を設置し、そして小都市と大都市をそれぞれ 2 種類と細分化し ている。これによって、黄河沿岸の 7 都市はすべて格下げされた(表 5-2-5 を参照)。

2014 年、黄河沿岸における都市(鎮を除く)の数は 8 カ所で、全国の 1.22%を占めて いる。これを尺度に具体的に見てみると、黄河沿岸地域にはⅠ型大都市以上の都市は存在 していない。そして、域内ではⅡ型大都市はフフホトと包頭 2 つ、中都市はオルドス 1 つ、

Ⅰ型小都市は烏海、バヤンノール、ウランチャブ 3 つ、Ⅱ型小都市はアラシャンと豊鎮 2 つとそれぞれ存在する。Ⅱ型大都市とその以上の都市の対全国比は 3.03%であり、上述 の 1.22%を上回っている。これは、黄河沿岸地域においては中核都市が存在しているこ とを意味する。しかし、中都市とその以下の都市の割合が 1%前後にとどまり、中小都市 の発展が相対的に遅れていることも見える。

これは、全国的に都市の規模が拡大している中、黄河沿岸における都市規模の拡張スピ ードは速いものの、都市レベルの評価基準の変化によって、その存在感が薄くなっている。

また、都市数の割合を基準に、フフホトと包頭などの大都市の比重(3.03%)が残る 6 つ の中小都市の比重(1.01%)を上回ることは、都市の規模からいえば、域内では大都市へ の集中や中小都市が相対的に少ないことを意味する。

1989 年基準 小都市 中都市 大都市 特大都市 ―

人口数 ~20 万 20‐50 万 50‐100 万 100 万~ ―

域内都市 2 3 1 2 ―

2014 年基準 Ⅱ型小都市 Ⅰ型小都市 中都市 Ⅱ型大都市 Ⅰ型大都市 特大都市 超大都市 人口数 ~20 万 20‐50 万 50‐100 万 100‐300 万 300‐500 万 500‐1000 万 1000 万~

域内都市 2 3 1 2 ― ― ―

全国の数 247 251 92 50 6 6 4

割合 0.81% 1.20% 1.09% 4.00% 0.00% 0.00% 0.00%

表 5-2-5 黄河沿岸諸都市の都市レベルの格付け

出所:『国務院関于調整城市規模劃分標準的通知』(2014 年)、『中華人民共和国城市規劃法』(1989 年)、『内 モンゴル統計年鑑 2013 年版』、『中国城市建設統計年鑑 2013 年版』より筆者整理。

注:城区の人口規模によって計算・比較。鎮区の人口は含まれていない。