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組織風土特性と組織の創造的能力―組織風土特性の補完性に関する探 索的分析―

Ⅰ.本章の課題

本章は、組織の構成員の創造性の発揮と組織としての創造的成果の実現を促進する組織 の在り方という本研究の課題について前章で示した分析課題 1 に取り組むものであり、諸 個人や集団、組織の創造性に影響を及ぼす要因としての「組織風土」の在り方という観点 から組織の創造的能力との関係を検討することを目的とする。組織風土は、組織における 諸個人の日常的な業務活動を取り巻く組織環境を形成し、諸個人の業務に対する態度や行 為を規定するという点で重要な組織デザインの要素であると考えられる。

第 2 章で検討したように、創造性の発揮や組織としての創造的成果を促進するような組 織風土特性として、すでに様々な特性とその作用について明らかにされてきている。そう した研究の蓄積を踏まえて本研究がまず課題とする論点は、そうした組織風土特性相互の 補完性とその効果という論点である。組織風土概念の定義に現れているように、組織風土 は組織内の諸個人の「総体的認識」として形成されるとすれば、組織風土特性の影響もそ うした「総体」すなわち様々な特性による一つのまとまりとして捉えられる必要があると 考えられる。それゆえ、先行研究で明らかにされてきた組織風土特性の個別的な作用のみ ならず、そうした特性の補完性からもたらされる複合的な効果あるいはそうした特性相互 の関係のパターンが及ぼす効果という点が明らかにされる必要があると考えられるのであ る。

また、先行研究においては、主に諸個人の内発的動機づけに対する作用という観点から 組織風土特性に対する分析が行われてきたが、本研究は内発的動機づけに作用する要因よ りむしろ、そうした内発的に動機づけられた諸個人の行為が他者との協働関係のなかでい かに方向づけられるのかという点に関する分析が必要であると考える。諸個人の創造性の 発揮を組織としての創造的成果へと結実させるためには、組織における諸個人の行為は内 発的に動機づけられるだけでなく、組織的行為として適切に方向づけられ、統合されなけ ればならない。こうした組織的行為への統合の成否は、組織において自己に対して何が期 待されているのか、他者に対して何を期待しうるのか、また組織内で何が是認されている のか、追求さるべき目的や成果は何かといった点についての諸個人の認識に少なからず依 存する。従って、本章では、こうした観点からいかなる組織風土特性が組織としての創造 性の発揮や創造的成果の実現を促進するのかが検討される。

本章では、まず分析を行う組織風土特性の変数の構成と操作化について検討し、そうし た風土特性が組織の創造的能力とどう関係しているかを確認する。そのうえで、組織風土 特性の補完的なパターンを探索的に分析し、そうした補完的なパターンの創造的能力に対 する作用を分析する。こうした分析を通じて、前章で提示した探索的仮説 1 が検証される ことになる。

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Ⅱ.組織風土特性変数の構成と操作化 1.組織風土概念

変数の構成と操作化に先立ち、まずは組織風土とはいかなるものであるのか、その概念 について改めて確認しておくこととする。第 2 章でも検討したように、組織風土概念につ いては次のような定義が与えられている。すなわち、「組織構成員、とりわけトップマネジ メントにおける行動や方針に起因する組織の内部的環境の相対的に持続的な性質」(Abbey and Dickson, 1983, 362)、「労働環境に関する諸個人の総体的認識(molar perceptions)」

(Schneider, 1975, 473)、「職場や社会的環境に対する諸個人の認識」(Mumford and Hunter,

2005, 26)、「方針(policies)や習慣的実践(practices)、手続きを含む、労働環境に対する共

有認識」(Alencar, 2012, 95)、「組織における生活を特徴づける行動、態度、感情の反復的な パターン」についての共有された認識(Isaksen, Lauer, Ekvall and Britz, 2000-2001, 172)とい った定義である。

こうした組織風土がいかなる機能を果たすのかという点について野中らは、組織風土は

「たんなる組織状況の個人内部への写像ではなく、個人と組織状況の相互作用によって個 人が状況に適応する際の準拠枠として個人が創造的に構成した要約的知覚」(野中他、1978、

165-166)であると指摘していた。

こうした野中らの指摘に基づけば、組織風土は組織における諸個人の業務上の行為や職 場での相互行為において準拠枠として機能すると考えられる。すなわち、組織における諸 個人は「イナクトされた環境」(Weick, 1979, 邦訳 1997、213)としての組織風土の認識を 拠り所として、単に内発的に動機づけられるだけでなく、組織における様々な事象を意味 づけ、そこでの自己の役割や期待される行為を理解するとともに自己がその組織や職場に おいて何を為し得て何を為し得ないかを理解し、そうした理解に基づいて行為すると考え られるのである。

2.組織風土特性変数

(1)変数の構成と操作化

さて、こうした組織風土の特性を把握するための変数の構成にあたっては、組織におけ る諸個人の行為の準拠枠となる組織風土が何によって形成されるのかについても確認して おく必要があろう。組織風土は諸個人の組織内環境や職場環境に対する総体的認識あるい はイナクトされた組織的現実であるとすれば、そうした総体的認識や組織的現実は何によ って構成されるのかという点が問題となる。この点に関してその定義から明らかであるの は、「トップマネジメントにおける行動や方針」、「方針、習慣的実践、手続き」、「行動、態 度、感情の反復的パターン」が組織風土の構成に関係しているということである20

20 野中らは組織過程を「継続的・相互依存的行為の連続」(野中他、1978、181)と捉えているが、組織風 土を構成する要因としてこうした組織過程として把握され得るような特性も含まれると考えられる。

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先行研究では、こうした組織風土特性として、「自律性、情報の流れ、創造性、報酬、訓 練」(Paolillo and Brown, 1978)、「リスクへの挑戦、暖かさ、相互支持、一体感、失敗への対 処、相互信頼感」(加護野、1984)、「挑戦的な仕事、組織的奨励、職場集団による支援、監 督者による奨励、組織的障害」(Amabile et al., 1996)、「相対的に広範な自由裁量、健全な参 加と自律性、長期的な時間軸に基づく成果の測定と人事評価、開かれたコミュニケーショ ン経路」(Cummings, 1965)といった特性が指摘されてきた。いずれも組織における方針、

実践、行動や態度、感情のパターンといった定義と整合的である。

こうした先行研究のうち、Amabile らの組織風土研究は最も知られたものの一つであり、

実践的にも広く活用されている研究であるが、すでに指摘しているように「創造性の内発 的動機づけ原理」をその理論的基礎に据えているために、そこでは専ら諸個人の内発的動 機づけを強化するという観点から組織風土特性の作用が明らかにされている。もちろん創 造的活動において諸個人の内発的動機づけが重要であることは言うまでもないが、諸個人 の創造性の発揮が組織としての創造的活動や創造的成果の実現へと結実するためには、そ うした諸個人が内発的に動機づけられているというだけでは必ずしも十分ではない。

組織としての創造的活動や創造的成果の実現には、内発的に動機づけられた諸個人が、

組織としての創造的成果の実現に向けて自らの創造性を発揮することが必要とされる。組 織としての創造的活動、組織としての創造的成果の実現に向けて、組織における諸個人の 行為は方向づけられなければならないと考えられる。

こうした観点から重要となるのは、諸個人の内発的動機づけに作用する要因としての組 織風土特性よりもむしろ、組織における自己の行為に対する要求や期待ならびに他者の行 為に対する要求や期待、組織において是認される行為、さらに追求さるべき組織の目的や 価値といった点に関する諸個人の認識であると考えられる。こうした点に関する認識が、

組織における諸個人が具体的な状況に際して、いかに行為するかを決するうえでの準拠枠 となると考えられるからである。上の組織風土の定義に基づけば、こうした準拠枠となる 認識の形成には組織における「方針や習慣的実践、手続き」、「行動や態度、感情の反復 的パターン」としての組織風土特性が関係すると考えられる。

従って、本章では先行研究の知見を踏まえ、組織における諸個人の行為を組織としての 創造的活動や創造的成果の実現に向けて方向付け、組織的行為へと統合するうえで重要で あると考えられる風土特性に注目し、次のような変数を構成し分析を行う。

①自律的イニシアティブ

創造的風土に関する先行研究においてしばしば自由や自律性の存在が創造性の発揮に積 極的に関与することは指摘されてきた。しかしながら、Amabileらの最終的な分析結果にお いては自由や自律性はあまり創造性に影響しないとされていた。ただ、そこで問題とされ ていたのは、内発的動機づけに関わる業務遂行上の自律性であり、Amabileらが分析対象と したプロジェクト単位の業務においてはそもそも業務遂行上の一定の自律性が存在すると