本章では、これまでの総括として各章の議論の内容と分析結果を要約し、本研究全体の 結論を提示する。その上で本研究の理論的貢献と実践的含意を明らかにし、最後に本研究 にとっての今後の課題を指摘する。
Ⅰ.本研究の結論
1.本研究の要約
まず、本研究の各章における議論の内容と分析結果を要約する。第 1 章では、本研究の 問題意識ならびに研究の目的が明らかにされ、それを踏まえて具体的な研究課題が提起さ れるとともに、本研究にとって適合的な研究方法の選択が検討された。ここで本研究の研 究課題は「組織における創造性の発揮と組織としての創造的成果の実現を促進する相互補 完的な組織の構成要素の組合せや関係のパターンの探求」として提示され、適合的な研究 方法としてサーベイを選択することが示された。
第 2 章では、組織における創造性研究の先行研究について、個人、集団、組織の各レベ ルの研究成果の蓄積を検討した。そのうえで、組織における創造性の発揮や組織としての 創造的成果の実現を促進する組織という論点に関して明らかにされてきた理論的・経験的 知見を以下のような命題として提示した。
表7-1 組織における創造性研究による理論的・経験的命題
命題
(1)諸個人の創造性発揮には、専門知識や創造的な認知様式といったスキルはもちろん重要であるが、
より重要となるのはむしろタスクに対する「内発的動機づけ」である。
(2)タスクに対する「内発的動機づけ」は職場環境に依存する。複雑で挑戦的な課題を内容とする職 務への従事、支持的で非統制的な監督スタイルによる管理は個人の内発的動機づけを高め、個人の創造 的成果を促進する。
(3)職場における集団としての創造性は集団における知的多様性の高まりによって促進されるが、集 団の規模が凝集性を維持し得ない規模に増大することによって阻害される。
(4)集団レベルの創造性に影響を与える重要な要因は職場の組織風土である。職場集団の創造性は、
自律性、挑戦的な仕事、組織的奨励(リスクへの挑戦)、職場集団による支援(相互支持、相互信頼感、
コミュニケーション)、監督者による奨励(失敗への対処)といった特性によって促進され、組織的障 害によって阻害される。
(5)創造的組織は、組織構造の柔軟性や権限構造の柔軟性、専門的な知識に基づく参加的な意思決定、
自由で開放的なコミュニケーション経路といった特徴を備える。
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(6)組織としての創造的成果やイノベーションは、非階層化、非公式化、分権化、専門化及び職能分 化、プロジェクトチーム編成といった構造特性、組織内における計画的・非計画的な部門間・階層間(特 に下位から上位への)コミュニケーションといったプロセス特性によって促進される。
(7)組織の様々な場所に遍在し、組織の計画や意図とは独立に創発的に発生する戦略的イニシアティ ブは組織のイノベーションや創造的成果の重要な源泉となる。特に自律的イニシアティブは不確実で変 動的な環境において組織の創造的適応を可能にする。
(8)組織としての創造的成果やイノベーションには、組織の構成員の創造的活動を奨励する企業や経 営者のヴィジョン、構成員と経営者の相互的な責任意識のもとに諸個人の創造的努力を引き出す「戦略 的意図」を設定する制度的リーダーシップが必要である。
(筆者作成)
こうした先行研究の成果から導かれる命題は、組織における創造性発揮と組織としての 創造的成果の実現を促進する組織デザインの各種の構成要素や充足すべき要件を提示して いるが、第 2 章ではこうした先行研究の限界についても明らかにされ、その上で新たな論 点が提起された。本研究が提起した新たな論点の内容は以下の通り要約される。
表7-2 先行研究の限界と本研究の提起する論点
先行研究の限界と本研究の提起する論点
(1)創造性を促進する職場環境特性や組織風土としてどのような要因や特性が促進的ないし阻害的作 用を及ぼすのかという点については明らかにされてきているが、先行研究はそうした要因や特性の創造 性や創造的成果に対する個別的な作用を解明するにとどまっている。創造的な組織の在り方という点で は、職場環境特性あるいは組織風土特性についても、先行研究が明らかにしたような各要因や特性の個 別的な作用のみならず、そうした要因の複合的な効果あるいはそうした特性相互の関係のパターンが及 ぼす効果という点が明らかにされる必要がある。
(2)先行研究においては、組織における創造性を促進する組織風土特性として内発的動機づけに作用 する要因に重点が置かれてきたが、組織としての創造性の発揮や創造的成果の実現という点では、諸個 人の行為は内発的に動機づけられるだけでなく、組織的行為として適切に方向づけられ、統合されなけ ればならない。自己に対して何が期待されているのか、他者に対して何を期待しうるのか、また組織内 で何が是認され、追求さるべき目的や成果は何かといった点についての認識が、諸個人が組織における 協働関係においてどう行為するかを具体的に方向付ける。こうした観点からいかなる組織風土特性が組 織としての創造性の発揮や創造的成果の実現を促進するのかが問われなければならない。
(3)組織としての創造的成果やイノベーションを促進する組織の構造的特性や組織プロセス特性に関 する研究は各種の構造的特性やプロセス特性の個別的な作用の解明に留まっており、そうした特性が組 織を構成する相互依存的なシステムの部分としていかなる相互関係にあり、そうした相互関係が全体と してのシステムの機能にどのように作用するのかは明らかにされていない。組織としての創造性発揮と 創造的成果の実現を促進するような組織をいかにデザインするかという問題については、先行研究が明 らかにしてきた各種特性の個別的作用に関する知見のみならず、そうした個別的な作用を伴う特性を一 つのシステムとしていかに総合するのかに関する知見が必要となる。
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(4)ミンツバーグの革新的コンフィギュレーションは創造的成果やイノベーションを創出する組織が システムとしていかに機能するのかを明らかにするものであるが、そこにいかなる論理が存在するのか という点について経験的検証に堪えうる説明は十分なされていない。この点について要素や特性の間の
「補完性」という概念が重要な分析の手がかりとなる。
(5)組織における創造性に関する一連の経験的な研究において、従属変数となる創造的成果は活動の 結果として客観的に測定し得る尺度が専ら用いられてきた。ただ、活動の結果として客観的に測定し得 る成果を創造性の発揮や創造的活動の従属変数として設定することは、そうした客観的な成果につなが らない活動や行為の作用を十分把握できなかったり、低く評価したりすることになる。しかしながら、
創造的活動が本質的に不確実性や偶然性を多分に伴う活動であるとすれば、活動の結果に対する有効性 は事前には予測不可能であり、それゆえ試行錯誤的行動が重要となるし、失敗を重ねても諦めない精神 態度が必要となる。活動の結果として客観的に測定し得る成果のみを従属変数として設定することは、
こうした試行錯誤的行動の重要性を十分把握することができない。従って、組織レベルの分析において も、具体的な創造的成果のみならず、そうした成果に至るプロセスとしての創造性の発揮を把握し得る ような分析が必要となる。
(筆者作成)
第 3 章では、コンティンジェンシー理論、コンフィギュレーション理論、補完性理論と いった組織デザイン研究の展開を概観し、それぞれの貢献と課題を検討することで、本研 究の課題にとって組織デザインの補完性理論が有効な分析視角と方法を提供するものであ ることを確認した。さらに、補完性理論に基づいて研究を進めるうえで、分析上の重要な 方法論的課題となるのは、いかなる組織特性や施策の間に相互補完的関係が存在するのか という補完的システムの特定と、そうした特性や施策の相互補完性がもたらす「システム 効果」の把握である。そこで本章では、こうした補完性理論の主要な研究として、Ichniowski らの研究、WhittingtonとPettigrewらの研究、さらにLaursenとFossの研究を検討し、そう した研究が上記の課題にどのような方法を用いて取り組んできたのかを概観し、その有効 性や課題を検討した。
いずれの研究においても補完性のシステム効果の検証は回帰分析を用いて、補完的シス テム変数と個別変数の従属変数に対する影響の大きさを比較することで、補完性のシステ ム効果の検証を行っていたが、相互補完的なシステムの特定ならびにシステム変数の構成 の方法であった。補完性の分析には成分合成的であると同時に成分分解的なアプローチが 必要となるが、本研究においても第 3 章で検討したそれぞれの方法を探索的に用いていく ことが現実的であると判断された。
第 4章では、第2章ならびに第3 章の議論を踏まえて、本研究の研究課題に取り組む上 での具体的な分析課題が設定され、そうした分析課題の経験的検証のための調査設計及び 調査の概要、さらにそれに伴う方法的問題やバイアスの存在について検討された。
また、第 4 章では、以降の分析における従属変数の構成が検討され、具体的な創造的成 果に向けた取り組みや努力が組織としてどの程度なされているのかを問うことを通じて組