Ⅰ.本章の課題
本研究の課題は、諸個人の創造性の発揮と組織としての創造的成果を促進する組織のあ り方を探求するところにある。「組織のあり方」といった表現はある時点においての組織 の状況や実態を意味するが、組織が自然によって形成されるものではなく、自由な人格と 意思を備えた諸個人の相互作用によって構成されるものであるとすれば、組織の「あり方」
とは、自然現象のように単にそのようにあるのではなく、人為の結果としての「あり方」
として理解されなくてはならない。
本研究が探求しようとする組織の「あり方」とは、こうした人為の結果としての組織の
「あり方」に他ならない。こうした人為による構成物のあり方を探求するという課題は必 然的にそれをどのように構成するか、いかにつくるのかという問題を含意する。したがっ て、組織の「あり方」の問題は「組織づくり」の問題として考えることができるのである。
本研究は、こうした「組織づくり」を組織デザインの問題として捉える。
前章で検討したように、組織における創造性研究の研究成果から、諸個人の創造性発揮 を促進し組織としての創造的成果を実現するためにいかなる特性や要因が重要となるのか について、すでに本研究は多くの知見を獲得している。しかしながら、そうした知見は個 別の要件や命題の提示にとどまっており、それゆえ全体としての組織をどうつくるのかと いう点に関する総合の指針や論理の解明が必要となると考えられる。
本研究は、創造性の発揮と組織としての創造的成果を促進する組織づくりに関するこう した総合の指針や論理の解明が、組織デザインにおける「補完性」という視点からこれを 検討することで可能になると考えている。従って、組織デザインにおける補完性という視 点は本研究の基本的な分析視角を提供することとなる。
本章では、組織研究における組織デザイン研究の展開をごく簡潔に概観し、その上で組 織デザインの「補完性」研究という視点の意義と有効性を検討し、こうした補完性研究の 視点に基づいて本研究の研究課題を定式化する。さらに、補完性という視点から行われた 経験的研究を検討し、組織デザインの補完性の経験的分析のための方法を検討する。
Ⅱ.組織デザイン研究の展開と補完性
1.コンティンジェンシー理論の理論志向と課題
組織とは、すでに指摘したように人為的な構成物である。それゆえ、そうした人為の背 景には、人間の意図ないし目的の存在が想定される。すなわち、企業のみならず組織はそ の固有の組織的目的の実現に向けて編成される「手段的組織」(Thompson, 1967, 邦訳1987、
ii)であり、「人間のエネルギーを動員し所定の目的に向けてそれらを方向付けるための技 術的手段」(Selznick, 1957, 5)である。こうした観点からすれば、組織をいかに構成するか、
組織をどのようにつくりあげるかという問題においてまず考慮されるべきは、目的達成と
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の関係においてその組織が有効であるかどうかという点である。すなわち組織の手段とし ての有効性が問題となる。
組織をいかに構成するか、組織をどのようにつくりあげるかという問題は、組織研究に おいては組織設計あるいは組織デザインの問題として捉えられてきた(Pfeffer, 1978;
Mintzberg, 1979, 1983; 沼上、2004)。組織デザインとは、組織目的達成のために組織におけ
る諸個人の協働行為の効果的な調整と組織化を実現することであり、第一義的には組織の 目的達成のための活動の分業とそうした活動の時間的・空間的調整のパターンを形成する ことであると考えることができる。
組織デザイン研究の学説史的展開を詳細に検討することは本研究の課題ではないが、組 織研究の展開において、組織目的の達成に関する組織の有効性という論点について数多の 知見を蓄積してきたのは、一連のコンティンジェンシー理論の研究であったといってよい
(野中他、1978; 加護野、1980; 岸田、1985; 2000)。加護野は「経営組織の設計ならびに運 営のための理論的指針の確立という・・・研究目的にとって、コンティンジェンシー理論はき わめて強力かつ有益な出発点となりうる」(加護野、1980、7)と指摘している。
本研究の問題関心は、創造性の発揮や創造的成果の実現を促進しうる組織デザインにあ るが、これを加護野に倣って表現すれば、創造的な組織デザインの設計や運営のための理 論的指針の解明ということになろう。本研究はこうした理論的指針の解明の糸口を組織デ ザインの「補完性」という概念に求めようとするものである。組織デザインの補完性研究 はコンフィギュレーション研究とともに、コンティンジェンシー理論にその起源を持ち、
コンティンジェンシーならびにコンフィギュレーション理論の課題を批判的に克服せんと するなかで固有の理論的視座と方法を発展させてきているが(Fenton and Pettigrew, 2000)、 そうした発展の過程に本研究は「糸口」としての可能性を見出すものである。ここでは、
本研究が補完性研究にこうした可能性を見出す根拠を明らかにするために、これに関係す る限りにおいてコンティンジェンシー理論の理論的志向とその課題について検討する。こ うした本研究の目的にとって加護野(1980)は極めて有用かつ示唆的な議論を展開してい る。
組織理論としてのコンティンジェンシー理論について、加護野は「明確な正統学説
(orthodoxy)をもつ理論ではない」として、「コンティンジェンシー理論は、明確な分析パ ラダイムを事前に意識することなく相互に独立に展開されてきた組織の実証的研究を通じ て生みだされてきたもの」であると指摘している(加護野、1980、7)。そこで加護野は、
コンティンジェンシー理論の代表的な実証研究に見られる「典型的な理論構造を探求する こと」(加護野、1980、7)から、いわば帰納的に「コンティンジェンシー理論のものの見 方」(加護野、1980、23)を明らかにしている。
加護野は、コンティンジェンシー理論は「完全な理論」というよりはむしろ「理論志向」
として捉えるほうが適切であると指摘し、「理論志向としてのコンティンジェンシー理論に 固有の一般変数と鍵概念」を整理している(加護野、1980、24)。
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まず、コンティンジェンシー理論に固有の変数として、第1に、「環境、技術、規模など の組織をとりまく状況の特性を示す変数」であり、「状況変数あるいはコンティンジェンシ ー変数」と呼ばれる変数である。第2に、「組織の構造、管理システム、形態、組織過程な どの組織の内部特性を示す変数」であり、「組織特性変数」と呼ばれる。さらに第3の変数 として、「組織のパーフォーマンス、有効性、機能を示す変数」であり、これは「成果変数」
と呼ばれる変数である(加護野、1980、24-25)。
加護野によれば、コンティンジェンシー理論においては、理論を構成するこうした固有 の3種の変数の関係は、「適合(fit)」あるいは「調和(congruence; consonance)」の概念で 説明される。こうした「適合」あるいは「調和」の概念がコンティンジェンシー理論の「基 本的なアイデア」であり「鍵概念」である(加護野、1980、25)。ここから加護野は、「状 況、組織特性、組織成果という 3 種類の固有変数と、その間の関係に関して、状況と組織 特性の適合が成果を決定するという基本的なアイデアをもち、それをもとに状況と組織特 性の間の適合的な関係を具体的・操作的に特定化していこうとする理論志向をコンティン ジェンシー理論と呼びうる」と指摘している(加護野、1980、27)。
加護野が指摘するように、こうしたコンティンジェンシー理論の基本的な理論仮説は同 時に、より高い成果を追求しようとするならば組織特性は状況変数と適合的あるいは調和 するように決定されなければならないという実践的含意を有する(加護野、1980、25)。コ ンティンジェンシー理論が組織デザインの有効性という論点に関して数多くの研究成果を 蓄積するにいたったのは、その基本的な理論仮説がこうした実践的含意を有していたとい うこととも関係していると考えられる。
しかしながら、その一方でコンティンジェンシー理論は固有の理論的課題やその理論志 向による限界を有する。この点についても加護野は詳細に検討している。
第一に、加護野によれば、コンティンジェンシー理論は「状況と組織特性との適合が組 織成果を決定するという基本認識を共有」し「組織特性と状況との間の適合的関係につい ての経験的命題の確立」を志向するものの、そうして発見された「さまざまな命題がなぜ 成立するのかを、この基本認識から説明することは不可能であるという欠点」を有する(加 護野、1980、47)。すなわち、ある状況においてある組織特性がなぜ適合するのかを説明す るための論理が欠如しているか、説明し得たとしても個別的な解釈や説明にとどまってし まうのである。
それゆえ、加護野は「コンティンジェンシー理論が理論として完全化されていくために は、個々の経験的命題が成立する理由を、体系的に説明していくための命題体系が構築さ れなければならない。それによって、コンティンジェンシー理論は理論志向の段階から分 析パラダイムの段階にまで高められる」として、理論発展における課題を指摘している(加 護野、1980、48)。
ただ、こうした加護野の指摘する課題は、コンティンジェンシー理論のみならず、さま ざまな理論が理論構築の過程で直面する課題であるとも考えられる。本研究が分析の枠組