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分析課題の設定と調査の概要

Ⅰ.本章の課題

前章で述べたように、本研究の研究課題は、諸個人の創造性の発揮と組織としての創造 的成果を促進する組織デザインの探求である。本研究は組織デザインにおける補完性とい う視点を基本的な分析視角としてこうした研究課題に取り組むものであり、そこから本研 究の研究課題は諸個人の創造性の発揮や組織としての創造的成果の実現に資する組織特性 の補完的な組み合わせやシステムの特定とその効果の検証という課題として定式化される。

また、第 2 章では、組織における創造性に関する先行研究を検討し、そうした先行研究 の知見を確認するとともにその限界を指摘し、本研究の観点から新たに提起される論点を 明らかにした。

本章では、こうした第 2 章ならびに前章までの議論を踏まえて、本研究における具体的 な分析課題を設定し、そうした分析課題の経験的検証のための調査設計及び調査の概要に ついて明らかにし、そのうえで本研究の探索的仮説を提示する。

Ⅱ.本研究の分析課題

1.組織風土特性と組織の創造的能力

諸個人の創造性の発揮と組織としての創造的成果を促進する組織デザインの探求という 本研究の問題設定にとって、第一の分析課題として提起される論点は、組織における創造 性研究において職場環境特性あるいは組織風土として論じられてきた論点である。創造的 な組織の在り方を考えるとき、組織における諸個人の日常的な業務活動を含む組織内生活 がどのような環境において営まれるかという点は極めて重要な問題である。

組織における創造性研究において明らかにされてきたように、組織としての創造的成果 の実現には、内発的に動機づけられた個人による創意の発揮が根源的に重要である。しか しながら、AmabileらやCummingsが明らかにしているように、そうした諸個人の相違が組 織としての創造的成果として結実するか否かは、そうした諸個人を取り巻く組織内の環境 の在り方に依存すると考えられる。強く内発的に動機づけられた、熱意溢れる個人の創意 が時には組織によっていとも容易く挫かれ得るということ、ともすればそうした熱意溢れ る個人ほど抑圧や排除の対象ともなることはしばしば知られているところである。

下川は、日本経済と日本企業が「失われた十年」を乗り越えグローバル化に有効に対応 し得るためには「ダイナミックな戦略構築能力」が不可欠であるとして、日本においては こうした戦略構築能力は天才的経営者個人によるのではなく、「ボトムアップでも集団的 英知を結集する企業風土を創造していくなかで、このような戦略構築能力を創り出すこと は十分可能である」と指摘する(下川、2006、9-10)。本研究の問題関心に引き寄せて考え るならば、下川が指摘する「創造的競争力」の創出という点においても、熱意溢れる諸個 人の創意を促し、組織としての創造的成果に結実させる職場環境ないし組織風土が形成さ

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第 2 章で検討したように、創造性の発揮や組織としての創造的成果を促進するような組 織風土特性という点ではすでに多くの知見の蓄積がある。そうした知見の蓄積を踏まえて なお本研究が提起する論点は、こうした組織風土特性の補完性という論点である。先行研 究では、組織における創造性の発揮や創造的成果の実現を促進する組織風土特性について、

相当程度明らかにされてきているものの、そうした風土特性の個別的な作用を解明するに とどまっている。

しかしながら、個別の組織風土特性は、組織内環境を形成する一つの特性ではあるもの のその一部分であり、組織内環境が組織における諸個人に対していかに作用するのかは、

個別の風土特性の作用によって説明し尽くされるものではないと考えられる。

組織における諸個人は、自己の組織内生活を形づくる職場や組織を様々な要因や特性の 複合的な総体として認識し、そうした認識が諸個人にとっての組織内環境としての「組織 の在り方」を形作るものと考えられる。それゆえ現実の職場や組織において様々な組織風 土特性は諸個人の行為や意識に対して個別独立に作用するというよりも、相互に関係し影 響を及ぼし合いながら複合的に作用すると考えられる。したがって創造的な組織風土とい う点についても、そうした組織風土特性の個別的な作用のみならず、それらの複合的な効 果あるいはそうした特性相互の関係のパターンが及ぼす効果という点が明らかにされる必 要がある。

組織風土特性のこうした複合的効果や特性相互の関係のパターンが及ぼす効果について、

本研究は補完性研究の分析視角によることで明らかにし得ると考えている。個々の組織風 土特性は相互に作用し合い複合的な総体としての組織風土を形成すると考えられるが、こ うした総体として形成される組織風土の効果を風土特性の補完性による作用として把握す ることで、これが創造性の発揮や創造的成果の実現に対していかなる効果を及ぼすのかを 明らかにし得ると考えられる。

さらに、先行研究では創造性や創造的成果を促進する組織風土特性として主に内発的動 機づけに作用する要因に対して焦点が当てられてきたが、本研究は内発的動機づけに作用 する要因よりむしろ、そうした内発的に動機づけられた諸個人の行為が他者との協働関係 のなかでいかに方向づけられるのかという点に焦点を当てる必要があると考える。組織に おける諸個人の行為は内発的に動機づけられるだけでなく、組織的行為として適切に方向 づけられ、統合されなければならない。組織において自己に対して何が期待されているの か、他者に対して何を期待しうるのか、また組織内で何が是認されているのか、追求さる べき目的や成果は何かといった点についての諸個人の認識が、組織における諸個人の行為 を具体的に方向付ける。従って、こうした観点からいかなる組織風土特性が組織としての 創造性の発揮や創造的成果の実現を促進するのかが、問われなければならない。

これらの点が明らかにされることによって、創造的な組織風土をいかに形成していく必 要があるのか、いかなる組織特性が重要となるのか、という実践的含意を伴う課題につい

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て、何らかの示唆を得ることができると期待される。

以上の議論から、本研究の第一の分析課題は次のように記述できる。

分析課題1:組織における創造性の発揮や組織としての創造的成果の実現を促進する組織 風土特性に関する、相互補完的な組み合わせや関係のパターンの特定とそれらによる補完 性効果の検証。

2.組織の構造的・プロセス特性と創造的能力

組織の構造的特性及びプロセス特性は、第 2 章でも確認したように組織レベルの創造性 研究における中心的な論点となってきた。組織構造及び組織プロセスは、組織における目 的達成のための活動の分業とそうした活動の時間的・空間的調整のパターンを形成し、日 常的な業務において創意を発揮し創造的活動を担う諸個人の協働行為がどのように調整さ れ組織化されるのかを規定することで、組織として創造性の発揮や組織としての創造的成 果の実現に対して影響を及ぼすと考えられる。

従って、本研究にとっても組織の構造的特性ならびにプロセス特性と組織の創造性発揮 や組織的成果の実現との関係が改めて重要な論点となる。組織における創造性研究におい ても組織の創造的成果に資する組織の構造的特性ならびにプロセス特性について明らかに されてきているが、そうした研究の多くは基本的な研究志向として要素還元主義的であり、

その成果は各種の構造的特性やプロセス特性の個別的な作用の解明に留まっているといわ ざるを得ない。

それゆえ、先行研究においては組織の様々な構造的特性やプロセス特性が総体としての 組織を構成する相互依存的なシステムの一部分として他といかなる相互関係にあり、そう した相互関係が全体としてのシステムの機能にどのように作用するのか、という点につい ては必ずしも明らかにされていない。しかしながら、組織としての創造性発揮と創造的成 果の実現を促進するような組織をいかにデザインするかという問題にとっては、先行研究 が明らかにしてきた各種特性の個別的作用に関する知見のみならず、そうした個別的な作 用を伴う特性を一つのシステムとしていかに総合するのかに関する知見が必要となる。本 研究はこの点についても補完性研究が有効な分析視角となると考える。

さらに、組織の構造的特性及びプロセス特性の相互補完性の分析については、第 3 章で 検討したように、WhittingtonとPettigrewらによる革新的組織化形態の補完性研究が一つの 重要な分析枠組みを提供している。後程、章を改めて検討するが、Whittington と Pettigrew らの革新的組織化形態の次元構成と組織における創造性研究において論じられてきた創造 性に資する構造的及びプロセス特性との間は共通する特性が少なからず存在する。

WhittingtonとPettigrewらは、革新的な組織化形態の採用が現代の企業に要請される背景

にはグローバル化と並んで知識経済化や知識企業化という経営環境の変化があり、これら の変化が革新的組織化の一つの論理を形成していると指摘している(Pettigrew and Fenton, 2000, 7; Pettigrew and Massini, 2003, 8)。本研究の冒頭、第1章で確認したように、グローバ