第 3 章 ソフトウェア開発能力向上支援へのサービスアプローチの適用
3.4 組織マネジメントに着目した組織特性
3.4.1 ソフトウェア開発組織の特徴パラメータの抽出
図3.3で示したサービスアプローチに基づくソフトウェア開発能力向上の支援活 動を見ると、これまで SEPG のスキルや経験に依存すると言われてきた曖昧な活 動とは、対象組織の特徴を理解し、それをその後の支援活動に生かす、という活動 であると理解できる。すなわち、開発能力向上支援活動初期のステップにおいて、
対象組織の特徴を理解するための活動を明確に記述した活動モデルが必要であり、
この部分が、SEPGとソフトウェア開発組織が開発能力向上という価値共創に向け
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て行うべき活動において、IDEAL モデルで欠如している活動と言える。しかしな がら、(1)対象組織の特徴の理解をどのように行うのか?(2)対象組織の特徴に 応じた支援サービスの内容と提供の方法、の2点に関して、依然として曖昧な点が 残っている。
そこで、サービスアプローチに基づくソフトウェア開発能力向上の支援活動をよ り具体的にするために、
開始フェーズ、診断フェーズの活動と並行して明らかにすべき組織の特徴を 表すパラメータとはどのようなものか?
組織の特徴にあった支援サービスの内容と提供方法とはどのようなもの か?
について、明らかにしていく。
本節では、まず、支援活動に大きく影響を及ぼす「組織の特性」に関する分析方 法について検討する。
対象組織の特性は、ソフトウェア開発能力向上の支援活動において、支援活動が 組織特性とどう関係するかに基づいて分類すべきである。なぜなら、分類した組織 特性によって支援活動が決定されるからである。そこで、ソフトウェア開発能力向 上の基本的な活動の進め方であるIDEALモデルにおける4つのフェーズ、開始フ ェーズから診断、確立、活動フェーズの活動内容を分析するすることによって、対 象組織を特徴づけるパラメータを抽出することにした。以下、各フェーズの活動と 組織特性に関する分析である。
(1) 開始フェーズの活動分析
開始フェーズは、能力向上の必要性を組織レベルで認識し、活動実施に向けたコ ミットメントを組織レベルで得るフェーズである。従って、組織のどこかで特定さ れた問題を組織レベルで取り上げ、取り組むべき課題に変化させる活動が行われる。
つまり、組織の中では、組織の「問題認識プロセス」と問題であることを合意する
「合意形成プロセス」が実施されるわけである。さらに、課題解決後のあるべき姿 の検討も、多くの場合平行して実施される。そこでも組織の主な関係者による合意 が必要であることから、組織の「合意形成プロセス」が実行される。また、あるべ き姿の検討の過程においては、その組織が何に重きを置くか、つまり「重きを置く 価値」が大きく影響する。さらに、これらの組織プロセスが実施される際には、現 在および将来のビジネス環境と現状の組織能力が、重要な入力情報となる。現在の ビジネス環境についての情報は、対象組織が開発能力向上活動にあてることのでき るリソースや予算の規模、時間的な余裕度を把握するのに役立つ。また、将来のビ ジネス環境を予測することで対象組織の将来のあるべき姿を描き、現状の組織能力
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と比べることで不足している、あるいは新たに組織が持つべき能力の特定を行うこ とができる。
これらから、開始フェーズにおいては、ビジネス環境及びその時点での組織能力 が入力情報となり、「組織の問題認識プロセス」、「合意形成プロセス」が実行され、
その実行の際には「組織が重きを置く価値」が影響することがわかる。
(2) 診断フェーズの活動分析
診断フェーズでは、現状のソフトウェア開発能力が評価され、高めるべき能力を 明らかし、それらについて組織レベルで合意する。従って、組織としての「意思決 定プロセス」と決定された内容についての「合意形成プロセス」が実行されること になる。これらの組織プロセスが実施される際には、現状の組織能力と、将来のビ ジネス状況から導き出した、将来必要となるであろう能力レベルが重要な入力とな る。
(3) 確立フェーズの活動分析
確立フェーズでは、診断フェーズで特定した改善対象領域の目標を定め、それを 実現するための活動戦略を立案し、それに基づき活動計画を策定する。活動戦略と は、最終的な目標、すなわち組織の事業目標などと関連づけられるような能力向上 目標を達成するための活動方針である。具体的には、それぞれの短期的な活動の遂 行や結果が、組織の中でどのような影響を及ぼすかを事前に考慮し、支援活動の計 画・遂行における調整活動の方針を策定することを意味する。従って、活動戦略に 関する組織レベルでの「意思決定」と「合意」を行うことが必要となる。また、活 動戦略の内容に関しては、その組織の「変化への柔軟性」や「重要と考える価値」
などを考慮する必要がある。「重要と考える価値」は、チャレンジすることに前向 きな組織の場合は、一気に大きな変化を起こしても許容されやすいが、安定に価値 をおく組織の場合は、小さな変化を積み重ねていくことが必要となる。「変化への 柔軟性」についても同様である。さらに組織の規模と構成、組織の安定度も重要な 入力情報となる。組織の規模と構成については、組織内への展開方針を検討する際 に、組織の安定度は活動方針の安定度に大きく影響するため、それらを踏まえた活 動戦略および活動計画とする必要があるからである。また、その組織の過去の経験 も、戦略検討においては貴重な情報である。過去に支援活動を実施した際、うまく いったあるいは失敗した戦略や活動を踏まえ、成功する可能性のより高い戦略を選 ぶことで、成果に結びつく可能性が高まるからである。
活動戦略に基づき策定する計画策定においても、組織の人員配置や活動予算に関 係する判断において、組織の「意思決定プロセス」と「合意形成プロセス」が実行
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される。
これらから、確立フェーズでは組織の「変化への柔軟性」や「重要と考える価値」
などを考慮しながら、組織の規模、構成、安定度、過去の経験を重要な入力情報と して、「意志決定プロセス」「合意形成プロセス」が実行されることがわかる。
(4) 活動フェーズの活動分析
活動フェーズは、確立フェーズで立案、策定した活動計画を実践するフェーズで ある。このフェーズでは、活動の節目および終了時にレビューを行い、次の活動を 検討するための情報を得る活動が行われていく。これらの活動においても、組織の
「意思決定プロセス」および「合意形成プロセス」が実行される。
以上に述べたIDEALモデルの開始フェーズ、診断フェーズ、確立フェーズ、活 動フェーズの分析結果から、以下の組織特性が ソフトウェア開発能力向上の支援 活動を進める際、大きく影響を及ぼすことが明らかとなった。
組織の行動特性を示す、組織の問題認識、意志決定、合意形成の3つのプロセ ス
重きを置く価値、変化への柔軟性の2つの要素
組織の規模と構成
組織の安定度
過去の開発能力向上支援活動に関する経験
ビジネス環境
組織能力のレベル
従って、図3.3で示した「サービスアプローチに基づくソフトウェア開発能力向 上の支援活動の進め方」において、開始、診断フェーズと並行して実行すべき「対 象組織の情報を収集し、組織特徴を理解する」とは、上記の組織の行動特性を示す 3つのプロセス、価値と柔軟性に関する2つの組織要素、現状の組織に関する5つ 情報、の合計 10 個のパラメータに関する組織の情報を収集し、組織を理解するこ とであると言える。
さらに、これら10個のソフトウェア開発組織の特徴パラメータを見てみると、
表3.1に示すように、大きく3つに分類することができる。その 3つとは、「組織 の置かれた環境」を特徴づける要素と、「組織の状態」を特徴づける要素、組織の基 本的な考え方に基づく運営様式、つまり「組織のマネジメント特性」を特徴づける 要素である。
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表 3.1 ソフトウェア開発組織の特徴パラメータ 組織の置かれた環境を特徴づける要素
組織の規模と構成
組織の安定度(組織の構成変更やメンバーの変更度合) 組織を取り巻くビジネス環境
組織の状況を特徴づける要素
組織能力(強み/弱み、開発プロセス能力など) 過去の経験(改善活動経験など)
組織のマネジメント特性を特徴づける要素
重要視する価値(確実な成果/チャレンジ、集団/個人など) 変化に対する柔軟性
問題認識プロセス 意志決定プロセス 合意形成プロセス
対象組織の「環境」や「状況」を特徴づける要素は、さまざまな要因で都度変化 するものである。従って、開発能力向上支援活動開始時および活動期間中は継続的 に情報収集し、支援活動の戦略や計画に反映させる必要がある。それに対し、組織 のマネジメント特性を特徴づける要素は、その対象組織固有の価値基準や性質を表 すものであり、短期間では変化しにくいものである。このことから、マネジメント 特性を特徴づける要素によって支援活動の特徴や活動戦略が導き出され、さらにそ れに応じた SEPG による基本的な支援サービスの内容とその提供方法が導出できる はずである。
従って、このマネジメント特性を特徴づける要素に着目し、ソフトウェア開発組 織をいくつかのパターンに分類し定義できれば、各組織パターンごとの支援活動の 特徴、それぞれの組織に適した支援サービスの内容とその提供方法をあらかじめ想 定できるはずであり、SEPG による支援サービスの特定とその提供方法の有効な指 針となりえる。
3.4.2 組織マネジメントに着目した 4 つの組織特性
ソフトウェア開発組織に対する支援サービスを組織のマネジメント特性に応じ て最適化するために、Constantine(1993)の開発組織のマネジメントパラダイムを 参照し、ソフトウェア開発組織のマネジメント特性に着目して、特徴的な4つの組 織特性を定義する。