第 5 章 まとめ
5.2 リサーチクエスチョンへの回答
本節では、過去の事例を用いて行った SSSM モデルの評価から導き出された発 見事項を整理する。まず、序論において示した以下の3つのサブシディアリー・リ サーチ・クエスチョンと本論文全体を通じた大きな問いであるメジャー・リサーチ・
クエスチョンにこたえる形で発見事項をまとめる。
MRQ:支援サービス提供者の、ソフトウェア開発組織の能力向上に対する支援 はいかにあるべきか?
SRQ1:ソフトウェア開発組織の能力向上活動に影響を与える組織特性とは何 か?
SRQ2:ソフトウェア開発組織の特性は、どのように支援サービスの提供プロセ スに反映するのか?
SRQ3:組織特性は、どのように判定するか?
5.2.1 SRQ1 の答え
SRQ1:ソフトウェア開発組織の能力向上活動に影響を与える組織特性とは何 か?
これまで、ソフトウェア開発能力の向上に向けた支援活動の方法論としては、
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ソフトウェアエンジニアリングで議論されてきた代表的な活動モデルとして、
IDEALモデルが上げられる。IDEALモデルでは、開始、診断、確立、活動、学
習といった5つのフェーズを用いて、ソフトウェア開発組織の能力向上に向けた 活動とそのステップ、推進体制の例などを示している。
従って、ソフトウェア開発組織の能力向上活動に影響を与える組織特性は、この
IDEAL モデルの各フェーズに示されている活動を分析することにより明らかにで
きる。ソフトウェア開発組織の能力向上を目指した実質的な活動は、開始、診断、
確立、活動の4つのフェーズで実施されることから、この4つのフェーズで示され ている活動を分析した。
開始フェーズでは、能力向上の必要性を組織レベルで認識し、活動実施に向けた コミットメントを組織レベルで得る。従って、このフェーズにおいては、組織の問 題認識プロセス、合意形成プロセスが実施され、そのプロセスが実施される際には、
その組織の「重きを置く価値」、「ビジネス環境」「現状の組織能力」が重要な入力情 報となる。診断フェーズでは、現状の組織能力を診断し、能力向上が必要な領域の 特定を行う。従って、合意形成、意思決定プロセスが実施され、この段階でも、「ビ ジネス環境」「現状の組織能力」が重要な入力となる。確立フェーズでは、能力向上 目標を決定し、それに到達するための戦略、計画を策定する。そのため、合意形成、
意思決定プロセスが実施され、そのために「変化への柔軟性」や、「重要と考える価 値」、「組織の規模と構成」、「組織の安定度」、「過去の経験」が重要な入力となる。
活動フェーズにおいては、計画に従って活動を進めていく。従って、その進捗を確 認し、必要に応じて是正処置を行うことから、組織の合意形成、意思決定プロセス が都度実施されることになる。
これらから、ソフトウェア開発組織の能力向上活動に影響を与える組織特性とは、
以下の10個の組織特性であることがわかった。
組織の行動特性を示す、組織の問題認識、意志決定、合意形成の3つのプロセ ス
重きを置く価値、変化への柔軟性の2つの要素
組織の規模と構成
組織の安定度
過去の開発能力向上支援活動に関する経験
ビジネス環境
組織能力のレベル
5.2.2 SRQ2 の答え
SRQ2:ソフトウェア開発組織の特性は、どのように支援サービスの提供プロセ スに反映するのか?
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ソフトウェア開発能力向上に向けた支援サービスの提供においては、まず対象組 織に適した支援サービスの内容と提供方法を把握するため、5.2.1 「SRQ1の答え」
にある10個のソフトウェア開発組織の特性について、把握することが重要となる。
これら10個のソフトウェア開発組織の特性は、「組織の置かれた環境」、「組織の状 態」、「組織のマネジメント特性」の 3 つに分類できる。「組織の置かれた環境」や
「組織の状況」を特徴づける特性はさまざまな要因で変化するため、支援サービス 提供時は、その変化に応じて都度、柔軟な対応が必要となる。一方、組織のマネジ メント特性を特徴づける要素は、その対象組織固有の価値基準や性質を表すもので あり、短期間では変化しにくい。従って、この「組織のマネジメント特性」に着目 すると、支援サービスの内容と提供方法に対する基本的な指針を得ることができる。
従って、「SRQ2:ソフトウェア開発組織の特性は、どのように支援サービスの提 供プロセスに反映するのか?」に対する答えは、10個のソフトウェア開発組織の 特性のうち、「組織のマネジメント特性」を特徴づける要素に着目し、対象組織へ の支援サービスの内容と提供方法に対する基本的な指針を得て支援サービスに反 映していくことが有効である、となる。
5.2.3 SRQ3 の答え
SRQ3:組織特性は、どのように判定するか?
5.2.1章のSRQ1に対する答えとして示した、10個のソフトウェア開発組織の能
力向上活動に影響を与える組織特性は、「組織の置かれた環境」、「組織の能力や経 験に関する状況」、「組織のマネジメント特性」の3つ分類でき、対象組織の「環境」
や「状況」を特徴づける要素は、さまざまな要因で変化する可能性が高いが、組織 のマネジメント特性は、短期間では変化しにくい。本研究においては、Constantine のマネジメントパラダイムの研究成果を参照し、ソフトウェア開発組織の組織マネ ジメント特性から、4つの組織特性を定義した。
この4つの組織特性とは、Open、Closed、Synchronous、Randomと定義され、
それぞれ意志決定、合意形成、問題発見の 3 つの組織プロセスと重要視する価値、
多様性への対応において、特徴づけられる。
従って、意志決定、合意形成、問題発見の3つの組織プロセスと重要視する価値、
多様性への対応に関する組織の特徴を把握することで、対象組織の組織特性を判 定することができる。
5.2.4 MRQ の答え
MRQ:支援サービス提供者の、ソフトウェア開発組織の能力向上に対する支援は いかにあるべきか?
本研究の結果から、ソフトウェア開発組織の能力向上に向けた活動における、組 織と支援サービス提供者との価値共創プロセスとは、IDEAL モデルをベースにし
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て、開始、診断フェーズの活動を通じて支援サービス提供者であるSEPGが、ソフ トウェア開発組織の能力向上活動に影響を及ぼす組織の特性を把握し(SRQ1)、そ れに応じた支援サービスを提供することで(SRQ2、3)、価値が最大化される共創プ ロセスであると言える。
IDEAL モデルの活動と並行して、SEPGは組織の特性を把握し、支援サービス
を提供することで、IDEAL モデルで示されている各活動がより確実に進み、その 成果も最大化される。具体的には、以下の4つのステップにまとめられ、この活動 手法をSSSM(Service oriented Software engineering Support Method)としてま とめた。
SSSMモデルは4つのステップで構成され、ソフトウェア開発組織の能力向上活 動に大きく影響を及ぼす組織特性を把握し、組織特性のタイプを判定して、対象組 織に適切な支援サービスの提供方法をガイドするものである。さらに、SSSMモデ ルに従った支援サービスをより確実なものとするため、独立した客観的な視点で活 動レビューを可能にする機能を体制に組み込むことが有効である。
SSSM モデル
Step1: IDEALモデルの開始、診断フェーズの活動実施と並行して、組織の特
徴パラメータを抽出する。(組織の特徴パラメータ抽出においては、能力 向上活動を実際に進める開発リーダー、メンバーのレベルでの特徴を中 心に集める。)
Step2 :組織の特徴パラメータから、対象組織の組織特性を判定する。
Step3 :組織の特徴パラメータを考慮しつつ、対象組織の組織特性にあったソフ トウェア開発能力向上支援活動の戦略を検討し、活動計画を策定する。
Step4:活動計画に沿って、開発能力向上支援活動(IDEAL モデルの確立、活動
フェーズ)を実施する。
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図5.1 ソフトウェア開発組織とSEPGの価値共創プロセス(SSSMモデル)