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組換え DNA 実験の安全

ドキュメント内 2017 安全対策マニュアル .indd (ページ 103-111)

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第5節  組換え DNA 実験の安全

 5.  1 はじめに

  組換え DNA 実験には,当初心配された直接的な危険はないことが分かってきているが,

万一(potential risk)のトラブルを防止するために作られた法律(遺伝子組換え生物等の使 用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律,平成 15 年 6 月 18 日公布)に従って実 験を行わなくてはならない。この法律は,「国際的に協力して生物の多様性の確保を図るため,

遺伝子組換え生物等の使用等の規制に関する措置を講ずることにより生物の多様性に関する 条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書の的確かつ円滑な実施を確保し,もって 人類の福祉に貢献するとともに現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与する こと」を主眼として作られている。

  この法律では,組換え DNA 実験を行う形式により「第一種使用等」,「第二種使用等」に 分けている。「第二種使用等」とは,「施設,設備その他の構造物(以下「施設等」という。)

の外の大気,水又は土壌中への遺伝子組換え生物等の拡散を防止する意図をもって行う使用 等であって,そのことを明示する措置(その他の主務省令で定める措置)を執って行うもの」

と規定されている。「第一種使用等」は以上のような施設等や処置を必要としない実験をさ している。大学内で行う組換え DNA 実験は,「第二種使用等」にあたる。その場合,この 法律の「第二種使用等」の省令(上のその他の主務省令の一つ)に従って実験を行わなけれ ばならない。この省令は「研究開発等に係る遺伝子組換え生物等の第二種使用等に当たって 執るべき拡散防止措置等を定める省令(平成16年 文部科学省・環境省令第1号)」という。

 この省令では 2 重の安全対策を講じて実験を行うことを義務づけている。1 つは物理的に 組換え遺伝子を持つ微生物(組換え体)を外界に出さないように閉じ込めてしまうもので,

P2 実験室などと呼ばれる専用の設備を持った施設(研究室)が必要である。頭文字の P は 物理的封じ込めという意味で physical の P をとったもので,数字が大きくなる程,組換え 体の封じ込めが厳重で安全度を増す設備で実験する事を意味する。もう 1 つの安全対策は,

生物学的に行うもので,実験室の中の培養装置の中以外では生きていけないような非常に弱 い微生物を宿主として利用することにより,万一試験管の外に菌が漏れてもすぐに死滅して しまうようにし,外界の汚染を防ぐものである。これが生物学的封じ込めで biological の B をとって Bl とか B2 と書かれており,数字が増せば安全性が増すものである。

 従って組換え DNA 実験の規制は,P と B の数字を足した総和で行う事になっている。P2

− Bl の総和が 3 となり,同じ実験が Pl − B2 の組み合わせでも行える事になる。

  どのような生物種,宿主ベクターを用いた組換え DNA 実験が,どのレベルにあたるのか は詳細に定められている(「二種省令に基づく告示」)。実験計画を立てる際には,必ず見て 確認しなければならない。

 5.  2 組換え DNA 実験

  自然界が生物を発達させてきた遺伝子の「自然の」移動,つまり一つの細胞から他に移動 するという知見は,1970 年代に比べると昨今は驚くほど増大している。挿入因子,トラン スボゾン,ウイルス,プラスミドなどは皆,遺伝子交換を司るべく進化してきた DNA と見 なしてよい。したがって,分類学上同じ種に属するものの DNA のみを使う実験や,同種で なくても自然界で DNA 交換が行われている組み合わせについては,組換え DNA 分子を人 工的に作製してもこれを規制の対象外と考えることにしている。たとえば大腸菌の DNA,

あるいはそれを宿主とするファージやプラスミドの DNA を組換えて大腸菌に戻す実験は

「同種」生物の DNA 組換え実験である。「自然界に DNA 交換が存在する」と定義されてい るのは,同一群内の種または属の組み合わせの場合である。試験管内で組換え DNA 分子を 作製しても,これを細胞に与えない,つまり「生細胞に移入して増殖」させない実験は規制 の対象外になる。ついでながら,この省令では,試験管内で作製した組換え DNA を「組換 え DNA 分子」と呼ぶことにし,組換え DNA 分子を移入されてこれを担いつつ増殖する生 物を「組換え体」と呼ぶことにしている。組換え DNA を生細胞に移入しても,その機能発 現のみが起こり,組換え分子が増殖しない実験も規制の対象外になる。

  また,種の壁を越えた組換え体の生ずる実験であっても,その途上に「試験管内での組 換え DNA 分子の作製」が含まれていなければ規制の対象外になる。たとえば,動物の培養 細胞に異種生物の細胞やウイルスに由来する DNA をとり込ませれば,ある頻度で染色体に 組み込まれて異種 DNA を担った細胞ができるし,さらに異種細胞どうしを融合させたとき には,より大規模な遺伝子系の導入・交換が起こり得る。しかし,これらは上記の理由によ り規制の対象外になる。一見矛盾しているようであるが,細胞にとり込ませる DNA がその 細胞と同種の DNA であっても,そこに異種生物の DNA,たとえば大腸菌のファージ DNA が人為的にあらかじめ結合させられているものを使うときは,組換え体作製実験となり,規 制の対象となる。受精卵に DNA を注入するとその DNA を担った動物の家系ができるが,

この場合にも,組換え DNA 分子を注入しない限り規制の対象とならない実験である。

  組換え体,たとえば細菌やウイルスを動物や植物に接種する実験においては,その接種さ れた個体をまるごと(排泄物や死体・枯死体なども含めて)管理することが要求されている。

受精卵に異種 DNA 分子を注入する,いわゆる transgenic mouse 作製の実験も,その DNA が組換え DNA 分子であるならば,個体全体の管理が要求される。

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生物的要因

生物的要因

参考文献

   泉 美治,中川八郎,三輪谷俊夫共編「生物化学実験のてびき 4  動物・組織実験法」,

   化学同人,1986。

   泉 美治,中川八郎,三輪谷俊夫共編「生物化学実験のてびき 5 バイオハザード防   止法」,化学同人,1986。

   中野健司,前島一淑,城 勝哉他「実験動物入門」,川島書店,1988。

   国立感染症研究所病原体等安全管理規定。

第5節 組換え DNA 実験の安全

 5.  1 はじめに

  組換え DNA 実験には,当初心配された直接的な危険はないことが分かってきているが,

万一(potential risk)のトラブルを防止するために作られた法律(遺伝子組換え生物等の使 用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律,平成 15 年 6 月 18 日公布)に従って実 験を行わなくてはならない。この法律は,「国際的に協力して生物の多様性の確保を図るため,

遺伝子組換え生物等の使用等の規制に関する措置を講ずることにより生物の多様性に関する 条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書の的確かつ円滑な実施を確保し,もって 人類の福祉に貢献するとともに現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与する こと」を主眼として作られている。

  この法律では,組換え DNA 実験を行う形式により「第一種使用等」,「第二種使用等」に 分けている。「第二種使用等」とは,「施設,設備その他の構造物(以下「施設等」という。)

の外の大気,水又は土壌中への遺伝子組換え生物等の拡散を防止する意図をもって行う使用 等であって,そのことを明示する措置(その他の主務省令で定める措置)を執って行うもの」

と規定されている。「第一種使用等」は以上のような施設等や処置を必要としない実験をさ している。大学内で行う組換え DNA 実験は,「第二種使用等」にあたる。その場合,この 法律の「第二種使用等」の省令(上のその他の主務省令の一つ)に従って実験を行わなけれ ばならない。この省令は「研究開発等に係る遺伝子組換え生物等の第二種使用等に当たって 執るべき拡散防止措置等を定める省令(平成16年 文部科学省・環境省令第1号)」という。

 この省令では 2 重の安全対策を講じて実験を行うことを義務づけている。1 つは物理的に 組換え遺伝子を持つ微生物(組換え体)を外界に出さないように閉じ込めてしまうもので,

P2 実験室などと呼ばれる専用の設備を持った施設(研究室)が必要である。頭文字の P は 物理的封じ込めという意味で physical の P をとったもので,数字が大きくなる程,組換え 体の封じ込めが厳重で安全度を増す設備で実験する事を意味する。もう 1 つの安全対策は,

生物学的に行うもので,実験室の中の培養装置の中以外では生きていけないような非常に弱 い微生物を宿主として利用することにより,万一試験管の外に菌が漏れてもすぐに死滅して しまうようにし,外界の汚染を防ぐものである。これが生物学的封じ込めで biological の B をとって Bl とか B2 と書かれており,数字が増せば安全性が増すものである。

 従って組換え DNA 実験の規制は,P と B の数字を足した総和で行う事になっている。P2

− Bl の総和が 3 となり,同じ実験が Pl − B2 の組み合わせでも行える事になる。

  どのような生物種,宿主ベクターを用いた組換え DNA 実験が,どのレベルにあたるのか は詳細に定められている(「二種省令に基づく告示」)。実験計画を立てる際には,必ず見て 確認しなければならない。

 5.  2 組換え DNA 実験

  自然界が生物を発達させてきた遺伝子の「自然の」移動,つまり一つの細胞から他に移動 するという知見は,1970 年代に比べると昨今は驚くほど増大している。挿入因子,トラン スボゾン,ウイルス,プラスミドなどは皆,遺伝子交換を司るべく進化してきた DNA と見 なしてよい。したがって,分類学上同じ種に属するものの DNA のみを使う実験や,同種で なくても自然界で DNA 交換が行われている組み合わせについては,組換え DNA 分子を人 工的に作製してもこれを規制の対象外と考えることにしている。たとえば大腸菌の DNA,

あるいはそれを宿主とするファージやプラスミドの DNA を組換えて大腸菌に戻す実験は

「同種」生物の DNA 組換え実験である。「自然界に DNA 交換が存在する」と定義されてい るのは,同一群内の種または属の組み合わせの場合である。試験管内で組換え DNA 分子を 作製しても,これを細胞に与えない,つまり「生細胞に移入して増殖」させない実験は規制 の対象外になる。ついでながら,この省令では,試験管内で作製した組換え DNA を「組換 え DNA 分子」と呼ぶことにし,組換え DNA 分子を移入されてこれを担いつつ増殖する生 物を「組換え体」と呼ぶことにしている。組換え DNA を生細胞に移入しても,その機能発 現のみが起こり,組換え分子が増殖しない実験も規制の対象外になる。

  また,種の壁を越えた組換え体の生ずる実験であっても,その途上に「試験管内での組 換え DNA 分子の作製」が含まれていなければ規制の対象外になる。たとえば,動物の培養 細胞に異種生物の細胞やウイルスに由来する DNA をとり込ませれば,ある頻度で染色体に 組み込まれて異種 DNA を担った細胞ができるし,さらに異種細胞どうしを融合させたとき には,より大規模な遺伝子系の導入・交換が起こり得る。しかし,これらは上記の理由によ り規制の対象外になる。一見矛盾しているようであるが,細胞にとり込ませる DNA がその 細胞と同種の DNA であっても,そこに異種生物の DNA,たとえば大腸菌のファージ DNA が人為的にあらかじめ結合させられているものを使うときは,組換え体作製実験となり,規 制の対象となる。受精卵に DNA を注入するとその DNA を担った動物の家系ができるが,

この場合にも,組換え DNA 分子を注入しない限り規制の対象とならない実験である。

  組換え体,たとえば細菌やウイルスを動物や植物に接種する実験においては,その接種さ れた個体をまるごと(排泄物や死体・枯死体なども含めて)管理することが要求されている。

受精卵に異種 DNA 分子を注入する,いわゆる transgenic mouse 作製の実験も,その DNA が組換え DNA 分子であるならば,個体全体の管理が要求される。

ドキュメント内 2017 安全対策マニュアル .indd (ページ 103-111)