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第3節 動物細胞培養実験における安全
3. 1 はじめに
動物の組織あるいは細胞を適当な培地を用いて生育させる技術を組織培養法という。多細 胞生物における組織あるいはその構成細胞の性質を研究するためには必要不可欠な手段であ る。それらのうち,細胞をひとつひとつばらばらにして培養することが細胞培養であり,こ の技術の進歩によって,細胞を生体から独立させて扱うことが可能となった。そして,人為 的な条件の中で細胞レベルでの分化・代謝・発癌機構・老化などを解析できるようになった。
細胞培養を行うにあたって常に注意されている点は,実験操作を無菌的に行い雑菌の混入 を防ぐことであるが,それと同時に実験者の安全性に関しても十分気をつけなければならな い。バイオハザードの点から考慮した安全対策は微生物実験の場合とほぼ同じであるが,こ こでは,動物細胞を扱う実験で特に気をつけたいことに重点をおいて述べる。
3. 2 リスク評価と一般的注意について
いかなる実験においても共通することであるが,その実験に伴うリスクについて適切な評 価を行うことが,実験を安全に行う上で重要である。リスク評価は,その実験を構成する個々 の要素について適切になされなければならない。バイオハザードという観点からリスク評価 を行う際に,リスク評価の要素となるのは表5−4に示したような項目である。
試薬・物品の購入,貯蔵,実験,廃棄といった取り扱いの各段階で,十分に配慮するとと もに,実験を構成する個々のステップや構成要素が,全体のリスクにどのように影響を及ぼ すかについて注意する。
動物細胞や組織の培養を行う際に発生する可能性のある一般的な災害の原因として,表5
−5のようなものをあげることができる。それぞれは,どんな種類の実験でも注意するべき 項目であるが,特にバイオハザードという観点からは,例えば割れたガラス器具・注射針・
メスやハサミなどの鋭い器具・パスツールピペットなどは,防護のための手袋を貫通する可 能性があり,汚染や感染の原因になる可能性がある。また,感染した細胞などを扱ったピペッ トやプラスチック器具などは,使用後の滅菌は不可欠である。クリーンベンチでは,滅菌に アルコールを使用するが,同時に無菌操作にブンゼンバーナーも使用する。従って,火気に は十分に注意する必要がある。
3. 4 動物および細胞株の維持
通常,in vitroの動物細胞実験には,SPF(specific pathogen free)動物が用いられる。
動物の飼育に関しては「動物実験に関する安全指針」に述べられているように,病原体の感 染がないよう注意することが大切である。また,摘出臓器を実験に用いる場合,特に輸送時 間が長い場合であるが,細菌感染を防ぐために組織保存液に通常の 3 倍程度の抗生物質を添 加すると良いといわれている。
細胞株を維持するにあたって最も大切なことは,微生物による汚染を防止することである。
細菌や真菌が感染した場合は,増殖が悪い,死滅する,あるいは,細胞の形態が変わるといっ たことが認められる。しかし,マイコプラズマ感染ではそのように一見して分かる現象はま れで,気づかないうちに感染していることが多い。したがって,定期的にマイコプラズマ汚 染の有無を調べる方がよい。また,細胞株の凍結保存には液体窒素がよく用いられるが,取 り扱い時は革手袋を使用して直接皮膚が触れることのないよう気をつけなければならない。
生物的要因
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3. 3 クリーンベンチと安全キャビネット
クリーンベンチとは,幅 120 〜 180 cm,奥行 90 cm,高さ 180 cm 程度の箱型の実験台で,
天井あるいは正面からフィルターでろ過された空気が流入するようになっている。使用時以 外は殺菌のため紫外線ランプを照射しておく。無菌操作は全てこのクリーンベンチ内で行う。
また,実験開始前および実験中においても必要に応じて手指を消毒して操作しなければなら ない。クリーンベンチ内には器具の加熱滅菌のためガスバーナーが設置されているが,これ が引火しないよう付近に可燃性のものを置かないよう気をつけたい。
クリーンベンチは庫内の清浄に重点がおかれており,空気流(エアロゾル)は実験者に向
かって吹き出している。そのため,正常細胞を扱う実験には十分であるが,病原菌の取り扱 いには不向きである。したがって,ヒトのウイルス感染細胞あるいは病原菌を培養する場合 は,バイオハザード防止用の安全キャビネット(図5−1)を使用する。
安全キャビネットは汚染エアロゾルを庫内に封じ込めて気流を一定に保ち,排気もフィル ターによって浄化するよう設計されており,その密閉度によりクラス I,II,III に分類され ている。実験に用いる細胞・病原菌の危険度2)に応じてキャビネットの機種,バイオハザー ドに対する防護のレベルを選定することが望ましい(表5−6)。また,そのような危険度 の高い細胞または病原体を取り扱う場合は,手袋・マスクなどを着用し,誤って感染するこ とのないように注意しなければならない。ただし,ウイルス感染細胞中のウイルスは生きた 細胞内でしか生育できないとされており,誤って自分の手指を注射針で刺したり,傷のある 手で直接触れたりするようなことがなければ感染の危険性はないであろう。
−86− −87−
生物的要因
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参考文献
国立感染症研究所病原体等安全管理規定。
日本微生物協会編「微生物学辞典」,技報堂出版,1989。
泉 美治,中川八郎,三輪谷俊夫共編「生物化学実験のてびき 5 バイオハザード防止法」
化学同人,1986。
第3節 動物細胞培養実験における安全
3. 1 はじめに
動物の組織あるいは細胞を適当な培地を用いて生育させる技術を組織培養法という。多細 胞生物における組織あるいはその構成細胞の性質を研究するためには必要不可欠な手段であ る。それらのうち,細胞をひとつひとつばらばらにして培養することが細胞培養であり,こ の技術の進歩によって,細胞を生体から独立させて扱うことが可能となった。そして,人為 的な条件の中で細胞レベルでの分化・代謝・発癌機構・老化などを解析できるようになった。
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3. 4 動物および細胞株の維持
通常,in vitroの動物細胞実験には,SPF(specific pathogen free)動物が用いられる。
動物の飼育に関しては「動物実験に関する安全指針」に述べられているように,病原体の感 染がないよう注意することが大切である。また,摘出臓器を実験に用いる場合,特に輸送時 間が長い場合であるが,細菌感染を防ぐために組織保存液に通常の 3 倍程度の抗生物質を添 加すると良いといわれている。
細胞株を維持するにあたって最も大切なことは,微生物による汚染を防止することである。
細菌や真菌が感染した場合は,増殖が悪い,死滅する,あるいは,細胞の形態が変わるといっ たことが認められる。しかし,マイコプラズマ感染ではそのように一見して分かる現象はま れで,気づかないうちに感染していることが多い。したがって,定期的にマイコプラズマ汚 染の有無を調べる方がよい。また,細胞株の凍結保存には液体窒素がよく用いられるが,取 り扱い時は革手袋を使用して直接皮膚が触れることのないよう気をつけなければならない。