• 検索結果がありません。

管理可能性原則の意義とその適用

第l節 は じ め に

近年、環境に対する管理会計の適応が不完全なことが指摘きれ、理論と実務の 恭離が議論されてきた。理論が実務を説明できるものになっていないとすれば、

理論を修正する必要がある。

1章では、本社費・共通費の配賦に関する実態調査の結果を紹介したが、何 よりも重要なことは、なぜそのよ7な結果になっているのかを吟味することであ る。

そもそも、本社費・共通費の配賦が否定きれてきたのは、伝統的な「理論」で いう「管理可能性原則」に反するからであった。けれども「実務」をみてみると、

必ずしもそうなってはいないという。この「理論と実務の恭離」の一例として、

そして、公平性を支えるルールの1っとして、この章では、「管理可能性原則 jの 意義を明らかにする。また、組織の変化、国籍の相違に伴い管理可能性原則の適 用がどう変化するかということについて論じるo

事業部制会計における業績測定の利益概念との関係で管理可能性原則がどのよ うに関係しているのか、そしてその意味がどのように変化してきているのかは、

組織の変化と関わらせて捉えられる。近年のカンパニー制などの分社制やMPC、 企業の境界を暖昧にするアウトソーシング、業績給の採用などにも対応して、管 理者の業績評価に使用すべき利益概念はどのように変化するのだろうか。

Merchantによる米国企業の実態調査では、具体的に管理可能性原則がどのよ うに適用されているのかが示されている。どのような要因によって管理可能性原 則の適用がどう変化するのだろうか。彼の研究結果は日本企業にそのまま妥当す

るとは断定できないものの、この問題に関するヒントを与えてくれる。

例えば、ミドル・マネジメン卜のコントロールに限定して言えば、伝統的管理 可能性原則は、日本の経営環境の下では、欧米企業ほど重要で、はなかったのかも しれない。その理由は、日本企業のマネジメント・コントロール・システムの特

136  第1II部 責任会計と7ネジメント・コントロール

徴に帰することができるだろう。

第2節 業績管理会計と管理可能性原則 1.事業部の収益性評価と事業部長の業績評価

業績はどのように測定・評価すべきだろうか。事業部の業績測定は、一つには 本社が事業部を管理するために行われる。業績測定の統合機能は、日常業務活動、

短期利益計画を短期利主主目標が実現きれるよ7に導くことだけではない。それは 長期計画に関する組職目標の実現も含んでいる。

伝統的責任会計は、計画の実現を目的とし、業績測定が管理者の意思決定に与 える影響について考慮していなかった。ところが事業部業績管理会計では事業部 長の意思決定に影響を与えるための業績評価が行われる。そのため業績評価のた めの会計情報と意思決定のための会計情報の関係が問題になるのである。

事業部の業績測定は事業部長の業績評価に等しいと考えて議論きれる場合もあ るが、事業の収益性評価とは一応区別して考えるべきである。つまり事業の収益 性評価は事業部を縮小すべきかどうかといった判断(意思決定)のための情報で あり、事業部長の業績評価は事業部長が全社的に望ましい意思決定をとるように 公平感を与え動機づけるためのものだからである。小林教授の言葉を拝借すれば、

前者は正確なコスト・ビへイビアを写像した情報であり、後者は発生した原価を 公平に配分した大きさを示す情報として区別される。後者については公平で、ある か否かが問題となることから、前者とは使用される業績評価尺度を区別すべきで あり、そのための考え方として管理可能性原則がある。

例えば、事業部長の業績評価の尺度については、インベストメント・センター の場合、資本利益率が利用される。だが、狭義のフoロフィットセンターの場合は、

事業部長の資本に対する影響力が弱いことから資本利益率の利用には問題があ る。

このことは、近年のカンパニー制をとる企業で、従来の日本型事業部制の場合 に比べてカンパニーの長にかなり大きな投資決定権限が与えられ、真のインベス トメント・センターとなることで、資本効率をみる指標が使用されうる点と対照 的である。

6 管理可能性原則の意義とその適用 137  業績目標にしても、収益性評価の場合は単一レベルの目標を実績と比較するこ とになるが、事業部長の業績評価では、事業部毎の事情を考慮に入れた目標が必 要となる。例えば、新規事業が軌道に乗るまで赤字の続くことが予想されるとす れば、公平性の観点から新規事業部には既存の事業と同レベルの目標を設定すべ きではない。

2.管理可能性原則と事業部利益概念

業績評価の公平性を問題にする場合、よく引き合いに出されるのが、管理可能 性原則である。

(1)  管理可能性原則の意味

管理可能性原則とは、ある管理者の業績評価が、彼にとってコントロール可能 でない環境要因や他の部門の活動によって左右されるべきではないとする原則で ある。

管理可能性を定義するためには、①誰にとって、②どれくらいの期間について の管理可能性かをあらかじめ決定しておかなければならない。

仮にコストの発生を左右できるか否かによって管理可能性を定義するとしょ つ。

ある機械の購入・廃棄という意思決定権限が事業部長にある場合、事業部長に とってはその機械の減価償却費は管理可能で、あるが、その機械を使用している工 員にとってはその減価償却費は管理不能で、ある。またその機械が5年間は廃棄で きないというルールがあるとすれば、事業部長にとっても 5年聞の聞は管理不能 であろう。しかし5年よりも長い期間を考えれば、管理可能ということになる。

このように同じ項目の費用が、対象とする人や期間により管理可能で、あったり管 理不能で、あったりする。

さらに管理可能性をどのような意味にとらえるかという解釈の問題がある。

例えば、事業部がインベストメント・センターであっても、ある一定額を越え る投資について事業部長に単独で決定する権限がない場合、その投資について事 業部長に責任を負わせてはいけないのか。権限はなくても、かなりの影響力があ るとすれば管理可能とする見解もあれば、その投資決定に少しでも影響可能で、あ

138  III部 責 任 会 計 と7ネジメント・コントロール

れば管理可能で、あるとして、事業部長に責任を負わせることを認める立場がある。

他方、長期的観点に立つ時、別の基準が管理可能性基準に置き換わるのだという 解釈もある(第3章第2節、第7章第2節も参照)。詳細は、小林(1983) (1993) (1991)に譲ることにしたい。

きて、次に、事業部長の業績評価をどのような利益概念によって行うべきかは、

管理可能性基準との関係で説明されることを述べる。

(2)  事業部利益概念

事業部長に短期利益計画の権限が委譲されている場合、管理可能固定費(広告 費・教育訓練費・販売促進費等のマネイジド・コスト)は事業部において管理対 象とすることができる。したがって、管理可能利益を事業部長の評価に用いるこ

とができる。

さらに狭義のフ。ロフィット・センターである事業部であっても、事業部長は事 業部の固定資産にある程度の影響力をもっていれば、管理不能固定費(減価償却 費・財産税・保険料等のコミテッド・キャパシティー・コスト)にも長期的には 管理可能性をもっていると解釈できる。そうならば、事業部長の評価は、事業部 貢献差益で、行ってもよいという考え方が成り立つ。さらに、日本型事業部制から カンパニー制へ移行した場合には大きな投資決定権限をインベストメント・セン ターであるカンパニーの長はもっ。この場合は、管理可能利益と事業部貢献差益 はなおさら近い数字となる。

最後に本社費・共通費は事業部長には管理不能費であると考えるのが普通で、あ o 本社費とは、本部の一般管理費・研究費等である。これらの費用は、何らか の形で事業部が恩恵を被っているサービスを消費することによって発生するが、

各事業部のサービス消費量を測定できない場合、その費用を事業部に賦課できな い。そこで何らかの配賦基準を用いてこれを配賦する。共通費にしても、貢献差 益を計算する過程で控除された事業部の用役利用高に応じて帰属可能な部分(変 動費、短期管理可能固定費に含まれている)以外は事業部長にとって管理不能で、

ある。だがそれでも本社費が実務では事業部に配賦されていることが多いのは、

それにより、本社での資源の浪費(例えば社長の役得として高価な絵画を競入す ること)を牽制する効果や事業部長に最低限回収すべき費用の金額を示すことが

関連したドキュメント