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一経済学上の公正概念と比較して一

第 l節 は じ め に

この章では、これまで述べてきた公正・公平性の概念に加えて、経済学上の公 正概念との関係、および適用について考えてみたい。

Horngrenによれば、原価計算の多くの文献では、 equity、fairness、受けた便 益(受益)を望ましい基準とする傾向があるという。しかし平等や公平性の基準 は測定システムの概念としては避けられるべき倫理的基準であり、基準というよ

りはむしろ目標(objective)であると述べられている。

HorngrenのCostAccountingでは、因果関係が把握困難な場合には、売上収 益あるいは粗利益が配分ベースとして選択きれると述べられている。つまり、原 価発生原因主義による配分を第一義とし、それが困難な場合に負担能力主義によ る配分や受益基準に基づいた配分が行われる。だがその一方で、、責任会計の発達 と共に利害調整は重要な課題となり、「公正な配分」をめぐって議論が行われてき た。原価発生原因主義以外の配分基準が発生原因主義に基づく配分と同程度に望 ましいと考えられ、ある種の公平な配分の特性を満たす配分ベースならば公平で あるという「相互満足的配分

J

という考え方が出現した。

相互満足的配分が成立するためには、配分を受ける利害関係者の聞で何らかの 納得のいく論理が必要となる。配分ベース選択基準は、そのためのなんらかの論 理を表現するルールと考えることもできょう。

ドイツ流の配分原則に関する研究によれば、各原則の意義は多義的であり、単 なる計算原則を表わしている場合と、より原理的な配分の考え方を意味している 場合がある。また、一つの配分ベースが、いくつかの配分ベース選択基準に基づ いて決定きれる場合もある。

他方、共通費を全額配分しなくてもよい状況においては、負担能力基準の一種 である実際売上高に基づく配分でさえ中立性を実現しやすいという意味で公平性 を実現しやすい。このことからもわかるように、状況によって、適用し易い配分

88  II 業績管理のためのコスト・アロケーション

図4‑1 配分ベース選択基準と配分ベース Vancil  Vatter 

巨盃日 厄 日

利 用 高 基 準 actualusage

lestimated usage 

I

受益基準

I (benefit received) 

受 益 基 準

1 2 蜘

負担能力基準 f~~~

lprofit  その他 f~~!~~i~t~?~~lother methods 

基準ないし配分ベースの範囲は変化するであろう。状況に応じて適切な配分方法 を選択するためには、やはり配分基準の意味や、それら相互の関係を明らかにし ておく必要がある。

前述のように、因果関係、公平性、受益等の基準を対置する考え方は必ずしも 妥当ではない。むしろ、公平性の基準を、当事者全員が公平で、あると知覚する基 準と考えるならば、それは主観的かつ抽象的な基準であり、他のいくつかの基準 は、これをオペレーショナルにした基準と考えることもできょう。

そこで以上の内容をもう少し具体的に説明するために、配分基準 (criterion) と配分ベースの内容とそれらの関係、他の学問領域の考え方との類似点があるこ とを示すことにしたい。

まず、会計学の研究者である Vancil (1978& 1979)とVatter(1945)による 配分基準の一部は図4‑1のとおりであるが、会計学者の間でもその定義は微妙に 異なる。

Vatterのいう Thecriterion of use (利用高基準)は、提供きれたサービスや 設備の利用度に応じてコストを配賦することを要求し、 Thecriterion  of  facil‑ ities  providedは、雇用者数、労働時間、減価償却費、フロア面積、財産税、光 熱費等によって費用を配賦するやり方であり、これらをあわせたものがThecri‑ terion of benefit received (受益基準)であると定義きれている。

したがって利用高基準は Vancilのいう狭義の受益基準と区別して考えること

4章 原 価 配 分 に お け る 公 平 性

もできれば、 Vatterのように受益基準の中に含めることもできる。

次に、財政学上の概念との類似性をみてみよう。財政学上の租税負担の決定基 準には「公平性jと「中立性」がある。このうち前者を実現する方法としては「利 益説」と「能力説」がある。

この「利益説jによれば、受益者は、公共サービスの便益の程度に応じて租税 を負担するということになるから、コストアロケーションにおける利用高基準、

ないし広義の受益基準がこの考え方に対応する。ところが「利益説jには批判が ある。第1に各人が受けとる限界便益の算定の困難さ、第2に公共サービスの配 分は低所得者層に手厚いことから、便益に応じた租税負担は逆進的性格をもつこ

とがその理由としてあげられている。

第1の点をコスト・アロケーションの受益基準に適用すれば、便益の測定と受 益者の特定可能性が問題となろう。

他方、「能力説」によれば、支払能力の大小に応じて租税の負担額が算定きれる べきであるということになるo コストアロケーションでは、「負担能力j に応じ た配分がこの考え方に対応する。「能力説」では「所得

J

と「支出」のどちらを支 払能力の指標として使用するかということが問題となる。

これに対し、コスト・アロケーションにおける「売上高」や「利益」が「所得」

に対応し、部門や製品の「個別費」や「独立原価」の大きさが、「支出jに対応す るのではないかと思われる。

このうち、前者の「所得を支払能力の指標とする場合

J

の考え方をコスト・ア ロケーションに適用することによって、公平な配分は、例えば以下のように定義 きれ7る。

①  共通費の配分に関する各部門管理者の総効用の減少が等しいように配分す る。

②  各管理者の減少した効用の、配分前の総効用に対する比率が均等になるよ うに配分する。

③  各管理者の配分後利益の限界効用が等しくなるように配分する。

以上が「均等な犠牲」という考え方である。もっとも、このような概念が成立 するためには、個人の総効用や限界効用に関する効用関数の形が特定でき、個人

90  11部 業 績 管 理 の た め の コ ス ト ・ ア ロ ケ ー ン ヨ ン

聞の効用の大きさが比較可能という前提が必要で、ある点に限界がある。

これらの考え方は、負担能力に応じた配分を、結果の平等に近づくからという 一種の平等主義的立場から行うとする考え方とは必ずしも同じ意味あいをもって いないように思える。特に「均等な犠牲

J

の第1の考え方に近い考え方が功利主 義の考え方にみられる点からもこう言える。すなわち功利主義では、個人の効用 の和の最大化を目標とし、同額の所得に対して、より多くの効用を享受する個人 に、より多くの所得を配分するという考え方をとる。原価配分にこの考え方を適 用すれば、同額の共通費を配賦されても、売上高や利益の大きな部門ほど、部門 管理者は、より小きな非効用しか感じないかもしれない。とするならば、負担能 力に応じた配分を行うことによって効用の和の最大化を図るということが期待さ れているのかもしれない。平等主義や功利主義も「公正jに関する考え方である と考えられることから、負担能力に応じた配分も公平性の一種であるといえよう。

負担能力主義に対置されているのが、発生原因主義ないし因果関係に基づく配 分であった。例えば多品種少量生産の企業の場合など、生産きれた財と共通費の 聞の因果関係は確認し難い。けれども因果関係の理論はこれを確認することを要 求する。価値移転(原価凝着)の原則は因果関係の理論を基礎とし、アウトプッ

トとそれに見合うインフ。ットとの対応を要求することになる。この原価擬着の考 え方は、価値の労働理論の影響を受けているといわれる。

すなわち原価発生原因主義の基準も、公平性の基準の一種なのである。最後に 中立性である。原価配分では、中立性とは「ある原価負担者に配分きれる原価の 額が、配分の行われる期間中の他の原価負担者に関する行動や事象によって影響 きれない

J

ことを意味する。これは、次節でとりあげる Thomasの公平性のルー ル1に類似しているように思える。

以上、コスト・アロケーションにおける配分基準の意味と相互の関係に若干触 れ、公平性の基準とは、あいまいな基準であり、他のいくつかの基準は公平性の 基準を具体化したものであることを述べた。次節では,原価配分上の公平性の意 味についてきらに深〈考察することにする。

4 原価配分における公平性 91 

第2節 Thomasによるコスト・アロケーションの公平性

本節では、まず第1 Thomasがあげている公平な結合原価配分の特'性につ いて紹介する。それを基礎として、原価配分と所得分配の公平性の考え方との共 通点・相違点を比較する。第2に、経済学上の公正の概念をコストアロケーショ

ンに適用することができるとすれば、どういうふうに可能なのかを検討する。

1.  Thomasによる「公平性」

A. L. Thomasは、結合原価がもつべき特性を、一般的特性とより詳細な特性 に分類して列挙している。

本節では、まず、Thomasが定義している「公平性」をとりあげる。彼は、fairness という概念に特に関連していると思われる特性のグループに公平性(equity)とい う語を限定して使用している。彼が別の箇所であげている数値例を借用して、

Thomasの命題を解釈してみたい。

表4‑1 連産品のコスト(SV法)

J=9 

五 J+f;  Yi  ti  ti 

18  16  16  16.26  21  13  12  21  13  7. 74  10  11  15  24  11  13.94  18 

F 22  14  14  10.06  13  (記号)

:連産品名 (i=l ……,冗)

ji: i車産品t1パッチ当りに配分される結合原価 f;:連産品s1パッチ当りの個別費総額(追加加工費等)

自 =ji 十点。:i1パッチ当りの総原価

踊:i1パッチを外部から購入する場合の最低価格(増分原価) Yi: i1パッチを内部もしくは外部から購入する場合の最低価格 ti: i1パッチ当りの販売価格

=tif;: iの1パッチ当りのE味実現可能価値 bi=Ti一白またはti一泊:I1パッチ当りの帳簿利益 F =

S F A

y=

t以下同様

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