第 4 章 LCC 参入による他モードへの影響の分析
4.1 競合する鉄道への影響
本節では LCC が参入した路線の他モードの旅客数への影響について分析する。分析に あたり、国内LCCの就航後の2012年3月以降のデータが必要不可欠であるが、国内他モ ードの「旅客数」に係る既存統計のうち、全国規模でODが把握可能な全国幹線旅客純流 動調査は5年に一度の調査で最新は2010年度であり、旅客地域流動調査は毎年の調査で あるが最新は2011年度で、2013年度中に更新される予定はないといった課題がある。そ のため、本調査ではJR西日本「データで見るJR西日本2013」を元に分析した。
次頁の図 4-1にJR西日本「データで見るJR西日本2013」にから抜粋した「航空機と のシェア比較4」を示す。
図 4-1 より2011年度から2012年度にかけて、東京都~大阪府・岡山県・広島県間と いったLCCが参入していないOD5ではシェアが横ばいで推移していることが見て取れる のに対して、2012年度当初から関西空港拠点のLCCが参入しているODである京阪神~
福岡県間で4ポイント、京阪神~鹿児島県間で7ポイント、航空のシェアが上昇している ことがわかる。
4 本資料の原典は、“国土交通省「旅客地域流動調査」および「航空輸送統計年報」による。(平成24年度は当社 推定による速報値)”とされている。このことから、平成23(2011)年度までは「旅客地域流動調査」を使用し、
平成24(2012)年度は、航空データに「航空輸送統計年報」、鉄道データに「JR西日本資料」を使用したものと
推察される。JR自身の鉄道データとは、おそらく旅客地域流動調査の原データに当たるものであり、ここで示さ れているデータの精度は高いと考えられる。
5 OD:Origin – Destinationの略で、出発地と到着地間のペアを意味する。
H24.3LCC 参入
H23.3 九州新幹線 H24.3LCC 参入 2003
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2003
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
次にJR西日本「データで見るJR西日本2013」のデータと、「2011年度旅客地域流動 調査」及び「2012年度航空輸送統計年報」を使って、主要8ODの航空及び鉄道の旅客数 を試算した。算出結果を図 4-2に示す。
具体的には、2011年度までは旅客地域流動調査データを使用し、2012年度の航空は航 空輸送統計年報データを使用した。2012年度の鉄道は、2012年度の航空データをJR西 日本のデータによる 2012 年航空分担率で除算することにより全体(=航空+鉄道)の需 要を算出し、そこから航空データ分を減算することで算出した。
(計算式)
2012年航空(←2012年度航空輸送統計年報)
2012年両機関=2012年航空/2012年航空分担率(←JR西日本)
2012年鉄道 =2012年両機関-2012年航空
LCC参入区間
京阪神-福岡 京阪神-鹿児島
LCC未参入区間
東京-大阪 東京-岡山
東京-広島 東京-福岡
京阪神-熊本 愛知-福岡
15,541 14,911
15,410 15,893 16,519 16,126 14,899
15,193 15,720 16,318
7,774 8,123
8,318 7,903
7,530 7,237 6,475
6,291 5,847
6,035
0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 2003
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
千人/年 鉄道 航空
1,045 1,090 1,165
1,221 1,355 1,373 1,350 1,382 1,401 1,486
1,120 1,065 1,071
1,091 999 950 877
855 841 911
0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
千人/年 鉄道 航空
1,599 1,755
1,922 1,995 2,203 2,243 2,162 2,244 2,304 2,514
2,528 2,386
2,340 2,359
2,315 2,236 2,024
1,925 1,775 1,820
0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
千人/年 鉄道 航空
547 566 603 561 637 678 631 731 729 754
8,520 8,386 8,441 9,170 9,161 9,086 8,520 8,429 8,414 8,674
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 2003
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
千人/年 鉄道 航空
4,623 4,777 4,900
5,031 5,295 5,196 4,823
5,223 5,721 5,710
1,603 1,532
1,510 1,376 1,253 1,198 1,028
898 782 1,088
0 2,000 4,000 6,000 8,000
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
千人/年 鉄道 航空
226 236 248
799 739
742
0 500 1,000 1,500
2003 2004 2005
鉄道 航空 千人/年
88 137 120 120 133 131 124 170
551 451
1,352 1,304 1,294
1,370 1,320 1,272 1,088
1,098 1,009 1,160
0 500 1,000 1,500 2,000
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
千人/年 鉄道 航空
532 553 694
1,261 1,351
1,511
0 500 1,000 1,500 2,000 2,500
2003 2004 2005
鉄道 航空 千人/年
図 4-2のうちLCCが参入したODと参入していないODでわけて旅客数変化の分析を実施 した結果を図 4-3に示す。
表 4-1 分析対象OD区分
区分 OD数 対象OD
LCC参入 2ペア 京阪神-福岡、京阪神-鹿児島
LCC非参入 6ペア 東京-大阪、東京-岡山、東京-広島、東京-福岡、京阪神-熊本、愛知 -福岡
注)京阪神は「京都府・大阪府・兵庫県」の合計。その他は都道府県単位。
図 4-3 LCC参入/非参入主要OD区間の航空及び鉄道旅客数(2011・2012年度)
注1)LCC参入2OD:京阪神-福岡、京阪神-鹿児島
注2)LCC非参入6OD:東京-大阪、東京-岡山、東京-広島、東京-福岡、京阪神-熊本、愛知-福岡
資料)国土交通省「旅客地域流動調査」及び「航空輸送統計年報」、西日本旅客鉄道株式会社「データで見るJR西 日本」(2013.9)をもとに作成
図 4-3よりLCCが参入していない6つのODペア全体では、震災反動増や景気回復等に より両機関(=航空+鉄道)の旅客数が2011年度から2012年度にかけて+3.5%増加した のに対して、LCCが参入した2つのOD(京阪神~福岡県・鹿児島県間)では、更に0.8ポ イント高い+4.3%増加したことが確認できる。この0.8ポイントの差はLCC参入による需 要誘発効果が要因であると考えることもできるが、地域ごとの震災反動の影響度合いや景気 動向の違いが含まれる点や、更には高速バスや自家用車等の他の交通手段による旅客流動の 影響は考慮されていない点などに留意が必要である。
1,791 2,247
6,273 6,161
0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 9,000
2011 2012年度
LCC参入2OD計
千人/年
鉄道 航空
+25.5%
-1.8%
+4.3%
18,204 18,709
21,884 22,763
0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000 45,000
2011 2012年度
LCC非参入6OD計
千人/年
鉄道 航空
+2.8%
+4.0%
+3.5%
次に、LCC参入区間の京阪神~福岡県間、京阪神~鹿児島県間のそれぞれの航空旅客数変 化分を社会増、LCC誘発、モード転換に分けて増加要因を分析する。分析結果を表 4-2、図 4-4に示す。
<増加要因の考え方>
社会増 LCC非参入路線の6ODの増加率「+3.5%」を社会増と仮定した。
社会増=2011年度航空旅客数×3.5%
ただし、京阪神-鹿児島間では航空旅客数の変化率が+3.5%を下回る+3.2%であっ たため、社会増は+3.2%とする。
LCC誘発 社会増を上回る航空プラス鉄道旅客数の増加率を、LCC誘発効果と仮定した。
LCC誘発=2011年度航空旅客数×(航空プラス鉄道旅客数の増加率-3.5%)
モード転換 航空旅客数の増加総数から、社会増及び LCC 誘発による増加を除いた分を、鉄道 利用から航空利用へと転換した旅客数と仮定した。
モード転換=2011年度航空旅客数増加総数-(社会増+LCC誘発)
表 4-2 LCC参入区間における航空旅客数の増加要因分解(2011→2012年度)
資料)国土交通省「旅客地域流動調査」及び「航空輸送統計年報」、西日本旅客鉄道株式会社「データで見るJR西 日本」(2013.9)をもとに作成
表 4-2、図 4-4より京阪神-福岡間では2012年度の航空旅客数は前年比で39%増加して いる一方、鉄道の旅客数は 0.2%減少していることがわかる。この旅客数変化の要因として は、社会増が 3.5%、LCC による需要誘発が 1.1%と分析でき、鉄道から航空へのモード変 換は20万9千人と分析できる。また、京阪神-鹿児島間では2012年度の航空旅客数は前年
京阪神- 福岡 京阪神- 鹿児島
千人/年 千人/年
航空 鉄道 計 航空 鉄道 計
2011年度 782 5,721 6,504 2011年度 1,009 551 1,560 2012年度 1,088 5,710 6,798 2012年度 1,160 451 1,611
変化量 305 -11 294 変化量 151 -100 50
変化率 +39.0% -0.2% +4.5% 変化率 +15.0% -18.2% +3.2%
変化量の要因別分解 変化量の要因別分解
航空 鉄道 計 変化率 航空 鉄道 計 変化率
社会増 27 197 224 +3.5% 社会増 33 18 50 +3.2%
LCC誘発 70 0 70 +1.1% LCC誘発 0 0 0 +0.0%
モード転換 209 -209 0 - モード転換 118 -118 0
-合計 305 -11 294 +4.5% 合計 151 -100 50 +3.2%
図 4-4 LCC参入区間における増加要因別航空旅客数(2011→2012年度)
資料)国土交通省「旅客地域流動調査」及び「航空輸送統計年報」、西日本旅客鉄道株式会社「データで見るJR西 日本」(2013.9)をもとに作成
京阪神-福岡 京阪神-鹿児島
782
1,088 209
70 27
0 200 400 600 800 1,000 1,200
2011年度 増加要因 2012年度
千人/年 モード転換
LCC誘発 社会増 航空旅客数
1,009
1,160 33
118
0 200 400 600 800 1,000 1,200
2011年度 増加要因 2012年度
千人/年 モード転換
LCC誘発 社会増 航空旅客数
(2) IR 情報・有価証券報告書における影響の記載
LCCの参入に対する他モードのへの影響についてIR情報、有価証券報告書をもとに調査 した。以下に示すようにJR各社はLCCとの競合を意識してサービスの向上を図っている。
JR西日本(競合路線、成田-福岡・中部-福岡・関西-新千歳・関西-福岡・成田-大分・
成田-鹿児島・中部-鹿児島・成田-松山・関西-長崎・関西-鹿児島)
・JR西日本IR情報
航空会社の航空運賃引き下げなどの航空との競争に対抗するため、今後、新型車両N700 系の投入や「のぞみ」増発による利便性の向上、インターネット予約サービス「EX-ICサ
ービス」「e5489」による価格訴求力のある商品の充実を図ることとしている。
・JR西日本決算説明会 (2013年3月期)
リスク要因として、旅客鉄道会社及び航空会社などの競合企業が採用するサービスの改 善、価格の引き下げおよびその他の戦略(略)
・JR西日本有価証券 (対象:平成24年4月1日~平成25年3月31日)
(略)インターネット列車予約サービス「e5489」の利便性及び価格優位性についてひ き続き積極的な情報発信を行い、ご利用促進に努めました。(略)対抗輸送機関との競合を 見据えた「スーパー早得きっぷ」などの発売を行ったほか(略)(P.20)
≪今後の計画≫
特に航空会社との間では、新空港の開港、空港の発着枠の拡大、増便、航空運賃の引 き下げなど、航空機による移動の利便性向上に伴う激しい競争に直面しております。当 社は、新型車両N700系の投入や「のぞみ」増発などによる高速輸送体系の充実、山陽 新幹線における「EX-ICサービス」「e5489」等インターネット予約サービスの充実など による利便性の向上を図るとともに、航空会社の状況を踏まえた価格訴求力のある商品 造成に努めてまいります。(P.31)
JR東日本(競合路線、成田-新千歳・関西-新千歳・中部-新千歳)
・JR東日本有価証券 (対象:平成24年4月1日~平成25年3月31日)
鉄道事業においては、首都圏の他の鉄道事業者における大規模改良工事の進展や格安航 空会社(LCC)の路線拡大、高速道路料金の割引施策などに伴う交通市場の競争激化が、
同事業の収益などに影響を及ぼす可能性があります。また、生活サービス事業においては、
JR東海(競合路線、成田-関西・成田-中部・成田-福岡・中部-福岡・関西-新千歳)
・JR東海有価証券 (対象:平成24年4月1日~平成25年3月31日)
特に、当社グループの主力事業であり、当社グループの営業収益の約7割の運輸収入を あげる東海道新幹線においては、航空会社との間で、航空運賃の著しい引下げ、空港の発 着枠の拡大、さらには空港と都市中心部とのアクセス改善など航空機による移動の利便性 向上等に起因した競争に直面しています。(P.16)
≪今後の計画≫
販売面については、エクスプレス予約及び「プラスEX」サービスの会員数拡大・ご利 用拡大に向けた取組みを推進します。また、式年遷宮が行われる伊勢神宮をはじめ、京都・
奈良、東京等の観光資源を活用した各種キャンペーンや、海外のお客様向け商品の拡充な ど、営業施策の積極的な展開に取り組みます。さらに、TOICAについて、全国相互利 用サービスの定着を図るとともに、鉄道ならびに電子マネーサービスのご利用促進に努め ます。(p.13)