群行動アルゴリズムとシミュレーション・
モデル
本章では,群行動アルゴリズムの設計,シミュレーション・モデルの構築つ いて述べる. 節では,群行動アルゴリズムを設計する指針について述べる.
設計指針には環世界 という生物が自己が有する感覚器を用いて自身 を取り巻く世界をどのように認識しているのかという概念を用いる.具体的に は,単体のアルゴリズム内に他個体からのシグナルを入力として用いることで 他個体との相互作用を個体のアルゴリズム内に組み込んで群行動を創発させる.
節では,前節で述べた設計指針に基づき群行動アルゴリズムを設計する.
本研究では,蟻の採餌行動時の行動アルゴリズムを設計する.具体的には,巣 と餌の間にフェロモン・トレイルフェロモンの道を生成することで,他個体 を誘引し,集団的に採餌を行うためのアルゴリズムを設計する.
最後に,節では,計算機シミュレーションに用いるエージェントやフェロ モンの蒸発モデルについて説明する.エージェントの設計では,実際に設計す るロボットと同じ機能・仕様のエージェントを設計する.また,フェロモンの 蒸発に関しては予備実験から得られたデータに基づいてモデル化を行う.
第 章 群行動アルゴリズムとシミュレーション・モデル
群行動の設計方法論
群れは「生物や人が集まったさま」と辞書では定義される.本節では,群れという概念を原理 的な点から再考しアルゴリズムの出発点とする.具体的には,環世界という生物学の概念を用い る.この概念は,生物単体が種固有の感覚器を通してどのように物理世界を認識しているかにつ いて言及している概念である.この概念を群行動へと拡張することで群行動アルゴリズムを設計 する指針とする.
環世界 とは
群れというシステムは,設計対象は単体であるが,評価対象は総体であるという設計対象と評価 対象間にギャップがあることが指摘されている< =.この問題は,群れの設計を困難なものにして いる.とくに密に相互作用するような群れを設計する場合,個体の小さな設計変更によって群れ全 体のパフォーマンスが大きく変化することは想像に難くない.この問題に対し,環世界 という概念を用いた群行動アルゴリズムの設計方法を提案する.群れの行動モデルの設計の前に,
個体の行動モデルの設計として,B>"H)<=の提唱する環世界の概念を用いる.環世界とは,知 覚世界と作用世界で構成される生物の内に存在する世界を示す9 .
Umwelt Perceptual world
Effector world Umwelt Perceptual world
Effector world
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知覚世界とは主体生物が知覚する全てであり,作用世界とは主体が行う作用全てである.知 覚世界・作用世界は,それぞれ知覚標識・作用標識によって構成されている.知覚標識とは,主体
生物にとって有意な信号のまとまりを示す.また,作用標識とは,主体が客体生物の外界に存 在する物に対して与える意味のある信号のまとまりを意味し,自己の行動も含む.本研究で注目 しているのは,知覚標識とそれによって引き起こされる行動の設定である.以下に知覚標識と作 用標識の定義をまとめる.
知覚標識
・ 主体生物にとって有意な信号のまとまり 作用標識
・ 主体が客体生物の外界に存在する物に対して与える意味のある信号のまとまり
・ 自己の行動そのものも含む
環世界概念をダニの雌の交尾後の行動を例に具体的に説明する.交尾後に雌ダニは表皮全体の 光受容体を使って適当な潅木の枝先までよじ登る.その後,哺乳類の皮膚腺から分泌される酪酸
第 章 群行動アルゴリズムとシミュレーション・モデル
の匂いという刺激を受けて,枝先から身を投げる.そして,鋭敏な温度感覚によってIなにか温か いものJの上に落ちたことを知覚する.あとは,触覚によってなるべく毛のない場所を見つけ温か な血液を吸血するのである.この例における知覚標識を以下に示す.
ダニの知覚標識
動物の出す酪酸
温かさ
動物の身体からもたらされる触覚 また, ;
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によって引き起こされる行動によってもたらされる作用標識は以下のつである.
ダニの作用標識
落下
体毛の少ない場所への移動
吸血行為
という知覚標識によって,落下するという行動が引き起こされ動物の身体に落下し, とい う作用標識がもたらされる.その後,という知覚標識によって毛の少ない場所まで移動すると いう行動が引き起こされ,その行動がという作用標識となる.さらに,という知覚標識に よって吸血という行動が引き起こされ,その行動がという作用標識になる.ここで注目すべき は,哺乳類の身体的特徴から雌ダニにとって知覚標識となりえるのがつの特徴のみであり,そ れらが一定の順序で知覚標識となっている点である.ダニはこの知覚・作用標識の少なさにより 行動の確実性を確保している.
環世界概念の再考
節では,ダニを例に環世界概念を説明した.環世界概念は,「知覚標識に基づいて行動し外 界に作用標識を与える」という概念である.この概念を群行動アルゴリズムに適用しやすくする ために,以下のような再考を行う.
エージェントは,外界から知覚標識#)を得る.
知覚標識によって内部状態を遷移させる.
新たな知覚標識を得るまで内部状態に固定された作用標識)#)をとり続ける.
このプロセスは決定性有限状態オートマトンと同様である.
上記の環世界概念の再考に基づき,
各エージェントにとっての知覚標識を同定する.
それに対する内部状態決定する.
その内部状態でとるべき作用標識を同定する.
という設計方法が群行動アルゴリズムの設計に有効であると考えられる.この知覚標識・状態遷 移・作用標識というつのまとまりをエージェントの内部状態以下 とし,群行動アルゴリ ズムを設計する.
また,群行動アルゴリズムに不可欠な特徴として,以下のつが考えられる.
第 章 群行動アルゴリズムとシミュレーション・モデル
・ エージェントの環世界内に他エージェントが存在する.
・ 行動が他エージェントに依存している.
これらの帰結として,「他エージェントの作用標識を自己の知覚標識とする.」という特徴が挙げ られる9 参照.この特徴をふまえて群行動アルゴリズムを設計する必要がある.また,こ の特徴を群の定義として用いる.
Umwelt Perceptual world
Effector world Umwelt Perceptual world
Effector world
Umwelt Perceptual world
Effector world Umwelt Perceptual world
Effector world
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ダニの例を用いて,環世界概念における知覚標識と作用標識が,どのような意味を持つのかを 主体の目的に基づいて考察する.ダニの行動の目的は,I生存JつまりI血を吸うJという行為であ る.ダニの「吸血行為」のためには、「吸血が可能な場所に居る」ということを知覚できる知覚標 識が必要である.その知覚標識を得るためには,「障害物体毛の少ない場所へ移動する」という 作用標識が必要となる.その作用標識を行うためには,「他の場所よりも高い温度生物の体」を 知覚できる知覚標識が必要となる.さらに,その知覚標識を得るためには,そもそも動物に接触 していなければならず,「高い場所から身を投げる」という作用標識が必要である.この行為を行 うためには,動物が自身の下に存在することを知覚する知覚標識が必要になる.そこで必要にな る知覚標識が「動物の出す酪酸」を知覚する知覚標識である.このように,主体の最終目的から逆 順に知覚標識と作用標識を同定することにより,行動アルゴリズムを構築することが可能である.
群行動への応用
生物は群れや社会を構成することが可能である<=.9 ,にそれぞれムクドリ,イワシ,
ヌーの群れを示す.
上述の生物は「群れている」と言うことができる.この「同種の個体群が群れる」現象をロボ ティクスの観点から見ると,同一のセンサ構成とアクチュエータを有していると考えることがで きる.さらに,同種の個体集団であることから,コミュニケーション・プロトコル が共有化され ていると考えられる.つまり,生物・ロボットに関わらず以下の条件が群れるための必要条件に なる..
ネットワークを介してコンピュータ同士が通信を行なう上で,相互に決められた約束事の集合.通信手順,通信規 約などと呼ばれることもある.
第 章 群行動アルゴリズムとシミュレーション・モデル
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同一のセンサ構成
同一のアクチュエータ
コミュニケーション・プロトコルの共有
同種個体で構成される群れは,これらの条件を満たしている.
群行動におけるフェロモン・コミュニケーション
本論文では, 節コミュニケーション・プロトコルの共有のためにフェロモン・コミュニ ケーションを用いる.フェロモン・コミュニケーションの優位性としては,以下の項目が考えら れる.
対多コミュニケーション
節で述べたように,エージェントは環境に情報を残すことで他個体に情報伝達する.その ため,個別にコミュニケーションを行わずに集団的な振る舞いに適している.一対一のコミュニ
異種個体が集まっている様子は共生や寄生と定義されている.