第 3 章 これまでの開発状況 43
3.3 積層配線 20 × 20 ピクセルアレイの開発
3.3.4 第三世代、 CMP 積層配線素子
傾斜付き配線では表面粗さにより転移が阻害されてしまうことがわかったため、積層配線基板上の表面粗さを大幅 に改善できる新たな基板デザインとして化学機械研磨(CMP: Chemical Mechanical Polishing) を用いた基板デザイ ンを採用した。研磨の概略図を図3.11に示す。キャリアに加工対象であるウェハを保持し、研磨パッドに押し付けた 上で化学成分や微細な砥粒を含んだスラリーを流しながら相対運動させ表面の研磨を進めて行く。近年ではCPUな ど大規模集積回路用ウェハの平坦化をはじめ、半導体製造工程全般に用いられている。
CMPによりTES 膜の一様性を上げ、上部配線とTES のコンタクトをより安定的に確保することができる(図 3.12)。CMPの加工プロセスは株式会社D-processへ外注した。
図3.14は加工前の表面粗さと加工後の表面粗さを比較したものである。加工前の粗さが∼ 1.2 nm rmsなのに
図3.11 CMP概略図。
図3.12 CMPデザイン素子断面模式図。
図3.13 CMPデザイン素子上面模式図。
対し、加工後は∼ 0.38 nm rmsと大幅に改善し、描画の見た目からも明らかに凹凸が減っている様子がわかる。図 3.14に示すようにCMPを行うと上部配線間の酸化膜にディッシングと呼ばれる凹みが生じてしまうが、なめらかな 凹みとなるため、TESのコンタクトに及ぼす影響は少ないと考えられる。実際にCMPを用いた積層配線基板では、
常温状態での導通確認で400ピクセル全てで導通が取れており、抵抗のばらつきも小さいことが確認されている。
CMP積層配線素子の超伝導転移
はじめに転移の確認を優先し、Ti膜を厚めに設定したTi/Au = 100/20 nmの素子を製作し、R–T 測定を行なっ た。TESパターニング前にピクセル外の酸化膜上のTESを1ヶ所、パターニング後に中央付近、端付近のピクセル をそれぞれ1ヶ所ずつ、計2ヶ所測定した。その結果、CMP積層配線素子で初めて超伝導転移を確認することがで きたが、転移温度が想定した360 mKよりも100 mK 以上も低い240 mKとなった。転移温度が低くなる要因とし て考えられるのは、なんらかの原因によって Ti/Auの膜質が変化していることである。すなわち、CMPで表面粗 さを抑えたにも関わらず再び表面が粗くなっている可能性が高い。粗さに影響を及ぼす要因を再度検討したところ、
スパッタ時の逆スパッタ条件によって基板表面が荒れていることが疑われた。このため、逆スパッタ以外の条件が全 て統一されているTMU459 およびTMU477 の2 つの素子について、R–T 測定を行い結果を比較を行った。結果 を表3.1に示す。また、得られたR–T 曲線を図3.15に示す。測定箇所は中心付近の 1ピクセルである。
表3.1 逆スパッタ条件による転移温度の違い。
TMU ID 逆スパッタ 転移温度 [mK]
477 150 W 3 min 250
459 100 W 1 min 360
図3.14 (左)CMP前の表面粗さ、(右)CMP後の表面粗さ。
図3.15 TMU477のR–T 曲線。 図3.16 TMU459のR–T 曲線。
グラフから 150 W 3 minの逆スパッタを行なった TMU477 は TMU459に比べ転移温度が 100 mK 以上低く なっていることがわかった。すなわち、逆スパッタによって生まれた表面粗さがTES の転移特性に大きな影響を及 ぼしていると言える。表面粗さと転移温度の関係については、超伝導金属と常伝導金属の2 層薄膜の界面が粗くなる と転移温度が低下することが理論的に示唆されている[16]。今回の場合、逆スパッタにより生じた基板表面の粗さを
Ti/Auの界面が引き継ぎ、それによって転移温度が下げられたと考えられる。実際に前述の通りTMU477は表面粗
さがTMU459に比べ桁で大きく転移温度が低かった。TMU459により、CMP積層配線基板で初めて正常な超伝導
転移を確認することができた。
しかし、TESとして完成するには以下に挙げる点が課題となる。
• TESは極低温で高いエネルギー分解能を発揮するため、転移温度を極力下げなければならない。そのためには TES の超伝導金属の膜厚比から転移温度を予測し最適化する必要がある。
• Ti/Auパターニング時にTES表面が荒れる問題を解決する必要がある。
• 吸収体リフトオフ時にバリが発生し、TESへの熱拡散過程を阻害しているため、バリのない綺麗な吸収体を形 成する必要がある。
• TESと熱浴との弱いサーマルリンク構造となるメンブレン構造の形成プロセスが未完であるため、プロセスを 完成させる必要がある。