第 2 章 TES 型 X 線マイクロカロリメータ 17
2.7 カロリメータの基本的な特性とその測定方法
TESの温度T と抵抗値Rの関係をR–T 特性と呼ぶ。R–T を調べることで転移温度Tcが分かり、温度計の感度 αを計算できる。本論文では抵抗値が常伝導抵抗の25%となる温度を転移温度と定義する。ただし、測定する際に はジュール発熱により熱浴とTESの間に温度勾配が生じないよう、TESに流す電流を小さくする必要がある。R–T 特性の抵抗変化をよく表すempiricalなモデルとして
R(T) = R0
1 + exp (
−T−Tc
T1
)· R0
1 + exp (
−T−Tc
T2
)+Rc (2.84)
という形の関数を用意する。この式2.84を用いてfittingすることで転移温度Tc、転移温度での抵抗値R0、温度感 度αを求める。測定方法には2種類ある。1つは、TESにある電流を流してその両端に生じる電圧を測定する、4端 子測定法である。この方法では、TES に正のフィードバックが掛かるため、熱浴の温度の揺らぎに対してTESの温 度が不安定になるが、Rの絶対値を求めることが出来る長所がある。もう一つの方法は、TES に定電圧をかけて電 流の変化をSQUID電流計で測定する方法である。この方法では、X線照射時と同様にTESに並列にシャント抵抗 Rsを入れ、一定のバイアス電流Ibを流して測定を行うため、Rはシャント抵抗Rsに対する相対的な値としてしか 求まらないが、TES には負のフィードバックがかかるために熱浴の温度揺らぎに対して安定であるという長所を持
つ。SQUIDの出力電圧から計算されるTES の抵抗値は
R= (
Ξ Ib
Vout −1 )
Rs (2.85)
と書ける。
2.7.2 I–V 特性
I–V 特性とは、熱浴温度Tbathを一定のもとで、TESの両端に掛かる電圧V とTES に流れる電流Iの関係であ る。測定は熱浴温度Tbathを一定に保ち、バイアス電流Ibを変化させたときのSQUID出力からTESへの流れる電 流Iを調べることで行う。この時、
R= (Ib
I −1 )
Rs (2.86)
の関係があるため、既知であるRsを代入することで各測定点でのRを求めることができる。TES の電圧はオー ムの法則より、
V =IR (2.87)
と表され、この結果よりTESのV とIの関係が求まる。
I–V 特性より、以下のようにして、熱伝導度G、熱伝導度の温度依存性のべきn、ループゲインL、温度計感度α を求めることができる。特に断らない限り、GはTESの遷移端中では一定だとみなせるとし、転移温度での熱伝導 度G(Tc)で代表させることとする。
I–V 特性から求めたαは一般にR–T特性から求めたαより小さい。これは、I–V 測定じにはTESを流れている 電流が大きいためであり、X線照射時のαはI–V 測定時のαに近い。
熱伝導度Gとその温度依存性のべきnの決定
熱伝導度は異なる熱浴温度TbathにおいてI–V 特性を求めることで計算することが可能である。TES の温度をT として、その時のジュール発熱Pbと熱浴との熱伝導のつりあいの式は
Pb=GT n
( 1−
(Tbath T
)n)
(2.88) と書ける。以上により、二つ以上の熱浴温度Tbathに対してPbを求めることでG、nをフィットにより求めるこ とが出来る。(T −Tbath)がTESの転移幅(∼数mK)よりも十分大きければTはTES の抵抗によらず一定だと みなせるので、
Pb≃GTc
n (
1− (Tbath
T )n)
(2.89) と近似できる。したがって、Tbathが一定ならばTESの抵抗値によらずPbは一定とみなすことが出来る。
ループゲインL、温度計感度αの決定
TESの周波数0におけるインピーダンスをZ=dV /dIで定義すると、
dlnPb
dlnR = dlnV + dI dlnV−dI=
dV V +dI
I dV
V −dI I
=Z+R
Z−R (2.90)
が成り立つ。一方、I–V 測定時のI、V、Rの関係においては、
dlnPb
dlnR = R Pb
dT dR
dPb
dT = GT Pbα= 1
L (2.91)
も成立する。ここで、I–V 測定時では定常状態のI、R、V の関係を測定しているので dPb
dT =G (2.92)
が成り立つことを用いた。このようにTESのループゲインLはI–V 特性から得られるR、Zを用いて L=Z−R
Z+R (2.93)
と書ける。そこで、ZとRから各測定点でのLを求めることができる。さらに、
L= Pbα GT ≃ Pbα
GTc
(2.94) であるから、L、Lb、G、Tcを用いて、I–V 測定時のαを求めることができる。この方法の欠点は、αが大きい時 にZ+Rが0に近づくため、誤差が大きくなることである。
I–V 測定時のR–T 特性と温度計感度αの決定
式2.13で見たように、平衡状態ではTES のジュール発熱Pbと熱伝導による熱浴への熱の逃げは Pb= G0
n (Tn−Tbathn ) (2.95)
と書き直せるので、IV 曲線上の各点のジュール発熱Pbを用いてそれぞれの点でのTESの温度Tを計算すること ができる。以上のようにして得られた(R, T)のデータからαを求めることができる。式2.95で求めた温度T はG、 nに強く依存する為、≲10mKの精度を得るのは難しい。ただし、αの導出ではT の絶対値ではなく各点での温度差 のみを用いるため、比較的精度良く(∼10%) αを決定することができる。
2.7.3 臨界電流
超伝導体は一般的に、ある量以上の電流を流すと超伝導状態が破れ常伝導になるという性質を持つ。この臨界値と なる電流値を臨界電流Icと呼ぶ。臨海電流はTESの温度T と外部磁場Bの関数であり、TESのサイズや膜質にも 依存する。TESの応答の電流依存性はIcでスケールされるため、臨海電流は TESの性能に深く関係する物理量で ある。
測定は、熱浴温度Tbathを転移温度Tcより低く設定しTESを超伝導状態にしておき、電流を徐々に大きくしてい くことで行う。超伝導が破れたときの電流値が温度T =Tbathでの臨海電流Icである。GL 理論によれば転移温度 近傍における臨界電流の温度依存性は
Ic(T) =Ic0
( 1− T
Tc )3/2
(2.96) と記述出来る。ただし、本測定では外部磁場の影響は磁気シールドによりほとんど変動しないものと仮定する。
2.7.4 パルス特性
パルス特性は、カロリメータにX線光子や電気的なパルス(ヒートパルスと呼ぶ)を入射した時の応答であり、こ れによってカロリメータの応答関数(responsivity)SI とその揺らぎ、すなわちエネルギー分解能∆Eを知ることが できる。また、エネルギーEのパルスが入射した時の電流変化∆Iは
∆I= αE
CTI (2.97)
と書け、出力信号の立ち下がり時定数τeff は
τeff = C/G L+ 1 ≃ nC
αG (2.98)
と書けるので、I–V 特性から計算したn、G、αを用いれば熱容量Cを見積もることが出来る。
熱浴温度が一定ならジュール発熱は動作抵抗によらずほぼ一定であるので、
∆I∝αI ∝ α
√R (2.99)
となり、TESの抵抗が小さいほどパルスハイトが大きくなることが期待される。
しかしながら、実際には様々な効果によりカロリメータの応答関数は理想的な場合からずれる。さらに、入射位置 依存性や熱化、熱拡散過程に由来するゆらぎのためにパルスごとにもばらつく。これらのずれやばらつきを調べるこ とで、実際の熱的、電気的応答を詳しく知ることが可能になる。
2.7.5 ノイズ特性
ノイズ特性は、信号入力がない時のカロリメータの応答である。ノイズの発生源が異なると大きさや周波数特性も 異なるので、その特性を調べることによってノイズの発生源を特定することが可能になる。
ノイズデータに対して最適フィルタ処理を適用することでノイズデータのパルスハイトの分布を計算できる(この 分布は0にピークを持つ)。この分布の半値全幅∆Ibaselineをベースライン幅と呼ぶ。エネルギーEのX線のパルス ハイトがIの時、
∆Ebaseline= E
I∆Ibaseline (2.100)
によりベースライン幅をeV単位に変換することができる。本論文では特に断らない限り、eV単位で示したもの
(∆Ebaseline)を使用する。ベースライン幅は、実際のエネルギー分解能に占めるノイズの寄与を表している。これに
対して、
∆Ethermalization=
√
∆E2−∆Ebaseline2 (2.101)
はエネルギー分解能に対するノイズ以外の寄与を表し、具体的には、熱化、熱拡散過程やTESの抵抗値のイベン トご とのばらつきなどによる影響を表す*2。
カロリメータに固有なノイズ(フォノンノイズとジョンソンノイズ)や、SQUIDノイズなどの読み出しノイズの寄 与は個別に推定することができる。もしもベースライン幅がこれらの原因がわかっているノイズの寄与よりも大きい 場合、起源が明らかでないノイズが支配的であるということになる。このような起源不明のノイズを一般に超過ノイ ズ(excess noise)と呼ぶ。