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移動力の低い昆虫類の分布調査(宮古島)

南西諸島生物多様性評価プロジェクト  フィールド調査報告書

れも本来の樹種の生育する森林を切り払って植えられており、ヤブガラシなどのつる草で覆われている ものも多く、下草はセンダングサが優勢であった。これらの場所ではモリバッタは採集されず、目撃す ら無かった。

 城辺憩いの森は、従来の植生は殆んど失われ、熱帯の樹木と人工の広場(芝生)となっている。公園と して整備しているため、植栽地の地面はきれいに掃除され、乾燥し、土は固くなっていた。ここでもモ リバッタは一頭も採集されなかった。

 狩俣のウィキピヤは、拝所として保存されているため、樹種は豊かで本来の植生が残されている。し かし、モリバッタはここでも採集されなかった。

 他の地域の農道(写真5)や水系付近でも採集を試みたが、モリバッタは全く採集されなかった。

II.来間島

 来間島では今回は雨と風のために採集はできなかった。

 以上の採集結果から、宮古島におけるモリバッタの分布は極めて局所的であると考えられた。これはい ままでにも何人もの研究者から指摘されていたことでもあり、また砂川博秋によるこれまでの経験からも、

採集される場所が局所的であることと、さらにその場所も、年によって移動していることが指摘された。

 宮古島では従来の植生のある地域が極めて少ないうえに、残された地域がさらに人工的な広場や人工 単植林となっており、これは島の植生環境をますます単純化してしまうことを示している。モリバッタ は短翅であるがゆえに移動力は低く、個体群の規模も小さいと考えられる。宮古島のモリバッタは宮古 諸島固有の新亜種として位置づけられるべきものであり、その個体群が宮古島から消滅してしまうなら ば、それは、地球上からこの亜種がいなくなることを意味している。生息地が局所的であることから、

生息環境の人為的改変はこの亜種の生存に決定的に影響するであろう。人工的な広場等を造成するので あれば、せめてその植生は在来の樹種を用い、林床の明るさや湿度、下草の生育状況など、宮古島本来 の森林環境を模したものとすること、そしてすでに公園や広場として活用している場所であっても、本 来の植生を再度、植栽に加えていくなどの工夫が重要であろう。このような方法は、未記載種や新種を まだまだ内蔵する島の生物相を、昆虫に限らず他の動植物種も含めて保全することに貢献するものであ る。宮古諸島は近年、琉球列島の成立過程や自然史解明の上で、新しい視点から注目され始めている。

 島本来の生物相の豊かさと固有種の存在は、琉球列島成立の研究に大きく貢献するだけでなく、そこ に生活する人々が島への誇りを共有する上でも、大きな役割を果たすものと考えられる。

 なお、本調査は宮古島総合博物館の砂川博秋氏と共同でおこなったものである。

引用文献

移動力の低い昆虫類の分布調査(奄美大島)

写真1(上)。ミヤコモリバッタ(仮称)、♀。大野山林、砂川博秋撮影。

写真2(下)ミヤコモリバッタ(仮称)の生息地。

南西諸島生物多様性評価プロジェクト  フィールド調査報告書

移動力の低い昆虫類の分布調査(奄美大島)

写真5.宮古島南部の農道周辺。

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