かであり,平成13年には20代女性の約4人に1人が喫 煙しているという現状がある(図 13)43).この現状を反 映して,妊婦の喫煙率も増加傾向が見られ,厚生労働省 の乳幼児身体発育調査報告によると,平成2年度の調査 では5.6% であった喫煙率が,平成12年度には10.0% と2倍近い数字となっている152).
男女の喫煙率の推移の世界的傾向としては,喫煙行動 の流行モデル(図 14)153)があり,男性の喫煙率が低下,
男性の死亡率が上昇し,女性の喫煙率が上昇傾向にある 点でわが国は第2期にあてはまる.これによると,男性 の死亡率のピークはもう少し先になり,女性の死亡率も 上昇に向かうことが予想される.わが国の女性の喫煙率 は諸外国に比べると低いレベルを維持してきたため,現 段階から喫煙対策を行うことにより,喫煙率・死亡率を低 いレベルのままより早く低下させられる可能性がある.
わが国では,他の先進諸国に比べて男性の喫煙率の高 さが際立っている反面,女性の喫煙率が低いレベルにと どまっていた.これは,男性中心社会にあって女性の自
立度が低かったこと, 女性らしさ という価値観のも と,女性の喫煙が社会的にも受け入れがたいものと考え られてきた経緯が関係している.しかし,特に欧米を中 心とした女性解放運動の流れと,それに便乗を図ったタ バコ製造・販売戦略の流れがわが国にも伝わり,生活環 境・生活習慣の変化が若年女性の喫煙行動につながって いる.こういった流れから,20代から30代前半あたり までの年代の女性は比較的軽いきっかけで喫煙をはじめ ており,依存度もさほど高くない者が多いが,それ以上 の年代の喫煙者は否定的な見解に抗って喫煙し続けてき た分,依存度も高く,禁煙しがたいという側面がある.
一般に,男性にくらべると女性のほうが相対的に気道 や肺胞の断面積が小さいことが多いため,同じ本数の喫 煙でも影響が強く出るおそれがある.現在,米国におけ る男女の喫煙率はほぼ同等であるが,COPD 患者数は女 性における増加傾向が強く,男性におけるそれを凌駕す る勢いである154).ニコチンに対する依存も男性よりも女 性のほうが依存度が高くなる傾向がある.
妊産婦においては,喫煙の悪影響が喫煙する本人にと どまらないという問題が大きい.妊産婦が喫煙すること は,児にとっては胎児期から新生児期・乳児期にかけて の,身体の発生・発達・発育のもっとも重要な時期に薬 物の影響を受けることであり,将来にわたっての問題は 計り知れない.禁煙の実際面では,ニコチン代替療法
(NRT;Nicotine Replacement Therapy)の使用が制限され る(基本的には使用してはならない)という問題点があ り,またこの時期に禁煙ができないと罪悪感につながる という問題点もある.
女性の特徴は卵巣が担う内分泌機能にあり,この働き が女性のライフサイクルに密接に関わっている.喫煙は この卵巣機能に影響を及ぼすため,女性のライフサイク ルを大きく左右する可能性があるが,喫煙によって傷害 された機能は,禁煙することにより回復することも知ら れている.女性に禁煙治療を行うことの意義の第一は損 なわれた女性機能の回復,第二は第一とも関係するが女 性が産み出す次世代への悪影響を除くこと,第三に美容 面での悪影響を取り除くことである.もちろん,各種疾 患の予防・治療・再発予防,とくに感染に関係した疾患 に対してのこれらの意義が大きい.また,安全・確実な 避妊を望む場合に,経口避妊薬のもっとも大きな副作用 である血栓のリスクを下げる効果がある.
女性と妊産婦
3 3
女性の喫煙の現状 1
女性と妊産婦における禁煙治療の意義 3
禁煙治療における女性・妊産婦の特殊性
2
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
%
昭和 40 45 50 55 60 平成 1 5 10 13年
20 歳代 30 歳代 40 歳代 50 歳代 60 歳代 全年齢
男
女
図13 わが国における成人喫煙率(性別・年代別喫煙率の推移)
(日本専売公社および日本たばこ産業株式会社による全国調査結果のデータより)
財団法人 健康体力づくり事業財団 健康ネット ホームページ内, たばこと健康 厚生労働 省の最新たばこ情報 より転載
80
60
40
20
0
40
30
20
10
0 第 1 期 第 2 期 第 3 期 第 4 期
男性の喫煙開始からの時間(年)
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
男性喫煙率性喫煙率
女性喫煙率 女性喫煙率 男性喫煙率
女性喫煙率
女性死亡
男性死亡 た
ばこ によ る死 亡が
全 死 亡に 占め る割 合︵
%︶ 成
人 喫煙 率︵
%
︶
図14 喫煙の流行パターンの標準モデル
(文献153より引用)
1.卵巣機能
喫煙女性は非喫煙女性に比べて月経時疼痛の頻度が 1.5〜2倍近くになるとの報告がある155,156).しかし,元 喫煙者ではその頻度は非喫煙者とほぼ同等であり,この 症状に対する禁煙の効果が示唆されている155).また,月 経周期の不整も喫煙者に多く,禁煙によって非喫煙者と 同等に回復することが指摘されている157).続発性無月経 が喫煙者に多いという報告もある158).また,喫煙者は非 喫煙者に比べて約 2年閉経が早まることが知られてい る159).エストロゲンの影響を受けて発症することが知ら れている子宮体癌は,喫煙者に少ないという事実もあ る160).実際には喫煙者において血液中のエストロゲン濃 度の低下は認められておらず,上記した事実の起こるメ カニズムについては明らかにされていない.
2
.胎児への影響・妊娠合併症妊娠・胎児への影響としてエビデンスが明らかなもの は,胎児発育遅延と早産,胎盤に関連した合併症,前期 破水・早期破水,周産期死亡である.
喫煙者から生まれる新生児の体重は,非喫煙者から生 まれる児に比べて平均200から250g 体重が軽い.厚生 労働省の乳幼児身体発育調査においても,妊婦の喫煙本 数が増えるほど出生時の体重および身長が減少する傾向 にあることが判明している152).妊娠中に喫煙していた期 間が短いほど児体重の減少の程度は小さく,妊娠中のい つの時期でも禁煙する意義がある.
胎盤に関連した合併症としては,いずれも母児ともに 対して重大な命の危険につながる可能性のある疾患であ る,常位胎盤早期剥離および前置胎盤の発症リスクが,
喫煙者において上昇する.喫煙者におけるこれらの発症 頻度は,非喫煙者に比べて前者では1.4〜2.4倍,後者で
は1.5〜3.0倍であり,喫煙本数が増えるほど危険性は増
す161).
妊娠36週以前の前期破水は,喫煙妊婦において2か ら3倍の危険度となる155).
喫煙によって周産期死亡(胎児死亡・新生児死亡)が 増加するという報告がある.喫煙本数の増加にともなっ て,周産期死亡の相対危険度は増す162).妊婦の喫煙は,
出生児の乳幼児突然死症候群(SIDS)と密接に関連し ている.この要因として,胎児肺の構造上の問題163),無 呼吸発作・低酸素刺激に対する神経伝達の障害164),睡 眠・覚醒に関する発達障害165)などが考えられている.
以上の問題点は,禁煙することによってその頻度を下 げることが可能であることが明らかとなっており,妊婦
が禁煙する意義は大きい.
ほかに,数多くの信頼できる研究結果からエビデンス が明らかであろうと考えられるものとして,流産の増 加166),子宮外妊娠の増加167),母乳分泌の減少168)があげ られる.また,ある種の胎児奇形との関連も推察されて いる.因果関係が明確とはいえないものの,関連が指摘 されている疾患としては,口唇口蓋裂169),肢欠損170),泌 尿生殖器奇形171),神経管欠損172)などがあげられる.こ の点については,妊娠のごく初期の喫煙が関係するため,
これらを予防する観点からは妊娠が判明する前から禁煙 している必要がある.
近年,胎児プログラミングの研究がすすみ,妊婦の喫 煙と児の成長後の障害についての研究もみられるように なっている.神経発達や糖尿病の発症などとの関連を示 唆する報告もある173,174).
3
.美 容喫煙者では卵巣機能(女性ホルモン)への悪影響,末 梢への酸素供給の減少,ビタミン C の分解促進などの 影響を受け,皮膚の弾力性が減り,皺が増加する.頭髪 の変化(白毛,脱毛),口唇の乾燥,歯および歯肉の着 色,口臭,声の変化,男性型多毛などと相俟って,美容 面でのデメリットは大きく,とくに若年女性にとっては 切実な問題となる.女性が若さ・美しさを保つために禁 煙は欠かせない175).
4.各種疾患
女性において喫煙と疾患との関係を考える場合のポイ ントは二つある.一つは女性特有の疾患に対する喫煙の 影響であり,もう一つは男女ともに罹患する疾患に対す る影響の性差である.
代表的な女性特有の疾患として,乳がん・子宮がんが ある.喫煙の乳がんに対する影響についてはいまだ議論 があり,喫煙によって乳がんのリスクが増加するという 研究結果とリスクが減少するという研究結果が存在す る.後者の論文では,対照とした非喫煙者中に受動喫煙 者が含まれているものが多く,論文数・比較対照の厳密 性などから前者の方が優勢にある.多数例を対象とした 信頼性のおける調査報告によると,乳がんリスクは喫煙 によって増加するが,閉経前ではそれが明らかであり,
閉経後においては有意差は得られていなかった176).乳が ん発症には受動喫煙の影響が大きいことも同調査で報告 されている.
子宮頸がんは,喫煙との因果関係が明らかとなってい る.HPV 感染者の中でも喫煙女性においては浸潤癌が