う」「いずれやめようね」といった曖昧な表現は避け,
また徐々に本数を減らすといった有効性の低い指導は行 わない.また,妊娠中に喫煙を続けている女性の中には,
罪の意識をもっている者が少なからずいるものであり,
決して責めてはならない.よく理解してもらう事,理解 のうえで禁煙できるように医療スタッフが手を差し伸 べ,協力を惜しまない事を伝える.
禁煙支援(Assist)の方法としては,ビデオ,冊子な
表29 妊婦の喫煙状況を確認するための質問表
■以下のうち,あなたの喫煙状況を最もよくあらわしてい るものは?
□ 毎日喫煙している:
妊娠がわかる前と同じように吸っている
□ 毎日喫煙している:
妊娠がわかってから減らしている
□ 時々喫煙している
□ 妊娠がわかってから喫煙をやめた
□ 妊娠がわかるころには喫煙していないし,今も吸 っていない
表28 妊婦に対する禁煙治療(SCPIPT model)
1.質問紙を用いて喫煙状況と一日の喫煙本数とを確認する.
A.今までに喫煙したことがない B. 妊娠前に禁煙した
C.妊娠がわかってから禁煙した
D.喫煙は続けているが妊娠前よりも本数を減らした E. 妊娠前と同様に喫煙している
A,B,C に対しては:禁煙の成功を祝福する→家庭及び職場での受動喫煙を防ぐ D または E に対しては:ADVISE, ASSIST, ARRANGE へ
2.母体及び胎児に対する喫煙の害に関する明瞭でかつ強固なメッセージを与える 3.禁煙し,またそれを維持するよう,明瞭でかつ強固な助言を与える
4.ビデオ教材 Commit to Quit(禁煙の誓い) を手渡す
5.反復学習用教材A Pregnant Woman's Guide to Quit Smoking(妊婦のための禁煙ガイド)を手渡す 6.教材使用の同意を得る目的で,ビデオ内の禁煙スキルの部分を手短に視聴する
7.教材およびその中の手段を用いることが,妊婦の禁煙の助けに必ずなるという確信を表明する 8.受動喫煙を止められるよう,家族と社会環境(職場など)内の協力者を探すように仕向ける(励ます)
9.次回来院日を再確認し,カルテに バイタルサインとしての喫煙状況 欄をつくる 10.妊娠期間を通して喫煙状況について評価する:もし喫煙を続けていたら,禁煙を奨励する
ARRANGE:1分未満 ASSIST:2〜3分以上 ADVISE:1分未満 ASK and ASSESS:1分間
文献186より引用和訳 表27 有効な妊婦に対する禁煙治療のモデルの例
Ershoff ら(1989)
健康教育師とのリスクについてのディスカッション(3
〜5 分)
参加自由の禁煙教室
妊婦専用の自己学習教材:週1 回×7 週間送付 Walsh ら(1997)
リスクについての医師のアドバイス(2〜3 分)
禁煙に際してリスク,障壁および助言の情報が入った ビデオ供覧
助産師のカウンセリング10 分間 自助努力マニュアル
フォローアップ・レター Windsor ら(1985)
妊婦専用の自助教材(Pregnant Woman's Self-Help Guide To Quit Smoking)
健康教育師による10 分間のカウンセリング Windsor ら(1993)
健康カウンセラーによる禁煙スキルとリスクに関する 15 分間のカウンセリング
妊婦専用の自助教材の使用法(1985 年のものと同じ)
フォローアップ・レター
仲間からの手紙・契約・助言つきの社会的サポート
(文献1より引用)
どの供覧,助産師やカウンセラーによる指導,家族や職 場に対する協力要請などを複数組み合わせることが望ま しい.このための教材の作成が急務である.米国の保健 社会福祉省によるリーフレット(図15)は,表面に妊 婦への情報提供とメッセージ,裏面に禁煙のために有効 な手法のアドバイスと,意志を固めるためのメモ欄が準 備され,1枚にまとまっており,こういったものを有効 活用できると効果的である.わが国においては,残念な がら全国的に普及している教材が見当たらず,平成 13 年にスタートした母子保健の2010 年までの国民運動計 画(健やか親子21)に定められた目標の一つに妊婦の 喫煙をなくすというものがあることをうけて,各自治体 で教材の作成にとりかかった.現在入手可能な日本語の 啓発冊子と,自治体で作成した教材の一例を図 16およ び図17に記す.
こういった禁煙指導の後,禁煙をより確実な物にする ためには,必ず再診させ,禁煙できているかを確認し,
また勇気づける事である.禁煙に成功した妊婦に対して はその努力を褒め,成功を祝福する.禁煙に失敗した妊 婦に対しては,失敗を責めず,次回はきっと成功できる と勇気づけ,あきらめずに再度トライすることが大事で ある(Arrange).わが国においては,幸いにして妊婦健 診のスケジュールが確立しており,ほとんどの妊婦が定 期的に医療機関を受診していると思われる.受診のたび に喫煙状況を確認し,上記の対応をすることが産科医及
図15 米国保健社会福祉省による妊婦のための禁煙支援リーフレット
図16 母子保健・家庭保健教育普及グループ:ミニテキスト シリーズ③ママと赤ちゃんとたばこ(財団法人母子衛 生研究会編)
び助産師に望まれる姿勢である.
最近,上記した米国の標準治療ガイドラインに沿った 指導者マニュアルが,大阪府立健康科学センターにおい て作成された(図18).この内容は,センターのホーム ページ(http://www.kenkoukagaku.jp/)からダウンロー ド可能となっている.
妊婦に対するNRT は,ニコチン製剤を妊婦に投与す ることの危険性の観点から,わが国においては禁忌とい う扱いになっている.実際にこれを妊婦に行うことはい くつかの問題点があるが,タバコ依存が強く禁煙が困難 な症例においては,これを行うことが考慮される価値が あり,海外においては実際に使用されている場合がある ようである.タバコを完全に断ってNRT を行うことに より,喫煙による血中ニコチン濃度の急峻な上昇を防ぐ ことができるばかりでなく,タバコに含まれるニコチン 以外の多種にわたる有害物質の摂取を回避できるという 利点もある.効用と副作用・タバコと併用する危険性に ついて充分に説明を行い,本来は禁忌とされている薬剤 であることにつき理解と同意を得たうえで使用に踏み切 ることも,今後考慮されるべき課題であると思われる.
3.出産後の女性
妊娠を機に禁煙した女性が,出産後に再喫煙してしま うことがよくある.これを防ぐことは,女性の将来にと って重要であるのみならず,子どもの将来にとって大き
図17 各自治体の作成したパンフレットの一例(多摩立川保健所・村山大和保健所(東京都)のパンフレット)
図18 大阪府立健康科学センターが作成した指導者マニュア ル「妊産婦と小さな子どもを持つお母さんに対する禁 煙サポート指導者マニュアル」
な意味がある.出産が近づいたころから母乳育児の重要 性についての説明をはじめ,出産後には受動喫煙の子ど もへの影響についても伝え,出産後に喫煙を再開しない よう指導する.家族や周囲の環境整備も同時に必要であ る.病院・医院に喫煙所があると,喫煙を再開するきっ かけになりやすいので,医療機関には喫煙所を設置して はならない.
わが国における喫煙女性の一般的傾向として,比較的 多くの女性が,妊娠したら禁煙しようと考える傾向にあ る.妊婦に対する禁煙指導法として全国的に統一された 方法論が確立していない現在,妊娠中に禁煙した女性の ほとんどは自主的に禁煙したものであり,残念な事に医 師,助産師などの医療従事者のアドバイスによって禁煙 したものの数はそれほど多くないであろうと思われる.
現状では,妊婦にとって,医療従事者やマスコミなどを 通して得られる喫煙の害についての情報は不十分で,漠 然としたイメージのなか,実際よりも害について過小評 価しがちになる.また,医師の喫煙率も諸外国に比べて 高いなど,医師自身も十分な知識・情報を持っておらず,
適切な指導・治療の方法論を駆使できない問題点も存在 する.そんな中,女性向けタバコの開発や宣伝,女性の 喫煙に対するポジティブなイメージの映像表現などの影 響により,若年女性の喫煙率の上昇傾向は続いている.
医療従事者への教育と意識の喚起,喫煙の害に関する 情報の提示と浸透,タバコ広告と販売の制限(特に妊婦 に対しての販売規制)など,社会全体としての女性の喫
煙対策が急務である.
わが国の成人の喫煙率は近年減少傾向にあるが,未成 年者の喫煙率は増加を続けている.
現在では未成年者の喫煙経験率は中学1年生で男女と も既に20% 前後に達しており,学年が上がるにつれて 上昇して,高校3年生の男子では喫煙経験者が55.7%,
毎日喫煙する者が25.9%,女子でも各々36.7%,8.2% に達している(図 19)187).また,最近 10年間での未成 年者の喫煙率の変化を見ると,男女ともに増加している が,特に女子高生の喫煙率が著しく増加しているのが特 徴である(図20)187,188).
喫煙開始の理由は「好奇心から」「なんとなく」「友達 から勧められて」が多く,タバコの有害性や依存性を十 分知らないうちに,些細なきっかけで吸い始める者がほ とんどである189).今や喫煙は一部の特別な子どもだけの 問題ではなく,多数の「ごく普通の」子どもたちも吸っ ているのが現状である.しかし,喫煙を始めた子どもた ちの中には麻薬や覚醒剤に手を出す者もいることから,
タバコは麻薬への「入門薬物」と呼ばれている.
言うまでもなく,わが国には「未成年者喫煙禁止法」
という法律があり,20歳未満の者は喫煙を禁じられて いる.この法律は,1900年(明治33年)に未成年者を 有害な喫煙から保護するために制定されたもので,未成