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社会的最適点と市場均衡点

ドキュメント内 監査サービスに対する価値評価 (ページ 85-98)

第7章 . 監査市場の経済モデル

第四節 社会的最適点と市場均衡点

致するものとした。

さてここで、社会的余剰64を最大化する社会的最適点を求めてみると、それはミクロ経済 学の標準的議論から明らかなように、D-D曲線とS-S曲線の交点であるMj点である。

経済的な財としての監査サービスの著しい特殊性は、その受益者と費用負担者(=購入 者)が等しくないという点にある。

監査サービスそれ自体は、監査法人(供給者)と被監査企業の間で売買されることから、

市場均衡は供給曲線Sj-Sと被監査企業の需要曲線Dj.Djとの交点、すなわち図表7-5の点 Jがわが国の市場均衡点となるのである。

結果、監査サービス市場での均衡価格はpとなり、数量(=品質)は、qとなる。

そしてこの時の、監査報酬は、タイムチャージ方式により、p×qと示されるのである。

以上のように、Mj点の成立が社会的には望まれるのだが、残念ながらわが国においては 社会的最適点は達成されてはいないと判断されるのである。

図表7-5 わが国の監査サービスの需要曲線と供給曲線

64 生産者余剰と消費者余剰の合計を社会的余剰と呼ぶことにする。これが社会全体での厚生

(=社会全体の利益)を表す指標と考えることができる。

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۲

ܛܒ Dj

܁ܖܒ Dj

次にアメリカの監査市場について考えてみよう。

図表7-6には監査市場の需要曲線や供給曲線等が描かれている。基本的には図表7-5と同 様に考えればよいが、監査サービスの供給曲線についてはリスクプレミアムの有無を考慮 して、Sj-S曲線とS-S曲線を区別して描く必要がある。言うまでもなく市場で実際に機能 するのは後者(S-S曲線)である。

社会的最適点はS-S曲線とD-D曲線の交点65である Ma点である。しかしながら、報酬 交渉者は企業であるから、社会的最適点であるMa点は実現されず、S-S曲線とDa-Da曲 線であるA点が市場均衡点となる。

そして、アメリカにおける監査報酬はp×qと表されるのである。

このように、米国の監査サービス市場でも市場でも市場の失敗は生じており、社会的最 適点は実現されていないことが示されているのである。

図表7-6 アメリカの監査サービスの需要曲線と供給曲線

65 Dsa-Dsa曲線は社会全体での便益を表しているから、当然に私的便益だけを表すDa-Da曲線 よりもかなり上方に位置しているはずである。本論文の図表においては両曲線が比較的近接して 描かれているが、これはこの図が描かれている紙面の大きさに限りがあるから生じたことである。

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最後に日米の比較をしてみよう。図表 7-8 を参照していただきたい。(市場均衡の比較 が目的なので、この図では社会的需要曲線の記載は省略している。)

日米の私的財としての監査の需要曲線については、日本が垂直で、米国は右下がりに描 かれている。供給曲線については若干のリマークが必要である。前章でタイムチャージ方 式について議論した際に、米国と日本ではタイムチャージの単価であるチャージレートに はほとんど違いがないか、若干米国の方が安めであると指摘した(第6章第三節)。

チャージレートはこのモデルの文脈で言えば価格(=サービス 1 単位あたりの報酬額)

と見なすことができるので66、第1章と第6章第三節で得られた知見は日米で監査サービス の価格は同じか、いくらか米国の方が安いと言うことを意味している(下記図表7-7を参 照されたい)

図表 7-7 日米価格比

日本 アメリカ

AF:平均監査報酬比 1 3.34

AT:平均監査時間比 1 3.74

AF÷AT =価格比 1 0.893048

・AF:図表1-1,1$=100円とし、2010年度、2011年度の平均値より算定

・AT:図表6-3,平均監査時間より算定

このことから、日米における監査報酬額の差は少なくとも、価格の差によっては説明さ れるものではない。

そこで、図表7-8では、日本の均衡であるJ点と米国の均衡であるA点がほぼ同じ高さ

(=同じ均衡価格)になるように描いてみる(p= p)。

日米における市場均衡点は、当然に当該価格において成立しているはずである。

今、図表7-7(図表1-1)からわかるように、日米両国には監査報酬額の乖離が生じて

いることが認識されている。

すると、Pが同一水準にある時、P×Qで示される監査報酬の差を決定付ける変数はQで しかない。

ならば、わが国よりも高額な監査報酬が成立しているアメリカにおける市場均衡点にお けるQの水準はわが国のものよりも高い水準となるはずである(q=ݍ< q)。

すなわち、図表7-8において、わが国の監査報酬がアメリカと比べて低廉な理由は、「監 査の品質」の低さにあるということが示されているのである。

前述したようにアメリカにおける市場均衡点は社会的最適点ではない。

66 タイムチャージレートは労働投入量一単位あたりの報酬額であるが、本稿では、監査サー ビスの量は、監査の品質の水準、ひいては労働投入量で代理できると想定しているので、タイム チャージレートは価格と同一視できる。

しかし、わが国における監査の品質は、そのアメリカの市場均衡点における品質にさえ も達していないのである。

以上、日米両国の監査にかかる歴史的経緯から想定される需要曲線と供給曲線に基づき、

両国の監査報酬の差とその決定要因を示すことができた。

現況において定量的証拠は得られていないため、一定の限界の下に収集した情報に基づ いて理論構築を行ったことは否定できない。これらの点についての議論を強化し、さらに 実証的解明も行うことは今後の課題である。

図表 7-8 監査サービスの需要曲線と供給曲線(日米比較)67

67 この図より、アメリカにおける監査サービスの供給曲線Sraは日本の供給曲線Snj=Srjより も下方に位置していることがわかる。供給曲線のレベルは生産性(生産効率)に依存する(より 低い方がより低いコストでの生産が可能なので生産効率は高い)。したがって、日米のチャージ レートの差がほとんどないという知見から、アメリカの監査法人の生産効率が高いということが 演繹される(もちろん、図表7-7における価格比においては、アメリカはわが国よりも低い価 格水準であり、その点においてもアメリカの生産効率が高い事が演繹される)。

これについては、実証研究を通じてより詳細な実証的解明がなされることが望まれるが(特に 監査法人における従業員や公認会計士の報酬水準についての日米比較は重要である)、一つの可 能性としては、無資格者(Accountant)の積極的な利用や、会計士を外注することができる労 働市場の存在、あるいはIT化の進展(例えばCAATの活用など)などが考えられる。

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終章. 監査の価値評価における今後の課題と展望

―監査人(供給者)の課題―

本稿においては、わが国とアメリカ(イギリスを含む)における、公認会計士(勅許会 計士)と監査についての歴史的過程を概観した上で、両国における市場均衡点を示し、も って、両国における監査報酬の差を経済学的に可視化することを試みた。

両国における監査報酬の差は、監査に対する認識の相違が反映されたものであり、本稿 の定義に基づけば両国間においては、監査の品質水準においても格差が生じている。

わが国における大手・中堅監査法人の大半は海外のアカウンティング・ファームと提携 しており、また、各法人とも、グローバルで統一した監査の品質を提供するものと広告し ている。

しかし、監査報酬の差からは、監査の品質水準の差が示されている。

とは言え、監査報酬の差は労働投入量(本稿では労働時間)の差にすぎないため、わが 国のチャージレートが低廉な場合や(第6章において否定した)、わが国の監査人が米国の 監査人よりも3倍から 4倍の割合で効率的に業務をこなしている場合や、労働賃金以上の 労働量が監査実施者によって提供されている場合等には、わが国の監査の品質は米国と同 水準にあるといえよう。

また、監査が社会的役割期待の品質水準を達成するものであるならば、監査報酬の差は わが国の社会的役割期待がアメリカよりも低いということを意味するにとどまり、実質的 な両国における品質において差は生じていないともいえる。

このような、タイムチャージ方式の問題を改善するためには、チャージ料、つまり監査 人の労働価値が適切に算定されなければならず、そして、その前提として、監査サービス が生み出している効用の存在を明確化する必要性がある。

公認会計士協会や各法人においては、品質管理(Quality Control)の手段をもって監査 の高い品質を主張しており、高い品質の監査は、高い監査の価値を生むものであるとされ ている。

しかしながら、「監査の品質」という概念は明確に定義付けが出来るものではなく、各法 人においても定義が曖昧なままにされている。

これは、監査を提供する公認会計士自身が、監査の価値について真摯に議論せずに、曖 昧なまま、監査を制度として受入れてしまったからではないだろうか68

それは現在のアメリカにおいても同様の状況であるかもしれない。

68 国際監査・保証基準審議会(IAASB: International Auditing and Assurance Standards Boardから2014年2月に「監査の品質に関するフレームワーク(A Framework for Audit Quality)」が公表されているが、結局のところQualityに影響を与える要因分析に留まっている。

ドキュメント内 監査サービスに対する価値評価 (ページ 85-98)