第 7 章 揺らぎ 72
8.5 示強変数と示量変数
が成り立つ。両辺、λで微分すると、左辺は
∂G(λN)
∂λ
λ=1
= ∂G(λN)
∂(λN)
∂(λN)
∂λ =µN となり、右辺は
∂λG
∂λ =G 以上より、
G=µN (8.25)
が導かれる。
Problem 8.1
E(λS, λV, λN) =λE(S, V, N), F(T, λV, λN) = λF(T, V, N) を用いて、同様にG=µNを示せ。
G=µNより、
dG=Ndµ+µdN =−SdT +VdP +µdN となり、よって
Ndµ=−SdT +VdP (8.26)
が導かれる。これはギッブス・デューエムの関係式と呼ばれている。
熱力学的な状態量の間には様々な関係式が存在する。演習問題でやるMaxwellの関 係式がそれである。全微分の場合、
df(x, y) = (∂f
∂x )
y
dx+ (∂f
∂y )
x
dy=A(x, y)dx+B(x, y)dy (8.27) と書くと、A, Bには
(∂A
∂y )
x
= ∂2f(x, y)
∂y∂x = ∂2f(x, y)
∂x∂y = (∂B
∂x )
y
(8.28) という関係がある。これを例えばdE =TdS−PdV に適用すると
(∂T
∂V )
S
=− (∂P
∂S )
V
(8.29) が得られる。Maxwellの関係式は、実験量を議論するときに役立つ。
実験で測定することにより、系の詳しい物理的情報を与えてくれるものとして比熱 Cがあげられる。定積比熱CV は
CV = ∆Q
∆T =T∂S
∂T =−T∂2F
∂T2 = (∂E
∂T )
V
(8.30) で与えられる。定圧比熱CP は
CP = (∂E
∂T )
P
+P (∂V
∂T )
P
(8.31) となる。理想気体の場合、CP =CV +Rであった。固体の場合、体積の温度変化はほ とんどない。よって、CV ≈CP となり、定積比熱と定圧比熱の区別は重要でなくなる。
第 9 章 統計力学の原理のまとめ
統計力学は粒子の集団的な性質を扱う。その際、集団の性質として 1. エネルギー、粒子数が一定⇒ミクロカノニカル集団
2. エネルギーは多少平均値のまわりに揺らぐ、粒子数は一定⇒カノニカル集団 3. エネルギーも粒子数も平均値の周りで揺らいでいる⇒グランドカノニカル集団 のうちのどれかを仮定する。
• ミクロカノニカル集団
この場合、エネルギーEを一定としてそうしたエネルギー状態を実現する状態の 数Wを勘定する。これより
S =kBlogW
からエントロピーを定義する。エントロピーをエネルギーEで偏微分することに
より 1
T = ∂S
∂E
より温度が定義される。エントロピーを計算するときには、Stirlingの公式 N! =√
2πN NNe−N をよく用いる。N-次元球の体積ΩN の公式
ΩN =
√πN Γ(N2 + 1)
も便利である。また古典的粒子系では状態を計算するのに位相空間での積分
W = 1
(2π¯h)fN!
∫ ∫
· · ·
∫
dp1dp2· · ·dpfdq1dq2· · ·dqf
を用いる(fは系の自由度で3次元空間ではf = 3N である)。積分はエネルギー がEからE+dEの領域でとる。
ミクロカノニカルでははじめにエネルギーが定義され、次にエントロピーが計算 され最後に温度がエントロピーから計算される。それ故、熱力学と異なり取っつ きにくいかも知れないが、非常に少数の原理から物質の諸性質を導けるという長 所がある。
• カノニカル集団
今、系のエネルギーがE1, E2, . . . , Es, . . .と与えられていたとしよう。このときあ るエネルギーEsが実現する確率P(Es)は
P(Es)∝exp (−βEs) , (β = 1 kBT)
である。これはエネルギーEsが高い状態ほど実現しづらいことを表している。こ れがカノニカル分布である。例えばM axwellによる気体分子の速度分布
f(vx, vy, vz)∝exp (−βm⃗v2 2 )
はまさにこの法則を表している。またカノニカル分布でのエントロピーは S=−kB∑
s
PslnPs
• 分配関数Z
カノニカル分布では分配関数Z
Z =∑
s
exp (−βEs)
を考えると良い。古典力学では状態は運動量と座標で指定されるので
Z = 1
(2π¯h)fN!
∫ ∫
· · ·
∫
dp1dp2· · ·dpfdq1dq2· · ·dqfexp (−βE(p1,· · ·, q1· · ·)) となる。この分配関数Zが計算できればヘルムホルツの自由エネルギーF は
F =−kBT logZ
内部エネルギーEは(これはE1, E2,· · · , Es,· · · の期待値) E =−∂logZ
∂β から求められる。また定積比熱CV は
CV =T∂S
∂T
V
=T ∂
∂T (
−∂F
∂T )
V
=kBT ∂2
∂T2(T logZ)
から求められる。カノニカル集団を扱う方が多くの場合、ミクロカノニカル集団 を扱うよりもはるかに簡単である。カノニカル集団の方法はミクロカノニカル集 団のやり方から導出できる。
• グランドカノニカル集団
カノニカル集団では熱浴との相互作用のためエネルギーを固定しないで考えた。
さらに熱浴と粒子までやりとりするのがグランドカノニカル集団である。
今、エネルギーEi,粒子数Niの状態iがあったとする。この状態の実現確率は P(i)∝exp (−β(Ei−µNi))
である。µは化学ポテンシャルである。
• 大分配関数Ξ
グランドカノニカル分布では大分配関数Ξ、
Ξ =∑
i
exp (−β(Ei−µNi))
を考えると良い。粒子数がNのときの分配関数Z(N)が分かっている場合、
Ξ =∑
N
Z(N) exp (βµN) である。大分配関数が計算されると
P V =kBTlog Ξ より状態方程式がもとまり、熱力学が議論できる。
粒子数の平均値< N >は
< N >=kBT∂log Ξ
∂µ から求められる。また内部エネルギーEは
E =µ < N >−∂log Ξ
∂µ
から計算できる。量子力学ではフェルミ統計、ボーズ統計のように状態をしめる 粒子数に制限がある。グランドカノニカル分布はこうした場合に威力を発揮する。
量子統計力学のまとめ
• 1粒子状態数N(E)とは固有エネルギーがE以下の固有値ϵνの数であり、N(E) =
∫E
−∞dE′δ(E′ −ϵν)で与えられる。
• 自由粒子の場合、N(E) =
∫dx···∫
(p2
x+···)/2m≤Edpx···
(2π¯h)d である。(dは次元)
• 1粒子状態密度D(E)はD(E) = dN(E)dE である。
量子統計力学の場合、系をなしている粒子がフェルミオンかボゾンかによって結果が 異なる。
フェルミオン⇒一つの状態に一個までしか入れない。
ボゾン⇒一つの状態にいくらでも入る。
• フェルミオンの場合、状態νを占める粒子の数はフェルミ分布関数
< nν >= 1
exp (β(ϵν −µ)) + 1 =fF(ϵν;β, µ)
となる。フェルミ分布関数は絶対零度(β無限大)で階段関数θ(µ−ϵ)となる。
つまりµ以下はすべて完全に詰まっていてそれ以上は全く空ということである。
絶対零度における化学ポテンシャルの値をフェルミエネルギーϵF と呼ぶ。即ち ϵF =µ(T = 0)
• 通常の金属ではϵF(またはµ)は数eV、温度にすると数万ケルビンなので常温 でもフェルミ分布を考慮することが大切であることが分かる。1eVは約1万度 (1.16×104K)である。
• ボゾンの場合、状態νを占める粒子の数はボーズ分布関数に従う。
< nν >= 1
exp (β(ϵν−µ))−1 =fB(ϵν;β, µ)
• 光子などの質量が0の粒子の場合、分布はµ = 0のボーズ分布、即ちプランク 分布
< nν >= 1
exp (βϵν)−1 =fP(ϵν;β) となる。
• 温度が十分高いと化学ポテンシャルµは0よりもはるかに小さい。このときすべ ての分布は< nν >=Ae−βϵνというボルツマン分布になる。
• 粒子数の平均値< N >、内部エネルギーの平均値< E >は状態密度を使って
< N >=∑
ν
< nν >=
∫ ∞
−∞
dED(E)< nν >
< E >=∑
ν
ϵν < nν >=
∫ ∞
−∞
dED(E)E < nν >
で与えられる。逆に< N >から化学ポテンシャルµの温度依存性が決まる。ま た< E >をT で微分することにより、比熱CV が求められる。
• フェルミ分布関数fF(E)に対してはゾンマーフェルトの公式
∫ ∞
−∞
dEg(E)fF(E;β, µ) =
∫ µ
−∞
dEg(E) + π2
6 (kBT)2g′(µ) +O((kBT /µ)4)
∫ ∞
−∞
dEG(E)
(−∂fF(E)
∂E )
=G(µ) + π2
6 (kBT)2G′′(µ) +O((kBT /µ)4) が成り立つ。例えば、< N >を計算したければ上の式でg(E) = D(E)とすれば よいし、< E >が欲しければg(E) = ED(E)とすればよい。3次元の自由粒子 に対して実際に計算すると、
µ=ϵF (
1−π2 12
(kBT ϵF
)2)
< E >= 3
5N ϵF +π2
6 D(ϵF)(kBT)2
となる。このようにフェルミ分布においては物理量がフェルミエネルギー付近の 性質のみに依存する。こうして求めた比熱は、理想気体の場合に比べてはるかに 小さい。
• 熱力学を議論したい場合は< N >からµを求め、G=µ < N >からギブスの自 由エネルギーを計算すればよい。またpV =kBT log Ξから自由エネルギーから F =G−pV から求められる。
• ボーズ粒子の場合、温度を低くしていると化学ポテンシャルがちょうど0になる。
これ以上化学ポテンシャルは大きくなれないことから、エネルギー0のところに 粒子が縮退する。これがボーズ-アインシュタイン凝縮である。
• 温度などを変えていくと系の性質が全く変わるのが相転移である。相転移は以下 のように分類できる。即ち温度を変えていくと、自由エネルギーの1階微分が不 連続なもの(つまりエントロピーが不連続になるもの)を1次相転移、自由エネル ギーの2階微分が不連続なもの(つまり比熱が不連続になるもの)を2次相転移、
一般に自由エネルギーのn階微分が不連続なものをn次相転移と定義する。
• 氷、水、水蒸気の間の相転移は潜熱を伴う。これはエントロピーが温度の関数と して不連続ということなので1次相転移。磁性体の相転移は一般に2次相転移で ある。先に述べたボーズ-アインシュタイン凝縮は3次相転移である。
• 相転移を特徴づける量として臨界指数がある。例えば強磁性体の磁気モーメント Mは温度を下げていくとある臨界温度TcでM ∝(Tc−T)βのように大きくなる。
また帯磁率χは常磁性から強磁性になるところでχ ∝ (Tc−T)−γのように発散 する。このようなβ, γは臨界指数と呼ばれている。臨界指数は個々の物質に依ら ない普遍的な値をとる。
• 多くの物理量は揺らぎと関係している。演習でやったように比熱はエネルギーの 揺らぎ<∆E2 >に比例している。帯磁率は揺らぎ< ∆M2 >、電気伝導度は電 流密度の揺らぎと関係づけられる。具体的には
C = 1
kBT2 <∆E2 > χ= 1
kBT <∆M2 >
となる。相転移近傍でCやχが不連続になったり発散したりするのは、転移点付 近で揺らぎが大きくなるからである。
第 10 章 Appendix: ζ 関数
ゼータ関数は
ζ(s) = 1 + 1 2s + 1
3s + 1
4s +· · ·=
∑∞ n=1
1
ns (10.1)
で与えられる。これはnが偶数の場合,厳密に計算できる。ここではその値を求めて みる。
そのためにはまず
z(s) = 1− 1 2s + 1
3s − 1
4s +· · ·=
∑∞ n=1
(−1)n−1
ns (10.2)
を求める。ζとzは
ζ(s) = 1
1−1/2s−1z(s) (10.3)
という関係がある。
ここで
z(s) = 1 (s−1)!
∫ ∞
0
dxxs−1e−x(1−e−x+ e−2x−e−3x+· · ·)
= 1
(s−1)!
∫ ∞
0
dxxs−1 1
ex+ 1 (10.4)
より
z(s) =
∫ ∞
0
dx (xs
s!
)′ 1 ex+ 1 =
∫ ∞
0
dxxs s!
ex
(ex+ 1)2 (10.5) となることに注意し,s= 2m(mは0以上の整数)の項に(ik)2mをかけて加える。すな わち
∑∞ m=0
(ik)2mz(2m) =
∑∞ m=0
∫ ∞
0
(ikx)2m (2m)!
ex
(ex+ 1)2 dx
= 1 2
∫ ∞
−∞
∑∞ m=0
(ikx)2m (2m)!
ex (ex+ 1)2dx
= 1 2Re
∫ ∞
−∞
eikxex
(ex+ 1)2dx (10.6)
となる。そこで
J(k) =
∫ ∞
−∞
eikxex
(ex+ 1)2dx (10.7)
を考える。[−∞,+∞]と[−∞+ 2πi,+∞+ 2πi]の積分を引き算して閉じた経路をつく り,留数定理を適用すると
J(k)(1−e−2πk) = 2πiRes eikxex (ex+ 1)2
x=iπ
(10.8) これは2次の特異点を持っているので,(x−iπ)2をかけて,xで微分した後,x = iπ とおけばよい。結果は−ike−πkである。これより
J(k) = πk
sinh(πk) = 1−π2
6 k2+7π4
360k4− 31π6
15120k6 +· · · (10.9) となる。よって
∑∞ m=1
(ik)2mz(2m) = 1 2
πk
sinh(πk) = 1 2
( 1−π2
6 +7π4
360 − 31π6 15120 +· · ·
)
(10.10) となる。z(2) =π2/12, z(4) = 7π4/720, z(6) = 3024031π6 である。(10.3)より
ζ(2) = z(2)×2 = π2
6 , (10.11)
ζ(4) = z(4)× 1
1−1/23 =z(4)× 8 7 = π4
90, (10.12)
ζ(6) = z(6)× 1
1−1/25 =z(6)× 32 31 = π6
945 (10.13)
となる。
第 11 章 過去問
量子統計力学 試験問題
2010年6月4日
1
1次元調和振動子のハミルトニアンは H = p22m +mω2 2 x2 で与えられる。まずは古典力学で,
1. 1粒子あたりの分配関数zを求めよ。
2. 1粒子あたりの自由エネルギーを求めよ。
3. 1粒子あたりの内部エネルギーを求めよ。
4. 1粒子あたりの定積比熱を求めよ。
5. 1粒子あたりのエントロピーを求めよ。
この系を量子力学で解くと固有エネルギーが( n+12)
¯
hωとなる。nは0以上の整数 で,各nごとに状態が一つ対応している。このとき,
6. 1粒子あたりの分配関数z量子力学を求めよ。
7. 1粒子あたりの自由エネルギーを求めよ。
8. 1粒子あたりの内部エネルギーを求めよ。
2
カノニカル分布において以下の公式を証明せよ。ただし、Zは分配関数、Eは内部エ ネルギー、F は自由エネルギー、CVは定積比熱である。なお,念のため与えておくと 分配関数ZはZ =∑
ν
exp(−βEν)
である。(β, ν, Eνはそれぞれ,1/kBT,状態,その状態のエネルギーを表す。⟨· · · ⟩は熱 平均である。)
⟨E⟩=−∂logZ
∂β