第 7 章 揺らぎ 72
8.3 熱力学変数と状態方程式
以下にこの講義で扱う熱力学変数(状態変数)とその微小変化の関係式を復習して おく。
E 内部エネルギー
F 自由エネルギー =E−T S G 自由エネルギー =F +P V Hエンタルピー =E+P V S エントロピー
V 体積 T 温度 P 圧力
µ 化学ポテンシャル
N 粒子数
ρ 粒子数密度
E, F, G, Hの微小変化は以下で与えられる。
dE =TdS−PdV (8.4)
dF =−SdT −PdV (8.5)
dG=−SdT +VdP (8.6)
dH =TdS+VdP (8.7) E, F, G, Hは、場合によって使い分ける。
E 孤立系に適用するとよい。SとV が独立変数。
F 熱浴に接している系に使う。V とT が独立変数。
G T とP が独立変数。
H SとP が独立変数。
熱力学の第2法則、8.2から
dE+PdV ≤TdS (8.8)
が示される。これより、熱力学変数の変化の方向が議論できる。
1. 断熱変化∆Q = 0では0≤dSとなり、エントロピーは必ず増大する。可逆な断 熱変化ではdS= 0となる。
2. dF +SdT = d(E−T S) +SdT ≤dE−∆Q= −PdV である。よって、等温変 化、dT = 0 の場合、dF ≤ −PdV となる。つまり、自由エネルギーを増やした ければ、外からそれ以上の仕事を与えなければならない。
3. 上記から等温、等積変化では自由エネルギーF は必ず減少することがわかる。つ まり何もしないと自由エネルギーはどんどん小さいところに向かっていく。
4. dE = d(G+ST−P V) = ∆Q−PdV ≤TdS−PdV これより、dG+SdT−VdP ≤ 0をうる。すると、等温、等圧下でギッブスの自由エネルギーGは必ず減少する ことが分かる。
熱平衡状態では状態変数がもうそれ以上、変化しない。以上の考察から熱平衡状態 では
S最大 F 最小 G最小
となっている。
次に粒子が定温、定圧下で二つの相の間を行ったり来たりしているとする。粒子を dN加えると自由エネルギーはµdN 増える。例えばギッブスの自由エネルギーは
dG=VdP −SdT +µ1dN1+µ2dN2 (8.9) となる。二つの相で、全粒子数は一定なのでdN1+ dN2 = 0である。熱平衡状態では G, P, T は一定になり、
µ1 =µ2 (8.10)
が得られる。これが相平衡の式である。つまり、二つの相が熱平衡状態にある場合、化 学ポテンシャルは一致するのである。水と氷が0度で共存しているとき、二つの化学ポ テンシャルは等しい。宇宙空間で水素が電子と陽子に乖離していて熱平衡状態になって いる場合、化学ポテンシャルが等しいとして、どれだけ乖離しているかを計算できる。
8.3.1 質量作用の法則
ここで化学反応,
ν1A1+ν2A2+· · ·+νmAm ⇀↽ ν1′B1′ +ν2′B′2+· · ·+νn′Bn′ (8.11) を考える。たとえば,
2H2+ O2 ⇀↽2H2O (8.12)
の場合,ν1 = 2, ν2 = 1, ν1′ = 2で,A1 = H, A2 = O, B1 = H2Oである。右辺を左辺に もってきて,
ν1A1+ν2A2+· · ·+νm+1Am+1+νm+2Am+2+· · ·= 0 (8.13) と書き直す。この場合,νm+i =−νi′, Am+i =Biである。
化学で習った質量作用の法則を化学ポテンシャルを使って導こう。温度,圧力一定 でのギッブスの自由エネルギーの変化は,
dG=
m+n∑
i=1
µidNi = 0 (8.14)
である。Niはそれぞれの相の粒子数である。
dNi =νi×反応過程 (8.15)
であるので(反応の右辺のνi′はここでは負に取る。)
dG= 0 =
m+n∑
i=1
µiνi ×反応過程 (8.16)
となる。よって
m+n∑
i=1
µiνi = 0 (8.17)
である。これが質量作用の法則である。