2.6 実験結果および考察
2.6.1 硫酸ナトリウム溶液中における不働態化挙動
2.6.1.1 硫酸イオン濃度の影響
図2-4に 0.005M、0.05M、0.5Mに調整した硫酸ナトリウム溶液中における分
極曲線測定結果、図3-2に 0.005M、0.05M、0.5Mに調整し、脱気した硫酸ナト リウム溶液中における分極曲線測定結果を示す。
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大気開放条件下では、-1.1V付近における電流密度の急激な上昇が確認できる。
これは水素発生反応によるものであると考えられる。図2-6にステンレス鋼の主 な成分である、Feの電位‐pH図 (Pourbaix Diagram) を示す。電位‐pH図は標 準水素電極を基準とした電位で作成されている。
図2-4 硫酸ナトリウム溶液中における分極曲線 (大気開放)
図2-5 硫酸ナトリウム溶液中における分極曲線 (脱気溶液)
-1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5
10-2 10-1 100 101 102 103 104 105 106
Na2SO
4
0.005M 0.05M 0.5M
Potential, E/V vs. Ag/AgCl/KCl sat.
Current density ,i /µA·cm-2
-1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5
10-2 10-1 100 101 102 103 104 105 106
Deaerated Na
2SO
4
0.005M 0.05M 0.5M
Potential, E/V vs. Ag/AgCl/KCl sat.
Current density ,i /µA·cm-2
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ⓐ, ⓑはそれぞれ水素発生反応、酸素発生反応の平衡電位であり、(4), (5)の式 で表すことができる。
・・・・‥・・・(4)
・・・・・・・(5)
また、ⓐ, ⓑで囲まれた領域は、水の安定領域といわれており、この領域では水 素発生反応及び酸素発生反応が生じない。
-1.1V以下では本実験で用いた溶液の場合、水の安定領域より低い電位である
ことがわかる。このことより、水素発生反応が生じ、電流密度が上昇したと考 えられる。また、-1.0~-0.5Vでは溶存酸素、空気酸化皮膜が還元されたと考えら れる。
脱気溶液におけるカソード反応においても電流密度の急激な上昇が確認でき 図2-6 Feの電位‐pH図 (Pourbaix Diagram)13)
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i
E2 E1 E
O2+2H2O→4OH-+4e
-アノード反応
カソード反応
る。この電流密度の上昇も、大気開放と同様に水素発生反応が生じたことによ る現象であると考えられ、-0.1V付近で空気酸化皮膜が還元されていると考えら れる。
大気開放、脱気溶液ともに-1.5~-1.1Vにおいて、硫酸イオン濃度が高い溶液ほ ど電流密度の値が大きくなっていることがわかる。これは、硫酸イオン濃度の 増加にともない電気伝導性が高くなるためである。
図2-7に硫酸イオン濃度と浸漬電位の関係を示す。大気開放における浸漬電位 は硫酸イオン濃度の増加にともない卑化することがわかった。これは濃度が高 くなるにつれて溶存酸素量が減少するためであると考えられる。溶存酸素量が 極めて少ない脱気溶液においては、浸漬電位に差は見られなかった。浸漬電位 に及ぼす溶存酸素の影響を図2-8の分極曲線模式図を用いて説明する。
1E-3 0.01 0.1 1
-1.0 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0.0
Na2SO4 Deaerated Na
2SO
4
Immersion potential,E/V vs. Ag/AgCl/KCl sat.
Concentration of SO
4 2-,CSO
4
2-/mol·L-1
図2-7 硫酸イオン濃度と浸漬電位の関係
図2-8 分極曲線模式図
4H++O2+4e-→2H2O
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脱気溶液では溶存酸素量が少ないため、大気開放条件下における測定結果と 比べカソード反応が下降する。溶存酸素還元反応は式(6)のように示すことが出 来る。
・・・・・・・(6)
これにより、アノード反応とカソード反応がつり合う浸漬電位が卑化し、大 気開放と脱気溶液における浸漬電位に差異がみられたと考えられる。
図3-5に硫酸イオン濃度と不働態保持電流密度の関係を示す。不働態保持電流
密度は、図3-1,3-2の分極曲線測定結果の0V時点における電流密度の値である。
高硫酸イオン濃度においては、不働態保持電流密度は脱気の有無に影響さ れないが、0.05M 以下の低濃度では溶存酸素が安定な不働態化を引き起こ し、不働態保持電流密度を減少させることがわかった。溶存酸素量が多い 大気開放下ではステンレス鋼中の Cr や Fe との反応性が高いため、安定な 不働態皮膜が生成していると考えられる。低硫酸イオン濃度においては、
不働態皮膜の生成および安定性に硫酸イオンは影響を及ぼさず、溶存酸素 の影響が大きいことが示唆された。
各溶液における不働態皮膜の生成あるいは成長過程を調べるために、0V 定電位に分極した際の電流密度の経時変化を求めた。図 2-10に大気開放下
1E-30 0.01 0.1 1
5 10 15
Current density ,i pass /µA·cm-2
Na2SO
4
Deaerated Na
2SO
4
Concentration of SO
4 2-,C
SO4
2-/mol·L-1 図2-9 硫酸イオン濃度と不働態保持電流密度の関係
0V
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における電流密度‐時間曲線を示す。分極と同時に電流密度は増加し、そ の後減少し一定となる傾向が見られた。硫酸イオン濃度が増加するにつれ 電流密度が増加していることがわかる。これは、硫酸イオン濃度の増加にと もない電気伝導性が高くなるためであり、図2-9 に示した硫酸イオン濃度の影 響と合致する。
図 2-11 に脱気溶液中における結果を示すが、硫酸イオン濃度により若干 電流値は異なるものの、電流変化の傾向、電流値に大きな差異はないとい える。
0 300 600 900 1200 1500 1800
10-3 10-2 10-1 100 101 102 103 104
Time , t / s
0.005M 0.05M 0.5M
Current density ,i /µA·cm-2
0 300 600 900 1200 1500 1800
10-3 10-2 10-1 100 101 102 103 104
Time , t / s
0.005M 0.05M 0.5M
Current density ,i /µA·cm-2
図2-10 電流密度の経時変化 (大気開放)
図2-11 電流密度の経時変化 (脱気溶液)
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図 2-12 に定電位分極時の電気量と濃度の関係を示す。電気量 は図の電流値よ り、式(7)を用いて算出した。ここで は電流、 は時間を示す。
Q = i t・・・・・・・・・(7)
大気開放下における電気量は、硫酸イオン濃度の増加にともない大きくなる ことがわかる。これは、硫酸イオン濃度の増加にともなう溶存酸素量の減少に よるものであると考えられる。脱気溶液ではすべての溶液でほぼ同様の値を示 した。また、算出した電気量すべてが不働態皮膜の生成に費やされているとは 限らない。