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研究課題への回答

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 106-109)

本論文は高齢化社会において持続可能な地方地域を形成するために、集団生活 のための価値創造をする交換への高齢者の参加を促進するサービスシステム理 論を構築することを研究目的とした。研究目的を達成するために、Why、What、 How に関連する3 つの研究課題を設定した。つまり、なぜ高齢者が交換に参加 しないのか、高齢者の交換への参加を促進する価値は何か、どのように高齢者 は一般行為者へと変革するのか、という 3 つの問いに対する回答を得ることで ある。

交換とはコストを支払って報酬を得ることである。一般的には、コストを上 回る報酬が得られるために、数ある選択肢の中から特定の交換が選択される。

したがって、コストは交換への参加意欲を減退させる障壁である。一方で、交 換によって得られる価値は支払ったコストに対する報酬に相当する。したがっ て、本論文では研究課題 1 で高齢者の交換への参加を阻害する参加障壁を明ら かにし、研究課題 2 で高齢者が交換から得られる価値について明らかにする。

また、交換はコストと報酬の関係性によって選択されるため、交換におけるコ ストと報酬が変化することで高齢者の交換に対する状態や行動が変革されると 考えられる。したがって、研究課題 3 で報酬とコストの関係性について明らか にするにより、高齢者の変革プロセスを同定する。本節では、これら 3 つの研 究課題に対する回答を説明する。

研究課題1:なぜ高齢者は交換に参加しないのか

本論文では、高齢者の交換に対する参加障壁を同定することを通じて、研究 課題 1 に回答する。高齢者が交換に支払うべきコストとしての参加障壁を同定 するために、研究 1 として定性的研究と定量的研究による混合手法を用いて研 究を進めた。最初に石川県能美市在住の65歳以上の高齢者に対して聞き取り調 査を実施し、136人から回答を得た。この定性的データに対して、グラウンデッ ド・セオリー・アプローチに基づく分析を行なうことにより、表 7-1 に示す 3 つの参加障壁が高齢者の購買行動への参加意欲を減退させることを明らかにし

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た。さらに、能美市による行政調査の7,531人に関する定量的データを分析する ことによって、3つの参加障壁が購買行動という経済的交換においてだけでなく、

社会活動といった社会的交換に対しても、参加障壁となっていることも明らか にした。加えて、文献調査を実施し、3つの参加障壁が交換への参加意欲を減退 させるという結果が、全国的な傾向であることを示した。

研究課題2:高齢者の交換への参加を促進する価値は何か

本論文では、高齢者が交換によって得られる価値を同定することを通じて、

表 7-1 高齢者の交換への参加に対する3つの参加障壁

参加障壁 意味

ライフスタイル障壁

交換に参加するために生活環境を変更する必要があると高齢者が認知 することで生じる参加障壁。ライフスタイル障壁は、予算制約、時間 制約、家庭環境という3つの下位概念によって構成される。

ケイパビリティ障壁

自身の能力が低いために交換で求められる行動を達成することが困難 であると高齢者が認知することで生じる参加障壁。ケイパビリティ障 壁は、身体的機能の衰え、問題対処能力という 2 つの下位概念によっ て構成される。

心理的障壁

信頼関係を構築できていない相手と交換することに意義を見出せない と高齢者が認知することで生じる参加障壁。心理的障壁は、事業者へ の不信感、参加者との信頼関係という 2 つの下位概念によって構成さ れる。

表 7-2 高齢者の交換への参加を促進する3つの価値

価値 意味

機能的価値 基本的な生活を快適に過ごすための交換から得られる基礎的な価値。

社会関係資本 サービスを通じて新たな人間関係を構築し、社会関係資本を獲得・創造 することによって得られる価値。

情緒的価値 心理的距離感を縮めて共感や信頼を得ることで、交換相手とポジティブ な感情になることによって得られる価値。

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研究課題 2 に回答をする。高齢者が交換から得られる報酬としての価値を同定 するために、研究 2 として移動販売の支援活動を対象に事例分析を実施した。

参与観察で得られたフィールドノートを分析し、表7-2に示すように高齢者がサ ービスから得られる 3 つの価値を明らかにした。高齢者はこれらの価値を得る ために交換への参加を促進している。

さらに、サービスのプラットフォーム要素についても分析した。表7-3に示す 3つのプラットフォーム要素を強化することにより、サービスを提供する仲介者 による社会的支援が形成される。本論文では、この 3 つのプラットフォーム要 素を備えるサービスのことをSPES(Service as Platform for Economic exchange and Social exchange)と呼ぶ。

研究課題3:どのように高齢者は一般行為者へと変革するのか

本論文では、参加障壁とSPESで得られる価値の変化による高齢者の変革プロ セスを同定することを通じて、研究課題3 に回答する。研究 1 と研究 2 の結果 を統合し考察した結果から、高齢者の変革プロセスを示した高齢者変革モデル を構築した(図5-5)。

最初は資源消費するだけの受容者の状態にある高齢者は、仲介者から手段的 支援を受けることによってライフスタイル障壁を低減し、機能的価値を得ると ともに自己効力感を高める。自己効力感を高めた高齢者は、準行為者という状 態へと変革し、交換に参加して資源伝達をするようになる。準行為者に対して、

仲介者が関係構築の社会的支援を提供することで、彼らはケイパビリティ障壁 を低減して、社会関係価値を得るとともに共同体感覚を高める。自己効力感と 共同体感覚を高めた準行為者は、交換で他者のために資源統合する一般行為者

表 7-3 SPESにおけるプラットフォーム要素

要素 内容 効果

市場関係の再構築

サービスが失われた経済的交換の サービス関係を再び結び付けてい ることで価値共創を促進する。

各アクターに対して、サー ビスに参加するインセン ティブを持たせる。

地域資源の集約

サービスがあることによって点在 していた地域の資源が 1 箇所に集 約され、価値共創を駆動する。

各アクターに交換の作法 や態度を共有する。

社会的交換の機会創出

サービスが全てのアクターに対し て経済的交換を超えた社会的交換 の機会を創出している。

アクターが反復する交換 を通じて、他アクターに信 頼感を寄せる。

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へと変革する。一般行為者は仲介者から感情的支援を受けることにより、心理 的障壁を低減させて、情緒的価値を共創する。これにより、他の住民との交換 に対する高齢者の行動規範は、貨幣と財の交換による契約的規範から、他者と 自己の便益(Well-Being)を同化させた利他的規範に基づくようになり、向社会 的行動を促進して、提供者や仲介者としてサービスに参加する。

聞き取り調査データを用いて、個人単位で高齢者が受容者から一般行為者へ と変革する事例を示した。さらに、質問紙調査を実施し、65歳以上の高齢者136 人から回答を得た。この定量的データを用いて共分散構造分析を行なうことに より、情緒的価値、社会関係価値、機能的価値の順で高齢者の交換への参加促 進に好影響を与えることを明らかにした。この結果は、本論文で提案する高齢 者変革モデルを支持するものである。

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 106-109)