1.GLOCOL 共同研究
2008年度より、GLOCOLの新しい研究活動のひとつとして共同研究を発足させた。GLOCOL内部で公募を 行い、外部審査員を交えた公開審査を行い、7つの研究課題を共同研究として採択された。今年度は6つの課題 が継続されている。実施状況と成果は以下の通りである。
1)食糧の安全保障に関する学際的研究:食糧確保のセイフティネットの事例の比較を中心に 実施期間:2008年度~2009年度
[代表者]
上田晶子(GLOCOL特任准教授)
[メンバー]
岸上伸啓(国立民族学博物館教授)
阿良田麻里子(摂南大学外国語学部非常勤講師)
湖中真哉(静岡県立大学国際関係学研究科准教授)
住村欣範(GLOCOL准教授)
中川 理(GLOCOL特任講師)
思沁夫(GLOCOL特任助教)
[趣旨と目的]
食糧の確保は、人間の安全保障に直結する問題である。本研究プロジェクトは、草の根レベルでの食糧 の安全保障を高めるための方策を通文化的に比較検討することにより、人間の安全保障の研究に寄与する ことを目的としている。具体的には、人間の生存の根幹のひとつである食糧確保の問題をとりあげ、世界 各地から事例をもちより、食糧確保の「セイフティネット」として機能しているような社会的な「しくみ」
や草の根レベルの人々の「対処法(coping strategy)」について、学際的に解明を試みる。すなわち、食糧 確保のセイフティネットとして働いているような(あるいはかつて機能していたが現在は破たんしてしま った)システム・制度・慣習等を検証し、比較検討をする。そのうえで、食糧の確保が充分ではない地域 において、セイフティネットのシステムを生かした草の根レベルの食糧安全保障を高める効果的な政策や 援助方法(外部からの介入がそもそも有効かどうかを含めて)、また、セイフティネットが何らかの理由で 機能していない場合における人々の対処法などについても議論を発展させる。
[2009年度の研究実施状況]
平成21年度は、2回の共同研究会を行った。今年度第1回目の研究会では、ロシアのダーチャの例から、
草の根のセイフティネットについて、その歴史と政策の影響を含む多角的な検討を行った。また、第二回 目の研究会では、JICAから国際協力専門員の時田邦浩氏(農村開発)を招き、同氏が携わったカンボジア の農業生産性の向上に関するプロジェクトの経験から、最貧困層への援助と政策のありかたなどについて 検討を行った。
[2009年度の成果の概要]
平成21年度は、草の根レベルのセイフティネットと、政策や援助との関連を中心に検討を行った。その 中で、特に以下の点について議論がなされた。
国家の崩壊や、社会の混乱のなかで、草の根のセイフティネットとしてその効果を発揮したロシアのダ ーチャの例についてもの検討がなされた。国家の崩壊や社会の大きな変化は、人々のコントロールの及ぶ 範囲外のことではあるが、ダーチャはそのような変化の影響が人々の生活に及ぶ際のバッファーをして機 能した。ある意味で、社会主義政策のなかでも、国家の干渉を受けなかったからこそ生き延びたしくみで あり、それは、カンボジアの例との対比のなかでも、読み取れるものであることが、指摘された。
一方で、昨年の成果からも、草の根レベルのセイフティネットでカバーできない部分が存在することが 明らかになっていたが、政策や援助による外部からの介入は、そのような状況にどの様に関わっていくべ きか、またどの様な点に留意すべきかという点について検討がなされた。発表されたケーススタディから は、まず、コミュニティの構成員がまとまっているとは限らないこと、従って、コミュニティのなかでの 意見や利害の違いを十分に考慮すべきことが指摘された。第二に、そのような状況の中でも、政策や援助 に基づくセイフティネットは、弱者に届くような工夫がなされることの重要性と難しさが議論された。こ れは、援助や政策に早急な成果を求める最近の流れの中で、特に難しいバランスを求められる問題である。
2年間の本共同研究の成果は、GLOCOLブックレット「食料と人間の安全保障」として刊行された。
2)日本における司法通訳翻訳教育のための教材開発 実施期間:2008年度~2010年度
[代表者]
津田 守(GLOCOL教授)
[メンバー]
浅野輝子(名古屋外国語大学准教授)
石高真吾(GLOCOL 特任助教)
奥田安弘(中央大学ロースクール教授)
鬼頭良司(法廷通訳人)
キム、ヴィクトリヤ(人間科学研究科博士後期課程)
五島文雄(静岡県立大学国際関係学部教授)
佐野通夫(こども教育宝仙大学教授)
ジャオ、ジェイソン(弁護士)
思沁夫(GLOCOL 特任助教)
関聡介(弁護士、成蹊大学法科大学院教授)
関口智子(東海大学外国語教育センター准教授)
高畑 幸(広島国際学院大学専任講師)
丹マウラニ(通訳翻訳者)
陳 美姫(言語文化研究科非常勤講師)
デ・アルカンタラ、マルセロ(法学研究科講師)
パウエル、リチャード(日本大学経済学部教授)
ペレイタ、マローズ(弁護士)
松野明久(国際公共政策研究科教授)
松本アルベルト(法廷通訳人)
松本 正(言語文化研究科非常勤講師)
萬宮健策(世界言語研究センター講師)
溝上富夫(大阪外国語大学名誉教授)
山本一晴(人間科学研究科博士後期課程)
吉田理加(法廷通訳人)
ルット、インチュラン(ランシット大学日本語学科専任講師)
[趣旨と目的]
司法通訳翻訳教育のための教材開発。
日本の大学・大学院および民間の通訳学校で開講されている通訳コースの多くは、一般的通訳能力の向 上が主眼であるため、各分野に特化した教授法、教材の開発がのぞまれている。今後ますます需要が高ま るとされる司法通訳翻訳の指導および訓練が、より体系的に効率的に行なわれるための教材開発に、昨年 度より着手してきており、それを継続する。
[2009年度の研究実施状況]
昨年度作成した「裁判員裁判に使われる用語や言い回しとその各国語版」を一層充実したものとするた めに、法学者と法律実務家の協力を得て、項目及びその説明文に改訂を加え、さらにその各国語版用の翻 訳を進めた。対象言語は、中国語(繁体字及び簡体字)、韓国・朝鮮語、モンゴル語、フィリピン語、イン ドネシア語、タイ語、ヒンディー語、ウルドゥー語、ペルシャ語、トルコ語、ロシア語、スペイン語、ポ ルトガル語、ドイツ語、英語であった。基本的には、言語毎にサブチームを組みそれぞれで翻訳を進めた。
比較的早い段階で訳了した言語がある一方、2,3の言語では翻訳にあたって様々な困難に直面し、まだ 今年度末を目標に継続して作業を進めているものもある。訳了した言語から、その項目の逆引き索引の作 成作業をした。また、訳者が活用した、ないしは想定する利用者が参照しうる文献リストの作成に取り組 んだ。
なお、DVD教材を、その中国語版から、英語版及び韓国・朝鮮語版に再編集する作業も進めてきたが、
極めてテクニカルな問題のあることが判明した。そういった問題の解決には、技術専門家に依頼をしなけ ればならないが、そのための予算はないため、未だに編集途上におかれている。
[2009年度の成果の概要]
上記の「研究実施状況」に、一定の成果を達成していることを示した。『通訳翻訳のための刑事裁判用語 辞典』(仮題)を、本研究プロジェクトのテーマの内容、分量、言語の多様性多様性などに鑑み、出版物と して刊行すべく、それに向けての編集作業を始めている。
この編集作業をさらに継続し、来年度の早い時期には、出版用原稿の完成と刊行につなげていけるもの と考えている。
3)ベトナムにおける家庭果菜園を利用した栄養ケアとフードセキュリティのモデル構築のための共同研究 実施期間:2008年度~2010年度
[代表者]
住村欣範(GLOCOL准教授)
[メンバー]
Trinh Hong Son(ベトナム国立栄養学研究所栄養教育普及センター副所長)
Phan Ngoc Khai(ベトナム国立タイビン医科大学副学長)
[趣旨と目的]
この共同研究は,ベトナムの農村部において,栄養ケアとフードセキュリティについて改善するための モデル構築を行おうとするものである。特に,2つのテーマに共通する要素として,農家の屋敷地にみら れる果菜園で生産される植物性食品の利用に注目しながら研究を進める見込みである。
この共同研究の調査結果から得られた研究成果は,身近にある植物性食品を利用した,児童と老人の栄 養ケア・教育モデルの構築に生かし,可能であれば,ベトナム医療省に対する政策的提言を行い,全国的 なモデルの普及を目指したい。
[2009年度の研究実施状況]
平成21年度は、研究代表者の住村が、ベトナム側共同研究者のPham Ngoc Khai、Trinh Hong Sonを招へいして、12月3日に、これまでの研究成果を発 表するためのセミナーを行った。セミナーは、「ベトナムにおける『人口の質』
と栄養―タイビンとニンビンの取り組みから」というテーマで、産児制限から 人口の質を問う政策への転換の中で、ベトナムではどのような取り組みが求め られ、人々はそれに対してどのように対応しようとしているのかということに ついて発表した。(詳細はp.106)
また、これまでの研究の過程で、行政だけでなく普通の人々の関心が、栄養 から衛生へと拡大しつつあることが分かった。今後の研究の拡大を考慮して、
11月29日には、GLOCOLシンポジウム「ベトナムにおける食の安全と安心―
現状と専門家の育成」を開催した。(詳細はp.123)
[2009年度の成果の概要]
平成21年度には、8月と3月に研究テーマに関する調査を集中的に行い。12 月には、中間発表的な報告会を行った。この過程で、孤独老人世帯や貧困世帯 への栄養面での支援をどのように実質化するかということが問題になり、議論 を行った。また、屋敷地内の家庭果菜園の利用は、本研究課題が始まる数年前 には活性化していたことが明らかになった。その主たる理由は、「栄養」ではな く、農薬などの「衛生」を求めるものであることも分かった。
これらの研究の過程を通して、1980年代以降の屋敷地内生産地における植物 利用の意味の変遷について大まかな歴史的見取り図を描くことが可能になった。
2010 年の早い時期に、シンポジウムとセミナーの内容に加筆したものを、本研究課題の成果として
GLOCOLブックレットに取りまとめ出版する見込みである。