前章において葉脈黄変菓の発生は,土壌の過湿と棄内のP含量およびCu含量の相互関係にもとづくCu害で あることを確めた.また,第4章・第3節においてリン酸を含む葉面散布剤の6月上旬散布が,梅雨期における
− 74 一
葉脈黄変薬の発現と,それによる落葉を抑制する効果のあることを認めたい 他方,わが国における銅鉱害地域の 銅過剰障害の対策に関する研究(263379・81・82−89・90−105・129′134)によると,石灰および リン酸の多用が鋼過剰の害を軽 減する効果のあることが認められている.
本章では,とくに第4章および第5章の研究のうえ.に,銅鉱害対策としての石灰施用ならびにリン酸追肥の効 果を,土壌過湿にもとづく土壌中Cuの易溶化および棍から吸収されるCuによるCu害とみなされる葉脈黄変菓 の発生抑制に適用を試み,その影響を検討した
Ⅰ 実験材料および方法 A 材料および試験区
10×1,0×04mのコンクリl−ト製角型ポyトに,花こう岩系の水田土壌を入れて植栽中のCampbell s Early
の4年生樹を用い,1972年3月15日に1ポット当たり消石灰500g施用(以下石灰施用土壌という)と,硫黄華 300g施用(以下酸性化土壌という)の2区に分けた… 同時に各ポットに化成肥料(15:15:10)150gずつを施
し,深さ約20cmの深耕を行なったのち潅水した.ついで5月4日に過リン酸石灰(17.5%)250gを2Lの水で 浸出した上澄液を2倍量に腐釈し,潅水をかねてリン酸の追肥を行ないリソ酸追肥区とし,他方は同量の潅水を 行なってリン酸無追肥区とした.さらに5月25日に各ポット当たり硫酸銅粉末10gずつを施し,中耕と潅水を行 な、つた.6月24日より湛水処理を行なうもの(湛水区)と,土壌湿度を適度に保つもの(適湿区)に分けて実験 を始めた.
実験開始前におけるポット中の土壌酸度,葡効性リン酸およびCu含量を調査した結果は,第餌表および第67 蓑のとおりである
第66表 実験開始前供託土壌の酸度
リソ酸追肥前(5月4日) 湛水処理前(6月22日)
pH pH 全酸度
H20 KCl H20 KCl (yl)
石灰施用 リ ン酸追肥 6い80 6.36 6..93 6,.31 0い25
土 壌 リン酸無追肥 6.73 6.28 7‖28 6い71 0..40 酸 性 化 リ ン酸追肥 3,09 2.84 2..53 2,.42 40,.6 土 壌 リソ酸無追肥 3い11 2.84 2…71 2.56 32.5
第67表 実験開始前供試土壌中の有効性リン酸およびCu含量
(6月22日湛水処理前:風乾細土中)
有効性リン酸(P205) N/5HCl溶出のCu N/5KCl溶出の置換性Cu 石灰施用 リ ン酸追肥 38.Omダ/100ダ 78.5ppm
土 壌 リン酸無追肥
9..9ppm 19.7 73 5 13い5
酸性化 リ ン酸追肥 14.7 44.0 24..0 土 壌 リン酸無追肥 8.8 50.2 30い3
すなわち,土壌pHは石灰施用土壌で平均6..5前後であるのに対して,酸性化土壌では2.4〜2小6である..土壌
中の有効性リン酸の含量は,リン酸追肥区ほ無追肥区よりも高い値を示し,とくに石灰施用土壌では酸性化土壌 にくらべて2倍以上の含量を示した.また,土壌中のN/5HCI溶出のC吐合量は,石灰施用土掛こおいて酸性化 土盛上りも高い値を示したが,N/5KCI置換性Cuは逆に酸性化土壌において高い値を示した
ー75−
B 調査項目および方法
(1)新しょう基部葉の薬汁pH
湛水処理開始前(6月22日)と黄変菓の発生時(7月6日)に,新しようの基部菓を採り,葉身および葉柄の 磨砕搾汁のpHを,東亜電波工業KK製のガラス電極pH討(DM−IA型)を用いて測定した・
(2)基部菓の黄変・落葉状態
湛水処理開始時(6月24日)より,新しょう基部菓における黄変実の発生ならびに落莫状態を観察した・
(3)黄変菓発生時のポット内土壌のpHおよびEh
湛水処理のポットに黄変葉の発生がみられた7月4日と7月6日の2回,ポット内土壌または湛水の水につい て,東亜電波工業KK製のガラス電極pH討(DM−IA塑)および同社製酸化還元電位差討(HM−5A塑)を 用いて,pHとEhを測定した
(4)基部案内の要素含量の変化
湛水処理潮台前の6月22日と,湛水処理後の黄変棄発生時の7月6日に・,各区の新しょう基部第1〜4節位葉 を採り,案内の5要素および微量要素含量を分析した.分析試料の調製および分析方法は,前章までと同様の方 法によった
ⅠⅠ実験結果
(1)新しょう基部菓の菓汁pH
6月22日(湛水処理前)と7月6日(黄変菓発生時)に,新しょう基部菓の菓汁pHを測定した結果は,第68 表のとおりである.
第68表 新し ょ う 基部菓の菓 汁pH
湛水処理前(6月22日) 黄変葉発生時(7月6日)
リ ン酸追肥 適 湿 区 3小71 3い94
湛 水 区 3.84 3い91
石灰施用土壌
リン酸無追肥 適 湿 区 3..97 4−√12
湛 水 区 3い78 3.46
リ ン酸追肥 適 湿 区 3.67 3い69
湛 水 区 3い83 3い59
酸性化土壌
リソ酸無追肥 適 湿 区 3,.58 4.11 湛 水 区 3,90 3い97
すなわち,7月6日の測定において適湿区のほうが湛水区よりも高い値を示しているが,石灰施用およびリン 酸追肥の各区周の差は明らかではなく,一・定の傾向は認めがたい…
(2)基部葉の黄変・落葉状態
湛水処理を行なったポットにおける苛変葉の発生は,湛水処理開始後早いものでは7E=]ごろから現われた.
湛水処理開始後12日目にあたる7月6日に,新しょう基部に発生した黄変菓の状態および落葉数を調査した結果 は・第69蓑および第45図のとおりである.また,黄変菓の現われ方を観察すると,第46図に示すとおりである.
黄変葉の発生状態は石灰施用およびリソ酸追肥の有無,湛水処理の有無によって異なる一ノ とくに葉脈黄変其の 発生は,湛水処理区でもリソ酸追肥区はリン酸無追肥区よりも少なく,リソ酸無追肥区でも酸性化土壌よりも石灰
施用土壌のほうが少ない傾向がみられたつまり,酸性化土壌のリン酸無追肥・湛水区において,葉脈黄変菓の
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第69表 黄変棄の発生お よ び落莫状態
(7月6日:新しょう10枚当たり)
葉脈黄変以外の 葉脈黄変乗数 黄変葉数 落 葉 数 適 湿 区
リ ン酸追肥 0 1.4 0
0 21.0 ※
石灰施用土壌 15‖0
リソ酸無追肥 適 湿 区 0..7 27
湛 水 区 1.2 8.8 10.0 リ ン酸追肥 適 湿 区 0 1.4 0
酸性化土壌 湛 水 区 2‖5 10,.0 4.1
適 湿 区
リン酸無追肥 0 1..0 0
9.1 7.5 8..3 注:菓面に少しでも黄変部があるものほ黄変菓数に含めた.
削ま褐斑病による黄変乗数が加わっている…
第45図 湛水処理の各区に発生した黄変菓の状態 C‥石灰施用土壌,S…酸性化土壌,
P…リン酸追肥,刀P…‥リン酸無追肥,
W…湛水処理
発生がもっとも多く認められた
黄変其の現われ方は第46図のようであるが,酸性化土壌においてはやや急速で,明りょうな黄変を示したのに 対して,石沢施用土壌では黄変薬の発現が緩慢で,しかもぼかし状の黄変を示した.
(3)黄変菓発生時のポソト内土壌のpHおよびEh
前項の黄変菓発生時にあたる7月4日と7月6日の2回,各ボブト内土壌のpHとEhを測定した結果は,第70 表のとおりである.
土壌pHについては,石灰施用土壁および酸性化土瑳ともに,各区とも湛水処理前の場合とほぼ同様の憤向を示 し,湛水処理による影響は明らかではない.土壌および湛水の水のEhについては,湛水処理の各区において適湿 区にくらべていちじるしく低い値を示し,還元状態にあることが認められた.
第46図 湛水処理の各区における黄変菓の現われ方
◆ ⊥」上‥‥‥・石灰施用土壌・リン酸追肥湛水区
左(寺.
〝 ・リン酸無追肥湛水区右結1∴酸性化土壌●リソ酸追肥湛水区 〝 ・リン酸無追肥湛水区
第70表 黄変薬発生時のポγト内土壌のpHおよびEh
(7月4日,6日の2回測定平均値)
pH Eh
(H20) 土 壌 湛 水 の 水
適 湿 区 7い11 341い5mv − mV
リ ソ酸追肥
湛 水 区 6い67 66.9 49.2
石灰施用土壌
6..95 326‖0
リソ酸無追肥 適 湿 区
湛 水 区 7い07 95い9 75‖7
適 湿 区 2い65 487..7 リ ン酸追肥 湛 水 区
2.87 105..8 73 3 酸性化土壌
適 湿 区 2..80 487.8 リソ酸無追肥
湛 水 区 3..05 106‖4 68い3
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(4)基部菓内の要素含量の変化
湛水処理前(6月22日)と湛水処理後の黄変菓発生時(7月6日)に,湛水処理区における新しょう基部菓の 菓内要素含量を分析した結果は,第71表のとおりである.
第71表 湛水処理前・後における基部菓の車内要素含量 (乾物中)
N P K Ca Mg Mn Fe Cu Zn
% % % ppm ppm ppm ppm
% % 前 2..17 0.28 1.50 1.65 0..35
80 45 20.0 40 石灰施リ ソ酸追肥 後 1,.90 0.18 0…42 1.59 0い20
55 113 12、.4 24 用土壌 前 1小86 0.15 1..73 1.95 0.31 96 50 17.6 35リン酸無追肥 後 1.64 0.15 0.96 1い04 0 17
76 124 16.0 33 リ ン酸追肥 前 1小98 0.24 1..30 1け83 0.45 118 50 17.6 38 酸性化 後 1,.58 0.18 0.42 0.84 0い22 116 107 11い6 23 土壌 リン酸無追肥 前 1.81 0‖16 1.06 1‖80 0..38 90 70 15.0 35 後 1.57 0.13 0.53 1.25 0..17 104 81 19..2 21 注:前ほ湛水処理前(6月22日),後は湛水処理後(7月6日)を示すすなわち,5要素についてみると石灰施用土壌および酸性化土壌ともに,リン酸追肥の有無にかかわらず湛水 処理によってN,K,Mgの含量を㌧、ちじるしく減少させ,PおよびCaも減少させる傾向がみられる.また,微 量要素のうちではFeが増加し,Znは減少する傾向がみられるが,MnおよびCtlでは必ずしも一∴定の傾向はみら れない.しかし,これらの変化のうちP含量とCu含量について,リン酸追肥の有無の影響をみると,リン酸追 肥区ではリソ酸無追肥区にくらべて,薬内のP含量が高く,湛水処理後のCu含量を低くしている傾向がみられる この傾向ほ石灰施用土壌および酸性化土壌の両名ともに認められるが,酸性化土壌のリン酸無追肥区では,陸水処
理後におけるCu含量が,他の各区にくらべてやや高くなっている.
ⅠⅠⅠ考 察
本実験において石灰施用土壌と酸性化土壌の両者を設けたのほ,プトウの発育と土壌pHとの関係をみるため ではなく,土壌pHの差が結果枝基部某の黄変・落葉に及ぼす影響をみようとしたものであるいブドウの発育に対 する好適pHについての報告や記述は多くみられる(36・42・43,44′45136)が,小林(1958)(44・45)の記述によれほ,土壌 pHが樹体の生長,果実の収量・品質に及はす影響ほ,土壌中のHイオンそのもめの影響よりも,土壌pHの変 化にともなう特殊養分の奄効度が問題であるとしている.このことに関連して本実験の場合に,実験開始前にお ける供試土壌のpHをみたとき,湛水処理前において石灰施用土壌で6.3〜67であるのに対して,酸性化土壌で ほ2.4〜26で強い酸性状態にあった.このようなpHの差異は当然に土壌中における要素成分に何らかの影響を あたえるものと考えられる‖第67表にみられるように実験開始前の供試土壁において,すでに有効性リン酸およ びCu含量の差にあらわれたものと思われる.すなわち,毛効性リソ酸含量はリン酸追肥,無追肥ともに石灰施用 土壌のはうが酸性化土壌よりも2倍以上の含量を示している.土壌中のC11含量はN/5HCI溶出のCu含量では 石灰施用土壌において,酸性化土壌よりもはるかに高い値を示したが,N/5KCI置換性Cuは逆に酸性化土壌に おいて高い値を示した.このように酸性化土壌では土壌中のリン酸と置換性Cuとの相互間にきっ抗的な関係が みられる.PとCllとの関係については前章におけるさし木苗の水耕実験(7りで,リン酸一カリ液と硫酸銅液に挿
したものの葉脈黄変菓の発生に及ばす影響の差にみられたのと同じような関係にあるとみなされる