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I.はじめに一一短期経営成果計算の意義

短期経営成果計算,すなわち,原価と給付による計画計算・統制計算は企業 の給付領域の過程(フロー)と在高(ストック)の意思決定と統制のために有 用な会計情報を提供する会計システムである。1)給付は財または用役の費消に よって製造することができる。その費消額の評価によって原価が生み出され,

販売された給付は収益を生み出す。給付の製造過程に関連する意思決定は原価 と収益に作用を及ぼし,両者の値の差額としての経営成果に影響を及ぼす。

このような短期経営成果計算の課題は,意思決定によって原価と給付に対し ていかなる作用があらわれるかということと, どのようにすればその原価と給 付に対する作用を的確に把握することができるかという点にあると思われる。

短期経営成果計算システムについては直接原価計算との関連で多くの提案が みられる。最近でのとくにすぐれた構想としては ヘ ル (Riebel,P. )の

「相対的直接原価計算

J

(Relative Einzelkostenrechnung),2)ならびに,ラス マ ン (Lasmann,

G . )

の「期間成果計算

J

(Periodenerfolgsrechnung))討をあげ

1)  短期経営成果計算の意義と方法については,本章の付論を参照。

2)  Riebel, P., Einzelkosten . und Deckungsbeitragsrechnung, 2. Auf .lOpladen, 1976  を参照。

3)  Lasmann, G., Die Kosten undErlosrechnung als lnstnlment der Planung und  Kontrolle  in  lndustriebetrieben,  DUsseldorf, 1968.  Lasmann, G., Gestal.  tungsformen der  Kosten. und  Erlosrechnung  im Hinblick  auf  Planungs. und  Kontrol1aufgaben, Die Wirtschaftsp

的 : ル

ngHeft 1/2, 1973, S.  4‑17. 

本章でのラスマンの所説はすべて後者の論文によっている。なお.ラス7 ンの所説 については,すでに,小林哲夫教民の次の文献に詳細な論評がある。同教民稿「短期 成果管理計算の機能と構造」研究年報XIX,神戸大学経営学部.1973年,同教伝稿「原 価計算ンス子ムの諜題と展開」産業経理, 377号,昭和527月号,同教付著「業 績管理原価計算」同文館,昭和49年.124‑137

ることができる。

短期経営成果計算の上述のような課題を達成するためには,原価の把握と計 算にさし、して,原価計算対象(例えば,製品,製品グループ,販売地域,期間) に対して,その原価計算対象の計画と統制にとって関連する原価と給付のみを 帰属計算させることが要請される(これを,原価と給付の計画関連性・統制関 連性の原則という)04)予測計算・意思決定計算,ならびに, これらに関連する処 理統制計算の観点からは,原価計算対象は経営処理それ自体である。したがっ て,この場合,ある原価計算対象については,当該原価計算対象に関する処理 によって直接的にあるいは間接的に変化する原価と給付のみが関連性をもつこ とになる。また,一方,管理計算,および,それらに関連する執行統制計算の 観点からは,意思決定差異と執行差異との分離が重要となる。5)意思決定差異は 上位の統制単位の行動による差異であり,執行差異は当該統制単位の行動にそ の原因がある差異である。

以上のような,計画関連性・統制関連性の原則にもとづいて,短期経営成果 計算のシステム,すなわち,原価と給付による計画計算・統制計算のンステム は設計されなければならないとし、える。したがって,それは弾力的な原価と給 付による計画計算・統制計算のシステムでなければならない。この弾力的短期 経営成果計算システムは,関連する原価と給付,および,関連しない原価と給 付との区分原則によって,発展史的にみて各種のシステムに分類することがで きる。われわれは,これを西ドイツにおける直接原価計算形態の発展として捉 えるのである。剖

西ドイツにおける直接原価計算,ならひに,短期経営成果計算の発展過程を みると,会計上実際に作用する多様な原価作用因,および,収益作用因が考慮、

されなければならないとLづ認識がつねに一貫Lてみられる。伝統的な限界計 画 原 価 計 算 (Grenzplankostenrechnung)の場合には,中心的な原価作用固と

4)  Coenenberg, A. G. (hrsg.), Unfernehrnenschnung,Munchen, 1976, S.  6.  5)  Coenenberg, A. G. (hrsg.), a.  a. 0., S.  6. 

6 ) 本書第I部第I章を参照。

162H 相対的直接原価計算論

して「操業」が取り扱われ,単純に原価を固定原価と変動原価とに分解したの である。しかし,その後たんに

1

つの操業とL、う作用因だけではなく,多元的 な原価作用因,および,収益作周囲を会計ンステムに取り入れようとする要請 が生まれてきた。このような要請に答えるために,多元的な作用因を会計シス テムに取り入れようとしたのがリーベルの相対的直接原価計算であり, リーへ ルの構想を基礎にしたラスマンの期間成果計算である。以下においては,この リーベルの相対的直接原価計算とラスマンの期間成果計算について,短期経営 成果計算,ならびに,相対的直接原価計算の観点から取り上げて検討したいと 思う。

I I .  

リーベルの相対的直接原価計算の検討

リーへルの場合,原価

( K o s t e n )

および収益(E

r l o s e )

は各種の基準によっ て多様な範時に区分されている。原価は一定の基準値

( B e z u g s g r δ s e )

に対する 帰属計算可能性

C Z u r e c h e n b a r k e i

t)によって直接原価

( E i n z e t k o s t e n )

と間接 原価(

G e m e i n k o s t e n )

とに区分される。直接原価は一定の基準値に対して直接 的に帰属計算可能な原価であり,間接原価は複数の基準値に対してのみ直接的 に帰属計算可能な原価である。また,一定の基準値における原価額の原価態様

(  K o s t e n v e r h a l t e n )

によって,原価は変動原価

( V a r i a b l eK o s t e n )

と固定原 価

( F i x eK o s t e n )

とに区分される。

全部原価計算

C V  o l l k o s t e n r e c h n u n g )

においては,原価負担者に対して間接 原価,および,固定原価が配賦される。つまり,間接原価,および,固定原価 は基準値としての原価負担者に対して直接的に帰属計算できないから配賦され ることになる。このような配賦は原価計算システムの説明力を妨げるものであ る。そこで, リーベルは,このような認識から,すべての配賦を行わない原 価の把握,および,原価の算定の構想を相対的直接原価計算として展開したの である。階層的な基準値にもとづく帰属計算システムを設定し,原価と収益の 変動を,基準値の各階層において,配賦を必要としない直接原価(E

i n z e l k o s t e n )

, および.直接収益(E

i n z e l e r l o

田)として直接的に捉えた。この場合,基準値の 階層としては,物的な基準値階層 例えば,製品単位,製造注文,製造形態,

製品グループ,製造部門,生産全体 と,時間的な基準値階層 例えは,

就業時間,日,週,月,四半期,半年. 1年一ーとがある。

以上のような個々の基準値の各階層段階における収益と原価との差額が経営成 果 と し て の 補 償 貢 献 額 (De

c k u n g s b e i t r a g )

で あ る 。 例 え

i i .

単 位 貢 献 額

(  S t u c k b e i t r a g )

は製造および販売された単位について,経営成果がどれほど 変化するかを,単位,注文,製品の各階層において明らかにするものである。

また 1期間のある注文の単位貢献額の合計額は,より上位の階層段階の原価 の補償のための当該注文の貢献額であり, このより上位の階層段階の原価が補 償された場合には,その残額は全体利益に対する貢献額となる。また,期間単 位の補償貢献額は期間間接原価の補償と全体利益の獲得のための貢献額であ る。さらに.補償予算(

D e c k u n g s b u d g e t )

が個々の帰属計算対象,すなわち,

基準値の階層段階におげる原価補償目的や財務計画目的のために設定されなけ ればならない。

以上のようなリーベルの相対的直接原価計算は,事前原価計算,製造プログ ラムの設定,価格決定等の具体的な短期経営成果計算のための有用な会計情報 の提供に役立つのである。

このようなリーべルの思考は,従来の限界計画原価計算システムと比較して,

次のような点において相違するのであるo

(1)原価の収益への帰属計算は「一致性原則J

( I d e n t i t a t s p r i n z i p )

によって行 わ れ る 。 従 来 の 限 界 計 画 原 価 計 算 に お け る 発 生 原 因 原 則

( V e r u r s a c h u n g s ‑ p r i n z i p )

とは異る。一致性原則とは原価と収益とが発生または消滅する,それ 故に両者が一致する特定の意思決定あるいは作用について原価および収益を帰 属計算させることをL、ぅ。経営成果は特定の意思決定および取引,あるいは,

作用因の変化の結果とLて発生する。従って.補償貢献額計算は経営成果の変 化を事前的にも事後的にも明らかにすることができる。

(2)  このような意思決定および作用因に一致する原価および収益を算定するた めに,基準値階層が設定される。

(3)  一致性原則の適用によって,発生原因原則の場合に必要でしかも怒意性を もっ間接原価の配賦を回避する。

164第II部 相 対 的 直 接 原 価 計 算 論

(4) 一致性原則の適用によって,すべての原価が何らかの基準値の直接原価

(  E i n z e l k o s t e n )

とLて把握される。この直接原価は下位の基準値階層に関連さ せると間接原価(

Gemeinkosten)

となる。しかL, より上位の基準値階層にお いて原価を把握することによって,間接原価の配賦はすべて消滅することにな る。それ故に,直接原価は相対的直接原価

( R e l a t i v eE i n z e l k o s t e n )

とよばれ る。

(5)  基礎計算(

Grundrechnung)

と特別計算(

S o n d e r r e c h n u n g )

との区分を 主張し,基礎計算の重要性を明らかにLている。基礎計算としての原価種類計 算,原価部門計算,原価負担者計算において,原価が勘定機構を通じて分類・

集合され,部門間の振替が組織的・制度的に実施される。このような基礎計算 において把握された原価情報にもとついて,各種の計算目的に応じた計算,す なわち,特別計算が行われる。η

1 1

1.ラスマンの期間成果計算の検討

ラスマンは短期経営成果計算一一短期的な計画・統制目的のための原価計 算・収益計算ーーの展開を,鉄鋼企業における技術的・組織的な条件のもとで,

従来の限界計画原価計算の基礎的条件,および,基本構造を合目的に変革した のである。

ラス7 ンは,主として,短期計画の問題,基礎計算の問題を論じるのである が,ここではラスマンの期間成果計算に関する本質的な問題点のみを, とくに 相対的直接原価計算との関連において重要と思われる点を取り上げたいと思

う。8)

(1)原価計算・収益計算の基礎としての作用因分析剖

ラスマンは原価財 作用因システム

( K o s t e n

gU

t e r‑E i n f l u s g r o s e n  ‑S y s ‑ t e m )

により,複数の原価作用因を考え,原価財一作用因関数

(Kos

回延世回

‑ E i n f l u s ‑

7 ) 相対的直接原価計算と基礎計算の関連については.本書第II部第3章第l節を参照。

8 ) 以下のラスマンの所説についての検討は,前掲のラスマンの論文を対象にLている。

9) 

L a s m a n n

, 

G . .  G e s t a l t u n g s f o r m e n  

・ ・ .S.  4 ff. 

grosen ‑F u n k t i o n e n )

によって,計算期間の原価財の計画原価額を決定するの である。

このようなシステムから,一定の計算目的を達成するために必要な原価の帰 属計算が実施されるのである。

次に,このラスマンの原価計算システムと従来の限界計画原価計算との関連 について考える。

1

次的作用因

( P r i m a r eE i n f l u β g r o s e )

が相互に独立して変化する場合に は,作用因限界原価(E

i n f l u s g r o s e n g r e n z k o s t e n )

が発生する。このことは,

従来の限界計画原価計算におけるように,たんなる生産数量(操業)変化にも とづく製品の限界原価だけではなく,多元的な作用因にもとづく限界原価の計 算を意味しており,われわれはこのことを「直接原価概念の相対化ないしは多 様化」と理解することができる。従来の製品あるいは原価負担者の計画限界原 価にもとづく補償貢献額計算のシステムはきわめてまれな場合,つまり,複数 の第

1

次的作用因が作用しないような単純な製造条件・販売条件の場合にのみ 適用可能である。このように,原価を製品比例原価と固定原価とに分解するだ けの従来の限界計画原価にもとづく補償貢献額計算はその適用領域が非常に狭 いのである。

また,ラスマン自身もいっているように,ラスマンの期間成果計算モデルは リーベルの相対的直接原価計算の思考にもとづいて形成されている。リーベル は一致性原則にもとづいて限界原価と限界収益とを意思決定に関連して捉え,

意思決定に関連する原価要素・収益要素のみを計算に入れるという理解を示し ているが,ラスマンはこのような思考を基礎にして彼の期間成果計算モデルを 展開しているのである。このような計算においては,原価についてと同様に,

収益についても「収益一作用因関数システム」が必要であるが,従来,原価の 場合に較べてその展開がなされていないのである。

( 2 )  

数量作用と価格作用の分離10)

従来の原価計算・収益計算では計算の最初の段階において数量と価格とを掛

10)  Lasmann, G., a.  a. 0., S.  7 

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