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着雪先行型のフラッシオーバ実験

ドキュメント内 および着雪特性に基づく雪害対策手法の提案 (ページ 120-128)

Flashover Withstand

3.4 着雪先行型のフラッシオーバ実験

前節では、塩雪害事故の発生した状況を推定するため、課電先行型の実験を実施し た。その中で、雪の導電率が高くなることによるフラッシオーバ電圧の変化が、放電と 漏れ電流による着雪の融解と脱落により説明と評価が難しい点も見られた。そこで、

3.4節では、融雪に伴う落雪の影響を可能な限り排除してフラッシオーバ電圧特性を評 価するために行った、着雪先行型の実験について述べる。

3.4.1 着雪先行型の実験方法

着雪先行型の実験の手順の概要を図 3-21 に示す。着雪先行型の実験では、がいし無 課電の状態で、がいしの一方向から、ブロアの距離約 500 mmを保持して人工雪を吹き 付け、がいしの片面に着雪を発達させた。このときのブロアからの風速は、がいし周辺

で約 12 m/s である。この条件で、ブロアを上下に動かしながら人工雪を吹き付け、着

雪ががいしの笠間を埋め尽くすよう着雪を与えた。がいしの着雪量は、長幹がいしの 笠先端部での着雪厚さが約 5 mmとなるように調整した(図3-22)。がいしから採取し た着雪の密度は、およそ 0.7 g/cm3である。その状況は、2005年新潟下越雪害で見られ た「片面三角状着雪」(第 1章の図 1-15参照)と同様である。着雪を施した後は、速や かに電圧上昇法による電圧の印加を実施した。およそ 3 kV/s の昇圧速度で、フラッシ オーバが発生するまで昇圧した(図 3-21)。これにより、30 s以内の時間で、強制的に フラッシオーバを発生させた。着雪先行型の実験では、試験用変圧器の 1 次側結線を 直列にして、定格 100 kV、100 kVAで用いたが、設備上の都合により、印加電圧の上

限を 80 kV とした。

人工雪の導電率は、180 μS/cm、370 μS/cm、500 μS/cm、660 μS/cm、980 μS/cmの 5 水 準とした。電圧印加前の雪の含水率は、含水率計の検出下限に近い値であり、正確に測 定できないものもあったが、総じてゼロより少し高い程度であったと推測できる。各 回の実験後(フラッシオーバ後)も、課電先行型に比べて着雪の融解は少なく、着雪の 大部分ががいしに付着したまま残った。がいし着雪に不必要な融解熱を与えることな く、フラッシオーバ電圧を求めることができ、フラッシオーバ電圧と着雪の導電率の 影響を調べることができる。各導電率につき、少なくとも 5 回のフラッシオーバ電圧 を求めた。がいしの着雪は、1回の実験ごとに更新した(図 3-21)。漏れ電流について は、課電先行型の実験と同様、供試がいしの接地側 CT(PEASON 110、帯域 1 Hz-20 MHz)を、データ記録装置(Yokogawa 製、DL750、16 bit、帯域 DC-40 kHz)を用い、

1×104 S/sのサンプルレートで波形を記録した。

本研究では、着雪がいしのフラッシオーバ電圧特性を整理する上で、着雪がいしの インピーダンスに着目している。第 2 章の末尾で触れたように、人工雪のインピーダ ンスは、含水率と周波数によって大きく変化する。しかし、50 Hz において評価する場

108

合は、人工雪の誘電正接が 100以上と大きいため、人工雪は純抵抗に近い挙動を示す。

このことから、着雪がいしの商用周波課電実験では、がいしの着雪の 50 Hz でのイン ピーダンスを直流の絶縁抵抗(漏れ抵抗)で代用することとする。着雪先行型の実験に おいては、着雪が完了した後着雪がいし両端の金具間の漏れ抵抗を記録し、その後速 やかに課電を始め、印加電圧を上昇した(図 3-21)。

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Figure 3-21. Schematic diagram of pre-snow-accreting flashover test procedure.

Snow was accreted on the non-energized insulator prior to voltage application. Applied voltage was increased at a constant rate until flashover. Snow was refreshed before each test.

図3-21 着雪先行型の実験における課電および人工雪吹き付けの概要

課電に先立って、無課電にてがいしに着雪を施した。着雪したがいしに対して、電圧 上昇法により課電を行い、フラッシオーバまで一定の昇圧速度で電圧を上昇した。着雪 1回の実験ごとに更新した。

2014 IEEE

K. Yaji et al.: Evaluation on Flashover Voltage Property of Snow Accreted Insulators for Overhead Transmission Lines, Part II, IEEE TDEI, Vol. 26, No. 6, pp.2559 – 2567, December 2014.

Figure 3-22. State of the specimen with pennant-shaped snow accretion just prior to the high-voltage application of the pre-snow-accreting flashover test.

Where t1 and t2 are 40 mm and 5 mm, respectively.

図3-22 着雪先行型の課電実験における供試がいしへの着雪状況

がいしの笠の出張りt1および着雪の厚さt2はそれぞれ40 mmと約5 mmである。

t2 t1

110 3.4.2 着雪先行型のフラッシオーバ電圧特性

フラッシオーバ電圧Eと雪の導電率σ25の関係を図3-23に示す。プロットはEの平均値を 示し、エラーバーはEの標準偏差を示す。曲線はEを累乗関数で近似した平均値はσ25の上 昇と共に低下した。E をσ25 の累乗関数で近似すると式(3-4)のようであり、二乗平均誤差

(RMSE)は7.7 kVであった。エラーバーは Eの標準偏差を示すが、Eの大きさに対して、

標準偏差はおよそ7%から11%の範囲にあり、ばらつきの幅は比較的大きくなっていることが 分かった。

0.15

136 25

E   (3-4)

なお、ここでの近似式のべき乗数は-0.15となったが、この値は、従来知られている一般的な 汚損耐電圧[10,11]における等価塩分付着密度(ESDD)に対するべき乗数13よりもやや小さい 値であったが、実験回数が少ないこととばらつきの大きさを考えれば、ここでのべき乗数は 塩害の汚損耐電圧のESDDに対する値とほぼ同じ水準と考えても構わない。

次に、上記フラッシオーバ電圧のばらつきの原因が、漏れ抵抗とどのような関係があるか 考察する。その第一段階として、着雪がいしの漏れ抵抗Rと雪の導電率σ25の関係を図 3-24 に示す。プロットは、Rの平均値を示し、エラーバーはRの標準偏差を示す。各σ25における R の標準偏差は、Rの大きさに対しておよそ 40%から 80%の範囲にあり、σ25に対するフラ ッシオーバ電圧曲線(図3-23)のEのばらつきよりも6倍から7倍程度大きくなった。この 結果は、電圧印加前においてがいし着雪の形状と導電率をコントロールした場合でも、実際 には着雪密度、着雪重量、含水率など厳密にコントロールするのが難しいパラメータがある ため、Rのばらつきが大きくなることを示していると考えられる。その結果として、Rのばら つきが、Eの大きさを左右したとみれば、Eを評価するときにはσ25よりもむしろRの大きさ 見るべきであろう。このことを検証するため、図3-23のEを図3-24のRの逆数(1/R)で整 理した結果を図 3-25に示す。この場合のEのRMSEは4.8 kV/m であり、σ25で整理したと きの値の60%程度になった。このことから、漏れ抵抗Rに着目してフラッシオーバ電圧を検 討することは、妥当であると考えられる。また、図3-25 の Eを図 3-23と同様の累乗関数で 近似した回帰曲線を図中の実線で示す。この回帰曲線の E は、σ25に対するべき数と同様、

1/R の-0.15 乗に比例して低下した。従来の研究により、冠雪時のがいしの耐電圧は雪の導電

率と関係があることはすでに明らかとなっており、このため雪の導電率を用いたフラッシオ ーバ電圧の整理方法が経験的に多用されてきた[12]。導電率は測定も比較的易しく、感覚的に も簡潔で分かりやすいため、フラッシオーバ電圧を整理するパラメータとしては有用である が、本研究の結果は、これに加えて、漏れ抵抗も有望な指標となることを示唆するものと著 者は考えている。特に、停止した送電線を系統に連結して再送電する場合などは、漏れ抵抗 がその判断材料の一つになるのではないだろうか。

13 一 般 的 に は 汚 損 湿 潤 時 の が い し の 耐 電 圧 はESDDの-0.2乗 に 比 例 す る こ と が 分 か っ て い る 。

111 90

80 70 60 50 40 30 20 10 0

Flashover voltage [kV]

1000 800

600 400

200

Snow conductivity, 25 [S/cm]

RMSE = 7.7 kV

Figure 3-23. Flashover voltage characteristics as a function of snow conductivity of the pre-snow-accreting flashover test.

図3-23 着雪先行型の実験におけるフラッシオーバ電圧と雪の導電率の関係

プ ロ ッ ト は フ ラ ッ シ オ ー バ 電 圧 の 平 均 値 を 、 エ ラ ー バ ー は フ ラ ッ シ オ ー バ 電 圧 の標準偏差を示している。

2 4 6

0.18 2 4 6

18 2 4

Leakage resistance, R [M]

1000 800

600 400

200 0

Snow conductivity, 25 [S/cm]

2014 IEEE

K. Yaji et al.: Evaluation on Flashover Voltage Property of Snow Accreted Insulators for Overhead Transmission Lines, Part II, IEEE TDEI, Vol. 26, No. 6, pp.2559 – 2567, December 2014.

Figure 3-24. Relationship between leakage resistance of snow-accreted insulator and snow conductivity of the pre-snow-accreting flashover test.

Plots represent the mean value of R, and the error bars represent the standard deviation of leakage resistance of R.

図3-24 着雪先行型の実験における着雪がいしの漏れ抵抗と雪の導電率の関係

プロットはRの平均値を、エラーバーはRの標準偏差を示している。

112 90

80 70 60 50 40 30 20 10 0

Flashover voltage [kV]

5 4

3 2

1

Equivalent volume conductivity along the dry arc distance, 1/R [S m]

RMSE = 4.5 kV

Figure 3-25. Flashover voltage characteristics as a function of leakage resistance of the pre-snow-accreting flashover test.

There can be found the reasonable correlation between E and 1/R.

図3-25 着雪先行型の実験におけるフラッシオーバ電圧と着雪がいしの漏れ

抵抗の関係

E 1/Rの間に、累乗関数で示される明確な因果関係が見出された。

113

3.5 まとめ

本章では、154 KV実規模着雪がいしのフラッシオーバ特性を解明するための第一段 階として、33 kV級がいしを用い、人工雪の着雪過程と電圧印加方法を考慮した 2種類 の小規模モデル実験を行った。得られた成果のうち特に重要なものを摘記すると、以 下のようである。

(1) 自然環境下の暴風雪を仮定した場合のフラッシオーバ発生条件は、①局部アーク放 電が発生し、②これがある程度の融雪を促進する状況を経て、③暴風雪が休止する 期間が到来したとき、である。

(2) 汚損湿潤沿面(通常の塩害)のフラッシオーバ現象、氷柱により着氷したがいしの フラッシオーバ現象と、本論文での塩雪害時の着雪がいしのフラッシオーバ現象に は、局部アーク放電伸展において共通点を見出すことができる。すなわち、夏季の 汚損湿潤がいしの表面汚損被膜に形成された乾燥帯、着氷がいしに形成された氷柱 の空隙、そして本研究における着雪の空隙は、それぞれ、電圧分担に不均衡を生じ させるきっかけであり、これらが形成されることで十分高い電圧が乾燥帯や空隙の 両端に印加される。これらの乾燥帯、空隙の長さが小さく、乾燥帯、空隙以外の残 り部分の抵抗が小さければ、そこで局部アーク放電が発弧して、汚損被膜、氷柱、

着雪の沿面において伸展を開始する。これががいし両端を橋絡してフラッシオーバ に至るほど伸展するか否かは、それぞれの現象における沿面の特性に依存して決ま る。

(3) がいし着雪に独特の特徴としては、着雪の厚さは汚損湿潤沿面の汚損被膜に比べて 厚く、熱容量が大きいため、局部アーク放電発生時にも安定した形状を留めやすい。

そのため、汚損湿潤沿面の局部アーク放電に見られる熱的伸展機構や電界的伸展機 構に対して、大きな伸展電圧が得られない状況でも、アークルートの定在化が生じ、

零点付近でも消弧しにくい局部アーク放電を生じうる。

(4) 塩雪害のフラッシオーバでは、着雪の導電率が高いほどフラッシオーバしやすく、

フラッシオーバ電圧は、導電率のおよそ-0.15乗に比例して低下する傾向があるが、

導電率だけでは雪質を十分に表現することができない。より進んだ方法として、着 雪の導電率と、着雪したがいしの漏れ抵抗の測定を併用することにより、フラッシ オーバの危険性を評価することが望まれる。特に、停止した送電線を系統に連結して 再送電する場合などは、漏れ抵抗がその判断材料の一つになるのではないだろうか。

ドキュメント内 および着雪特性に基づく雪害対策手法の提案 (ページ 120-128)