LWC W
2.3 人工雪の生成と複素インピーダンス測定
り立つ X*に対しては、そのアナロジーにより(2-10)式に倣った次の式を導出することが可能 である。
(1 )
s 0
1
1 ( )
X X
X X j
(2-11)式(2-11)の X*を実部 X'と虚部 X"に分離すると、それぞれ次のようになる[17]。
1 0
s 1 2(1 )
0 0
1 ( ) sin
( ) 2
1 2 ( ) sin ( )
2
X X X X
(2-12)
1 0
s 1 2(1 )
0 0
( ) cos
( ) 2
1 2 ( ) sin ( )
2
X X X
(2-13)
ここまでの議論で、本章で用いる解析の準備が整った。以下の節では、人工雪の複素イ ンピーダンス Z*[M L 2 T −3 I −2]の周波数領域での挙動を評価するため、式(2-11)~(2-13) で X* ≡ Z*と置きかえた式、ならびにその論理を用いる(この場合 a(t)と f(t)はそれぞれ 電位差[M L 2 T −3 I −1]と電流[I]である)3。その上で、含水率を変えたときの Z*の変化に ついて検討する。
2.3 人工雪の生成と複素インピーダンス測定
人工雪の作製からインピーダンスの測定までの一連の実験については、全て、電力 中央研究所・横須賀地区にある環境実験室において実施した。
2.3.1 人工雪の生成方法
容積22.7 m3、床面積8.9 m2の環境実験室内の温度を、約-20°Cに保持した状態で、一流体
ノズルを通して霧状の水滴(水温10°C、水圧0.7 MPa、平均粒径60 m)を室内に散布した
(図 2-1)。
あらかじめ導電率を調整した食塩水をタンクに用意しておき、ポンプを用いて規定圧でノ ズルに移送した。ノズルから散布された微細な水滴は、捕集用のネットに付着させた。この 過程は、実際には樹氷形成と同じメカニズムであり、過冷却水滴がネットに衝突して凝固し たものであるが、ネットの上に堆積した人工雪の外観ならびに触感は、自然の雪に近いもの
3 p. 51に お い てDebyeが 想 定 し た の 同 様 に 一 次 遅 れ 系 を 示 すZに 対 し て は 、 式(2-11)を 適 用 す る こ と が で き る 。
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であった。また、海塩を取り込んだ自然の降雪と同様、一様に均一な塩分の分布を持ってい ることが大きな特徴の一つである。本研究では、人工雪に含まれる塩分濃度を、人工雪を融 かした融雪水の導電率により規定する(以下、この導電率のことを人工雪の導電率、あるい は雪の導電率と呼ぶ)。
人工雪の導電率1150 S/cmでは、塩の溶解による凝固点降下はおよそ0.04 °C 4であり、人 工雪を融かした融雪水の凝固点は、純水のそれと大差ない。できあがった人工雪の外観と触 感は、天然の雪(しまり雪5)に似たものである。図2-2は人工雪の拡大写真であり、その粒 径が噴霧水と概ね同等の数 10 μm から 100 μm程度であり、比較的均一な大きさの氷粒が集 まっている状況が確認された。ここでの人工雪の粒子は、国際的な雪の分類コード[1]に基づ く定義では “MMrp”(機械で作製した球状粒子)である。
生成した人工雪は、測定に供するまでの間、乾燥を防ぐためのプラスチック製のボックス に密閉し、冷凍庫内で保管した。
4 塩 化 ナ ト リ ウ ム 水 溶 液 の 凝 固 点 降 下 は 次 式 で 与 え ら れ る 。 溶 液 の 凝 固 点 は 、 溶 媒 の 凝 固 点 よ り も 低 く な る 。 沸 点 の 場 合 と 同 様 、 希 薄 溶 液 に お い て 溶 質 と 溶 媒 の 間 の 相 互 作 用 が 無 視 で き る 程 度 に 小 さ い 場 合 に は 、 凝 固 点 降 下ΔT は 質 濃 度 及 び 溶 媒 固 有 の 定 数 で あ る モ ル 凝 固 点 降 下Kの み で 決 ま り 、 溶 質 の 重 量 モ ル 濃 度 をmと し てT K m で 与 え ら れ る 。 水 に つ い て のKは1.853 Kで あ る[21]。
5 0 ℃ 以 下 で 、 次 か ら 次 へ と 雪 が 積 も る と 、 下 方 の 雪 は 時 間 が 経 つ に つ れ て 降 雪 の 結 晶 型 が 失 わ れ る と 共 に 、 そ の 上 の 雪 の 荷 重 で 圧 密 さ れ る 。 雪 粒 は 丸 み を 持 ち 、 粒 状 や 柱 状 の 小 さ な 氷 の 柱 が 網 目 状 に 繋 が っ た 組 織 の 丈 夫 な 雪 と な る[3]。
54
Figure 2-1. Schematic diagram of the artificial snow production in the climatic chamber.
NaCl solution having a defined conductivity was sprayed in the climatic chamber kept at -20 °C. The mist particle having 60 μm average diameter floated in the atmosphere and hit the snow catching net to become artificial snow particle in a manner of rime formation.
図2-1 環境実験室における人工雪生成の概要
-20 °C に 調 整し た 環 境 実 験室 内 に お い て、 予 め 導 電 率を 調 整 し た 水溶 液 を 平均
粒径 60 μm の霧状にて散布した。霧の粒子は、空中を漂った後に捕集ネットに衝
突し、樹氷の形成と同様の機構で凝固して人工雪となった。
55
Figure 2-2. Close-up photograph of grains of the artificial snow for the impedance measurement.
The dimension of artificial snow particles was approximately several 10 to 100 μm and almost corresponded to that of mist particles. The particles flocculated together and closely resembled fastened snow particle visually exhibited in [3].
図2-2 インピーダンス測定に用いた人工雪の拡大写真
人工雪の粒子の寸法は、噴霧した霧の粒径とほぼ同等の数10 μmから100 μm程 度であり、比較的均一な大きさの氷粒が集まっている状況が確認された。この人工 雪と同様の外観を持つ天然雪としては、しまり雪と呼ばれる形態のものがあり、[3]
ではその状況が視覚的に示されている。
56 2.3.2 複素インピーダンスの測定方法
一般に、1 MHz 以下における雪の複素誘電特性の測定電極系には、平行平板電極系 が用いられる[7-9]。本稿では、一辺が 10 cm の立方体のアクリル容器の側面に、向か い合う一対の厚さ 0.3 mmの銅板電極を挿入し、冷凍庫から取り出した後-3°Cの室内で 休ませた雪を、電極間に密度 0.40 g/cm3で敷き詰めた。
この状態から、電極系全体を 2±1℃の室内に曝露して含水率を高めた。2005年塩雪 害が発生した時[22]には、現場での含水率が明確ではないため、本稿での含水率目標値
は、水野[4]らの値を目安としておよそ15%程度までとした。含水率の測定においては、
熱量式含水率計[23]を用い、上記含水率調整後の値を測定した結果、2.7~14.4%であり、
目標値と概ね一致した。測定時の雪温は概ね 0 °Cであった。
インピーダンスの測定は、インピーダンスアナライザ(Keysight Technologies製、4294A) を用いた。発振電圧500 mVにて、四端子対法による電極間のZ*を測定した(図 2-3)。先に 述べたように、本章での測定周波数は商用周波数から雷過電圧6をカバーするように検討 しなければならない。一般に雷過電圧の波形は、急峻な立ち上がりを持つことが知ら れているが、この時間変化に関して、Bergerら[24]は雷撃電流の観測から、波高値2 kAの 雷撃電流では、波頭長の95%値が1.8 s(負極性)および3.5 s(正極性)になると報告して いる。したがって、波頭長の95%値をtf95 [s]とし、その逆数の1/4が近似的には基本振動周波
数ff95 [Hz]の95%値に相当すると仮定すれば、
95 95
1 f 4
t
(2-14)これに基づいてff95を測定上限の目安とすれば、ここでのインピーダンス測定に関しては高々 数百kHzまでが必要である。ここでは、この点を考慮し、インピーダンスアナライザの掃引 周波数域をログ掃引にて40 Hz~1 MHzとした。測定点数は測定器の上限である801とした。
6 雷 撃 に よ り 発 生 す る 過 電 圧 の こ と を 雷 過 電 圧 と い う 。 波 高 値 ま で の 時 間 が 数μs、 継 続 時 間 が 数 十μs程 度 の 極 め て 急 峻 な 波 形 を 持 ち 、 各 種 の 過 電 圧 の 中 で 最 も 大 き い 過 電 圧 で あ る 。 送 電 線 に 対 し て は 、 現 在 の と こ ろ 雷 に よ る 事 故 を 完 全 に 防 ぐ こ と は 不 可 能 に 近 く 、 あ る 程 度 の 事 故 は 認 め る 設 計 が な さ れ て い る[20]。
57
Figure 2-3. Schematic diagram of the experimental set up for measuring the snow impedance.
The artificial snow including salt was cured in -3 ºC atmosphere, then it was put into acrylic container whose dimensions were 10 cm by 10 cm by 10 cm and that had a pair of copper electrodes facing each other inside. The snow density was 0.40 g/cm3. The impedance analyzer worked in a manner of the four-terminal pair method. The frequency was swept from 40Hz to 1 MHz. The oscillating voltage was 500 mV. The Liquid Water Content (LWC) was varied from 2.7 to 14.4%. The atmosphere was kept at +2±1 °C during the measurement.
図2-3 測定電極およびインピーダンス測定回路の概要
一辺が10 cmの立方体のアクリル容器の側面に、向かい合う一対の厚さ0.3 mm の銅板電極 を 挿入し、冷 凍 庫から取り 出 した後-3°C の室内で休 ま せた雪を、 電極 間に 密 度 0.40 g/cm3 で 敷 き詰 めた 。イ ンピ ーダ ンス アナ ライ ザの 発振 電圧 を 500 mVとし、四端子対法にて測定を実施した。含水率は2.7%から14.4%の範囲で変化 させた。測定中は、室内の温度を+2±1 °Cに保持した。
58 2.3.3 複素インピーダンスの周波数特性
各含水率における複素インピーダンスの実部 Z'、虚部 Z"の周波数依存性を図 2-4 に 示す。パラメータとした含水率を図中に記載した。各含水率における曲線を比較し、含 水率が高いほど、Z'、Z"ともに低下することが確認された。図2-5 は、図 2-4 を複素平 面上にプロットしたものであり、ここでは原点からの距離が最も遠い点が 40 Hz での 値である。円弧は、周波数が高くなるにつれて、1 MHz まで曲線上を移動しながら原 点側の端に近づく軌跡を描いた。含水率を変えたときの影響を見ると、本測定結果は、
含水率が低いほど原点からの距離が大きく、インピーダンスの絶対値が大きくなる傾 向を示した(図 2-5(a))。また、曲線の原点付近を拡大した図 2-5(b)では、低周波数側 の大きい円弧に、高周波数側の小さい円弧が重畳しているのが確認された。この高周 波数側の円弧は、含水率 14.4%では識別しやすいが、含水率 2.7%では低周波数側の円 弧に隠れて見えにくくなった。これらのように測定結果に現れた複素平面上の二つの 円弧は、測定結果が異なる二つの緩和過程を持つことを示している。次の 2.4節では、
この重畳した二つの円弧をそれぞれ単独での円弧に分離する。
59 (a) Real part
(b) Imaginary part
Figure 2-4. The dependence of frequency on complex impedance of the whole electrode system including artificial snow.
Both Z' and Z" decreased with increase in Liquid Water Content (LWC).
図2-4 電極系全体の複素インピーダンスの周波数依存性
含水率が高いほど、Z'、Z"ともに低下することが確認された。
4 6
104
2 4 6
105
2 4 6
106
2
Z' [ ]
101 102 103 104 105 106