5.5 ポリマーがいしの雪害環境への適用性
本項では、再びフィールド観測での着雪特性検討に立ち戻り、2014年度(2014年 12 月~2015年 4 月)、ならびに 2015年度(2015年 12 月~2016年 4 月)に釧路地点で観 測された結果を用いて、強風湿型着雪と弱風乾型着雪の二種類の事象について解析す る。それぞれの事象から明らかとなった特徴を概括し、この二つの着雪形態を気象条 件から分別する。さらに、これら 2 種類の着雪形態で、磁器がいしとポリマーがいし の着雪発達を比較してポリマーがいしの雪害環境への適用性検討を試みる。
(1) 強風湿型着雪事象
2016 年 12 月 16 日から 18 日にかけて、がいしへの顕著な強風湿型着雪が観測され た。強風下では、弱風下に比べて、がいしへの着雪が発達しにくくなる。このため、強 風下では、笠間隔が小さい長幹がいしさえも、笠間が着雪で覆われるほどの事象はそ れほど頻繁には見られない[12]。ところが、当該の事象では、16日 18:00からの 24 時
間で平均 8.4 m/sの強風下で、累計 43 mmに達する降水(雪)が観測され、これによっ
て、懸垂吊り長幹がいしで 5 kg 程度に及ぶ着雪が観測された。この値は、釧路地点 における着雪量としては、観測開始以降 2 年間の中で最大のものであり、当該の着雪 事象は、がいし着雪量の観点から顕著な着雪事象と言えよう。降雪時の気象条件が、着 雪に適した状態で推移したことが、この著しい着雪発達に寄与したものと考えられる。
当該事象における気象条件、降雪導電率、および長幹がいしへの着雪に伴うロードセ ルの荷重の経時変化を図 5-18にまとめて示す。
ネットワークカメラによる各段階の強風湿型着雪様相の概要を図 5-19 に示す。がい しごとの着雪状況の時系列画像を比較した結果、以下のことが確認された。
· 初期着雪段階において、着雪の発達が始まった時刻は、磁器がいし、ポリマーのい ずれも同じである。また、その後の着雪発達段階においても、各時刻における雪の 付着(着雪発達)の有無が、磁器がいし、ポリマーがいしでほとんど違いが見られ ない。このことから、着雪初期および着雪発達に関して、がいし表面の材質による 違いは実用上小さいと言える(図 5-19(a))。
· 着雪脱落過程では、脱落のしやすさにがいしごとの違いが見られる。このことによ り、見た目の着雪量が最大となる時刻は、がいしにより異なる(図 5-19(b)、(c))。
· 磁器がいしは、着雪ががいし表面を滑る傾向があり、着雪発達中にもその一部が落 雪しやすい。特に、耐塩用懸垂がいし、標準懸垂がいしの着雪は、長幹がいしより も頻繁に滑落しやすく、大きな発達を免れる傾向がある(図5-19(c)、(d))。
· ポリマーがいしは、笠のエッジが磁器がいしより鋭く、笠の傾きがほとんど水平に 近いため、着雪は磁器がいしよりも長く残りやすい(図 5-19(d))。
· 耐張吊りでは、懸垂吊りより着雪が滑りやすく、着雪発達中も、着雪が断片的な脱 落を繰り返しやすい。また、ロードセルにより得られた長幹がいしの懸垂吊りと耐
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張吊りの着雪量を比較すると、その最大値は、耐張吊りのほうが小さく、着雪質量 も大きくなりにくい。このことは、強風湿型着雪が、耐張吊りで着雪量が大きくな る弱風乾型着雪(冠雪[13])とは異なる特性を持つことを示している。
· 磁器がいし、ポリマーがいしともに、笠間隔と笠直径がどちらも大きいがいしほど、
笠間の橋絡までに長時間を要することが確認された。
このように、笠間の橋絡に着目すると、これまで磁器がいしの室内着雪実験において 確かめられていたことと同じことが、自然環境下の磁器がいし、ポリマーがいしに対 しても適用できる。また、近年適用が拡大しているポリマーがいしは、設計時の制約 が磁器がいしよりも比較的少ないことから、笠間隔と笠直径を大きくすることによ り、笠間の橋絡を抑制できることが見出され、その形状次第では、各種の冠着氷雪環 境下において、懸垂がいしと同等か、それ以上の性能を期待できること考えられる。
(2) 弱風乾型着雪事象
2016年 1 月 14日の未明から、氷点下での降雪があり、2:30 頃~10:30頃、磁器がい し、ポリマーがいし共に、弱風乾型着雪(冠雪)が認められた。当該事象の期間中にお いては、釧路気象台からの大雪警報、着雪注意報はいずれも発表されていない。本事象 における気象条件の経時変化を図 5-20に示す。2:30 における気温は、氷点よりずっと
低い-7.6℃であり、風速は 1.1 m/sであった。その後、気温は、冠雪がなくなるまで一
度も氷点を超えることなく推移した。その後、降雪イベントの終わり頃に風速 6.8 m/s を記録したものの、大半の冠雪は、弱風~中風に曝された状態で発達した。
がいしから冠雪がなくなるまでのネットワークカメラによる弱風乾型着雪様相を図 5-21 に示す。その特徴は、次のように概括される。
· 着雪が始まった時刻について、がいし形状や材質による顕著な違いは見られない
(図 5-21(a))。
· いずれのがいしでも、冠雪状の着雪が風上側の笠上に発達した。その形状は、前項 に示したとおりであり、がいし形状、材質による違いは見出されない。
· 長幹がいしの耐張吊りと懸垂吊りでは笠間が橋絡した(図 5-21(b))。長幹がいし以 外は、笠間橋絡しなかったが、これは長幹がいしの笠間隔が最も小さいためである。
· 降雪が止んで湿度が急に低下し始めると、いずれのがいしでも、冠雪が昇華して冠 雪が次第に少なくなり(図5-21(c))、着雪のほとんどが消失した(図 5-21(d))。
(3) 「圧密着雪」と「冠雪」
図 5-22は、上記の強風湿型着雪と弱風乾型着雪事象の発生時間帯における降水(雪)
に対する気温、相対湿度の分布である。実線は、道東・オホーツク海沿岸域における
“RHcri(snow)” と“RHcri(rain)” [1]である。
強風湿型着雪発達中の気温、湿度は、“RHcri(snow)” と“RHcri(rain)” で囲まれた領域の中央 部のやや“RHcri(snow)” 側に集中して分布していることが分かる。気温の平均値は0.2℃で
180
ある。文献[1]では、40 年間の気象官署のデータをもとに、二つの判別式ではさまれる 領域は、雨、みぞれ、あるいは雪のどの粒子も状況に応じて降る「混合域」であるとさ れている。当該の事象の分布は、強風・湿型着雪時において着雪が生じやすいとされる 気温、相対湿度の分布と概ね一致する。
一方で、弱風乾型着雪発達中の気温、湿度は、RHcri(snow)から左(低温)側に大きく離 れた分布であり、強風湿型により圧密着雪を生じる条件とは異なる。このことから、こ の事象における降雪は、完全な乾型であったことが分かる。このように、がいしへの強 風湿型着雪と弱風乾型着雪は、異なる気象条件で発生するが、これらは、これまで慣例 的に「圧密着雪」「冠雪」と呼ばれてきたものである。これまでの「圧密着雪」は主に 強風湿型着雪のことであり、同様に「冠雪」は弱風乾型着雪に対応するものである。こ れらは、気温-相対湿度の分布から概ね分別することができる。
また、注目すべきは、強風湿型と弱風乾型いずれの着雪形態でも、着雪開始と発達に 対して、がいし材質による違いは、実用レベルではほとんど見られないことである。ポ リマーがいしの表面には撥水性が備わっているため、磁器がいしより優れた耐着雪特 性を示すのではないかと感覚的には思われることもあるが、観測では撥水性の効果は そのほかの現象に隠れて見られなかった。
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Figure 5-18. The chronological changes of ambient conditions related to high v10
and wet snow that resulted in paced snow accretion on insulators, and snow load to the long-rod insulator observed at Kushiro site on December 16 to 17, 2014.
図5-18 釧路地点での強風湿型着雪(圧密着雪)時の気象要素ならびに長幹が
いしへの着雪荷重の経時変化(2014年 12月 16日~17日)
25 20 15 10 5 0 Wind velocity [m/s]
18:00 2014/12/16
21:00 00:00
2014/12/17
03:00 06:00 09:00 12:00 15:00 18:00
360 270 180 90
0 Wind direction o []
54 32 10 -1-2 -3 Surface temperature, T [℃]
2.0 1.5 1.0 0.5 Precipitation [mm] 0
100 80 60 40 Relative humidity [%]
6 4 2 0
Snow load [N]
800600 400200 0 Solar radiation [W/m2 ]
Maximum velocity Average velocity, v10 Direction
Temperature Humidity
Vertical position Horizontal position
182 (a) 0:00 a.m.
(b) 3:00 a.m.
(c) 6:00 a.m.
(d) 9:00 a.m.
Figure 5-19. Photos of snow accretion growing related to high v10 and wet snow that resulted in packed snow accretion on insulators observed by network camera at Kushiro site on December 17, 2014.
図5-19 ネットワークカメラによる強風湿型着雪様相(2014年 12 月 17日)
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Figure 5-20. The chronological changes of ambient conditions related to low v10
and dry snow that resulted in snowcap on insulators observed at Kushiro site on January 14, 2016.
図5-20 釧路地点での弱風乾型着雪(冠雪)時の気象要素の経時変化(2016
年 1月 14 日)
20 15 10 5 0 Wind velocity [m/s]
00:00
2016/01/1402:00 04:00 06:00 08:00 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 00:00 2016/01/15
360 270 180 90
0 Wind Direction o []
-15 -10 -5 0 5
Surface temperature, T [℃]
2.0 1.5 1.0 0.5 Precipitation [mm] 0
100 80 60 40 Relative humidity [%] 600
400 200 0 Solar radiation [W/m2 ]
Maximum velocity Averaged velocity, v10 Direction
Temperature Humidity
184 (a) 2:30 a.m.
(b) 4:30 a.m.
(c) 8:00 a.m.
(d) 10:00 a.m.
Figure 5-21. Photos of snow accretion growing related to low v10 and dry snow that resulted in snowcap on insulators observed by network camera at Kushiro site on January 14, 2016.
図5-21 ネットワークカメラによる弱風乾型着雪様相(2016年 1 月 14日)