農研機構・北海道農業研究センター
図−1 ダイズ根に寄生したダイズシストセンチュウ
Methods of Distinction of Parasitic Ability of Soybean Cyst Nematode. By Satoshi AIBA
(キーワード:ダイズシストセンチュウ,レース,寄生性,判別法)
ダイズシストセンチュウの寄生性判別法 89
発見され(清水・三井,1985)
,その分布を広げつつあ
る。そのため,国際判別法のレース3
には下田不知系が 有効な個体群と有効ではない個体群の2
系統が存在する ことになり,国際判別法のみではこの二つの系統を判別 することが困難になっている。そこで,我が国では今後 は国際判別法に替わって国内の主要な抵抗性品種に対す る寄生性を判別する新たな方法の開発が強く求められて いる反面,国際判別法の重要性は低下していくことが予 想される。II
下田不知系抵抗性品種に対する寄生性の判別法 上記のように我が国において最も広く利用されている 線虫抵抗性ダイズ品種は下田不知由来であるため,この 系統に対する寄生性を判別する方法が日本におけるダイ ズ栽培では極めて重要となっている。しかし,現在まで に下田不知系に対する寄生性の判別手法として確立した ものは存在しておらず,各研究者が独自の手法と判断で 行っているのが実情である。その多くは国際判別法の手 法を応用したものであり,ここではその一つ(相場,2013)を紹介する。
この寄生性判別法の基本的な考え方は国際判別法に準
じ,抵抗性品種と感受性品種に判別する線虫個体群を接 種して増殖し,それぞれで新たに形成されたシスト数を 計数して両者の比率を求め,その数値によって判別する というものである。判別に用いる基準品種としては下田 不知系抵抗性品種として
ʻトヨムスメʼ,感受性品種はʻエ
ンレイʼを使用した。なお,感受性品種によって線虫の 増殖程度に違いが生じる場合があり,同じ個体群を検定 しても用いる品種によっては数値に違いが生じる可能性 があるため,今回の基準品種と異なる品種を判別に用い る場合は,事前に基準品種と線虫増殖率に違いがないか を確認する必要があるだろう。また,本線虫は増殖に用いる土壌によって増殖率が変 わる場合もあるため,常に同品質の土壌を用いることが 望ましい。そのため,今回は市販の人工粒状培土(クレ ハ粒状培土)を用いた。この培土を
9 cm
ポリポットに 詰めて基準品種を播種し,本葉が出始めたころに判別す る線虫を接種した。接種は土壌から分離したシストを摩 砕して内部の卵を取り出し,卵懸濁液として接種した。1
ポット当たりに接種する卵数の違いによる線虫の接種10
週間後の増殖程度を調べた結果を図―3に示す。この 結果より,接種卵数が多いほど抵抗性品種と感受性品種 での増殖率の差が広がる傾向があるため,増殖程度の違 いがより明確になって判別が容易になると考えられた。ただし,接種卵数を増やすためにはそれだけ多くの線虫 を確保する必要があることと,多量に接種すると線虫が 増えすぎて計数時の負担が増すこと,また線虫による被 害によってダイズが枯死することにより,むしろ線虫の 増殖が抑えられる可能性も想定されるので,
1
ポット当たり
5,000
卵程度を接種するのが適当と思われた。また,発生している地域によっても異なるが,本線虫
は
22
〜24℃の温度で最もよく増殖する。また,高温時
には抵抗性が打破されて抵抗性品種への寄生が増えると いう報告があるため(清水,
1986
),線虫増殖中のダイ
ズは
22
〜24℃の温度内で栽培することが望ましい。な
お,この条件では卵接種後,4週間から
5
週間程度でシ レース1レース2 レース1, 3 レース1, 3, 5 図−2 各県におけるダイズシストセンチュウのレース発生状況
表−1 国際判別法によるレース判別表(GOLDEN et al., 1970)
レース
判別品種 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16
Pickett − + − + + + − − + + − − − + + −
Peking − + − + − − − − + − + + + + − +
PI88788 + + − + + − + − − − + − − − + +
PI90763 − − − + − − + + − + − + − + + +
※着生したシスト数が感受性品種ʻLeeʼの10%以上は+,10%未満は−で表す.
ストが形成され始めるが,さらに
7
週間以降は第2
世代 のシストも形成され始めるため,シスト数が増加し,デ ータに影響を及ぼす可能性がある(図―4)。そのため,2 世代目が形成される前の接種5
週間もしくは6
週間後に ポット内の土壌よりシストを分離し,シスト数を計数す るのが望ましいと思われる。以上の手法によって日本各地より採集した
23
個体群 の寄生性を調査した結果を図―5に示す。感受性品種で形 成されたシスト数を100
とした場合の抵抗性品種のシス ト数の比率で表しており,数値が高いほど抵抗性品種に 対しても感受性品種と同程度の寄生が認められ,その個 体群の寄生性が強いことを表している。今回調査した個 体群では北海道,東北地方および長野県に寄生性の強い個体群が多く,関東地方は寄生性が弱い個体群が多いと いう結果になった。これは下田不知系の抵抗性品種は主 にこれらの地域で栽培されており,関東ではそれほど普 及していないため,抵抗性品種の栽培地域では下田不知 系品種の抵抗性を打破し,これらの品種でも増殖可能な 個体群が発生して分布を広げている可能性が考えられる。
また,寄生性が低い個体群であっても若干の抵抗性品 種への着生が見られるが,いずれも抵抗性品種でのシス ト数が感受性品種の
30%以下となっており,おおよそ
の目安として抵抗性品種で形成されたシスト数が感受性 品種の30
%以下であった場合は抵抗性品種が有効な個 体群と考えられる。また,30%を超えてシストを形成した個体群でも感受 700
600 500 400 300 200 100 0
シスト数
/1ポット
感受性品種 抵抗性品種
0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 接種卵数/1ポット
図−3 接種卵数による形成されたシスト数の(接種10週間後)違い
700 600 500 400 300 200 100
04 5 6 7 8 9 10 11
接種後日数(週間)
シスト数
/1ポット
図−4 卵接種後の日数による形成されたシスト数の差異
(2,000卵/ポット接種)
100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0
北海道 1
北海道 2
北海道 3
北海道 4
北海道 5
北海道 6
北海道 7
山形 1
山形 2
福島 1
福島
2 茨城 東京
1 東京
2 埼玉
1 埼玉
2 新潟 長野
1 長野
2 静岡
1 静岡
2 鳥取
1 鳥取
2 個体群採集地
エンレイ比︵%︶
図−5 各地より採集したダイズシストセンチュウ個体群のʻトヨムスメʼに対する寄生性
ダイズシストセンチュウの寄生性判別法 91 性品種とほぼ同程度のシスト数を形成するものから
60
%程しか形成しないものなど,個体群によって寄生程 度に違いが見られることが明らかとなった。なお,現在は下田不知系抵抗性品種に寄生する個体群 に対しても有効な高度の抵抗性を有する品種の育成が進 められており,既に育種された有望な品種の栽培が始ま っている。これらの新規の抵抗性品種の導入に際して も,発生している個体群の寄生性を判断しながら慎重に 進める必要があると考えられるが,そのためにも下田不 知系のみではなく,新たな抵抗性品種に対する寄生性も 判別可能な手法の確立が今後は重要となるであろう。