岐阜県農業技術センター 植物防疫基礎講座:
植物病原菌の薬剤感受性検定マニュアル2016
褐斑病菌の
QoI
剤感受性検定でAOX
阻害剤に没食子酸 n―プロピル(PG)を使用しているが,本剤は葉かび病 菌のアゾキシストロビン(AZ)感受性検定においても 有効であることを確認している(渡辺,2009)。PG
はジ メチルスルホキシド(DMSO
)にあらかじめ溶解してお く(DMSO 2.5 ml
にPG 212 mg
を滅菌チューブ内で溶 解。以下PG
液。)。AZは,市販の20%製剤(アミスタ
ー20
フロアブル)100μlをメスフラスコで100 ml
にな るよう滅菌水で希釈する(AZ液)。葉かび病菌のAZ
に 対するベースライン感受性(最小生育阻止濃度:MIC
) は1 mg/l
と考えられたことから(渡辺,2009
), AZ
は1 mg/l
の濃度で培地に添加する。200 mlのPDA
培地を 溶解して,60℃以下に冷ましてからPG
液を1 ml(PG
最終濃度:2 mM)
, AZ
液を1 ml(AZ最終濃度:1 mg/l)添加してよく混和し,シャーレに約
30 ml
分注する。な お,対照としてPG
液1 ml
のみ添加した培地を準備する。シャーレはグリッドが入った正方形のものが便利である
(Square Petri Dish,Simport社)。本シャーレ
1
枚で36
菌株が検定できる。また,検定の1
日前に培地を作製し ておくと,菌液を滴下した後の乾燥が速くなるので作業 効率がよい。3 菌叢磨砕液の滴下
前培養しておいたコロニーの先端部分をメスで無菌的 に約
5 mm
角に切り出して,800μlの滅菌水を加えた1.5 ml
容のマイクロチューブ内でペッスルを用いて十分磨砕し,菌叢磨砕液を調製する(図―
3
)。マイクロピペ ットで10μ
lを採取し,AZ添加培地および無添加培地に それぞれ滴下する。グリッドが入ったシャーレは36
マA B
図−1 葉かび病の病斑
A:分生子形成が良好で採取に適する,B:病斑上に寄生菌(矢印)が繁殖して分離に適さない.
図−2 葉かび病菌のコロニー
PDA,25℃,10日間培養後.
図−3 菌叢磨砕液の調製
ペッスルでよく磨砕する.置床時に菌体が沈殿してい る場合には,軽くタッピングして上澄みから採取する
(矢印).
(13)ト マ ト 葉 か び 病 菌 101
スに境界線が設けられており,菌株ごとに各培地平板の 同じ位置に滴下する。多数の菌株を検定する場合には,
菌株の磨砕作業をすべて済ませてから培地に滴下するほ うが効率的である。磨砕液をしばらく放置するとマイク ロチューブの底に菌体が沈殿するため,指で軽くタッピ ングしてから上澄み液を採取するのがコツである(図―
3)。底に沈んだ粗い菌体を採取すると薬剤添加培地上で
まばらに生育が認められることがあり,判定しづらくな る。培地上の菌液がおおむね乾燥したら,25
℃,暗黒下 で10
日間培養する。4 判定方法
AZ
無添加培地で生育が認められ,添加培地で生育しない菌株をアゾキシストロビン感受性,AZ添加培地で も生育する菌株を耐性とする(図―4,口絵③,表―1)。
5 遺伝子診断
QoI
耐性菌は,本剤の作用点であるミトコンドリアの チトクロームbの遺伝子に変異が認められる場合が多 い。耐性変異型として143
番目の推定アミノ酸がグリシ ンからアラニンに置換したG143A,129
番目のフェニル アラニンがロイシンに置換したF129L
のほか,G137R が報告されている(I
SHII, 2010
)。葉かび病菌のチトクロ ームb遺伝子は,I
SHIIet al.
(2001 ; 2009
)のプライマーBccytF(5ʼ―AGAGGTATGTACTATGGATC―3ʼ)お よ び RSCBR2(5ʼ―AACAATATCTTGTCCAATTCATGG―3ʼ)
0 mg/l 1 mg/l
耐性菌 感受性菌
図−4 葉かび病菌のアゾキシストロビン感受性の判定
表−1 トマト葉かび病菌の薬剤感受性検定方法
薬剤
検定培地
菌の接種
方法 培養条件 判定基準
基本培地 薬剤濃度
(mg/l)
アゾキシストロビン
PDA(没食子
酸n―プロピル
2 mM添加)
1
菌叢磨砕液
(10μl)
25℃
10日
生育なし:感受性(S)
生育あり:耐性(R)
チオファネートメチル
PDA
1,10
1 mg/lで生育なし:感受性(S)
1 mg/lで生育,10 mg/lで生育なし:中等度耐性(MR)
1,10 mg/lで生育:高度耐性(HR)
ジエトフェンカルブ 1,100
1 mg/lで生育なし:感受性(S)
100 mg/lで生育あり:低感受性(LS)または耐性(R)
※チオファネートメチル感受性により異なる ボスカリド
YB 1 生育なし:感受性(S)
生育あり:耐性(R)
ペンチオピラド 0.5
トリフルミゾール PDA 100 菌叢 ディスク
25℃
30日
菌糸伸長量が無添加培地の10%未満:感受性(S)
同 10%以上:耐性(R)
a) 薬剤無添加の培地を対照として準備する.
a)
で増幅可能である(渡辺,2011)。ただし,実験条件に よっては,本プライマーセットで増幅されにくいことが あるため,近藤(2014)の報告も参考にされたい。トマ ト葉かび病菌のアゾキシストロビン耐性菌は,これまで 調べた限りすべて
F129L
変異株である(渡辺,2011 ;
近藤,2014)。F129LやG137R
変異株は,G143A変異株 と比較して耐性程度がやや低いことがPyricularia grisea(KIM