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現場で発見された作用から適用拡大へ

イソプロチオラン 殺菌剤から昆虫成長制御剤,植物成長 調節剤,そして環境ストレス耐性付与剤への新たな展開

2 現場で発見された作用から適用拡大へ

フジワンはいもち病防除剤として開発されたが,その 後の様々な特性の発見により,当初は全く予期しなかっ た新しい用途へと展開された。すなわち,従来のいもち 病防除以外に,①いもち病防除を目的に本剤を散布した 圃場のイネ株元が煤で汚れていなかったことから発見さ れたトビイロウンカ増殖(密度)抑制効果(なお,本効 果の発見により殺虫剤スクリーニング法を変更したこと から,本剤をリード化合物としたウンカ類防除剤のアプ

ロードの発見につながった)

,②本剤の育苗箱処理での

良好なイネ苗生育状況の確認が発端となったムレ苗防止 効果(図―

2

)と健苗育成効果(根の伸長および発根促進,

これは新潟県の一農業改良普及所から郵送された

1

枚の 写真が契機であった)

,③本剤を処理した水田でイネ刈

跡後のヒコバエが多い,生殖生長期の下葉枯れが少な い,根張りがよく(図―

3

)根雪後の田起こしが大変であ る等の各地からの声を契機に,

5

年間実施した(公財)

日本植物調節剤研究協会を通じた委託試験で実用判定を 取得した籾の登熟歩合向上効果,④本剤を土壌混和処理 したナシ衰弱樹で樹勢が回復したことを契機に見つかっ た果樹の白紋羽病防除効果,⑤カーネーションに対する 分枝促進効果等の多様な分野に適用拡大されている。そ

の後,前述の③が低温条件下での登熟歩合向上を主対象 としたのに対し,近年問題となっている高温障害による イネの白未熟粒発生等による品質低下を本剤で軽減でき るのではないかとの予測のもと,当社各支店で実施した 現地実証試験で軽減効果が確認できたため,委託試験を 開始し,

2010

年の高温障害年で有効事例を確保して,「高 温登熟下における白未熟粒の発生軽減」にも業界で初め て適用拡大した(図―

4

)。また,新規製剤である水溶液 剤(商品名:ザルート液剤)はキク,カーネーションの 発根促進剤として販売している。

以上のような

PGR

作用はこれまでに確認された現象 や生物検定等から植物の内生ホルモンとの相互作用によ り発現しているものと考えている(大塚・坂,

1991

無処理区 フジワン区

図−2 フジワン粒剤育苗箱処理によるムレ苗防止効果

50 40 30 20 10 0

フジワン粒剤区 無処理区

未熟粒内訳︵

乳白粒 基部未熟粒 腹白未熟粒 その他

図−4  フジワン粒剤処理による白未熟発生軽減効果(日植調委託 試験)

新潟県農業総合研究所作物研究センター(2010年)品種:ʻ新 潟早生ʼ,耕種概要:移植5月7日.出穂:7月22日,処理日:

7月13日.処理量:4 kg/10 a,調査日:8月18日(登熟期)

無処理 品種:ʻ日本晴ʼ

土壌:火山灰土壌 ルートボックス栽培 処理:出穂22日前 4 kg/10 a

フジワン粒剤区

(日農生研1979)

図−3 フジワン粒剤処理による生殖成長期のイネ根部

イソプロチオラン 殺菌剤から昆虫成長制御剤,植物成長調節剤,そして環境ストレス耐性付与剤への新たな展開 113

図―5)。その後,遺伝子レベルでの作用機序解明が進展 し,(国法)理化学研究所・吉田先生ら(2015)のグル ープが

DNA

マイクロアレイによるイソプロチオランの

PGR

作用の解析を行い,イソプロチオラン処理と植物 ホルモン処理との遺伝子発現パターンの比較により,イ ソプロチオラン処理はサリチル酸処理と高い相同性を示 し,また,イソプロチオラン誘導性遺伝子を

mock

処理

の場合と比較すると,タンパクの安定性や還元反応に関 係する遺伝子群が強く反応し,その中にフラボノイド生 合成にかかわる遺伝子(AtMYB4)

,およびアントシアン

やクロロフィルの生合成にかかわる遺伝子(

RHL41

)等 が含まれていることも見出した。このことから,前者に よる紫外線損傷回避,後者による光環境適応等の生理機 能がイソプロチオランの植物成長健全化すなわち環境ス イネ体内の

イソプロチオラン

リグニン生合成阻害 メチオニン

の酸化防止

ムレ苗防止 健苗育成 エチレン 生成促進 徒長防止 サイトカイニン

の活性向上

葉色の保持 下葉枯れの抑制 フェニルアラニンアンモ

ニアリアーゼ活性抑制 オーキシン,ブラシノ

ライドとの共力作用

内生インドール 酢酸の増加

未熟種子中サイト カイニン含量増加

クロロフィルの 酸化分解防止

α―ナフチルアミン 酸化力,酸性フォス ファターゼ活性増加

細胞伸長

シンク活性向上 根の活力増強

光合成能増加

登熟促進・登熟向上 根の生長促進・

引き抜き抵抗増加

吸収能・水分 含量増加 気孔開度増加 ATP含量増加

蒸散量増加

転流促進 老化防止

図−5 イソプロチオランとイネの生理作用の関係(イメージ図)

イソプロチオラン 殺菌剤

ピラフルフェンエチル 除草剤 ブプロフェジン

殺虫剤

構造最適化 マロチラート

肝臓薬

ラノコナゾール

ルリコナゾール 抗真菌薬

COOPr―i CS2 COOPr―i

COOPr―i COOPr―i

Cl

Cl S

S

COOPr―i COOPr―i S

S

O

N N

S N

NC SMe

NMe Cl N

S S

CN

N N

Cl Cl

S S

CN

N N

Cl

Cl OCHF2

CH2CO2Et F

O N N

Me フジワンケミストリー

図−6 フジワンケミストリー

トレス耐性に寄与していることが示唆された。近年では 福井県立大学・仲下先生ら(

2015

)のグループがシロイ ヌナズナのエチレンシグナル欠損株やジャスモン酸シグ ナル欠損株を用いた解析結果から,イソプロチオランに よるシロイヌナズナ根部伸長促進効果はエチレンとジャ スモン酸シグナルのクロストーク関与によることを明ら かにしている。

さらに,フジワン乳剤は極早生品種の温州みかんの高 温障害である着色障害に対する果皮着色促進剤として

2012

年より委託試験を開始して,2015年に実用性判定 を得ており,新しい分野への拡大も積極的に行っている。

このように,一つの化合物が植物の病害虫防除以外に 広範囲の植物成長調節剤分野に適用された農薬はこれま でに例を見ない(図―6)。

なお,イソプロチオランそのものは牛の脂肪肝改善剤 として「フジックス」の商品名で,さらには,本剤から 合成展開された類縁化合物は肝硬変治療薬や水虫治療薬 として医薬分野で販売されている。

III

今後の展望,植物成長調節剤から環境ストレス 耐性付与剤を目指して