• 検索結果がありません。

盲僧の檀家法要の実例

ドキュメント内 盲僧による琵琶付法要の構成と音楽 (ページ 92-101)

第 3 章 盲僧の宗教活動(法要)

第 2 節 法要の構造

2. 盲僧の檀家法要の実例

次に盲僧の檀家法要の実例について、寺院法要と同様にその次第と構成を見ていく。こ こでは、玄清法流の《荒神祭り(祓い)》を 3 例取り上げる。常楽院法流では、筆者が調査 した限りでは、基本的に琵琶を弾く檀家法要を定期的に行うことはなくなっているという。

2-1 玄清法流

本章の第 1 節で既述のとおり、玄清法流の主な檀家法要は《荒神祭り》、もしくは《荒 神祓い》である。調査した檀家法要は図表 4 のとおりである。はじめに、祭壇の作り方な ど、準備の様子を説明し、次に法要の次第を見ていきたい。

図表 4 現行の檀家法要の実例(福岡県内と長崎県内)(星野和幸作成)

福岡 県内

【実例2-1】《荒神祭り》 城戸清賢(福岡県糟屋郡篠栗町、妙音寺住職)

2012年3月6日、同行した1軒の檀家(篠栗町内)。〈星野 2012d〉。

長崎 県内

【実例2-2】《荒神祓い》 坂本宗研(長崎県松浦市今福町、大漸院住職)

2012年3月4日、同行した檀家(今福町内)の4軒中1軒。〈星野 2012c〉。

【実例2-3】《荒神祓い》 吉田良祥(長崎県平戸市生月町、明法院住職)

2012年3月3日、自坊で檀家法要を想定した実演に同席。〈星野 2012b〉。

2-1-1 福岡県内の盲僧

【実例 2-1】 《荒神祭り》

福岡の実例として、【実例 2-1】の城戸清賢の檀家85における《荒神祭り》の例を見る。

この檀家には、台所に荒神棚がある。城戸は、荒神棚の真下にある机の上に、祭壇を設け、

その場に座り法要を行った。

城戸は、法要を行う装束(改良衣という略式の法衣に、輪袈裟を着用)で檀家に赴き、到

85 城戸は「荒神檀家」と呼んでいるが、ここでは他の実例と合わせ、「檀家」という用語 で統一している。

82

着すると、机の上には既に檀家の人によって、塩、御神酒、米、ローソク、線香が用意さ れていた。城戸は祭壇の準備に取りかかる前に、まずは仏間へ赴き、仏壇に向かい木魚を 用い、読経をしていた。城戸によれば、これは《荒神祭り》を行なう前にその檀家の仏壇 に祀られている本尊、もしくは先祖への挨拶といった意味合いがあるそうである。

次に荒神棚のある台所で敷物を敷き、持参の竹を適当な長さに切り、檀家の人から書道 用の半紙をもらい、御幣を切る。そして御幣を竹に付け、お札と共に祭壇に供えるという 手順で準備をし、準備時間は 15 分程であった。法要の準備から法要が全部終わるまでは、

基本的に檀家の人は、城戸にすべてを任せ、その場から席をはずすこともあった。

以下の図表 4-1 は、城戸が行なった《荒神祭り》の法要の次第である86。全体で三座に 分けて行われたが、途中、第二座の前と第三座の前でそれぞれ 5 分程の休憩をとっていた。

ちなみに、琵琶を用いるのは第二座のみなので、その前の休憩中に楽器を取り出し、調弦 を行ない演奏の準備をした。また、第二座が終わるとすぐに楽器を片付けていた。

写真 4 城戸清賢の《荒神祭り》の様子(2012 年 3 月 6 日 星野和幸撮影)

86 城戸にチェックをしていただいた際に、本人の希望で演目の一部を変更している。

83

図表 4-1 城戸清賢(福岡県内)の《荒神祭り》の次第と構成

(〈星野 2012d〉より星野和幸作成)、(所要時間各座 25 分、計 75 分)

〔一座「開闢の座」〕 *は天台宗の一般的な経典を載せた『台宗課誦』に収録されているもの。

次第(演目) 楽器 要素(宗) 出典 備考

前置 部

〈三宝荒神真言〉 なし 盲僧

〈懺悔文〉* なし 天台他 〈華厳経巻第四十〉

(大正蔵 10 p.847A)

「護身法・前方便・御幣加持」 金剛鈴87 天台他 『十八道法』

〈六根清浄の祓い〉 錫杖 盲僧 不明

〈表白〉 錫杖 天台他 諸真言 なし 天台他

主題 部

〈金光明最勝王経堅牢地神 品第十八〉

金剛鈴 盲僧 〈金光明経堅牢地神品〉

(大正蔵 16 p.440A)

部 分 的 に 金 剛 鈴を振鈴。

後置 部

〈荒神宿之文〉 なし 盲僧 〈稲荷心経〉の冒頭部分。

「祈願」 (諸真言含む) 錫杖 金剛鈴

盲僧

〔二座「中の座」〕

次第(演目) 楽器 要素(宗) 出典 備考

前置 部

〈總礼伽陀〉 金剛鈴 錫杖

天台他 〈法華三昧運想補助儀〉

(大正蔵 46 p.456A)

はじめに金剛鈴 を振鈴。

〈三礼〉* なし 天台他 〈華厳経浄行品〉

(大正蔵 9 p.430C)

〈如来唄〉 なし 天台他 〈勝鬘経真実義功徳章〉

(大正蔵 12 p.217A)

「祈願」 なし

〈三宝荒神真言〉 なし 天台他・盲僧

87 金剛杵と呼ばれる柄に鈴を取り付けたもので、密教儀礼(第 3 節(1)を参照)で振って鳴 らす。

84

〈荒神宿之文〉 なし 盲僧 〈稲荷心経〉の冒頭部分

主題 部

〈仏説大荒神施与福徳円満 陀羅尼経〉

琵琶 盲僧 不明

(修験聖典 p.51)

〈般若心経〉* 金剛鈴 錫杖

天台他 〈摩訶般若波羅蜜多心経〉

(大正蔵 8 p.848)

金剛鈴を部分的 に振鈴。錫杖を 部分的に振る。

〈聖不動経〉* なし 天台他 不明(修験聖典 p.32)

後置 部

「諸真言」 錫杖 天台他

〈本覚讃〉 金剛鈴 天台他 〈金剛頂瑜伽最勝祕 密成仏隨求即得神變 加持成就陀羅尼儀軌〉

(大正蔵 20 p.645A)

最後に金剛鈴を 振鈴。

〔三座「結願の座」〕

次第(演目) 楽器 要素(宗) 出典 備考

前 置部

〈発願〉 金剛鈴 天台他 〈秘鈔問答〉の一部 (大正蔵 79 p.544B)

『十八道法』「決 定 成 就 乃 至 法 界 平等利益」

〈地神和讃〉(冒頭部分) 錫杖 盲僧 不明〈仏説地神陀羅尼 経〉より

部分的に、錫杖を 振りながら読経。

〈開経偈〉* なし 天台他 不明

主題 部 主題 部

〈十如是〉* 金剛鈴 天台 〈法華経方便品〉

(大正蔵 9 p.5C)

部分的に、金剛鈴 を振鈴。

〈自我偈〉* 錫杖 金剛鈴

天台他 〈法華経寿量品〉(偈) (大正蔵 9 p.43B)

部分的に、錫杖、

もしくは金剛鈴を 振りながら読経。

〈神力品〉* 錫杖 金剛鈴

天台他 〈法華経神力品〉

(大正蔵 9 p.51C)

錫杖を振りながら 読経。部分的に、

金剛鈴を振鈴。

85

〈金剛寿命陀羅尼〉* 錫杖 天台他 〈金剛寿命陀羅尼〉

(大正蔵 20 p.578B)

部分的に、錫杖を 振りながら読経。

〈消災吉祥陀羅尼〉* 錫杖 天台他 〈吉祥陀羅尼経〉

(大正蔵 19 p.337C)

〈観音経〉(偈)* 金剛鈴 天台他 〈法華経普門品〉(偈) (大正蔵 9 p.57c)

部分的に、金剛鈴 を振鈴。

後置 部

〈三宝荒神真言〉 なし 盲僧

「無障碍法」(諸真言含む) 錫杖 天台他 『十八道法』

「祈願」 金剛鈴 最後に金剛鈴を振

鈴。

藤井と横道の説に従えば、各座のいずれも、前置部、主題部、後置部の三部分と見るこ とができる。各座とも経典読誦の部分を供養、すなわち主題部と捉えれば、前後はそれぞ れ前置部、後置部とすることができる。第一座では、供養のために読まれる経典〈金光明 最勝王経堅牢地神品第十八〉を主題部とし、その前に唱えられる諸真言までを前置部、そ の後に唱えられる〈荒神之宿文〉からを後置部と捉えている。第二座、第三座でも、経典 読誦の部分(第二座では〈仏説大荒神施与福徳円満陀羅尼経〉から〈聖不動経〉までの部分、

第三座では〈十如是〉から〈観音経〉までの部分)を主題部と捉えている。

一方、法要全体が三座からなり、城戸によれば、それぞれの座を「開闢の座」、「中の 座」、「結願の座」と呼ぶこともあるそうなので、この呼称を生かせば、3 つの座をそれ ぞれ前置部、主題部、後置部として三座まとめて 1 つの法要として捉えることもできる。

2-1-2 長崎県内の盲僧

【実例 2-2】 《荒神祓い》

長崎の実例として、【実例 2-2】の坂本宗研と【実例 2-3】の吉田良祥の実例を見る。但 し、【実例 2-3】の吉田の実例は、吉田の自坊である明法院において、予め祭壇の準備を した状態で法要を見せてもらったので、準備の様子は檀家で行った【実例 2-2】の坂本の 実例で見てみたい。

坂本の檀家は、玄関を入って右側に座敷がある。坂本はその座敷の机に祭壇を設け、床

86

の間に背を向けて、玄関に向かって座り、法要を行う。坂本によれば、そのように座敷で 玄関に向かって行うのは、座敷からその屋敷全体の祓いをするという意味合いがあるそう である88。坂本は、作務衣姿で檀家に赴き、到着すると、座敷の机の上には既に檀家の人 によって、供え物、玄関先には御幣を付けるための細長い竹が準備されていた。供え物に は、塩、御神酒、洗米、ローソク、線香 3 本、ガラス瓶 2 本があった。

坂本は、まず玄関先から外に出て、竹を適当な長さに切り、次に再び座敷に戻り、持参 の障子紙で御幣を切った。そして、御幣を竹に付け、ガラス瓶に挿し、お札と共に祭壇に 供えるという手順で準備をした。準備時間は、15 分程であった。法要の準備から全部終る までは、基本的に檀家の人は、坂本にすべてを任せ、その場から席をはずしていた。坂本 は、祭壇の準備が終わると、法要を行うために、改良衣に着替え、輪袈裟を着用し、琵琶 の調弦を行なった。

以下の図表 4-2 は、坂本の行なった《荒神祓い》の法要の次第である。全体で二座に分 けて行われたが、途中、第二座の前で 2、3 分の小休憩をとっていた。ちなみに、この小休 憩中にも琵琶の調弦を行っていた。

写真 5 坂本宗研の《荒神祓い》の様子(2012 年 3 月 4 日 星野和幸撮影)

88 ちなみに、吉田の場合も、座敷で玄関に向かって祭壇を設けていた。また、吉田の自坊 の玄関には荒神棚があった。

87

図表 4-2 坂本宗研(長崎県内)の《荒神祓い》の次第と構成

(〈星野 2012c〉より星野和幸作成)、(所要時間各座 15分、計30分)

〔一座〕 *は天台宗の一般的な経典を載せた『台宗課誦』に収録されているもの。

次第(演目) 楽器 要素(宗) 出典 備考

前 置部

〈宝号〉 りん 盲僧 「南無三宝大荒神」。

〈三礼〉* 鈴 天台他 〈礼法華経儀式〉

(大正蔵 46 p.956C)

「祈願」 鈴 〈宝号〉、諸尊の真言

を含む。

〈六根清浄ノ大祓〉 鈴 盲僧 不明

〈般若心経〉* 鈴 天台他 〈摩訶般若波羅蜜多心経〉

(大正蔵 8 p.848)

主題 部

〈仏説大荒神施与福 徳円満陀羅尼経〉

琵琶 盲僧 不明

(修験聖典 p.51)

〈金光明最勝王経堅 牢地神品第十八〉

琵琶 盲僧 〈金光明経堅牢地神品〉

(大正蔵 16 p.440A)

途中まで。

〈十如是〉* 琵琶 天台他 〈法華経方便品〉

(大正蔵 9 p.5C)

後置 部

「諸真言」 琵琶 天台他 〈地天・日天・荒神真言〉

「祈願」 琵琶

〈三宝荒神真言〉を含 む。

〔二座〕

次第(演目) 楽器 要素(宗) 出典 備考

前置 部

〈宝号〉 鈴 盲僧

〈荒神経 三宝大荒神之祝〉 琵琶 盲僧 不明 和文。

「ノウマクサマンダボタナンギャバ ギャバサンサンウンパッタソワカ」

琵琶 盲僧

〈三宝荒神真言〉 琵琶 盲僧

ドキュメント内 盲僧による琵琶付法要の構成と音楽 (ページ 92-101)