• 検索結果がありません。

寺院法要の特徴――天台宗的要素

ドキュメント内 盲僧による琵琶付法要の構成と音楽 (ページ 103-106)

第 3 章 盲僧の宗教活動(法要)

第 3 節 法要の構造に見られる特徴――儀礼形式と使用演目から

1. 寺院法要の特徴――天台宗的要素

盲僧が行う寺院法要の天台宗的要素を指摘するにあたり、まず基本的な天台宗の法要の 儀礼形式を見ておきたい。天台宗は真言宗と並んで密教系の宗派であるため、読経を重要 視する「顕教儀礼」の他に、秘密の修法を重要視する「密教儀礼」という儀礼形式がある。

天台宗の法要では、これらの 2 つの儀礼形式について、優劣をつけず、対等に扱うという 特徴がある。

2 つの儀礼形式は、法要の次第を見ることで、区別することができる。以下では、2 つの 儀礼形式について、天台宗の法要を概説した文献(木内 1983: 31-64, 西郊 2002: 18)をも とに確認し、その上で実際の次第例(「在家勤行儀」と「光明供葬送作法」)を見ることに したい。

1-1 天台宗の儀礼形式

天台宗の顕教儀礼は、読経を儀礼の中心に据えるもので、常用される法儀に、「法華懴 法」と「例時作法」の 2 つがある。法華懴法の中心部は、〈法華経〉を読誦して、「発露 懺悔89」することを目的とする仏教儀礼である。一方、例時作法は、念仏や〈阿弥陀経〉

を唱えて、阿弥陀仏の極楽浄土へ往生することを目的とした法儀である。なお、これらの 顕教儀礼は、朝課(朝のお勤め)では法華懴法を、晩課(夕のお勤め)では例時作法を基本と するため、「朝懴法、夕例時」、もしくは「朝題目、夕念仏」と呼ばれることもある。

89 犯した罪を隠さずに明らかにして悔いること(『精選版 日本国語大辞典』小学館)。

93

秘密の修法を重要視する密教儀礼とは、主に導師が行う『十八道法』という修法に基づ いて行われる。『十八道法』とは、仏を迎えて供養する過程で行う 18 種の 印いんげい契(印、印 相とも)からなる作法のことである。この作法の中で、導師は印を結び、口に真言などを唱 え、心に仏を念じるのである。儀礼の流れから、大きく分けて 6 つの場面からなり、1 つ 目は行者自身の身口意を清める「荘厳行者法」、2 つ目は諸尊を迎えるために地を固め、

柵を設け安全な場所を確保する「結界法」、3 つ目は道場を建立し、荘厳する「荘厳道場 法」、4 つ目は供養対象を迎えに行かせる「召請法」、5 つ目は供養の準備をする「結護法」、

6 つ目は蓮華座に諸尊を迎え供養をする「供養法」からなる。密教儀礼の主要な法要とし ては、胎蔵界、金剛界の曼荼羅を本尊とする「曼荼羅供」や、火天はじめ諸天をも勧請し、

本尊にむかって行なう「護摩供」がある。

参考までに、天台宗で一般的に行われている、実際の顕教儀礼と密教儀礼の次第例を見 ておきたい。以下の図表 5 では、これまでと同様に法要の次第を藤井と横道の説に従って 3 部分に分けて挙げている。

図表 5 天台宗の次第例(木内 1983 と藤井 1992 を参考に星野和幸作成)

顕教儀礼の次第例(「在家勤行儀」)

(木内 1983: 57-59)より。

密教儀礼の次第例(「光明供葬送作法」)

(藤井 1992: 283-284)より。

前 置部

〈三礼〉

〈懺悔文〉

〈三帰三竟〉

〈開経偈〉

入式場

〈列讃〉

導師登礼盤(大衆平座)

〈着座讃〉

〈法則〉(〈表白〉『十八道法』)

主題 部

経段(朝課では〈般若心経〉、〈妙法蓮華経如来 寿量品偈〉〈妙法蓮華経観世音菩薩普門品偈〉

〈妙法蓮華経如来神力品〉。晩課では〈妙法蓮 華経如来寿量品偈〉〈阿弥陀経〉

〈観経文〉、念仏随意(晩課のみ。

「光明供修法」(『十八道法』)

〈九条錫杖〉

〈随方回向〉

導師降礼盤

「引導作法」

誦経(〈妙法蓮華経如来寿量品偈〉)

〈念仏〉もしくは、〈光明真言〉

94 後置

〈回向〉 〈回向〉

退出式場、出棺

まず、図表中の左側に挙げた顕教儀礼の次第例を見ていく。この次第例は、在家用であ るが、藤井によれば、顕教儀礼の基本である「朝題目、夕念仏」を簡略化したものである(藤 井 1992: 80)。そのため、一般に多く紹介されている大寺院で行われる法要の次第例より は、その構造を把握しやすいので挙げることにした。

顕教儀礼の基本に照らし合わせれば、朝と夕で唱える経典を変えている点が挙げられる。

つまり、朝課では〈法華経〉(〈妙法蓮華経如来寿量品偈〉、〈妙法蓮華経観世音菩薩普門 品偈〉、〈妙法蓮華経如来神力品〉)が中心となり(法華懴法)、晩課では〈阿弥陀経〉と念 仏が中心となる(例時作法)。

構造を見ていくと、経段、つまり経典読誦の部分が法要全体の中心となり、主題部とい うことになる。この主題部を基準として、その前を前置部、後を後置部とすることができ る。実際に前置部は、迎える仏への挨拶である〈三礼〉で始まり、その後は、仏への帰依 の誓いといった内容になっている。後置部の〈回向〉は、法要の締めくくりの演目である。

次に、図表中の右側に挙げた密教儀礼の次第例を見ていく。この法要の次第例は、天台 宗の僧侶が在家の人に対して行う葬式の次第例である。ここで葬式の例を挙げるのは、葬 式の次第例は、誰でも接する機会があることから、密教儀礼の次第例として一般に最も多 く紹介されており、便宜的に「在家勤行儀」ともセットで紹介されることもあるからであ る。

密教儀礼の基本に照らし合わせれば、導師の修法(『十八道法』)が見られるという点で ある。図表 5 の次第例では、法要の趣旨を唱える〈表白〉にあたる「法則」と「光明供修 法」にあたる。『十八道法』に基づく「光明供修法」で、阿弥陀仏を迎えて供養すること により、故人を浄土へ導くという流れになっている。

構造を見ていくと、導師の修法である「光明供修法」の部分からが中心となるので、ま ずこの部分からが主題部ということになる。そして先を見ると、「引導作法」によって、

故人を浄土へ導き、誦経と念仏、もしくは〈光明真言〉によって成就を祈念するところま でが主題部となる。前置部は、「光明供修法」の前の〈表白〉にあたる「法則」までとな る。後置部は、法要の締めくくりの演目である〈回向〉からということになる。

95 1-2 盲僧の寺院法要に見られる天台宗的要素

以上、天台宗の法要の儀礼形式を見てきたが、実際にこれまで挙げた盲僧の寺院法要の 実例(図表 3-1~7、図表 4-1~3)に照らして見てみたい。まず、寺院法要であるが、図表 3-1(【実例 1-1】)、図表 3-2(【実例 1-2】)は、天台宗の 2 つの儀礼形式(顕教儀礼と密教 儀礼)に注目すれば、基本的に導師による修法(『十八道法』)が行われていることから、密 教儀礼である。既に述べたように、図表 3-1(【実例 1-1】)、図表 3-2(【実例 1-2】)は、

天台宗の一般寺院でも行われている法要であり、演目はすべて天台宗の演目であるので、

盲僧が所属する天台宗の法要に則っていることは、確実である。また、図表 3-6a,7 (【実 例 1-6,7】)も密教儀礼である。この場合、導師が単独で行う修法は〈表白〉だけなので、

密教儀礼であるかどうかを判断することが困難であるが、「堅牢地神秘密供養法」という

『十八道法』に基づく修法を法要全体にわたって同時進行で行っているため、密教儀礼に 位置付けることができる。なお、「堅牢地神秘密供養法」の要の部分は、法要の主題部に あたる〈釈文〉+〈十二楽〉の演唱と演奏が同時進行している。

過去の実例である図表 3-3~5(【実例 1-3~5】)は、『十八道法』は行われておらず、主 題部にあたる経段、つまり読経の部分がメインとなっているので、顕教儀礼である。また、

〈伽陀〉、〈三礼〉(〈華厳経浄行品〉より)、〈七仏通戒偈〉は、顕教儀礼で唱えられる 演目であるので(横道,片岡 1984、天納,岩田他 1995)、そこから判断することもできる。

ドキュメント内 盲僧による琵琶付法要の構成と音楽 (ページ 103-106)