第二章 日本法
第三節 目本法における制度の主要立法目的の調整
一
訴訟管理権限分配メカニズムの停止 1 形 式 的 提 訴 講 求 手 続日 本 法 に お い て も ア メ リ カ 法 と 同 様 に 、 株 主 が 代 表 訴 訟 を 提 起 す る 前 に 、 提 訴 請 求 を し な け れ ば な ら な い (I日商法 267条 1項 ニ 会 社 法 847条 1項)。当該手続の基本的 目 的 も ア メ リ カ 法 と 同 様 に 、 権 利 主 体 で あ る 会 社 に 対 し 訴 訟 を 提 起 す る か 否 か の 判 断 の 機 会 を 与 え る た め で あ る と 考 え ら れ て い る5580当該手続の内容は以下の通りである。
ま ず 、 提 訴 請 求 の 宛 先 に つ い て は 、 ア メ リ カ 法 で は 取 締 役 会 で あ る の に 対 し て 、 日 本 法 で は 責 任 追 及 の 対 象 に 応 じ て 異 な る 。 す な わ ち 、 原 則 と し て 、 代 表 取 締 役 が 会 社 の 営 業 に 関 す る 一 切 の 裁 判 上 の 又 は 裁 判 外 の 行 為 を な す 権 限 を 有 す る が (I日商法 261 条 3項t 会 社 法 349条 4項)、その特則として、会社と取締役との間の訴訟に関して、
監 査 役 が 会 社 を 代 表 し 、 代 表 訴 訟 の 提 訴 請 求 を 受 け る こ と に な っ て い る (I日商法 275 条ノ 4=会 社 法 386条 2項 1号)。したがって、取締役の責任を追及する場合は法文上 明 確 に 監 査 役 と さ れ て い る が559、 監 査 役 の 責 任 を 追 及 す る 場 合 は 代 表 取 締 役 で あ る と 一 般 的 に 解 さ れ て い る560。 ま た 、 委 員 会 設 置 会 社 の 場 合 、 原 則 と し て 代 表 執 行 役 が
商事法務 1470号 14頁 (1997)。
556前掲注 (422) と注 (423)で挙げた経済界や自民党の提案以外に、例えば、南隅基秀
「株主代表訴訟の原告適格一一代表の適切性と行為時所有の原則一…j 法学政治学論究 32 460頁 (1997);西脇敏男・金融・商事判例 836号48頁 (1990);北村・前掲注 (5) 50 頁;高橋均『株主代表訴訟の理論と制度改正の課題~ 328頁(同文館、 2008)。
557小林・前掲注 (444);小林=原・前掲注 (444) 306頁・南隅・前掲注 (556) 455民 ;
橋・前掲注 (556) 324頁;周剣龍「株主代表訴訟 J W会社法施行 5年 理論と実務の現 状と課題Jジュリスト増flJ30頁(有斐鶴、 201)1 0
558江頭・前掲注 (447) 456真。
559なお、業務監査権限を有する監査役が存在しない場合、すなわち、!日商法時代では、
商法特例法上の小会社と有限会社については、取締役会又は株主総会の定める者(I日商法 特例法24条 1項2項)、社員総会が定める者( I日有限会社法 27条ノ 2)が取締役・会社 間の訴訟代表権を有-するとされていた。しかし、代表者が予め定められていることはほと んどなく、そのような場合についての扱いに関する規定もないため、問題となった(典型 的な事例として、最判平成 5年3月30日金融・商事判例 949号3頁)。これらの会社形態、
を株式会社に一本イとした 2005年新会社法は、非公開会社(全株式譲渡制限会社)で、旦 つ、非大会社について、監査役が設置されない場合、会社・取締役掃の訴訟において、取 締役会ないし株主総会が任意で代表者を定めることができるが(会社法 364条、 353条、) 代表者が定められていない場合は原則に戻って、代表取締役が訴訟代表権を有し、提訴請 求の宛先になる。相津哲口百井裕介 f株主総会以外の機関J相津・前掲注 (489) 103頁。
560前田庸『会社法入門(第 12版)~ 511頁(有斐閥、 2009)。しかし、被監督者である取 締役に監替者である監査役を訴える権限を付与していいのかについては若干疑問に思うO
側 113‑
切の代表権を有するが(会社法 420条 3項)、取締役・執行役と会社との間の訴訟に ついては砿査委員が提訴請求を受ける(会社法 408条 3項 2号)。このように、
追及の対象者と提訴請求の宛先をなるべく同一にさせないように設定されている。こ のような立法上の工夫は役員相互間の仲間意識に起因する提訴憐怠の可能性をなるべ
く減らし、会社経営陣による実質的な提訴要否の判断を期待しているといえる。
また、提訴請求を受ける者が実質的な判断をするためには株主が何を問題にしてい るかを最低限知る必要があるため、新会社法は、その提訴請求書の記載事項の明確化 を図り、提訴請求書には①被告となるべき者、②諒求の趣旨及び請求を特定するのに 必要な事実といった最低限の記載を要求している(会社法施行規則 217条)。
さらに、「会社として訴訟を提起すべきか否かを慎重に判断させるJ 561ために、 2001 年の商法改正で会社の考慮期間を 30日から 60日に延長した(ただし、 60臼の経過に より会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合には、株主は直ち に提訴できる) (会社法 847条 3項 5項。)
以土のように、自本法は提訴請求の宛先、提訴請求書の記載内容、会社の考慮期間 についてさまざまな工夫をして、会社自身による訴訟の提起を保障ないし促進しよう としているO しかし、会社が提訴しないときは、抹主が提訴できるという条文の
(会社法 847条 3項)からも明らかなように、会社が提訴しない理由は不問であり、
つまり、会社の不提訴判断がまったく尊重されないことになっている。したがって、
日本法では、提訴請求手続があくまでも形式的なものであり、訴訟管理権限の分配メ カニズムとして機能することが予定されていない。会社が白ら訴訟を提起しない限り、
訴訟管理権限は優先的に株主に与えられている。この形式的な提訴請求手続を反映し て、原告株主による問手続の履行に椴疫がある場合に、当該訴訟を却下すべきかどう かという問題に対する裁判所の態度は寛容である。すなわち、確かに、この手続を厳 格に解する裁判例もあるが562、緩やかな態度をとる裁判例も少なくない563。また、
561太田誠一ほか「企業統治関係商法改正法Q&Aj商事法務 1623号 13頁 (2002)。
562大阪地判昭和 41年 12月 16日ジュリスト 422号 135頁は、株主が提訴請求をせずに 代表訴訟を提起し、会社が提訴の事実を知った後 30日を経過した場合でも、提訴請求 続に関する取庇は治癒されないと半IJ示した。
東京地判平成 4年 2月 13日判例タイムズ794号 218頁は、取締役の責任を追及する訴 において、株主が当初誤って代表取締役に提訴請求書を還付し、 30日経過後に代表訴訟を 提起した後に改めて監査役に提訴請求をして、初日経過したときでも、その取疲は治癒さ れないと判示した。
大阪地判平成 11年9月 22日判例タイムズ 1046号 216頁は、取締役でも監査役でもあ った被告の責任追及について、株主が代表取締役に対して監査役としての責任追及を求め る提訴請求をしたが、取締役としての責任追及を求める提訴請求を監査役に対して行わな かった場合、取締役としての責任を追及する代表訴訟は不適法であり却下すべきであると 判示した。
大阪地半IJ平成 12年 9月 20日判例タイムズ 1047号 86頁は、取締役を退任して監査役 に就任した被告の寅任追及について、抹主が同被告に対して取締役としての責任追及を求
幡 114‑
説 に お い て も 、 厳 格 に 解 す る 見 解564に 対 し て 、 会 社 は そ の 裁 量 に よ っ て 代 表 訴 訟 の 提 起 を 阻 止 で き な く 、 重 要 な 意 味 の 手 続 で は な い し 、 会 社 が 提 訴 請 求 に 応 じ て 自 ら 取 締 役 の 責 任 追 及 の 訴 え を 提 起 す る こ と は 希 有 の 事 態 で あ る な ど の 理 由 で 、 こ の 手 続 を 厳 格 に 解 す る 必 要 が な い と 解 す る 怠 見 も 多 い565。もっとも、この手続を厳格に解しでも、
株 主 が 改 め て 提 訴 請 求 手 続 を 履 践 し て 代 表 訴 訟 を 提 起 で き る た め 、 せ い ぜ い 2 か 月 間 ほ ど の 提 訴 の 遅 延 を 招 く だ け で あ っ て 、 無 益 な 訴 訟 を 阻 止 す る こ と が で き な い 。 2 新 会 社 法 上 の 不 提 訴 理 由 通 知 制 度 の 意 義
従 来 、 会 社 が 株 主 か ら の 提 訴 請 求 を 受 け て 提 訴 し な い と 判 断 し た 場 合 、 株 主 に 対 し て通知する必要はなかったが、2005年会社法では、不提訴理由通知書制度が新設され、
会社は、株主の提訴請求を受けた日から 60日 以 内 に 責 任 追 及 等 の 訴 え を 提 起 し な い 場 合 に お い て 、 当 該 請 求 を し た 株 主 又 は 責 任 追 及 の 対 象 と な る 取 締 役 等 か ら 請 求 を 受 け た と き は 、 当 該 請 求 を し た 者 に 対 し 、 遅 滞 な く 、 責 任 追 及 等 の 訴 え を 提 起 し な い 理 由 を 書 面 ま た は 電 磁 的 な 方 法 に よ り 通 知 し な け れ ば な ら な い ( 会 社 法 847条 4項)。不 提 訴 理 由 通 知 書 の 作 成 者 に つ い て は 明 確 な 規 定 が な い が 、 提 訴 請 求 を 受 け る の は 監 査 める提訴請求をした場合、形式的には提訴請求の要件を具備しているが、実震的には同被 に対する提訴の要否を同被告自身に判断させることとなり、提訴請求を要求する商法の 趣旨に照らし、提訴請求を行ったと評価できないとして、手続上の取雄は治癒されないの で、同被告に対する訴えのうち取締役としての責任を追及する部分については不適法であ
り、却下を免れないと判示した。
563東京地判昭和 39年 10月 12日判例タイムズ 172号 226頁は、株主が提訴請求をして 30日の経過を待たずに代表訴訟を提起した場合、後に会社がその訴訟手続に参加した時は、
提訴議求手続に関する取疲は治癒されると判示した。
大阪地判昭和 57年 5月25日判例タイムズ 487号 173頁は、原告が取締役に対して提 訴請求をなされるべきところ、監査役に対してなされたが、提訴後改めて会社に対する提 訴請求を行い、 30日以内に会社が訴えを提起しなかった場合には、手続上の暇疲は治癒さ れると判示した。
大阪地判平成 12年5月31日判例タイムズ 1061号 246頁は、株主が単に会社を宛名と する提訴請求書を会社従業員に手渡したとしても会社の判断機会が保障されているという べきであるとして、訴えを却下しなかった。
大阪地判平成 12年6月21日判例時報 1742号 141頁は、原告が代表取締役に対して提 訴請求なされるべきところ、監査役に対してなされたが、会社が被告取締役に補助参加し ているため、その責任を追及する意思のないことを表明しているものと認めるべきである
として、手続上の取疫は治癒されると半Ij示した。
大阪地判平成 16年 12月22
B
,*J例タイムズ 1172号 271頁、大阪高*, J平成 18年6月9 日朝j伊i
タイムズ 1214号 115頁は、監査役であった者に対する責任追及の訴えにおいて、法定の提訴請求の宛先でなかった監査役に提訴請求書を送付し、 4提訴後に改めて提訴請求 を代表取締役に送り、会社が 60日間を経過しでも訴えを提起しなかった場合には、
続上の取疲は治癒されると判示した。
564例えば、近藤光男「最近の株主代表訴訟をめぐる動向(下 )J酪事法務 1929号 41頁 (201)1 ;吉本健一「判批」商事法務 1434号 (1996);大隅口今井・前掲注 (434) 275
565例えば、西尾幸夫「判批」判例タイムズ臨時増刊 975号 180頁 (1998);北沢・前掲 注 (447) 371真・深見芳文「判批J商事法務 513号 14頁 (1970);戸塚登「判批」商事 法務 437号 12頁 (1968)。
欄 115柳