第 三 章 中 国 法
第 一 節 中国法における株主の代表訴権の確立
一
株 主 代 表 訴 訟 制 度 の 立 法 沿 革1 1993年 会 社 法 と 取 締 役 等 の 責 任 追 及 制 度
新 中 国 が 建 国 さ れ た 以 降 、 国 民 党 政 府 時 代 の 法 律 が す べ て 溌 止 さ れ 、 私 営 企 業 は 計 画 経 済 体 制 の 実 施 に 伴 っ て ほ と ん ど 消 滅 し て し ま い 、 国 民 経 済 は 国 有 企 業 及 び 農 村 部 の 集 団 所 有 制 企 業 に よ っ て 支 え ら れ て い た し か し 、 こ の よ う な 体 制 の ド で は 国 民 経済の発展が頓挫してしまった。このような奇景の下で、 1970年 代 末 に 改 革 開 放 政 策 が 実 施 さ れ る よ う に な っ た 。 対 外 の 開 放 は 国 際 貿 易 や 外 国 投 資 の 積 極 的 な 誘 致 を 中 心 内 容 と す る6370 方 で 、 対 内 の 改 革 は 国 有 企 業 の 経 営 効 率 化 を 中 心 に 行 わ れ て き た 。 当 初 は 「 放 権 譲 利 J ( 地 方 政 府 や 企 業 に 経 営 権 限 を 委 譲 し 利 溜 の 留 保 を 認 め る こ と ) と い う 改 革 路 線 の ド で 、 企 業 の 岳 主 的 経 営 権 の 拡 大 や 経 営 請 負 責 任 制 を 主 要 形 態 と す る 国有企業の改革が始まった。そして、 1993年 11月 に 開 催 さ れ た 中 国 共 産 党 第 14期 3 中 全 会 で 、 有 限 会 社 と 株 式 会 社 を 組 織 形 態 と す る 現 代 的 企 業 制 度 の 確 立 が 中 国 国 有 企 業 改 革 の 方 向 だ と 正 式 的 に 決 定 さ れ た6380
の直後、 1993年 12月 に 新 中 国 初 の 統 品 会 社 法 が 公 布 さ れ 、 翌 年 の 7月 か ら 施 行 さ れ た 。 こ の よ う な 立 法 背 景 の 下 で 制 定 さ れ た 会 社 法 は 国 有 企 業 の 改 革 を 推 進 す る と い う 立 法 目 的 を 強 く 反 映 し て い る639。 こ れ に 加 え て 、 株 式 会 社 制 度 の 利 用 経 験 が ま だ 浅 く 、 立 法 経 験 も 当 然 乏 し い た め 、 株 主 と 債 権 者 の 保 護 と い う 会 社 法 の も っ と も 重 要 な 立 法 課 題 が 重 視 さ れ ず 、 多 く の 立 法 上 の 不 備 が 指 摘 さ れ て い る6400 株 主 に よ る 経 営 監督の角度から見ると、 1993年 会 社 法 ( 以 下 、 出 会 社 法 と 略 す ) は 一 株 一 議 決 権 の 原 良11を 確 立 し て い る が (106条 1項)、株主 641に 以 ド の 三 種 類 の 監 督 是 正 権 し か 与 え て い な い 。 第 一 に 、 株 主 は 会 社 の 定 款 、 株 主 総 会 議 事 録 及 び 財 務 会 計 報 告 を 閲 覧 す る 権 利
636越旭東「中国における会社法の発展および総括
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国際シンポジウム f中国会社法の展 開 と 現 状 同 志 社 大 学 ワ ー ル ド ・ ワ イ ド ・ ピ ジ ネ ス ・ レ ビ ュ ー ? 巻 1号 153‑154頁 参 照(2005)。
637そのための法整備としては、外資三法と呼ばれている 1979年の「中外合資経営企業法九 1986年の「外資企業法人 1988年の「中外合作経営企業法」が次々と制定された。
638 もっとも、改革開放の初期から、一部の集団所有制企業と小規模の国有企業では株式 会社化の改革がすでに実験的に始まった。
639例えば、国有独資の有限会社に関する規定(第二章第三節)や、国有企業が会社に改 組する際の基本的原則 (7条)が置かれている。そのほかにも、国有企業に関する特別規 定 が い く つ か 置 か れ て い る は6条、 20条、 21条、 45条、 75条、 81条、 152条。)
640もっとも、その第 1条では、会社、株主及び債権者の保護が一つの立法目的として掲 げている。
641中国会社法は、有限会社と株式会社の双方を規制対象としており、有限会社の社員も 株式会社の場合と同様に、株主(般東)と呼ばれているため、本稿も区別せずに株主の を使うが、本稿の検討対象は公開会社に限定しているため、以下の検討は基本的に株式会 社に関する規定を対象とする。
補 133‑
が与えられている (110条)。第二に、唯一の少数株主権として、総株式の 10%以 上 を 保有する少数株主に株主総会招集請求権が付与されている (104条3項)。第三に、株
取締役会の決議が法令に違反し、株主の利益を侵害するとき、株主は裁判所 に 対 し て 当 該 違 法 行 為 と 侵 害 行 為 の 差 止 め を 請 求 す る 訴 え を 提 起 す る こ と が で き る (111条)。そして、もっとも重要な監督是正権である株主代表訴訟提起権が当時の立 法者に無視された。
し か し 、 取 締 役 ( 、監査役(監事)及び支配人(経理) (以下ではこの三者を 合わせて取締役等と略す)が会社に対して負う義務と については規定が置かれて いる。概ね以下のように規定されている。
まず、取締役等は会社定款を遵守し、忠実に職務を履行し、会社の利益を守らなけ ればならず、会社における地位と職務権限を利用して自己の利益を図ってはならない という一般的な義務が定められている (123条 I 項、 128条 1項)。この規定は、もっ ぱら忠実義務に関する規定であって、注意義務を定める規定ではないと学説では一般 的に解されているため、注意義務に関する規定が存在しないことになる6420
そして、個別の義務規定として、以下のようなものが定められている (123条 2項、 128条2項)。第一に、取締役等は職務上の権限を利用して、コミッションや不法収入 を得たり、会社の財産を侵害したりしてはいけない。第二に、取締役と社長は会社資 金を転用したり、他人に貸し付けたり、会社資産で株主またはその他の個人のために 債務の担保を提供したりしてはならない。第三に、取締役と社長の競業行為が禁止さ れ、競業行為があった場合に会社が介入権を行使できる。第四に、取締役と社長は定 款規定または株主総会の同意がある場合を除き、会社と契約を締結しまたは取引を行 うことが禁止されている。第五に、取締役等は法律の規定に基づき、または株主総会 の同意がある場合を除き、会社の秘密を漏洩することが禁止されている。
取締役等は会社の職務を執行する際に、法令または定款に違反し、会社に損害を与 えた場合、損害賠償責任を負わなければならない (123条 2項、 128条 2項)。また、
取締役は取締役会の決議に責任を負わなければならず、取締役会の決議が法令または 定款に違反し、会社に重大な損失を与えた場合、当該決議に賛成した取締役は会社に 対して損害賠償責任を負うが、当該決議に対して異議を表明し、議事録に記載したこ とを証明できる場合、責任を免除することができる (118条3項。)
2 裁判所の実務上の対応
!日会社法が特別な規定を設けない駁り、「原告が案件と直接利害関係を有する公民・
法人・その他の組織でなければならなしりという中国民事訴訟法第 108条 1項が定め ている実質的提訴要件によれば、株主代表訴訟の提起が認められないはずである。し
642自国棟「中国会社法における経営者の義務と責任についてJW国際シンポジウム「中国 会社法の展開と現状J11同志社大学ワールド・ワイド・ビジネス・レゼュー7巻 1号208
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か し 、 実 務 上 の 需 要 が 高 い 状 況 の 中 で 、 中 国 の 裁 判 所 は 決 し て 制 定 法 に 縛 ら れ る こ と な く 、 多 く の 株 主 代 表 訴 訟 を 受 理 し て き た の で あ る 。
まず、閉鎖会社の事例について、裁判所は寛容的な態度を取って来た。その原因は、
1994年 11月4日 に 最 高 人 民 法 院 ( 以 下 、 最 高 院 と 略 す ) が 江 蘇 省 高 級 人 民 法 院 に 出 した「復函J643 の影響が大きいと忠、われる。当該「復函Jに よ れ ば 、 中 外 合 資 経 営 の 有 限 会 社 と 外 国 企 業 と の 間 に 取 引 上 の ト ラ ブ ル が 生 じ 、 当 該 合 資 有 限 会 社 を 支 配 す る 外 国 側 の 株 主 が 当 該 取 引 の 相 手 と 直 接 の 利 害 関 係 を 有 す る た め 、 当 該 合 資 有 限 会 社 の 取 締 役 会 が 訴 訟 を 提 起 し な い 場 合 、 中 国 側 の 株 主 が 合 資 会 社 の 訴 権 を 行 使 す る こ と が で き 、 人 民 法 院 が 案 件 を 受 理 す べ き で あ る644 0 この「復函jは 考 証 の で き る 範 囲 で 裁 判 所 に 受 理 さ れ た 中 国 の 最 初 の 株 主 代 表 訴 訟 事 例 だ と い え よ う 。 こ の f復函jは 、 最 高 院 が 個 別 案 件 に 対 し て 回 答 し た も の で あ り 、 正 式 の 可 法 解 釈 で は な い が 、 明 ら か に そ の 後 の 下 級 裁 判 所 の 態 度 に 影 響 を 与 え た 。 株 主 代 表 訴 訟 の 提 起 を 認 め た 一 部 の 判 決 で は 明 確 に この「復函jを 法 的 根 拠 と し て 引 用 し て い る645 0 ま た 、 公 表 さ れ て い る 閉 鎖 会 社 に 関 す る 事 例 の ほ と ん ど は 裁 判 所 に 受 理 さ れ た646 0 そ の ほ と ん ど は 支 配 株 主 ま た は 大 株 主 の 権限濫用に関するものである。
で、上場会社に関する事例は少なく、裁判所の態度も一致しない。中国証券市場初 の株主代表訴訟事件は、 2003年4月8日 に 、 上 海 の 投 資 者 で あ る 劫 氏 が 深 せ ん 証 券 取 引 所 に 上 場 し て い る 「 三 九 医 薬j の 代 表 取 締 役 越 新 先 氏 を 被 告 と し て 深 セ ン 市 福 田 区 人 民 法 院 に 提 起 し た も の だ と 言 わ れ て い る 。 原 告 株 主 は 「 三 九 医 薬j が 関 連 会 社 に 対 し て 低 金 利 で 貸 付 を し た ほ か 、 支 配 株 主 が 不 正 に 会 社 の 資 金 を 流 用 す る こ と 、 情 報 開 示 規 制 違 反 で 「 三 九 医 薬 J が 中 国 証 券 監 督 管 理 委 員 会 ( 以 下 、 証 監 会 と 略 す ) か ら 50 万 元 の 行 政 処 罰 を 受 け た こ と に よ っ て 、 「 三 九 医 薬 」 が 損 害 を 被 っ た こ と を 理 由 に 、 被
が 「 三 九 医 薬j に 対 し て 2万 元 の 損 害 賠 償 を 求 め た 。 し か し 、 同 年 4月 21日、深
643 中国では、下級裁判所が案件の審理における法律の解釈や適用に関して疑問がある場 合、自ら判断せずに上級裁判所の意見を仰ぎ、上級裁判所がこれに回答して指示を出す
「案件請示制度Jがあって、上級裁判所の回答を「復雨j 、 「指示j または「批復Jと称す る。
644 最高人民法院関於中外合資経営企業対外発生経済合同糾紛、控制合営企業的外方与 売方有利害関係、合資企業的中方応以誰的名義向人民法院起訴問題的復雨j 法経[1994]269
645 例えば、 1996年 の 「 香 港 中 添 田 際 有 限 公 司 訴 上 海 延 中 実 業 般 扮 有 限 公 司 等 案 ; 2003 年の「広州市天河科技園建設有限公司訴広東珠江投資有限公可等案J。
646 例えば、 1997年の「夏門元手IJ 源房地産開発有限会社訴夏門新達利有限会社案J; 1999 の「上海自来水公司等訴上海輝嬉実業有限総公司案J; 2000年の「大連盛道集団有限公 司訴珠海市華豊集団食品工業(集団)有限公司案 J; 2000年の「無錫市南長区房地産経営 公司等訴恒通集団股{分有摂会社案 J; 2001年の「朱伝林訴越建平案(五芳斎案) J ; 2002 年の f)ll員徳、市岡信実業有限公司訴 )11員徳市貿促信息有限公司案J; 2003年の「黒藷江喪島雄 鷹実業有限公司訴興安証券有線責任公司等案J; 2003年の f深せん市宝安外経発展有限公 司等訴広東核篭投資有限公司案J; 2004年の「蘇州新発展投資有限公司等訴四Jl I宏遠集団 有限会社等案(中期期貨案) J ; 2004年の「張宝栄訴子鍋案J0
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