謬 塁 審
本研究が分析対象とする各メディアの特徴と利用動向を概観する。これにより,第2部以 降の実証分析のための基礎的理解が得られることになる。
第2部では, 1990年代までに技術が確立したインターネット・メディアを分析対象とし て,新たなコミュニケーション空間として誕生したサイパースペースの空間構造を論じる。
ここで取り上げるのはオライリー (2005)がWeb1.0に位置づけるメディアであり,具体的 に乱11.とサイト, BBS,オンラインゲームが分析対象となる。まず第3章と第4章では,
利用者の居住地などを指標としながら,コミュニケーションの連鎖あるいは結合関係から みたサイパースペースの空間的特徴を中心に論じる。第3章では,鳥取県および,瀬戸内 海を取り囲む近畿から九州東部に至る地域を対象に運営される2つのM Lを事例に,それ らを介したコミュニケーションの空間的特徴を論じている。第4章では,広島県尾道市か ら愛媛県今治市に至る瀬戸内しまなみ海道周辺地域を対象に,リンクの分析を通じて,当 該地域に関わるサイト間の結合関係を解明している。これらに続く第5章と第6章では,
コミュニケーション空間としてのサイパースペースの空間的特質を中心に論じる。第5章 は,山陰地域と広島都市圏を対象とするBBSを事例に,匿名のコミュニケーションを通
じてサイパースペース上に創出される独自の文化空間について考察している。第6章は,
広島県を主な聴取区域とするラジオ局が運営するオンラインゲームをとりあげ,オンライ ンゲームをめぐるコミュニケーションの空間について論考を行っている。
第3部では, 2000年代に技術が確立されたインターネット・メディアを分析対象とし て,ジオサイパースペースの空間構造について論じる。ここで取り上げるのはオライリー (2005)がWeb2.0と総称するメディアであり,具体的にブログ, SNS,仮想空間が分析対 象となる。これらは, Web1.0メディアと比べて利便性が大幅に向上し,また現実社会に 近づいたと言われるメディアである(宮台ほか,2006)。そのため第3部の分析は,アクター 間のネットワークおよび,サイパースペースとリアルスペースと相互関係を分析の主眼と している点が第2部と異なる。第7章では広島県を対象とするブログのポータルサイト(以 下「ブログポータル」という)を事例に,第8章では岡山県を対象とするSNSを例に挙げて,
序論
アクター間のネットワークおよびリアルスペースにおける活動展開の実態を把握する。第 9章では仮想、空間の代表的サービスであるセカンドライフをとりあげ,福岡市および北海 道ニセコ町を対象とする仮想空間を事例に,そこで展開されるバーチャルなガパナンスの 実態とリアルスペースとの関わりについて論考を行っている。
結論においては,各事例を比較考察する形で本研究の成果が要約され,インターネット を介した地域のコミュニケーションの内実とメカニズムが解明される。その上で,地域の コミュニケーションの視点からみたジオサイパースペースの空間構造が明らかにされる。
また,地域におけるインターネット利用の課題にも言及し,今後の可能性を展望している。
[注]
1)例えば,物理学では,ベキ法則やスケールフリーの特徴をページ間のリンク構造に見 いだす研究がある(例えば,パラパシ, 2002)。
2) Graham and Marvin (1996, p.9)は,こうした現代都市を表すメタファーを列挙して紹介 している。
3)具体的に, ISPパックボーンの結合状況, POPの分布,衛星通信や電線の分布,モデム やISDN,ADSLなどの敷設状況がとりあげられている。
4) B止is(2001)は現実の地理空間を「ジオスペースJと呼んでいるが,本稿では「リアルス ペースJに統一して表記する。
5)統計データ処理手法を使ったり,コメントの繋がりのパターンから各種の指標を計算 したりしてメンバ一間の関係性を捉えるアプローチ。
6)発信情報への回答構造に着目し,発信情報およびその発信者間の結合関係を明らかに しようとする分析手法。