一一オンラインゲーム「バーチヤル農場」の事例一一
I 本章の目的と研究方法
本章では, Web1.0に位置づけられるインターネット・メディアのうち,没入および活 動を主な利用方法とするオンラインゲームをとりあげ,それをめぐるコミュニケーション 空間の特質を明らかにすることを目的とする。
第2章でみたように,オンラインゲームはゲーム性とコミュニティ性の側面を持ち,利 用者にとって現実の社会空間のーっとなっている。また,オンラインゲームに関わるコミュ ニケーションは,ゲーム内とゲーム外の2つのサイパースペースにリアルスペースを加え た3つの空間で行われているという(野島, 2005)。本章では,これらの点に着目し,現 実の社会空間としてのオンラインゲームで,利用者がどのように活動し,相互作用を行っ ているかということと, 3つの空間でコミュニケーションがどのように展開されているの かを解明する。このうち,後者については,ゲーム内に実装された電子メールやBBS,ゲー ム外の個人サイトやBBSなどがコミュニケーションの場となっているという既存研究の 報告を踏まえれば,第3章のML研究,第4章のサイト研究,第5章の BBS研究の方法 および成果を手がかりとして,研究を進めることができると考えられる。
日本のオンラインゲーム市場は,
ADSL
回線の普及に伴って通信サービスの料金が値下 がりし始めた2001年から急速に発展し, 2004年の市場規模は約 130~ 140億円と試算さ れている(小沼, 2005)。また,オンラインゲームの利用者数はブラウザゲーム 1)や無料 オンラインゲームを含めると約350万人,それらを除いた有料オンラインゲームでは約 130 ~ 140万人と推計されている(小沼, 2005)。本章では,利用者間のコミュニケーショ ンを分析する必要から,多数の利用者が同時に参加して利用するマルチユーザーゲームを とりあげる。その際,コミュニティ性を重視するゲームは難易度が低く初心者でも参加し盤 塁 塁
盤 霊 盟
やすく,ゲームのストーリーとは独立したコミュニティを育成するという特徴を持つ点(野 島, 2002)を踏まえ,コミュニティ性が強いと考えられる育成シミュレーションゲームを とりあげる。また本章では, リアルスペースにおける特定地域との関わりに着目しつつ,
オンラインゲームにおけるコミュニティ性の特徴を浮き彫りにしていく九そのため,大 手企業が全国規模あるいは複数の国で運営するようなゲームでなく,地方都市に本社をお く企業が立地場所あるいは営業区域との関わりを意識しつつ運営するオンラインゲームを とりあげる。以上の視点から,本章では,地方都市である広島市に本社をおくラジオ・テ レビ兼営局の中国放送3)が運営する育成シミュレーションゲーム「バーチャル農場Jのを 具体的な研究対象とする。「バーチャル農場」は,仮想、の農園で仮想の動植物を育てながら,
仮想、の経済活動を営んだり,利用者同士がコミュニケーションを楽しんだりするゲームで ある。
分析の手順は以下のとおりである。まず
r
バーチヤノレ農場j のサイトを閲覧するとと もに,筆者自身による 2005年6月から 2006年2月までの「バーチャル農場」の利用体験,「バーチヤノレ農場Jの制作者および管理者,一部の利用者を対象とした聞き取り調査を通 じて,
r
バーチャル農場Jの経営,集客および設計の戦略とその実態を把握した。次に,r
バー チャノレ農場J内に実装されたBBSへの投稿情報を分析した。分析対象とした投稿情報は,2005年5月1日から2005年7月31日の3か月間に,
r
掲示板取引用」に投稿された823件,r
掲 示板アルバイト用Jに投稿された69件である。さらに,それらのBBSへの投稿情報に記 載されたリンクを辿り,行き着いた個人サイトを閲覧し,その内容を吟味することにより,BBSへの投稿情報と合わせて,利用者間のコミュニケーションの実態を把握した。
n r
バーチャル農場」の運営実態 1)r
バーチヤル農場」の経営戦略「バーチャル農場jは,中国放送が運営するサイト上の無料オンラインゲームである。
「バーチャル農場」は,ラジオ放送とインターネットの融合可能性を検証するために,
第6章 リアルスペースからの離陸ーオンラインゲーム「バーチャル農場Jの事例ー
1997年 10月 か ら 実 験 的 に 始 め ら れ た ラ ジ オ 番 組 「 イ ン タ ー ネ ッ ト コ ミ テ ィ アJ(以下「コ ミ テ ィ ア 」 と い う ) を そ の 起 源 と し て い る 。 「 コ ミ テ ィ アJはNTT西 日 本 の 協 賛 金 を も と に 放 送 さ れ , 実 験 事 業 と し て 1997年 度 にBBSの 運 営5) 1998年 度 に 聴 取 者 が 参 加 し た ラ ジ オ ド ラ マ の 制 作 や ゲ ー ム の 運 営 , 1999年 度 に 聴 取 者 同 士 の 交 流 イ ベ ン ト め が 行 わ れ た 。
「バーチャノレ農場Jは , そ れ ら と 同 じ 実 験 事 業 の ー っ と し て , 1999年 9月 に 開 設 さ れ た ( 表 羽ー 1。)
中 国 放 送 はNTT西 日 本 か ら の 協 賛 金 を も と に 「 バ ー チ ャ ル 農 場 」 を 制 作 お よ び 運 用 し , そ の 運 用 デ ー タ は 中 国 放 送 と NTT西 日 本 が 共 有 し た ( 図 羽 ー 1)。また,
r
バーチャル農場」表現‑1 「バーチヤル農場」の展開過程 (1997‑2005年)
年 月 運営に関する主な事項
1997年 10月 インターネットコミァィア開設 1999年 9月 バーチャル農場開設
掲示坂を設置
10月 新ページ「困った時はJ設置 11月 利用者500人突破キャンベーン開催
12月 利用者が持ち物を交換できる「交換所J設置 2000年 1月 「長者番付』の発表開始
畑の住所表記開始 4月 『牧場』オープン 5月 新種研究室の研究員募集 6月 バーチャル農場ダービー開催
7月 [交換所Jで植物への毒物混入事件が多発 9月 「交換所」の一時閉鎖と配送センター仮オープン
f取引用掲示板j設置
10月 I配送センターj正式オープン
2001年 3月 ラジオ番組「インターネットコミティアj終了
→利用者からの継続要望により運営を継続 4月 新システム運用開始
各農園におけるミニ掲示板の運用開始 9月 登録方法変更(いたずら防止のため) 12月 四Lの変更
2002年 1月 アカウント管理の変更 3月 I問い合わせフォームJ設置
リンクガイドラインの策定
5月 アクセス数の急増によりサーバがダウン 10月 外部サーバからのアクセス制限
2003年 3月 住民税の徴収開始
レンタル可能農園数の制限 10月 住民税の課税最低基準変更 2004年 11月 農固と掲示坂のドメイン名変更
資料:中国放送・デジタルクリエイト (2005a)により作成
璽亙
翠翠
a)2001年3月以前
ノ〈ーチャル農場
ノ〈ーチャル農場
図羽・ 1
r
バーチヤル農場」の事業スキーム資料:中国放送への聞き取り調査をもとに作成
は「コミティア」の放送情報として活用され,放送を通じて「バーチャル農場」への集客 が促進された。
開設して2か月後の 1999年 11月には利用者が500人を超え7) その後も利用者数は増 加した。ところが, 2001年3月に「コミティアJが終了することとなり
r
バーチャル農 場」も他の実験事業と同じように閉鎖が検討された。しかし,利用者から運営継続が強く 要望されたこととインターネットだけでも集客が可能であると判断されたこと,新しい協 賛企業を確保できる見通しが立ったことから,中国放送は「コミティアJから独立させる 形で, 2001年4月以降も「バーチヤノレ農場Jの運営を継続した。しかし実際には,新し い協賛企業を確保できなかったことから,中国放送は広告収入を得ることができず,r
バー チャル農場」の維持にかかる人件費やサーバ費用は同社が自己負担することとなっため。2)
r
バーチャル農場」の集客戦略「バーチャル農場」への集客活動は,
r
コミティアJと連動した形で行われた(表現ー 2)。第6章 リアルスペースからの離陸ーオンラインゲーム fバーチャル農場J の事例ー
具体的に
r
コミティアJの放送を通じて「バーチャル農場」の開設が宣言されたり,参 加方法が説明されたり,期間限定の企画や週ごとの長者番付が発表されたりした。また,r
コミティア」の実験事業として実施された別のイベント参加者に対して,電話や電子メール を利用した「バーチャノレ農場Jの紹介と勧誘が行われた。例えば,
r
宮島ミッション」と 呼ばれた広島県宮島町(現.廿日市市)における清掃活動に参加したボランティア,小学 校へのインターネットの導入を検討する教師グ、ループへの勧誘が行われた。さらに, 1999 年 11月に利用者数が500人を突破すると,それを記念して電器製品や植物, Tシャツが 贈呈されるなど,ラジオ番組とリアルスペースでのイベントを組み合わせた集客活動が展 開された。これらは広島県内を中心とする聴取可能区域を対象とするもので,リアルスペー スの特定地域からサイパースペースへの集客戦略が展開されたとみることができる。一方,
r
バーチャル農場」がインターネット上に公開されると, Yahoo!JAPANやgoogle などの検索エンジンを通じて,利用者はリアルスペースにおける居住地に関わりなく「バー チャル農場」にアクセスする経路が増加した。また,懸賞やプレゼント,ゲームなどの情 報を提供するメールマガジンめを通じて「バーチャル農場」の公開情報が提供されたり,表VI‑2 ラジオ番組「インターネットコミティア」における
「バーチヤル農場」に関する放送内容 (1999年度)
年 月 日 放 送 内 容
1999年 9月 6日 テスト版発表
13日 バーチャル農場公開!
20日農場ニュース
27日 組合闘争の結果,畑の値段が下がる 10月 4日育て方のコツ
11日 新品種(サボッテン,こうりまわり)発表 18日農場ニュース
25日農場ニュース
11月 1日 新品種(抽選花)発表,プレゼントキャンベーン 8日 抽選花の栽培法紹介,キャンベーン告知
15日 新品種(キューリップ)発表 29日 農場カタログ完成
12月 6日 トップページリニューアル,交換所システム紹介 20日 農 場2000年対策
27日 新品種(クリスマスツリー)発表 2000年 1月 24日 ユーザー自宅から生放送
3月 27日 1年の総集編 資料:中国放送 (2005)により作成