がん疼痛を緩和するには患者が体験している痛みの理解とそのアセスメントが重要である。
アセスメントは痛みの状態だけで行うのではなく、全人的苦痛として包括的に見ていく(p.94
〜「3章4包括的アセスメントの進め方」を参照)。
がん患者の痛みのすべてががんによる痛みとは限らないため、身体所見、理学的所見などを 組み合わせ、痛みの原因について総合的に判断することが重要である。
痛みは患者の主観的なものであるため、患者自身が痛みを評価し、医療従事者と共通認識す ることが重要である。痛みのアセスメントを行う場合には、痛みの原因と痛みの程度や状況 を見る必要がある。
痛みのアセスメントをする際には、定期的に痛みについて尋ねる、系統的に痛みをアセスメ ントする、患者の痛みの訴えを信じる、状況に応じて適切な疼痛緩和の選択肢を選ぶ、患者 や家族のセルフケア能力を高めるなどの姿勢をもって行うことが重要である。
高齢者や小児では痛みに対する認識や表現方法、身体機能などが異なるため、その特徴を理 解して、アセスメントを行う必要がある。
初期アセスメント
できるだけ早い段階で痛みのアセスメントをすることが重要である。初期アセスメントでは、
患者の症状の状態(痛みの強さ、部位、持続時間、性質、増強因子など)、日常生活状況(痛み による行動制限の有無)、痛みへの対応、患者のセルフケア能力、ソーシャルサポートの状況、
患者のQOLの評価を行う8)。
痛みを体験している患者自身に、自分の感じている痛みを表現してもらうのが望ましい。そ の際、患者が痛みの体験を表現しやすいコミュニケーションを持つように心がける。
−問いかけの例−
・どこが痛みますか、痛みのあるところを全て教えてください。
……
・痛みがない時をゼロ、一番痛みの強い時を10とすると、今の痛みはどのくらいですか。
・痛みはずっとありますか、途切れることがありますか。
・どんな時に痛みがひどくなりますか。
・治療(化学療法や放射線療法)の前後で痛みはひどくなりますか。
・どうすると痛みが楽になりますか。
・痛み止めを飲む前と後では痛みは変わっていますか。
・痛みによって歯磨きやトイレなど、生活の中でできないことがありますか。
・痛み以外の症状はありますか。
患者が体験している痛みの評価を行う9、10)。
がん疼痛の評価は「痛みの原因の評価」と「痛みの評価」からなる。
〈痛みの原因の評価〉
・身体所見や画像検査から痛みの原因を診断することであり、疼痛治療に加えて原因に対す る治療が必要かどうかの判断などに役立てることができる。
・痛みの原因で最も多いのは、がん自体が原因となった痛みである。
〈痛みの評価〉
・患者の自覚症状としての痛みの強さや生活への影響、治療効果を評価するものであり、こ れを行うことで、患者に合わせた疼痛治療を計画することができるようになる。
・痛みの評価は、日常生活への影響、痛みのパターン、痛みの強さ、痛みの部位、痛みの経 過、痛みの性状、痛みの増悪因子・軽快因子、現在行っている治療の反応、レスキュー・
ドーズの効果と副作用などで行う(表 1)。
・症状に対して患者が行っているセルフケアの状況やソーシャルサポートの機能を明らかに する。
痛みの評価項目 表 1
痛みの部位 痛みの範囲、限局か拡散、圧痛の有無など
痛みの性状 鋭い、うずく、さし込む、鈍い、重苦しい、しめつけられる、灼熱、電撃様など 痛みの強さ 痛みの程度、1 日の中での強弱など
痛みの経過とパターン 始まった時期、きっかけ、時間による変化、起こる時間帯、間欠的か持続的、頻 度など
痛みの増悪因子 体動、食事、排泄、姿勢、夜間、不安など 日常生活への影響 食事、睡眠、排泄、会話、外出など
現在行っている治療の反応 治療方法、治療の効果、治療による副作用など レスキューの効果 レスキューの使用頻度、効果など
痛みの意味
第
3
章苦痛緩和
3
症状マネジメントの実際・痛みのマネジメントは断片的な情報だけでは適切なアセスメントができないので、ペイン スケールなどのアセスメントツールを用いて、総合的に判断していくことが重要である。
初期アセスメントに用いるツールには以下の3つがある。
〈セルフチェック〉
・生活のしやすさに関する質問票(p.80を参照)
・痛みの強さ:NumericalRatingScale(NRS)、VisualAnalogueScale(VAS)、VerbalRating Scale(VRS)(図 2)
〈医療従事者による観察〉
・日常生活への影響:SupportTeamAssessmentSchedule日本語版(STAS-J)(表 2)
・痛みの評価項目をまとめた医療従事者が記入する:痛みの評価シート(図 3)
Numerical Rating Scale(NRS)
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
Visual Analogue Scale(VAS)10cm
全く痛みがない これ以上の強い痛みは考えら
れない、または最悪の痛み Verbal Rating Scale(VRS)
痛みなし 少し痛い 痛い かなり痛い 耐えられないくらい痛い
Faces Pain Scale(FPS)
〔Whaley L,et al.Nursing Care of Infants and Children,3rd ed,ST.Louls Mosby,1987 〕
2
図 痛みの強さ評価表
STAS-J(SupportTeamAssessmentSchedule;STAS 日本語版)
表 2 0 なし
1 時折のまたは断続的な単一の痛みで、患者が今以上の治療を必要としない痛みである。
2 中等度の痛み。時に調子の悪い日もある。痛みのため、病状からみると可能なはずの日常生活動作に支障 を来す。
3 しばしばひどい症状がある。痛みによって日常生活動作や物事への集中力に著しく支障を来す。
4 持続的な耐えられない激しい痛み。他のことを考えることができない。
痛みの評価シート
記入日 年 月 日 記入者( )
氏名 ID
○日常生活への影響
0:症状なし 1:現在の治療に 満足している
2.普段はほとんど 痛みがないが、
1日に何回か強 い痛みがある 1.ほとんど痛み
がない 3.普段から強い痛み
があリ、1日の間 に強くなったり弱 くなったりする
これ以上考えられな いほどひどかった 4.強い痛みが1日
中続く 2:時に悪い日もあ
り日常生活に支 障を来す
3:しばしばひどい 痛みがあり日常 生活に著しく支 障を来す
4:ひどい痛みが 常にある
○痛みのバターン
NRS NRS
10 10
0
NRS 10
0 0
NRS 10
0
1日に
○痛みの強さ
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 全くなかった
痛み(一番強い時)
痛み(一番弱い時)
痛み(1日の平均)
○痛みの部位
○痛みの性状
鈍い 重苦しい 鋭い うずくような 灼けるような ビーンと走るような
○治療の反応
●定期薬剤 1.なし あり
○副作用 ・眠気
2.オピオイド ( ) 3.非オピオイド( ) 4.鎮痛補助薬 ( ) 1.なし2.あり(不快ではない)
3.あり(不快である)
・見当識障害 1.なし 2.あり
・便秘 1.なし 2.あり(硬·普通·軟)
・嘔気 1.なし
2.あり(経口摂取可能)
3.あり(経口摂取不可能)
○増悪因子 1.夜間 2.体動
3.食事(前・後)
4.排尿・排便 5.不安・抑うつ 6.その他 ( )
1.安静 2.保温 3.冷却 4.マッサージ 5.その他 ( )
○軽快因子
●レスキュー・ドーズ
使用薬剤と量( )
○使用回数と効果( )回/日 使用前NRS( )→使用後( ) 1.完全によくなった 2.だいたいよくなった 3.少しよくなった 4.変わらない
○副作用
・眠気 1.なし
2.あり(不快ではない)
3.あり(不快である)
・嘔気 1.なし
2.あり(経口摂取可能)
3.あり(経口摂取不可能)
刺されたような or 刺すような
回
3
図 痛みの評価シート
山本 亮(2010).痛みの包括的評価.日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン作成委員会編.がん疼痛の薬物療法 に関するガイドライン.2010 年版.東京,金原出版,30.
第
3
章苦痛緩和
3
症状マネジメントの実際継続アセスメント
継続アセスメントでは、痛みの継時的な変化を見ながら、疼痛緩和のための治療効果や患者 のQOLの変化を見る。新たな痛みの出現や痛みの変化がある場合には初期アセスメントをもと に再評価する。
痛みの経時的記録などから、痛みの部位や状況、鎮痛薬との相関関係などを継続してアセス メントする。
薬剤の効果を聞き、投与方法、投与量、レスキュー・ドーズの使用方法などが適切か確認す る。
新たな痛みの出現はないか、痛みの出現状況や種類の変化がないかなどをアセスメントする。
治療やケアによってどの程度痛みが緩和しているのか、治療に対する満足度、QOLなどを、
患者自身によって評価してもらい、疼痛緩和の目標とのずれがないかを確認する。
痛みが緩和されていないときは、症状マネジメントの障害になっていることを明らかにし、
新たな治療・ケアを計画する。
情報収集ができたら、疼痛マネジメントに関わる医療チームのメンバーに情報提供を行い、
チーム全体で疼痛マネジメントの方向性を統一させる。
高齢者・小児の痛みの特徴とアセスメントの視点 高齢者
一般的な高齢者の特徴として、身体機能の変化(運動機能の低下など)、生理機能の変化
(排泄や体温調節機能の低下など)、心理特性の変化(新しいものへの適応に時間がかかる など)、感覚機能の変化(視覚や感覚等が衰えるなど)、生活構造の変化などがみられる。
高齢者は、こういった加齢による変化によって痛みが起こっているととらえ、疾患(がん)
との関連性を感じていない場合がある。また、痛みが疾患の進行を意味しているという恐 れから、他人に訴えない場合もある。さらに、高齢者は習慣性やコントロールを失うこと を恐れて、痛みがあることを認めたがらない人が多く、痛みのアセスメントが行われてい ないことが多い。また、高齢者では痛みが非定型的(錯乱や興奮など)な発現をすること がある。さらに併発疾患の存在や薬物の有害反応のリスクが高まるため、高齢者に対して 医療用麻薬を処方することを躊躇することがある。
高齢者の痛みをアセスメントするには、既往疾患、他の薬物(鎮痛剤など)の服用状況、
認知的状況、疲労、言語障害、聴覚障害を確認し、ペインスケールなどを使用して痛みの 程度を測定する。本人によるセルフチェックができない場合は、家族に確認することも必 要である。また、毎日の活動状況、日常生活動作の変化、できなくなったことや本人の痛 み以外の訴えなどを聞く必要がある。