第 3章 リウマチ と生 きる S子 の病いの語 り
第 6節 「病気 を受容 した くない」
I。あ き らめ た 夢
1.変
形 した手―
偏 見 の 日の 中 で
S子
は 「病 気 を受容 した くない」 とい う。「私 の青春 を返 して ほ しい」 とい う。「リ ウマ チ を恨 ん で い ない けれ どで きれ ば 自分 を も とに戻 して ほ しい」 とい う。 特 に 「手 の変形 を戻 して ほ しい 」 とい う。S子
は、 手 を人 前 に見 せ る こ とを嫌 う。 筆者 に も、手 を見せ たが らな い。S子
の手 の 関節 は、ムチ ランス変形9であ るた め、骨 の吸収速度 も速 く、そ のた め尺9指
の関節 が溶 けて、指 が短 くな り引つ張 る と伸縮式 の望遠鏡 のよ うに伸び縮みす る。75
側 偏位10と な つ て い る(第
3節
の 図3を
参 照)。 これ は、 リウマ チ の炎 症 のた め、 関節 が破 壊 し、腫 脹 し、変形 してい るた めで あ る。 手 に変形や 拘縮 が あ り、 日常生活 にお い て、握 力 が低 下 し、細 かい手作 業 が で きない た め、ADLの
低 下 が認 め られ る。S子
のADLの
低 下 を具 体 的 な場 面 でみ る と、毎 日の睡 眠 と休 息 で は 、布 団 が干せ な い 、 シー ツ交換 がで きない。 清潔 に関 して は、入浴 時浴槽 には入 れ ない 、 下肢 が洗 え ない 、髪 の毛 の後 ろ側 が洗 えない、靴 下 をは けない等 で あ る。整 容 に関 して は、髪 を 整 え る こ とが で きな い 、服 の後 ろの フ ァスナ ー が止 め られ ない等 で あ る。股 関節 、膝 関節 、肘 関節 は、す で に 関節 破 壊 が進 み 、
6ヶ
所 は人 工 関節 に入 れ 替 え られ てい る。しか し、それ らの部 分 は、衣 服 で覆 われ 、 そ して、杖 をつ か な けれ ば、身体 障 害者 で あ る こ とは 、外 見 か らはわか りに くい。
手 の変 形 は 、 日常 生 活 をす る上 で 、 さ らけ 出す 機 会 が多 く、 隠す こ とが難 しい。 手 の変形 は、人 々の偏 見 の 日に さ らされ る と語 る。
「買い物 に行 つて、財 布 を開 ける時 も変形 した手 を見て ジ ロ ッと変 な 日で見 られ る こ とが あ ります。 買い物 か ごに品物 を入 れ るの を手助 け して下 さる人 もい ます。 そ の 一方 で、変形 した手 をみ て 、傷 つ くこ とば をか け る人 もい ます。 何 気 な く言 つてい る
と思 うけ ど悲 し くて落 ち込 ん で しま い ます 」
「また、何 も言 われ ませ んが、私 を見 る 目が偏 見の 目で あ る と、直感 でわか る とき が あ ります 。 世 間 の冷 た さを感 じる こ とが多 い です。」
「リウマチや 障害 は、人生 の途 中か らなつたので、この偏 見 の 日で見 られ るこ とを、
受 け入 れ る こ とは難 しい し、 とて もつ らい です 。 障 害者 の理解 が少 ない と しみ じみ 思 い ます。 障害者 で あ り、偏 見 の 日で 見 られ る、そ ん な 自分 を受 け入 れ る こ とは難 しい です 」
リウマ チ か ら派 生す る障 害 は さま ざまで あ る。
S子
の場合 「人生 の途 中か らな つた ので変形 の 目を受 け入 れ る こ とがむず か しい 」 と語 つてい る。佐 々木 は、 中途 障 害 と は(1996115‐ 124)、 「人生 の途 中で、発病や受傷 、疾患 の進 行 あるい は も とも との障害 の随伴症 状 に よ り、本 人や 家族 の人 生 プ ラ ンの変 更や 見直 しを余儀 な くされ た もの と い われ・ ・・ 」 と述 べ てい る。S子
の場合 、 隠せ ない 手 の変形 と拘縮 は32歳
〜33歳
の時 に出現 し、 コンプ レックスの 中で 、悲 しみ 、怒 り、抑 うつ等 の感 情 体験 を してい る。 この体験 は、病 気 や 障 害 そ の もの を認 め ない疾病否 認 や 自己防衛 反 応 な どの心理
10指が 外 側 に流 れ る
的 困難 につ な が つて い る と考 え られ る。
2.リ ウマチの病気 を受容す るこ とは難 しい
☆病気 を受 け入れ た くない思い
「リウマチの病気 は、や っぱ り受 け入れ られ ないのです。現実に 目をそむけて生 き てい る と思います。 自分 が諦 め られ ないのです。今 で も、【なんで私 が・・・】と思い ます。」
今 リウマチになった こ と恨 んでいないけ ど 「私 である 自分 」 を戻 してほ しい と思い ます。一番 強 く思 うのは手 の変形 を もとに戻 してほ しいです。 わた しの手の変形 は リ ウマチを発症 して
10年
後位 たつてか ら、急激 に進みま した。あの頃、現在の よ うに、リウマ トレックス(免疫抑制剤)が あつた ら・ 00。 レミケー ド(生物学的製剤)の よ うな いい薬があつた ら、私 の手の変形 は今 の よ うに進行 していない と思います。」
S子
は残存機 能 よ り、失 つた ものに 目が向き、 自分 の存在 その ものが否定 され た よ うな体験 を してい る と考 え られ る。 障害 をもつてできない ことが多い 自分 と、障害 と 共 に生 きて行 こ うとい う自分 の間 を行 き、戻 りなが ら生 き、 自分 らしい生活 を再構築 しよ うとしてい る。 しか し、や っ と症状が落 ち着 き生活 も軌道 に乗 つた時期 に再び、危機状態 を体験 してい ることが受容 を困難 に してい る と考 え られ る。現実の 自分 を認 め、障害 と共存 してい く生 き方 を探 しだす ことで、新 しい発 見や希望が持 て 自分 自身 を評価 できる と考 え られ るので、
S子
の受 け止 め方 を尊重 して側 面 か ら支 えて行 くこ とが必要 である と考 え られ る。3.なぜ 「病気 を受容 できないのか」
あき らめた夢 一
仕事 。恋 。結婚 そ して子 どもを産み育て るこ と
リウマチ を発症 して何年 も経過 してい るのに「病気 を受容 した くない」と語 る
S子
。きつ とあき らめ られ ない大 きなで きご とを経験 してい るのではないか と考 えて、「あき らめた夢」 を問 うた。 あき らめた夢 は 「仕事」、「恋」、「結婚 」、「子 どもを産み育て る こと」 と語 つた。
S子
は24歳
の時 に リウマチ を発症 した。ハ ヴィガー ス トは (Havighurst,1953)、 発 達課題(developmental task)に ついて、『 発達課題 とは、人生のそれ ぞれ の時期 に生ず る課題 で、それ を達成すれ ばその人 は幸福 にな り、つ ぎの発達段階の課題 の達成 も容77
易 になるが、失敗 した場合 は、その人 は不幸 にな り、社会 か ら承認 されず 、次の発達 段階の課題 を成 し遂 げ るの も困難 とな る課題 である』 と述べ てい る。
S子
の場合 も、青年期 の発達課題 である、同年齢 の男女 両性 との洗練 され た新 しい 関係 、女性 としての役割 の遂行 、職 業 の選択や準備 、結婚 と家庭生活 の準備等 の発達 課題 が達成 で きないまま、壮年期初期 、中年期 を迎 えてい る とい える。中年期 を迎 えた今 も、「病気 を受容 した くない」 とい う思いが強いのは、その根底 に は発達課題 が関連 してい るのではないか と考 えた。
「大きな夢 は3つあ りま したが諦 め ざるを得 ませ んで した。諦 めた夢 は、仕事 と恋、
そ して、結婚。子供 を産み育て るこ とです」。
☆仕事 の こ と
仕事一 「大学 を卒業 して
22歳
の私 は、神 戸の伯父 さんのお家 に下宿 して、神戸の 旅行会社 に就職 しま した。旅行 が大好 きで旅行会社 の仕事 を通 してお客 さんに喜 んで もらえる と共 に、自分 自身 の生 きがいで もあ りま した。24歳
の私 は、や つ と楽 しみ に していたハ ワイ の添乗 が決 ま りま した。 この 日が くるのを どんなに待 ち望んでいた こ とか 。・・。 ヤ ッター とい う思いで した」「喜びの 中、身体的 に『 歩 くのが しん どい』『 スムー ズ に歩 けない』 とい う症状 が出 て きま した。
K市
民病 院 のS先
生 に診 察 を受 け、内服 治療 を受 けま した。 しか し、改 善せ ず 国 立K病
院 の リ ウマ チ 専 門 のI先生 を紹介 して も らい 、治療 す る こ とにな りま した。 この時 点 で仕 事 を継 続す る こ とは困難 と考 え、神 戸 の伯 父 の家 か ら、実家 に帰 り、父 母 の も とで治 療 す る こ とに な りま した。あん な に夢膨 らませ て楽 しみ に してい たハ ワイ行 き も、そ して、仕 事 もあ き らめ ざる を得 ませ ん で した。
大 学 を卒 業 し、 これ か ら とい う人 生 の旅 立 ち の時期 に突 然 に リウマ チ の発 症 とい う 自己の存 在 や 根 元 を揺 るが され る よ うな体 験 を して い る。 ハ ヴィガー ス トの発 達 課 題 で あ る職 業 の選 択や 準備 の課題 を達成 す る こ とがで きな くな つた。
リウマ チ と無 関係 の時期 か ら症 状 の始 ま りと混乱 の時期 を迎 え、落胆 と苦悩 の時期 を迎 えてい る。
☆ 恋 の こ と
旅 行 会 社 に勤 めて 翌年 の
23歳
の時 につ きあい は じめま した。リウマ チ の病 気 で あ る こ とが わ か り、それ で も彼 は、「病気 で もいい よ」とい つてや さ しく して くれ ま した。
しか し、「リウマ チ が悪 化 した ら彼 は逃 げて しま う」と予感 して しまい 、自分 か ら離れ て しまい ま した。
青年 期 の発 達 課題 は 同年齢 の男 女 両性 との洗練 され た新 しい 関係 をつ くつてい くこ とが重 要 な課 題 とな る。 リウマ チ発 症 の た め に、 自分 自身 か ら逃 避 した と考 え られ る。
☆ あ き らめた結婚
28歳
の時 、 国 立K病
院 でI先生 の も とで治療 を受 けま した。 内服 治療 と ともに血 漿 交換 の治 療 を週 一 回受 けま した。 この治療 は、血 漿 交換 の器 械 を使 つて3時
間 か か る 治療 法 で した。 この 時 に、透析 の器 械 を操 作 していた25歳
の彼 に出会 い ま した。 治 療 は3時
間 か か り、週 1回3時
間 リカバ リル ー ム の部屋 で共 に時 間 をす ごす よ うに なりま した。 この治療 は 3ヵ 月 かか りま した。
この 頃 、私 の身 体 は ぼ ろぼ ろで あ り、 ゆ つ く り歩 け る程 度 で した。 身 体 もつ らい。
そ して心 もつ らい 時期 で した。 このつ らい時期 に仕事 とはい え、 そ ば に じつ とい て く れ た彼 を本 当 に好 きに な りま した。
彼 も私 も、結 婚 したい と思 うよ うにな りま した。彼 は 「病 気 で もい い か ら結婚 しよ う」 と言 つて くれ ま した。 で も私 は彼 がかわ いそ うだ と思 い ま した。 この時期 は、治 療 の効果 が見 えな くて 、将来歩 け る よ うにな る とは思 えませ ん で した。 自分 の将来 が 見 え ませ ん で した。 結 婚 した ら、彼 に迷 惑 が かか る と思 い ま した。 彼 はお母 さん がい なか った の で 、私 と結婚 した ら私 が家事 で きない し、お料 理 を して あげ る こ とが で き ない の で 、彼 に迷 惑 が か か る と思 い ま した。 血 漿 交換 の治 療 効 果 が見 えてい た ら、そ して 、少 しで も リウマ チ の症 状 が 良 くな ってい た ら、前 向 きに考 え る こ とが で きた と 思 い ます。
元 気 だ つた らあ き らめ られ ない ほ ど好 きだ つた し、結 婚 も したか つた です。
子供 もほ しか つ た です。
S子
は青年 期 の発 達課 題 で あ る女性 と して の役 割 の遂行 、結婚 と家庭 生活 の準備 等 の課題 が達成 で きない ま ま、壮 年期 初期 、 中年期 を迎 えて い る。仕 事 を諦 め、恋 を諦 め、結婚 とい うチ ャンスが あ るに も関 わ らず 達成 で きてい な い。
ボデ ィイ メー ジ(body‐image)は、身 体 の外 見 や 機 能 につ い て 自分 の心 に描 くイ メー ジ をい うが 、