[略歴]
1971 年 京都大学医学部卒業 1979 年 京都大学大学院修了
1979 〜 1982 年 アメリカ合衆国シカゴ大学医学部内科学教室 研究員 1983 年 京都大学医学部内科学第二講座助手
1993 年 浜松医科大学内科学第二講座講師 1997 年 浜松医科大学内科学第二講座教授 2002 年 日本甲状腺学会 会長
中村 浩淑 浜松医科大学内科学
第二講座教授
者さん探しを楽しんできました。いくつかの遺伝子異常をみつけ、下垂体型も 全身型と同じ病因であることを明らかにし、いまでも遺伝子検索の依頼が来る と喜んでいます。
甲状腺ホルモン受容体の分野で「21 世紀の甲状腺学」を展望するとすれば、
一つは TR を基にした創薬でしょう。甲状腺中毒症に対しては、まず TR アン タゴニストを投与して症状を改善するのが当たり前となり、次世代の抗高脂血 症薬は選択的 TR アゴニストかもしれません。その他、TR 異常のない甲状腺 ホルモン不応症の病因は遠からず解明されるでしょうし、脳の発育と甲状腺ホ ルモン、局所組織における T3作用、甲状腺ホルモンの non-genomic 作用なども 進展する分野と思います。個人的には、TR による TSH 遺伝子転写抑制の解明 が、TSH 産生腫瘍ではなぜ TSH が抑制されないのか、そもそも不適切 TSH 分 泌状態の機序は何か、に発展しないかと期待しています。
臨床の方では患者さんを診ることを楽しんできました。4 年近くかけ昨年ま とめあげた「バセドウ病薬物治療のガイドライン 2006」作成では、ずいぶん勉 強させてもらいました。WG のいろいろな先生方とお付き合いさせてもらう中 で、臨床のできる先生のものの考え方、問題点のとらえ方、文献の読み方を学 ばせてもらいました。アメリカに行っていつも感心するのは、むこうの人は文 献的エビデンスをきれいに自分のものにしていることで、ディスカッションを エビデンスで常に裏打ちしています。ガイドライン作成ではことさらエビデン スにこだわりました。エビデンスなしでどうして他人様に「これが良い」と勧 められるのか、という思いでした。ただ、そこで嫌になるほど痛感したのが、
甲状腺分野における臨床的エビデンスの乏しさ。古い疾患で患者数も多いのに、
高血圧や糖尿病、高脂血症とは雲泥の差。情けなくなりました。で、臨床分野 での「21 世紀の展望」です。ぜひ日本から優れた臨床的エビデンスを発信しま しょう。幸い日本にはすごい患者数をほこる立派な専門病院がいくつかありま す。これらの病院が加わって一つのプロジェクトで動けば、そしてプロトコー ルがカッチリしていれば、素晴らしいデータはすぐ出ます。ガイドライン作成 にあたり、伊藤病院、隈病院、浜松医大、すみれ病院で共同臨床試験を行い得 たことは大いなる自信になりました(この成果は JCEM に載せました)。日本 甲状腺学会がオーガナイズし、多くの施設が参加して、立派な臨床データを 次々発表していく……そんなことを心から期待しています。
温故知新の言葉に従って、まず私自身の過去を振り返りながら、甲状腺学の 今後のあり方や展望を述べてみたいと思います。
私は 23 年前に甲状腺学の研究を始めました。その当時、抗 TSH レセプター 抗体測定法がキットされ、新しい臨床検査として登場しようとしていました。
しかしながら、自己抗原である TSH レセプターの分子レベルでの構造と機能 は全く不明であり、「TSH レセプターの精製と構造解明」が私の研究テーマと なりました。このテーマに対して大学院4年間と留学先(米国 NIH)で2年間 の計6年間、様々な方法で取り組みましたが、全く歯が立ちませんでした。論 文としてまとめることもできず、留学を延長するかどうか迷っていた時、TSH レセプターと同じファミリーに属する LH/CG レセプター遺伝子がクローニン グされたというニュースが入ってきました。その遺伝子との相同性を利用し、
それまでに培った技術で5ヶ月足らずで TSH レセプター cDNA をクローニン グすることができました。このことからで学んだことは、方法論(この場合、
分子生物学)と情報収集の重要さです。そして、あきらめずに追い求めること で幸運をつかむことができ、それまでの努力の積み重ねが決して無駄にはなら ないということです。クローニングの途中からは数人の研究室メンバーとの共 同作業になりました。全長の TSH レセプター cDNA を同定したのがクリスマ スの日、その遺伝子を細胞に発現させて TSH レセプターであることを確認し たのが元旦でした。これらの祝日に研究室のメンバーと研究成功の祝杯を挙げ た時のことは最高の思い出となっています。甲状腺研究に携わっている若い方 にも是非同様な経験を味わっていただきたいと思います。
甲状腺診療に関しても、約 20 年間携わってきました。甲状腺疾患は致命的